ハイエナ

登録日:2023/06/26 Mon 15:16:24
更新日:2025/03/19 Wed 19:29:04
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ハイエナとは、食肉目ハイエナ科に属する哺乳類。

学名は Hyaenidae 。
鬣犬(タテガミイヌ)という別名も持つ。


【概要】

現生するのは4種。長い鼻面と長い足が特徴。
別名にタテガミイヌがあるようにイヌに似た姿をしているものの、実際はジャコウネコ科に近縁である。

昆虫食のアードウルフを除き、強靭な頭骨と、人間の約7倍にもなる咬合力、腐った肉を食べても腹を下さない丈夫な消化器官を持ち、「サバンナの掃除屋」の異名を持つ。

コンゴ盆地およびサハラ砂漠を除くアフリカ、インド、中東、ネパール南部に分布する。

寿命は10~20年程。


【誤解】

さて、諸君はハイエナと言えばどのようなイメージを持っているだろうか?
「獲物を横取りする」「誇り高き狩人(ハンター)でも強大な捕食者(プレデター)でもなく、死肉を漁る腐肉食者(スカベンジャー)」「強靭な顎により骨までしゃぶり尽くす」「百獣の王・ライオンとは真逆の卑しい者」などといったマイナスイメージが先行する人も多いだろう。
実際このイメージは強固なもので、
  • 客を待つ列の後尾につかずに客を横取りするタクシー
  • パチンコにおいて期待値が低い場所は他の人に打ってもらい、自分は大当たりになる可能性が高い台を打つ
  • そこから転じて配列制のカードゲームにおいて配列表で確認しながら高レアリティのカードを少ない金で手に入れる行為
  • 『信長の野望』などのSLGで、特に弱小勢力が他勢力の城攻めに乱入して城や武将を横取りしたり、自分から攻めに行かず第三国に攻められて弱った隙や遠征中で兵が減った隙を突いて城を落とす戦略
…など、多くはが絡む行為やおいしい所だけを持っていく行為において使われ、貪欲・下劣の象徴になっているのが現状。
ライオン・キング」などのフィクションでもほとんどが悪役での起用となってしまっている。

しかし、実際のハイエナの生態はそのイメージを根底から覆すものとなっている。
腐肉や骨の食性を持つ動物はハイエナの生息域には彼ら以外にいない。
要するにハイエナがいなければサバンナは動物の死骸が山積みとなり、害虫や病原菌の温床となってしまうのだ。
そのため、自然界の循環において彼らハイエナは非常に重要な役割を担う、他の誰にも出来ない仕事をこなしてくれるありがたい生き物なのである。


【現生する種】

◇ブチハイエナ

学名:Crocuta crocuta
分布:アフリカ大陸(サハラ砂漠、コンゴ盆地、アフリカ大陸最南部を除く)
かつての分布:ユーラシア大陸(更新世後期)
体長:95-165cm
体重:55-85kg

ハイエナといえばこの種が最も有名。
動物特集系の番組での登場頻度も高い。名前の通り体にある斑模様が特徴。

ハイエナと言えば死肉を漁るイメージが強いが、彼らは狩りも上手く、ライオンの狩りの成功率が20〜30%程度であるのに対し、ブチハイエナは60〜80%程度という破格の高さを誇り、多くは自分たちで仕留めたものである。
足の速さも最高時速65km/hと日本の一般道の制限速度を上回り、さらにライオンやチーターと比べ、加速の切れと旋回能力では劣っているが、持久力では勝っている。
この体力スペックを持つ彼らが群れをなして高いチームワークで狙って来るわけなので、高い狩りの成功率も納得であろう。
なので確率論的にはむしろライオンに横取りされる場合が多いのである。

また従来のイメージである横取りに対してもそもそも食べ物の奪い合いは厳しい自然界では当たり前、という擁護意見も見られる。
ライオンも彼らを目の敵にしており、見つけ次第殺してしまうことも多々あるが、これは1対1の場合。
ライオンは子供を除くと雄1~3頭、雌10頭程度の群れしか作らないのに対して、ハイエナは最大80頭までの群れを作ることもある上チームワークにも優れているため数の暴力で撃退してしまう事も有り、総じてサバンナでは強力なライバル関係となっている。
また、格闘戦でのパワーと防御力を重視した身体構造をしているので、一対一でも同程度の体格で加速重視ののヒョウやチーターに対して優位に立てる。
獲物の骨は巣穴に持ち帰り、非常食として保存し食料が無い時には骨で飢えを凌ぐ。
そのため食事に占める骨の割合が多くなると、フンが白くなる。

