アンダースロー/サブマリン投法

登録日:2025/04/06 Sun 22:00:00
更新日:2025/04/18 Fri 23:06:23
所要時間:約 12 分で読めます





アンダースローとは、野球などの球技における投法の1つであり、下手投げとも呼ばれる。
投手がボールをリリースする際に身体が沈むこと、もしくはボールが下から上に上がってみえることから、特に野球では潜水艦になぞらえて「サブマリン投法」とも呼ばれる。

なお英語の underthrow は「受け手のいる位置よりも手前に投げる」という動詞であり、下手投げの呼称としての「アンダースロー」は和製英語である。英語ではそのまま「サブマリン」であったり、もしくは「アンダーハンド」と表現する。



概要

現代のプロ野球において、アンダースローは「地面スレスレから浮き上がるような軌道のボールを投げる選手」というイメージが強いと思われる。だが、過去には杉浦忠や大友工といった一見するとサイドスローのようなのだが、ボールリリース時の腕の位置が肩より下にあるため、アンダースローと位置付けられる選手もいる。
本項では、1970年代の米国のスポーツ科学の分野から提唱された「アンダーハンド(サブマリン)とは、利き腕は体幹に対して90度を保っているが、腕の位置が水平より下がっている投法」という定義に基づいて記していく。

歴史

19世紀半ば、ルールが整備され始めた野球の最初期では、投手の投球はすべてアンダーハンドであった。当時のルールでは「ピッチ(pitch=放ること)」だけが許され、「スロー(throw=投じること)」が禁止されていた。1860年以降、フォームの改良が始まり、速球派の投手が増加したことからそのルールは徐々に死文化して行き、1872年にはルールが改正され、アンダーハンドでも手首のスナップを使って投げることが正式に認められた。
その後、アンダースローは1882年にサイドハンドピッチが、翌翌年にオーバーハンドピッチがそれぞれ更なる投球ルール改正によって解禁された。
しかし、1920年に死球による死亡事故が発生。アメリカではアンダースローが危険と認識されるようになり、使用者が激減していくことになる。
日本では、1936年に阪急に入団した重松通雄がアンダースローの元祖とされており、その後、1960年代には南海の杉浦忠、大洋の秋山登といった名選手が登場する。70年代に足立光宏、山田久志という名投手が阪急に登場するなど伝統は引き継がれていくが、1976年にスピードガンが導入され、投手の投球術より球速が注目されていくにつれ、球速の出にくいアンダースロー投手は徐々に減ることになる。
2000年代ともなると主だった投手は渡辺俊介1人となり、2010年代も牧田和久が孤軍奮闘。いつしか「絶滅危惧種」とまで言われるようになった。
現在は球数制限などが強化された高校野球において、先述の理由から長期的には負荷のかからないアンダースローの育成がじわじわ増えている傾向にあり、「いわゆるエース格は普通に上からだけど、2番手兼リリーフエースの子はサブマリン」という強豪校も出てきているようだ。
なお、野球の球種の内、カーブ、チェンジアップを初めて投げたのはアンダースロー投手であるとされている。

アンダースローの投げ方

ワインドアップまたはセットポジションから急激に重心を下降させ、投球腕を水平を下回る角度にまで下げた後、腕をしならせて投げる。
アンダースローは全身を使わないと投げられないため、肩や肘に疲労が集中しない。そのため山田久志などは、故障が少ない投法であると証言している。しかし、股関節や膝関節をうまく使うことが出来ず、胴体のみを屈曲させるフォームになってしまうと、前鋸筋筋膜炎を起こしたり、肋骨にひびが入ったり疲労骨折することもある。また、左投手の場合は心臓に負担がかかると考えられており、後述する理由も含めて使い手が極端に少ない。現実で左腕アンダースローが少ない反面、創作の世界ではいっぱいいる。特にエディットなどオリジナル選手を作れる野球ゲームで、左アンダースロー投手を作ったプレーヤーがどんなに多いことか。

