ビスマルク級戦艦

登録日:2014/11/10 (月) 11:47:37
更新日:2023/08/10 Thu 21:51:55
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第二次世界大戦でもっとも活躍した戦艦は? と訊かれれば、まずトップ3の中には確実に入るであろうナチスドイツの誇り。
それがビスマルク級戦艦である。
実は設計・性能的にはかなりのお察し状態なのだが、パンピーにはそんなの重箱の隅、関係ない。
素直に憧れていればそれでよし、おーるオッケー。


背景・建造

ヒトラーの再軍備宣言(ヴェルサイユ条約なんかペッ!)で富国強兵路線を強力に進めだしたナチスドイツが、
英独海軍協定(水上艦の対英35%が承認され、仏伊と同等の建造枠を確保)を締結したことでシャルンホルスト級に続いて建造した戦艦。
ポケット戦艦(実際の艦種は装甲艦、後に重巡へ変更)の就役を契機として始まった独仏伊建艦競争の産物で、ダンケルク級に対抗している。
ちなみに仮称艦名は「F」と「G」で、ヴェルサイユ条約下もドイツが保有を許されて長年大事にしてきた数少ない戦艦である、
ドイッチュラント級前弩級戦艦「ハノーファー」「シュレスヴィヒ・ホルシュタイン」の代艦として計画された。
「G」の次に建造される予定だったのが「H」以降の「Z計画」で6隻建造する予定だった一連のH級戦艦であり、
本級はH級戦艦のタイプシップにもなっている(一隻も完成しなかったとかかなしーことゆうな)。

設計

ドイツの科学力は世界一ィィィ! なのでビスマルクは最強ォォォ! と各国が恐れたのは言うまでもない。
かつてはミリタリー雑誌でも絶賛されていたが、今日のミリオタ間では「最新鋭【旧式】戦艦」等と揶揄される程残念な艦として定評がある。
日本の軍事研究は海外に後れを取っており、ドイツに対する判官贔屓が長らく続いたせいもあって実態が暴露されるのに時間が掛かった。

前述の通り英独海軍協定によってシャルンホルスト級以上の大型戦艦の保有が可能になったわけだが、
一刻も早く起工するよう海軍上層部及びヒトラーから急かされたために十分な設計期間を取れず、戦間期の戦艦設計の停滞もあって難航、
短期間で設計を仕上げるためにやむを得ず防御構造等一部の設計をドイツ帝国時代に引かれた戦艦の既存の設計から流用している。
ベースになったのはバイエルン級戦艦。
第一次世界大戦時、ロイヤルネイビーとタメを張る強大な艦隊・大洋艦隊が作り上げた最初で最後の超ド級戦艦である。
ちなみにバイエルンの建造開始は1914年。長門型(1917年起工)や伊勢型(1915年起工)より前である。古っ!
……と言われているが、これはPrestonの仮説で賛同者もいる一方で、Ricoの様にその見解を否定する艦船研究家もいる。
公称排水量は3.5万トンだが、実際の基準排水量は4.17万トン乃至4.29万トンで、排水量超過は露見されていたというオマケ付き。

攻撃力

  • 主砲
当時の欧州では標準的な38cm(15inch)砲8門を、オーソドックスな連装四基、前2後2の均等配置。
ピーキーな仏伊の同口径砲より無難な仕上がりだったがそれだけで、俗説と異なり特筆すべき点は一切存在しない。
装填速度は最短26秒と一見優れているが、実戦では達成不可能な理論値である。
また最大射程は控えめで、列車砲モデルである38cmジークフリートK(E)では仰角拡大及び軽量高速弾の採用で射程改善を図った程だった。
ただし、ビスマルク級は北海やバルト海といった霧が深くなりやすく、偶発的遭遇による接近戦が多い海域が主戦場であり、
大和型やアイオワ級のように晴れ渡る太平洋でかなり離れて対峙するようなことは想定していなかった。
弾着観測しなきゃ見えない40km先を狙い撃つなんてことは基本的に想定外ということは留意しておきたい。
ドイツお得意の高性能光学照準装置は感度が良過ぎて砲撃時の反動で狂う面もあったが、
レーダーの発達がそこまで進んでいなかった第二次大戦期前半では大きなアドバンテージとなった。