雌は雄よりも男性ホルモンの濃度が多い影響もあってか、体付きも雄よりも雌が大きく、
さらに雌のクリトリスが雄のペニスのような形状をしており、その大きさも同じくらいか、それ以上に大きく、偽陰嚢と呼ばれる脂肪の塊が股間についている。しかも、この偽ペニスで立ちションや勃起も可能。
そのため雄雌の判別が非常に難しく、中世ヨーロッパでは両性具有の動物だと勘違いされていた。

このようになったのも様々な説があるのだが、群れは「クラン」と呼ばれ雌がリーダーとなる女系家族で、交尾の主導権も雌が握っているという女尊男卑な社会であり、群れを守る時など、必要な時には闘う事を厭わない攻撃性が必要であるため、雌であっても胎児期に攻撃性を誘発する男性ホルモンを多く作るように進化したと考えられている。
このように雌が偽ペニスを持つ哺乳類は他にも、ブチハイエナと同じく雌優位社会を築いているワオキツネザルや、ネコ目の肉食獣のフォッサの若い雌(こちらは強い雄に無理矢理交尾させられるのを防ぐためだと言われている)などある。

ちなみに、交尾の際はペニスのような形状のクリトリスを一時的にお腹に引っ込めて膣の形状を作るので、そうしないと雄も交尾が出来ない。
さらに、出産もペニスの尿道にあたる部分から行うため、初産の約60%が死産、その際母親も約20%が死に至るというとても難産な動物で、多くても2頭しか産まない。出産後の雌には擬陰茎に出産の跡が残る。
男性諸君なら、股間にある大切なアソコから赤ちゃんが出てくるという事をご想像して頂ければ、いかにブチハイエナは出産でのリスクを抱えているのか理解出来るだろう。
しかし、難産のリスクという生存には不利であろう要素を抱えているにもかかわらず淘汰されるまでにはいかなかったのはある意味奇跡としか言いようがない。

また、人間が顔色をうかがってコミニュケーションを取るように、ブチハイエナの場合は、雄・雌共に互いの性器を勃起させて匂いを嗅ぎ合う習性がある。決して性的な事ではない

前述のライオン・キングでは非常に頭が悪い動物として描かれているが、近年になって霊長類に匹敵する知能を持つことが判明した。


◇カッショクハイエナ

学名:Hyaena brunnea
分布:アンゴラ南西部、ジンバブエ、ナミビア、ボツワナ南東部、南アフリカ共和国
体長:110-140cm
体重:35-50kg

名前通り平均約11cmの暗褐色の体毛で覆われる。
主に動物の死骸を食べるが、甲虫やシロアリ、鳥の卵や果実を食べることもある。
ブチハイエナ同様クランを形成して生活する。
消化器自体も死肉を食べるのに適したものなので人間のイメージするハイエナを地でいく種で、死んだ家畜を食べていたら家畜を殺したと勘違いされたりなどで生息数を減らしている。


◇シマハイエナ

学名:Hyaena hyaena
分布:北アフリカ、東アフリカ、中東、インド
体長:100-120cm
体重:25-55kg

ハイエナの別名タテガミイヌの由来にもなった種。
草原に生息し、ブチハイエナやカッショクハイエナと異なり群れを作らず単独で生活する。
危険を感じると全身の毛を逆立てて威嚇する。
死肉の他、カニなどの甲殻類や魚を食べることもある。
ブチハイエナ、カッショクハイエナと違ってヒョウより体が小さいためほとんど勝つことができない。
レバノンでは国獣になっている。


◇アードウルフ(ツチオオカミ)

学名:Proteles cristatus
分布:南部、東部、北東部アフリカ
体長:55-80cm
体重:8-14kg

4種ある現生するハイエナでは最小種。
他とは大きく異なる生態を持ち、東及び北東アフリカと南アフリカに分断された特異な分布域を持つ。
シマハイエナと同じく単独で生活することがほとんどだが、家族群と思われる群れの目撃例もある。
上述した通り強靭な顎は持たず、主にシロアリを食べるが、動物の死骸や他の昆虫を食べることもある。