長所

速球を投げることは難しく、MAXで140㎞/h以上の記録を持つ投手は少ない*1が、低いリリースポイントから浮き上がるような軌道でボールが投球されるため、打者を幻惑することが出来る。
ストレートの軌道がオーバースローと明らかに違うので、選手によっては変化球の一種として扱っている選手もいる。
また、肩や肘にかかる疲労がオーバースローやスリークォーターに比べて軽いことから、先発完投に向いているとする意見が多い。
アンダースロー投手は絶対数が少なく、アンダースローの軌道を再現できるピッチングマシンも少ないため、打者は対アンダースローの練習をすることが難しい。また、右打者に対する右投げ、左打者に対する左投ではより角度のある投球となるため、これを苦手とする打者もいる。この理由から左投・アンダーの投手で戦力になる者は非常に貴重とされる。
これらの事情から、野球を始める少年のころは「上から投げて三振をバッサバッサ奪う本格派投手」に憧れて投手を志す傾向にある子が多いが、制球難だったり、身近に自分より明らかに能力が高い投手に出会うと、サイドスローやアンダースローに転向して定着することが多い。それから、草野球にいそしむ40代以降になると、「四十肩で腕が上がらない」ことでアンダースローに転向する選手も結構いる。
つまり、野球を始めた「最初からアンダースロー」だった選手はまずいない。例外は後述する足利豊くらい。

短所

欠点のひとつは、クイックモーションが難しく、盗塁を企図されやすいことである。
次に与死球が多いことがあげられる。NPBの通算与死球数上位10人のうち6人がアンダースローである(2024年シーズン終了時点)。これはアンダースローによる投球の軌道は独特であるため、打者側が反応できず回避動作が遅れることが一因とされている。
さらに、アンダースローを指導できる指導者は少なく、指導法も未確立である。

アメリカにおいても指導者不足は同じで、1970年代のMLBを代表するアンダースロー投手であったケント・テカルヴも、2011年時点においても米国内にアンダースローについて適切に書かれた指導書がほとんど存在しない事を指摘している。

またオーバースローやスリークオーターとは投げる際の手首から先の動きがまるっきり違うため、これらであれば十分会得できる変化球がアンダーだとほぼ習得不能になるケースが指摘されている。
例として黎明期から現代までいろんなエースの決め球となっているフォーク、高速系変化球の流行でそれがさらに進化したスプリッターはこの理由からアンダースローだとまず会得者はいない*2。代わりにシンカー系やカーブ系の落ちる球はアンダーのほうが投げやすいという意見も多いためこれは一長一短ではあるが。

左打者に対する右投手の球筋は、見易く球速もさほど速くない為、慣れてしまえば有利になりやすい。ただし、アンダースロー投手の絶対数が少なく対戦も多くないので打者が圧倒的有利とはなっていない。
なお左腕のアンダースローの場合、前述の右腕と打者に対する条件が逆転するため、野球選手の大多数を占める右打者に対して球筋が読まれやすいという致命的な欠点を抱える事になりやすい。その為、日本球界では1970年代までは「左腕がアンダースローを志す事は禁忌」と見なされていた事もあった。しかし、左腕のアンダースローはその稀少性から左打者が対策練習を行う事自体が極めて困難である為、球史上は「左殺し」として左の強打者専用のワンポイントリリーフ要員として長く活躍した選手も存在している。
余談だが、パワプロなどの野球ゲームでは投球の軌道は再現されないことが多いため、「ただの球速が遅い投手」になりがち。特殊能力の「ノビ」「球持ち○」「緩急○」らへんはこのへんの調整の意味合いもあるのだろう。
一部のパワプロでは球速と真下に落ちる球(フォーク系)の必要ポイントが激増する代わりにその他の変化球の必要ポイントが軽減されるものがある(『パワポケ』後半期作品など)。ただし西暦ナンバリング作品になってからのものには基本的にこのシステムはなく、育成がうまくハマれば100マイルを「クイックA」で投げるサブマリン投手をサクセスで作ることも可能である。
体の構造どうなって… そういやアイツら股関節と肩の関節は文字通りの意味で胴体とつながってなかったな。

主なアンダースロー投手

※これから列挙する人物の中には「自分はアンダースローではない」と主張する人物*3や、ゲーム『実況パワフルプロ野球シリーズ』などでの収録においてサイドスローと分類されている方*4もいるが、本項の定義に従い、腕の位置が水平より下がっている投法の選手をあげていく。

