200勝(プロ野球)

登録日:2015/09/30 Wed 23:45:23
更新日:2025/04/07 Mon 01:20:03
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金田正一「ワシを抜く奴はおらん」




200勝とは、項目名の通りプロ野球で投手として200回勝利することである。


解説

プロ野球の投手にとっては、一つの目標となる数字。

この記録を達成した選手は世間から称賛の声を浴びるとともに、その名前を球史に残すこととなる。
プロ野球においての伝説的存在になるといっても過言ではない。
なにせプロ野球が始まって以来、この記録の達成者は30人にも満たないのだ。
この滅茶苦茶とも思える難易度の高さは、野球というスポーツそのものの特殊性を反映しているともいえる。

いったいどういうことか?
プロ野球における投手の1勝は、本人の実力とともに『運』が必要なのだ。

まず、各球団のエースと呼ばれるクラスの先発投手が年間に得られる勝利数はおおよそ10~15勝ほど。
高卒の投手が1年目からローテーションに入り、毎年のように10勝したとしても計算上20年ほどの期間が必要となる。
毎年15勝という尋常ならざるペースだとしても、達成には14年ほどかかる。
毎年20勝したとしても10年は必要となるのだから、本当に気が遠くなる話である。
下の表にも名前を残す山本昌投手のように、30年以上現役を続けた結果200勝まで届いたというケースもあるが、
余程の才能か特殊性(当の山本昌選手の場合、左腕であるとともに異様な回転数を誇る直球があった)が必要とされることはもちろん、
投手として勝ちを得られるだけの能力を長期に渡って維持する必要があるため、はっきり言って現実的なことではない。

もっとも前述の金田選手は400勝を達成してしまったし、昔の選手でよければ300勝達成者も何人かいるのだが。
このへんは後述。

高卒投手ならばまだしも、大卒・社会人出身のプロ野球選手は難易度がさらに跳ね上がる。
高卒投手に比べ、大卒や社会人出身者はそもそもプロでの実働期間が短くなるからである。
プロ野球の平均在籍時間は9年程度であり、若い時分の数年をプロで過ごせるかどうかは非常に重要なのだ。

それに加えて、プロ野球の選手は年齢による身体能力の劣化との戦いがある。

当然のことではあるが、30歳を超えるころにもなれば選手たちも身体が衰えてくる。
先発投手は特にそれが目立ち、スタミナや球威の衰えを経験でカバーすることを強いられるようになる。
自然、勝利数を稼ぐのも難しくなってくる。
また、投手はプロ野球の中でも最も故障の多いポジションであり、肩肘を傷めてしまえば早くて数ヶ月、
悪ければ年単位の離脱を余儀なくされる。
そうした中で勝利数を積み上げ続けることは極めて困難であり、ほとんどの投手は半分の100勝ですら達成できずにキャリアを終えるというのが現実である。

そして、投手の勝利は周りの環境にかなり左右される。

投手が勝つためには、味方打線が対戦相手よりも多く数字を稼がなければならない。
味方が点数を入れなくとも投手が0に抑えれば『負ける』ことは無いが、当然『勝つ』こともない。
打線が打たなければ投手は1失点でも負ける可能性があり、勝つためには極論1失点すらも許されない。

さらに言うと、先発投手の得た勝ちの権利がリリーフによって消されることも日常茶飯事。
先発が9回もたずに降板した場合、中継ぎや抑えが炎上して逆転されれば勝利できないのだ。
実際、弱小チームや中継ぎが壊滅しているチームに在籍していなければ200勝はできていたといわれる選手もいる。
そこまでの不遇ではなくとも、援護率などの違いで200勝までの道程には歴然とした差が生まれる。
嫌なら完投しろという話ではあるが、そうすれば今度は身体の負担が問題になる。
いくら無失点で抑えていようが、球数が嵩めばいずれ降板せざるを得なくなり、続投の意思があっても周囲が止める場合も多い。

なお、200勝を達成した投手のほとんどは昭和期の選手であり、90年代以降の200勝達成者は5人しかいない。
これは先発ローテーション制の確立と投手分業制の浸透が原因といわれている。
どういうことかといえば、昔のエース級投手は先発とリリーフを兼任するのが当たり前であり、
ろくな休養も取らず連投を繰り返すこともしばしばで、結果的にごく一部のハイレベルな投手が
現代の価値観では異常としか思えないほどの勝利数を稼ぎ出すに至ったのである。
現代では中6日のローテーションが確立されており、年間で挙げられる勝利数の天井そのものが低くなっているため、
今後昔の様なペースで200勝が達成されるようになる可能性は極めて低い。

200勝という数字がいかに偉大か、そしてどれだけ異常なものかということがおわかりいただけただろうか。


名球会との関係


200勝は名球会の入会条件でもある。

入会が認められるための注意点として、記録の計算はNPB入り時点からスタートする。
つまり、NPB以前にMLBや韓国リーグ等で積み上げた勝利数は考慮されない。
ただし、『NPB→MLB』の場合は日米通算記録として200勝の中に合算される。
また、名球会が金田の私的組織として生まれた経緯から大正時代に生まれた200勝達成者が入会することは不可能。

名球会には2015年時点で15人ほど投手が所属している。
その中で200勝達成者だけに絞ると、その数は12人ほど。
打者の所属会員に比べて相当少ないことがわかる。