【絶滅種】

◇ジャイアントハイエナ

学名:Pachycrocuta brevirostris
分布:アフリカとユーラシアの平原
体長:200cm
体重:110kg
生息年代:300万~40万年前

史上最も大きなハイエナと考えられている種。
現在のハイエナの倍近い大きさがあったようで、現在の雌ライオンに匹敵するほどであった。
その大きさに違わず噛む力は現生のあらゆる生物よりも強かったとされ、当時の人類の祖先も食べていたとされ、実際北京の洞窟遺跡では、このハイエナが穴を開けたとされるホモ・エレクトスの頭蓋骨が発見されている。
しかしその反面足はそれほど速くなく持久力も高くなかったため、現在のハイエナと同様死肉を食べたりサーベルタイガーなどから獲物を横取りすることが多かったとされている。


【人間との関係】

肉食獣のお約束と言うべきか、生息地では人間や家畜を襲う害獣として駆除される場合もある。
また、骨が薬になるという迷信からや、毛皮を目的とする狩猟が行われる場合もある。

そのイメージや外見から動物園でも不人気な部類に入るため、飼育している動物園は少なく、繁殖に熱心な所も少ない。
しかし、近年ではその高い社会性などに注目が集まり、意識改革も進んでいる。
また、南アフリカ共和国などの治安が悪い地域では番犬代わりに飼われていることもある。

ブチハイエナやシマハイエナはアフリカ文化におけるトリックスター枠として扱われる場合が多い。
  • 東アフリカのルング族の神話では、ブチハイエナが地上に太陽をもたらした。
  • ケニアのメル族の民話では、神は人類が不死になるようにキンモグラを遣わした。
    だが、餌になる死体を奪われることを嫌ったハイエナがキンモグラを食べてしまい、人類は不死になるチャンスを失った。
  • 南スーダンのマディ族・ヌエル族の伝承では、天と地をつないでいた牛革のロープを噛み千切ったことにより、人類と創造主とのつながりが絶たれてしまう。
  • タンザニアのムグブウェ族の文化においては、すべてのブチハイエナは魔女の使い魔であり乗り物だと信じられている。
    魔女は夜な夜なハイエナの肛門腺液を搾り、たいまつの燃料として使うという。


【ハイエナをモデルにしたキャラクター】

特撮


漫画・アニメ・映画

  • エナ(どうぶつの国)
  • エルザ(異種族レビュアーズ)
    • そこいらの男顔負けのモノ(恐らく偽陰茎だと思われるが…)を持つハイエナの獣人。
      あまりのイケメン女子っぷりに仲間の天使は骨抜きにされてしまった。
  • コンエナ(マジカパーティ)
  • ツァ(ダオナン)
  • ハイ田(アグレッシブ烈子)
  • 斑刃イエナ(群れなせ!シートン学園)
  • ミグノ (BEASTARS)
  • シェンジ、バンザイ、エド、チャンジャ、ジャスィリ他多数(ライオン・キングシリーズ)
    • 本作がハイエナのステレオイメージを決定づけた作品・キャラクターと言えよう。
      だが、2019年のリメイク版では大幅にキャラが見直されており「ライオンの獲物を横取りしてばかりの臆病な卑怯者の集団」から「本気を出せばライオンをも脅かす狡猾なハンターの群れ」にだいぶイメージが変わっている。
      リーダーのシェンジも旧作の三枚目ぶりから打って変わって、獰猛で冷徹な女戦士といった趣に。
      バンザイとエドも2019年のリメイク版では名前がアジジカマリに変更され、性格も旧作から大幅に変えられている。
  • 由崎多汰美(トリコロ)
  • 灰渕絵奈(キリングバイツ)
  • 魔界のハイエナ(ドラえもん のび太の魔界大冒険)
    • 魔界の「帰らずの原」に生息する動物だが、現実のハイエナとは似ても似つかぬ姿をしている。
      立ち入った他の動物と並走するように集団で追い続け、帰らずの原から出られず衰弱したところを骨になるまで食らい尽くす。魔界の悪魔ですら例外ではない。