  • NPB
選手名 所属球団 詳細
重松通雄 阪急軍・西鉄軍など 日本におけるアンダースロー投手の元祖とされている
武末悉昌 西日本鉄道・南海ホークスなど 重松より6歳下、武末を元祖とする説も存在する
大友工 読売ジャイアンツ スリークォーター、サイドスロー、アンダースローを投げ分けることができた速球派投手
武智文雄 近鉄バファローズ パ・リーグ初の完全試合達成
皆川睦雄 南海ホークス アンダースロー初の200勝達成。NPB最後の30勝投手
杉浦忠 南海ホークス シーズン38勝を達成し、投手五冠も達成した当時のホークスの絶対的エース。「アンダースロー最強の投手
秋山登 大洋ホエールズ シーズン20勝以上を5回記録する傍ら、新人から4年連続リーグ最多敗戦のNPB記録を保持。元祖「カミソリシュート」の使い手
先に触れた注釈のように、アンダースロー投手としては例外的に「速球型投手」と言えるほどの球速を出せた
小川健太郎 東映フライヤーズ・中日ドラゴンズ 王貞治に対して「背面投げ投法」をやった人物として有名。「黒い霧事件」で永久追放
若生忠男 西鉄ライオンズ・読売ジャイアンツ 打者から背番号が見えるくらいに体をひねる「ロカビリー投法」で人気を博す
足立光宏 阪急ブレーブス プロ入り1年目で1試合17奪三振(当時の日本記録)の記録を持つ。『ドカベン』里中智の投球フォームのモデルとされている
山田久志 阪急ブレーブス 通算284勝はアンダースローとして最多。12年連続開幕投手は日本記録。「ミスターサブマリン
高橋直樹 東映フライヤーズ・広島東洋カープなど 史上唯一の「1試合で勝利投手とセーブを両方記録した」選手(二刀流起用によるため。ルール改正により、現在は達成不可能)
金城基泰 広島東洋カープ・南海ホークスなど 変化球はチェンジアップしか投げられなかった速球派投手 本人はチェンジアップを「曲がらないカーブ」と主張
渡辺秀武 読売ジャイアンツ・広島東洋カープなど 通算与死球144は、東尾修に抜かれるまでNPB記録であった。現在も歴代2位
永射保 西鉄ライオンズなど 左投げ。対左強打者用ワンポイントリリーフの先駆け
松沼博久 西武ライオンズ 弟・雅之とともに西武に所属した「松沼兄」。実際の松沼兄弟では三男である
仁科時成 ロッテオリオンズ 9回2死まで無安打に抑えながらその後打たれるノーヒットノーラン未遂を2回記録
深沢恵雄 阪神タイガース・ロッテオリオンズ 「下から投げるオーバースロー」とも評され、低空アンダースローの先駆者とされている
清川栄治 広島東洋カープ・近鉄バファローズ 左投げ。通算438試合すべてリリーフ登板 奪三振率が高い
御子柴進 阪神タイガース 阪神暗黒期にあって安定感が高かった投手。「朝食はバナナ
足利豊 福岡ダイエーホークスなど 野球を始めた小学生のころからアンダースロー投手だった経歴を持つ
渡辺俊介 千葉ロッテマリーンズ リリースポイント3cmは世界一低いアンダースローと称される。第1回、2回WBC日本代表。
彼もまた「ミスターサブマリン
牧田和久 西武ライオンズ・楽天イーグルス 先発・中継ぎ・抑え・国際大会における奇襲要員と幅広い活躍をした「困ったときの牧田」。第3回、4回WBC日本代表
金炳賢 楽天イーグルス 「コリアンサブマリン」の異名を持ち、アンダースローとしては異例となる150km/hもの速球を投げた事で有名
加藤正志 楽天イーグルス 楽天では史上初となる日本人のアンダースロー投手。ただし残念ながらプロの舞台では活躍出来ず、僅か2年で戦力外通告を受けた
青柳晃洋 阪神タイガース 現役。東京五輪日本代表。2024年にポスティング制度を利用し、フィラデルフィア・フィリーズと契約。現在マイナー契約中
高橋礼 福岡ソフトバンクホークス・読売ジャイアンツ 現役。2019年WBSCプレミア12日本代表。最速146km/hを誇る。2024年にトレードで移籍
與座海人 西武ライオンズ 現役
中川颯 オリックス・バファローズDeNAベイスターズ 現役。2023年に自由契約となったがDeNAが獲得
鈴木健矢 日本ハムファイターズ・広島東洋カープ 現役。プロ入り時はサイドスローだったが、2022年から監督に就任した新庄剛志の助言により転向。2024年の現役ドラフトで移籍。