実戦ではビスマルクがロイヤルネイビーの象徴であったマイティ・フッドを五回の斉射で弾薬庫直上にぶち当てて轟沈せしめた。
もっとも、フッドが水平装甲難から前に前に突っ込んできてクロスレンジでの射撃戦になったことや、PoWの主砲が故障するなど運に救われた面も大きいが。

しかしこの主砲塔、ぶち抜かれやすいという弱点を持っていた。
詳しくは後述するが、最期の戦いではあっという間に無力化されてしまった。

  • 副砲
連装砲塔に収め55口径15cm砲を左右各3基計6基12門。
性能的には及第点だが、目立った活躍もしていない。

  • 対空砲
連装砲架8基16門の65口径10.5cm高角砲に加えて、
連装砲架8基16門の3.7cm砲(発射速度は僅か毎分30発)や単装砲架10基及び4連装砲架2基計18門の2cm機関砲を搭載していた。
(ティルピッツの2cm機関砲は当初が単装砲架16基で、後に単装砲架6基及び4連装砲架18基計78門まで増備)
船の揺れを吸収する特別な装置(ジャイロ・スタビライザー)によって安定した射撃を可能にしていた。
だが10.5cm高角砲は防水加工が不十分で、電気系のトラブルを招いていた。
中小口径砲は早晩に陳腐化していた上に、太平洋戦争中に増強を重ねた日米戦艦より装備数は少なかった。

  • 魚雷発射管
2番艦ティルピッツは、駆逐艦からの廃艦発生品である53.3cm魚雷発射管を後日装備する珍しい仕様となっていた。
設置場所は上甲板両舷のカタパルト後方で、元にあったクレーンは撤去された。

防御力

バイエルン級を発展させた防御構造で、当初搭載を予定していた1ランク下の主砲に対応した設計だった。
(基準排水量4.1万トンの35cm砲戦艦から基準排水量約4.2万トンの38cm砲戦艦に変更された経緯がある)
一種の二段防御といえる構造は、機関部を強固に守り、まず貫通させることはないだろう。
しかしそこ以外は大して厚い装甲とはいえず(垂直最大320mm乃至315mmで、範囲も決して広くない)、
沈没したビスマルクの調査でもしっかり一番厚いところをブチ抜かれた跡があった。
生き残るだけなら機関部を無傷に近い状態で守れるビスマルクの防御構造に意義はあるのだが、
簡単に抜かれまくるということはあっさりと戦闘力を失いかねないということで、実戦でもその欠陥は露呈してしまったのだ。
最後の砲戦でビスマルクが急速に抵抗力を失ったのは、片っ端から主砲塔を貫通されて火力を早期に失ってしまったことが大きな要因と言われている。
装甲に重量の40%を割きながらも集中防御の不徹底が祟り、1940年代に就役した戦艦では実質的な装甲厚が最も薄かった。
(最上甲板50mm、主甲板水平部100mm傾斜部110mm乃至120mm、主砲塔天蓋後部130mm、
_と決戦距離での14~16インチ砲弾に対して不十分)
装甲板も舷側で用いられたKC n/Aこそ日米に勝っていたが、自慢のヴォータン鋼はむしろ他国より劣っていたという話もある。
ただ、元海軍技術少佐の福井静雄氏は「単艦行動時に航空機や巡洋艦の襲撃を受けかねないドイツ海軍の状況を考えると、大和のような集中防御方式を採用するのは不安だったのでは?」と擁護している。
集中防御方式を採用した日米戦艦は多数の駆逐艦*1との相互支援で敵が接近戦を挑むのはハイリスク、更に頭上も洋上飛行能力のある戦闘機部隊と空母に護衛されている事が前提である。
ドイツ軍には空母は皆無、戦闘機は巡航性能が低く沿岸ギリギリでしか援護出来ない単発機加減速の切れが悪く単発機に連敗街道まっしぐらの双発機しか持てず、駆逐艦も凌波性や航行安定性が悪く、とても戦艦と相互支援しつつ敵艦を攻撃出来る代物では無かった。

