250セーブ(プロ野球)

登録日:2015/10/01 (木) 21:34:55
更新日:2025/03/24 Mon 23:16:46
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岩瀬仁紀「ストレスから逃げるのではなく、 当たり前だと考えなくちゃ、この仕事はできません」




250セーブとは、項目名の通りプロ野球で投手として250回セーブを達成することである。


解説


プロ野球のリリーフ投手にとっては、一つの目標となる数字。

この記録を達成した投手は、伝説的なリリーフとして名前を語り継がれていくこととなる。
しかしこの記録、どうにも200勝2000本安打と比べて話題にされにくい風潮がある。

一番の理由は、200勝や2000本安打と比べて達成難易度が低く見えることだろう。

200勝や2000本安打を達成しようと思うと、一軍の主力として最低でも15年程度の活躍が必要となる。
それに対して、一般的な抑え投手の年間セーブ数はおよそ30~45セーブくらいにはなる。
つまり250セーブに必要な年数は長くて8~10年程度、なんなら5~6年程度でも十分ということになり、比較的低いハードルと思えなくもない。

ところがどっこい、実際に250セーブ達成者が非常に少ないことからわかるように、この記録の達成は滅茶苦茶難しい

一般的なローテーション制度を前提にするなら、先発としてマウンドに上がれる投手はチーム内で6人となる。
野手なら8~10人少々がレギュラーとして扱われ、継続的に打席に立つ機会を得られる。
一方で、現代野球は僅差リード時の継投を「勝ちパターン」として固定することが基本となっており、抑えを務める投手はチーム内で通常1人だけである。
すなわち、抑え投手はチーム内における『最高のリリーフ投手』ということになる。
当然ながら、キャリアの最初からそのような立場にいられる投手は少ない。
数年にわたって結果を残し、首脳陣の信頼を勝ち得て初めて抑え投手に抜擢されるのが基本である。
セーブを積み重ねること以前に、まず抑え投手という地位を得ること自体が一苦労なのだ。

そして、最大の敵となるのは身体の疲労。

ほぼ全試合のブルペン待機を義務付けられ、年間50試合以上の登板が見込まれるリリーフ投手。
「8回時点では僅差だったので準備したが、9回に大量リードしたので投げなかった」「準備したが逆に大量失点により敗戦処理の投手が選ばれた(複数の意味合いがあるので気にせず抑えを出せば良いとはならない)」というような肩透かしもしばしばあり、
数字に表れない負担が重くのしかかってくる。
勤続疲労による怪我や不振で地位を剥奪され、そこに他の投手が嵌ってしまえば、もう一度抑え投手に返り咲くことは極めて困難である。
厳しい環境に耐え抜き、長年に渡ってマウンドに立ち続けなければならないのだ。

さらに、セーブ数というものはチーム環境にも左右されやすい。

当然ではあるが、セーブはチームが勝利しなければ記録されない。
チームが敗北すれば、当然抑え投手の出番は無くなる。
連勝して連日出番があるよりは身体的負担が減るともいえるが、そういう問題でもない。

基本的には強いチームに所属していた方がセーブ機会は増えるだろう。
しかしセーブは点差の詰まった試合でしか記録されないため、打線が強すぎるような状況では逆に稼ぎにくくなる面もある*1
弱いチームなら接戦自体は増えるだろうが、その分セーブのつかない状況での酷使という問題も出てくる。
また、リリーフの重要性や負荷も周知されるようになったとはいえ、プロ野球のピッチングスタッフはまず先発投手の頭数を揃えることを優先するので*2
登板する機会が不安定な抑えでいるよりは先発に回して投げさせた方がいいという理屈もあり、結果先発転向となるケースもある。

イメージに反して難しい記録、それが250セーブだろう。

実際、一流とされる抑え投手であってもその記録の多くは150~200セーブのあたりに固まっており、200セーブ超の「惜しい」ところまでいった選手は2024年時点で僅か3人のみ*3である。
その一方で、250セーブ達成済の3人*4はすべて300セーブも達成している。
挑戦することすら困難な一方で、規格外のタフマンにとっては通過点でしかない記録でもあるのだ。


名球会との関係


250セーブは名球会の入会条件でもある。

入会が認められるための注意点として、記録の計算はNPB入り時点からスタートする。
つまり、NPB以前にMLBや韓国リーグ等で積み上げたセーブ数は考慮されない。
ただし『NPB→MLB』の場合は日米通算記録としてセーブ数の中に合算される。

名球会員は2015年時点で15人ほど投手が所属しているが、その中で250セーブ達成者は僅か3人しかいない。
これには理由がある。

実のところ、元々250セーブは名球会の入会条件ではなかった。

現代野球においては投手分業制が浸透しており、かつては先発から漏れた落伍者の仕事とされていたリリーフの働きが正当に評価されるようになった。
そうした中で、名球会も卓抜した成績を残したリリーフ投手を入会させるべしという決断を下し、
250セーブという数字が入会条件として認められたわけである。
規約の改正が2003年と最近のことであり*5、200勝や2000本安打よりイメージ的にはややマイナーかもしれない。