  • 架空のアンダースロー投手
選手名 作品名 詳細
里中智 ドカベン おそらく一番有名な架空アンダースロー投手。なんと落ちる球を投げることができる
水原勇気 野球狂の詩 女性、左投げ。モデルは永射保 ドリームボール
星飛雄馬 巨人の星 大リーグボール3号、左投げ
山田太一 ペナントレース やまだたいちの奇蹟 二刀流。「びりびりボール」というパームボールを投げる。
きやらはち ファミスタシリーズ ナムコスターズ不動の抑え 左投げ
早川あおい パワフルプロ野球シリーズ 女性。オリジナル変化球「マリンボール」を所持。未来の親戚も同じくアンダースロー。「シリーズ女性選手の象徴」
橘みずき 女性、左投げ。オリジナル変化球「クレッセントムーン」を所持。投球フォームは上述の秋山登のもの。
ドランプ ドラベース ドラえもん超野球外伝 ロボット。「Q(クイーン)ボール」や「ロイヤルストレートフラッシュ」などの強力な必殺技を複数保有。
シロえもん 同じくロボット。通常はオーバースローだが、必殺技の一つ「WW(ワイドホワイト)ボール」投球時はアンダースローを使用。
しかしこの球は肩に多大な負担がかかり…
子津忠之介 Mr.FULLSWING 十二支高校野球部部員。作中でオーバースローからサイドスローを経てアンダースローを短期間で体得。
地面スレスレから打者の直前で急浮上する「燕」という変化球を投球可能。
羊谷遊人 十二支高校監督。現役時代は自身のアンダースローと「燕」で十二支の全盛期を支え、
監督就任後に根津に自身のアンダースローの技術を叩き込んだ。
神楽 Base Boys 「神楽コースター」と呼ばれるシンカーを操る。
今岡忍 ROOKIES 二刀流。ただし投手としては残念ながら活躍出来なかった。
中山 球詠 女性。捕手からサインを全く受けずに投球する事で、ハイテンポな試合展開を得意とする。

  • 番外
人物名 状況 詳細
大隈重信 1908年の日米親善試合 始球式の際、アンダースローで投げた
すち子(すっちー) 吉本新喜劇 アメちゃんを観客席に投げるとき
ドナルド・マクドナルド CM「ドナルドのウワサ」 ピッチャー、代わりまして…
サイトウ(ポケモン) モンスターボール投擲時 他のトレーナーは現実世界の野球ありきの造形であったナナコ(アニメシリーズ)*5以外も基本的に上手*6
多くの関取 大相撲 土俵に塩をまくとき
ミュウツー 大乱闘スマッシュブラザーズ出演時 「シャドーボール」を使うとアンダースローで投げる
ゴリラすべての個体 生物 肩関節の構造上、人間と異なり上手投げができない。
そのため「ものを投げつける」行動は原則サブマリン
獣の巨人 進撃の巨人 趣向を凝らして投げ方を変えてみるかぁ!!



追記・修正お願いします。

この項目が面白かったなら……\ポチッと/

+ タグ編集
  • タグ:
  • 野球
  • 投手
  • 下手投げ
  • 山田久志
  • 里中智
  • シンカー
  • カーブ
  • 絶滅危機
  • 個性派揃い
  • 希少種
  • 指導者不足←そもそも使い手が少ない
  • 投法
  • ピッチングフォーム
  • ストレートが変化球
  • 杉浦忠
最終更新:2025年04月18日 23:06

*1 山田久志の140km/h台前半で「現代のNPBだとしても」アンダースローとしては剛速球投手扱い

*2 これはサイドスローでも同様で、「オリックスのキャンプに助っ人コーチで来た野茂さんがなかばパフォーマンスながら『サイドスローでフォーク』を投げ、それは不可能なのが前提だった投手陣が絶句」という出来事が記録されている。

*3 例えば青柳晃洋は「アンダーより高いけどサイドよりは低い」と自己紹介しており、学生野球時代にはこの理由で部内では「クォータースロー」と専用の分類を設けていたとのこと

*4 『2024-2025』秋山登など。少なくとも今作では150km/h出るためか

*5 どう考えても元ネタは現実における関西圏現地の阪神ファンだが、本人のフォームは沢村栄治や村田兆治、『巨人の星』星飛雄馬のように軸にしない方の足を大きく上げるオーバースロー。

*6 アニメシリーズにおけるナツメの「手を使わずに念力で放る」など例外自体は存在する