このため、近年では200勝と打者の名球会入会条件である2000本安打との価値的議論が起こっている。
その詳細については、リンク先の2000本安打の項目で確認してもらいたい。

なお、リリーフ投手に関しては2003年より250セーブが名球会の入会資格として追加された。
詳細は当該項目を参照していただきたいが、こちらについても達成者は2024年時点で僅か4人のみであり、十分すぎるほどに高いハードルである。
そうした事情を鑑み、投手の名球会入りの条件として『2000奪三振』や『100勝100S』等を追加する、先発ローテーション制や投手分業制が浸透した現在の状況から考えて、150勝達成の時点で名球会入りにしても良いのではとの声もあった。
その後、2019年から「理事会にて推薦を受けた選手で、会員の4分の3以上の承認」を条件に入会が可能な「特例枠」が新設。
実質投手の名球会入り救済を図ったようなもので、2022年の上原浩治、藤川球児の2名が最初の認定者となった。
両者とも複数の役割を長期にわたってこなしたマルチプレイヤーであり、今後はそうした投手も正当に評価されるようになっていくものと思われる。

そこから2年後の2024年5月19日。
サンディエゴ・パドレスに所属するダルビッシュ有がアトランタ・ブレーブスの強力打線を7回無失点に抑え込み、史上27人目の200勝投手となった。
日本ハム時代は国内に敵無しの活躍を見せ、渡米後も何度かの低迷を肉体改造や新球種の習得によって乗り切り、今なおメジャーの第一線で戦い続けている。
また、日本国内ではシーズン24連勝で東北に歓喜をもたらした田中将大が日米通算197勝とし、大記録を目前に捉えた。
2024年は二軍暮らしが続き、勝利を上積みすることは叶わなかったが、来年度以降の奮起に期待したい。

とりあえず、200勝達成によって名球会員になれる選手が今後増えることを期待するのみである。


主な達成者(※2024年シーズン終了時点)


ここでは200勝達成者を記載する。

名球会員でなくとも、200勝を達成した選手であれば記載。
ただし、名球会に所属していない選手などは備考で記述する。

余談ながら、名球会設立時点での200勝投手は15人、2000本安打達成者は11人である。
当時は2000本安打達成者より200勝投手の方が多かったのだ。


選手名 通算勝利数 備考
ヴィクトル・スタルヒン 303勝 故人/250勝達成者/300勝達成者/名球会入会資格なし
若林忠志 237勝 故人/名球会入会資格なし
野口二郎 237勝 故人/名球会入会資格なし
別所毅彦 310勝 故人/250勝達成者/300勝達成者/名球会入会資格なし
中尾碩志 209勝 故人/名球会入会資格なし
藤本英雄 200勝 故人/名球会入会資格なし
日本プロ野球史上初の完全試合達成者
杉下茂 215勝 「フォークボールの神様」
名球会入会資格なし
金田正一 400勝 故人
250勝達成者/300勝達成者/350勝達成者/400勝達成者
200勝最速達成記録保持者/プロ野球最多勝記録保持者
完全試合達成/名球会創設者/名球会退会
稲尾和久 276勝 故人
「神様、仏様、稲尾様」
250勝達成者
小山正明 320勝 250勝達成者/300勝達成者
米田哲也 350勝 「ガソリンタンク」
250勝達成者/300勝達成者/350勝達成者
梶本隆夫 254勝 故人/250勝達成者/名球会の200勝投手で唯一負け越し
皆川睦雄 221勝 故人
現時点で最後のシーズン30勝達成者
村山実 222勝 故人
2代目「ミスタータイガース」
昭和生まれの大卒初の200勝達成/戦後唯一の規定防御率0点台投手
鈴木啓示 317勝 「草魂」
現時点で最後の300勝達成者/近鉄生え抜きかつ近鉄在籍時の成績のみで達成した唯一の選手
堀内恒夫 203勝 「悪太郎」
名球会退会
山田久志 284勝 「ミスターサブマリン」
250勝達成者/アンダースロー投手通算最多勝利記録保持者
江夏豊 206勝 シーズン最多奪三振記録保持者(シーズン奪三振数世界記録)
平松政次 201勝 「カミソリシュート」
東尾修 251勝 「トンビ」「ケンカ投法」
現時点で最後の250勝達成者
200勝達成地点で負け越し(生涯成績は勝ち越し)、パ・リーグシーズン最多敗戦記録保持者(25敗)
村田兆治 215勝 故人
肘にメスを入れ蘇った「サンデー兆治」
北別府学 213勝 故人
「精密機械」
工藤公康 224勝 プロ野球史上最長実働記録保持者(29年)
野茂英雄 201勝 日米通算
「トルネード投法」「ドクターK」
山本昌 219勝 「中年の星」
現時点で歴代最年長の200勝達成
黒田博樹 203勝 「男気」「帰ってきた男」「アウトドア」
日米通算
ダルビッシュ有 記録更新中 日米通算
キャリアの登板機会全てが先発で初の達成
200勝到達済みの投手としては現在唯一の現役選手



200勝に近い現役選手(※2024年シーズン終了時点、残り50勝以内)


選手名 通算勝利数 備考
田中将大 197勝 日米通算
石川雅規 186勝
和田毅 165勝 日米通算
前田健太 165勝 日米通算
岸孝之 164勝
涌井秀章 162勝


追記・修正は、プロ野球選手となって200勝を達成してからお願いします。

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最終更新:2025年04月07日 01:20