機動力

シャルンホルスト級程ではないものの機関の不調に悩まされ、カタログ上のスペックを出すことがなかなかできなかった。
試験時には操舵機構の欠陥も発覚したが、後から手の施しようは無く、これがビスマルク喪失の悲劇に繋がった。
最大速力は29ノット超でダンケルク級やフッドに脅威を与えるに相応しいスペックだが、海面の穏やかなバルト海での計測値であり北海や北大西洋での速力発揮には不安があった。
ただ他国の戦艦よりも幅広な艦体だったため、航洋性や安定性に関しては大和型に次いで優秀だと言えたかもしれない。
操艦性は良好で荒海下でも安定した針路を保てられたが、低速航行時の安定性に欠けるきらいがあったという。
航続距離は16ktで9,280海里とそれなりだが(米条約型戦艦や日改装戦艦よりは短い)、通商破壊戦を想定して作られたわけではない。
北アフリカなどに海外根拠地を作れる植民地が無く、基本的に本国以外の補給ができないというドイツ特有の事情によるものである。
(後に北フランスやスカンジナビアを占拠して拵えたが)
結果的にシャルンホルストらと共に通商破壊戦に駆り出されたのは何から何まで足りないまま大戦争に突っ込んだがためで、
本来通商破壊戦の主役であるUボートすらも数は不足した状態で開戦している(広大な大西洋へ早急に展開可能なのは26隻に留まった)。

その他

  • 艦載機
水上偵察機のAr 196を4機搭載している。量産開始は1938年で、フィンランド・ルーマニア・ブルガリアの三国でも運用された。
日本海軍の零式水上偵察機や零式水上観測機には到底及ばない出来だが、英潜水艦の拿捕に貢献するなどそこそこ活躍はしている。
格納庫とカタパルトは艦央配置で主砲の射界を妨げない利点はあったが、艦尾設置より火災発生時の被害が深刻化する欠点もあった。
回収用のクレーンは粗悪品だったらしく、「きわめて破損がし易く、信頼する事が出来ない」と航海日誌に書かれる始末だった。
なお機体と人員は空軍所属で、モルヒネ中毒の無能デブなゲーリングの横槍で海軍がセクショナリズムに敗れた結果だった。

  • レーダー
SEETAKTことFuMO 23を搭載していたが、開発体制に問題があった電波技術後進国のドイツ製だけに先進国の米英製に劣る。
主砲のレーダー射撃も行えたが、探査距離は短い上に方位測定の精度は光学式測距儀には敵わなかった。
ティルピッツはFuMO 27やFuMO 26に換装された他、FuMO 30やFuMO 213が追加装備されて強化された。
それでも心許なかったが。

活躍

ビスマルク

初出撃にして伝説を作った。
有名な「ライン演習」作戦である。
詳細は本家Wikiを見るか、もしくはチャレンジャーな執筆者の登場を待たれよ。


ティルピッツ

ビスマルク級2番艦として1941年にいざ就航……したものの直後に1番艦が沈没したことで、生まれながらにして本来は作戦を共にするはずだった相棒を失った不運な戦艦。
そのうえビスマルク喪失以降、外洋での積極的な行動を控えたドイツ海軍のおかげで、そもそも出撃の機会すらないまま引き籠ることに……
その結果「北海の孤独な女王」の二つ名を頂戴。
一番艦が作った伝説によってチャーチルを恐怖させ、沈めるまで手をゆるめるなとばかり 文字通りのフルボッコ
最後には12,000ポンド(5,443kg)爆弾のトールボーイまで投入された執念の攻撃は、また別の伝説を作ることになった。

なおティルピッツは積極的な活動こそ少なかったものの、チャーチルに「あいつがいる限り本国を留守にできるか!」と恐怖を与え続けていた。
そのため英国海軍を長きにわたって「ティルピッツ対策」として本国に縛り続けるという、ある種の抑止力としては大きな活躍を見せている。