ゲーム



あだ名・異名・自称などがハイエナ

  • エーデルフェルト姉妹 (fateシリーズ)
    • 代々、争いがあれば顔を出し、おいしい所をかっさらうという家訓があり、そのため『地上でもっとも優美なハイエナ』と呼ばれている*1
  • 吾代忍(魔人探偵脳噛ネウロ)
    • 最も多く付けられたアダ名:ハイエナ(21歳以降)。※11~20歳:狂犬、0~11歳:子猫ちゃん
  • 漣ジュン (あんさんぶるスターズ!)
  • ベラミー(ONE PIECE)
    • 他人が苦労して手に入れたお宝を横取りする事を好むがゆえに「ハイエナのベラミー」という異名で呼ばれている海賊。
  • ヤムチャ(DRAGON BALL)
    • 盗賊時代は「ハイエナヤムチャ」の悪名で知られていた。
  • マキシマム(ドラゴンクエスト ダイの大冒険)
    • 味方が弱らせた敵を掻っ攫って自分の戦果だと言い張るため、主人公側から「まるで盗賊かハイエナみたいな奴」と称された敵幹部。
      ただハイエナのイメージが変化しつつあることもあり、アニメ版ではこの形容はカットされた。
  • 浅利(むこうぶち・『食べ残し』)
    • 毎回が客を狩り尽して去った席に座り、勝ち席の運に便乗して稼いでいる男。
      「ライオンのいない間にハイエナが王者の振舞いか!」
  • トラキア竜騎士団(ファイアーエムブレム 聖戦の系譜)
    • 作中の国家「トラキア王国」は険しい山岳地帯故に食糧生産がままならないため、どこかで戦争が起これば軍の主力部隊である竜騎士団を傭兵として派遣することで国家財政を維持している。
      その姿を他国の村人から「死肉をくらうハイエナ」と罵られ、長年敵対・警戒してきたレンスター家のキュアンが物騒な台詞と共に「ハイエナどもめ!」と激昂する場面もある。
  • コルネオ(FINAL FANTASY Ⅶ
    • ウータイで追い詰めた際、バレットパーティーにいると「ミッドガルのハイエナ野郎!」と罵倒する。
  • ビズネラ(星獣戦隊ギンガマン
    • 宇宙海賊バルバンが破壊した惑星の残骸から兵器を回収、もしくは自ら製作して売り捌く死の商人。
      その商売のやり口をハイエナと揶揄されているが、ハイエナのステレオイメージである「他人の成果を掠め取る」わけではないという、創作界隈ではある意味珍しいキャラ。
  • ヒルカワウルトラマンメビウス
    • スクープを得るためならどんな卑怯な事でもする悪徳ジャーナリスト。
      かつてサッカー選手時代に彼の被害に遭ったジョージから「ハイエナ野郎」と唾棄されている。
  • スターフォックス(スターフォックス64)
    • 動物の擬人化であるがその内訳は「狐」「雉」「ウサギ」「カエル」。だが惑星マクベスステージでは相手の軍事基地とそこに物資を運んでいる列車を攻撃するというシチュエーションであり、その為に敵の指揮官から「鬱陶しいハイエナどもが!」と罵られる。味方側が言われる珍しいシチュエーション。


「ハイエナ」という名のキャラ


【余談】

・オス同士、密室、4年間、何も起こるはずもなく……。

2014年に、札幌市の円山動物園で飼育されていた2頭のブチハイエナが2頭ともオスだと判別しないまま4年間も番いとして扱われていた チン珍事が判明。
上述の通り、偽陰茎という部位の都合から外見でオスメスの判別がし辛く、この珍事も「メスと思われていた個体がいつまで経っても発情しない」「何故か2頭で喧嘩が起こる」とされたのでエコー検査などをした結果、発覚したのである。
元々韓国の大田広域市にある大田O-Worldで生まれたこのブチハイエナだが、生まれた時に行うはずの性別検査で手違いが起こってしまったのではないかと言われている。
現在はペア関係を解消して別々に飼育されているが、国内でのメス飼育数が少ないので苦戦している模様。


追記・修正は、雄と雌をしっかり判別してからお願いします

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最終更新:2025年03月19日 19:29

*1 自称は『地上でもっとも優美な(or美しい)ハンター』