小ネタ

  • 砲術の権威で人望も厚かったビスマルク艦長のエルンスト・リンデマン大佐は、
    相次ぐ機関の些細な故障に不満を持ちながらも艦を愛し、「このように力強い艦を呼ぶに相応しい言葉は“彼”であって、“彼女”は似つかわしくない」と、
    軍艦を女性形で表現する通例に異を唱えた。
    アニオタ諸君も意を汲んで、艦娘としてではなく男性として扱うべきか?まあ、男装女子として萌えの対象とするのも悪くは無いだろう。

  • ビルマルクが訓練中に洋上停止していた際に、大漁で過積載状態になった漁船が通りかかり、エスコートして風浪や波浪を防いだことがある。
    翌日、ビスマルク艦内で魚料理が振る舞われたのは言うまでもない。

  • 先に書いた通り、ビスマルク級はその後のドイツ戦艦のスタンダードとなる。
    次に計画されたのが有名な「Z計画」のH級戦艦。
    ビスマルクの拡大改良型で、信頼性と出力が改善したらしいディーゼル機関を採用する予定だった。
    この戦艦は第二次大戦勃発によって建造中止となったが、O級とともに設計改良だけは毎年続けられており、
    H40→H41→42→43→44と、年を追う毎に巨大化していく。
    最終的にはペーパープランの戦艦では一番の化け物といえる「H44」にまで発展した。
    図体(排水量)は大和(6万4000トン)の倍以上の14万4000トン、主砲は50.8cm砲8門。まさに怪物である。
    正式に承認されていない「H45」に至っては排水量なんと64万トン、主砲は列車砲「ドーラ」の改造型つまり80cm砲8門。
    こんなの絶対おかしいよ。
    ただし竣工を一応考慮した案はH41までで、設計陣を一新したH42以降は思考実験に等しい代物だった。
    最後に余り知られていないが、O級戦艦にもビスマルク級を基にした発展型が検討されていた。

フィクションでの活躍

艦これ

 詳細は当該記事

アニメ・ゲーム

  • 宇宙戦艦ヤマト
TV版第三作で、各国の探査戦艦の中にドイツ戦艦ビスマルクが登場する…が、はっきり言って弱そう…

  • ウォーシミュレーションゲーム
「アドバンスト大戦略」等の第二次大戦を扱うシミュレーションゲームでは、ドイツ海軍の戦艦ユニットとして登場することが多い。
一般的な評判に従った性能で、最強戦艦大和ほどではないが、かなり強力な、特に防御力高めの設定になる。

海産物が主役のゲームに混ざる戦艦、という嬉しいような嬉しくないような登場の仕方だが、「ビスマルク級」として参戦。38cm砲8門がしっかり火を吹く。


架空戦記もの

欧州を扱う架空戦記では、ドイツの戦艦といえばコレなので、大抵出番がある。
しかし欧州を扱う架空戦記では、日本がわざわざ欧州くんだりまで出張る設定だと、
史実以上にドイツが強力になっていることが多く、ということはビスマルク以上に強力な戦艦が登場していることが多いので、結構脇役に回ってしまう。

リアル系仮想戦記のレッドサン ブラッククロスでは非常に高く評価されているが、これは著者が当時の風潮に従っただけだろう。

もっと知りたい方へのオススメ

冒頭にも書いたように、第二次大戦で屈指の伝説的活躍を残したため、戦記モノでも本艦を取り上げた文献等かなり多いよ。

  • 『戦艦ビスマルクの最後』(早川書房)
1982年出版なので古書店以外ではまずお目にかかれないが、古典的ノンフィクション戦記の代表例。一読の価値あり。

  • 『海底の戦艦ビスマルク』(ディスカバリーチャンネル)
ジェームズ・キャメロン監修のDVD。伝説となった死闘の末力尽き海に沈んだビスマルク探索のドキュメント。
なお沈没地点の正確な位置は知らせるとハイエナ共がたかってくるので未公表。


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最終更新:2023年08月10日 21:51

*1 特に日本の駆逐艦は61㎝酸素魚雷と言う凶悪無比な対艦装備を有している