一時期は、この250セーブという入会条件を疑問視する声も多かった。

疑問視されるきっかけを作った代表的投手は、広島東洋カープの永川勝浩だろう。
彼は当時弱小だった広島において、ルーキーイヤーに25セーブという優秀な数字を残した。
その後も2006年-2009年の4年間で132セーブを記録し、リーグを代表する抑えとしてその名を轟かせていた。
その反面好不調の波が激しく、リリーフに失敗してセーブどころか黒星を稼ぐこともしばしば。
同時期に活躍していた抑え投手たちと比べ安定感に欠ける印象は拭えず、全幅の信頼を得ていたとは言い難い投手であった。

そのような状況を受け、「通算250セーブ」という基準についてファンの間で議論が加速。
ファンの中では『それほど凄い投手じゃなくても(無理して使い続ければ)達成できるのではないか』という風潮が広がった。
抑え投手の名球会入り条件は極めて甘いものとされ、「永川でも入れる名球会」なる言葉も登場(すなわち、永川がルーキーイヤーの成績を続けられれば10年で入会資格を得る計算になることが批判された)。
議論の内容を一言で的確に表現したこの言葉は一部のファンの間で定着した。

しかしながら、議論の中心であった永川は2010年頃から故障や不調により登板機会が激減。
抑え投手の地位を剥奪され、その後殆どセーブ数を積み上げることなく引退となった。
同様に話題に上がることが多かった馬原孝浩も故障に苦しみ、200セーブにすら届かず引退している。
2017年にはデニス・サファテがシーズン54セーブという大記録を打ち立て、名球会まで残り20セーブを切るところにまで迫ったのだが、
2018年の開幕直後に無念の故障、長期離脱となってしまった。
今や250セーブという記録の困難さは広く認知され、「2000本安打はおろか、200勝よりも難しいのではないか」との声も多い。

そうした危惧を裏付けるかのように、残り僅か5セーブとなっていた藤川球児が2020年限りの引退を表明。
残されたサファテも故障から復帰できず、2021年シーズンをもって引退となった。
藤川は右肩のコンディションが手術を要するほどに落ち込んでおり、サファテに至ってはもはや再起不能の状態だったことが後に判明。
永川でも入れる~の再検証で生まれた言葉の「サファテ・藤川でも入れない(かもしれない)名球会」が現実のものとなってしまった*6
藤川については後に特例枠*7による名球会入りが叶ったものの、「250セーブまでの道程に安全圏はない」ことが改めて認知され、
もはや次の達成者は出てこないかもしれないとの声まで聞かれるようになっていた。
「結果的には永川が引退してもなお佐々木・高津・岩瀬しか残らなかった*8ことを考えれば、やはり俺たちよりも名球会のほうが妥当なこと言ってた」とも。

そうした中で迎えた2022年。
不振に喘いでいた横浜DeNAのリリーフ、山崎康晃が復活を遂げ、2年ぶりに抑えの地位を奪取。
シーズン37セーブを記録し、史上最年少で200セーブの大台を突破した。
パ・リーグではオリックスの平野佳寿が日米通算221セーブにまで数字を伸ばし、2023年中の達成が見込める領域に足を踏み入れた。
このままパフォーマンスを維持できれば、大記録の達成があるかもしれない。ファンの期待はかつてないほどに高まった。

そして2023年、ついにその時はやってきた。
平野が体調不良による離脱を挟みながらも抑えの地位を堅持し、シーズン終了間際に日米通算250セーブを達成。
プロ入りから17年、日米通算835登板目での快挙であった。
平野は日米通算200ホールドも併せて達成しており、その貢献度は250セーブという数字以上に凄まじい。
新たな鉄腕の名球会入りに、すべてのプロ野球ファンが万雷の拍手を贈るとともに「決して不可能な数字ではなかった」として*9250セーブを名球会基準ラインとしたことへの再評価もなされた。

また、彼に続かんとする選手も続々と現れている。
現状の筆頭格が千葉ロッテの益田直也で、2024年時点で通算243セーブとし、大記録を目前に捉えた。
特筆すべきはかのコバマサ*10に勝るとも劣らない劇場型であること入団から5年の間に僅か49セーブしか挙げていないことで、
抑え定着までに7年、抑えとして6年もの間長期の離脱なく投げ続けている。
平野に続いての快挙達成はあるのか、要注目である。
メジャーに目を向けると、東北楽天からサンディエゴ・パドレスに移籍した松井裕樹が通算236セーブとしているが、
現状ではブルペンの便利屋といった立ち位置で、2024年シーズンのセーブはゼロに留まった。
パドレスの抑えには元阪神のスアレスが君臨しており、来期以降セーブを稼げる立場になれるかどうかは不透明。
山崎は現状で抑えの地位を剥奪されてしまっているが、今後の奮起次第で達成の可能性も出てくることだろう。

5人目の鉄腕誕生へ、彼らの活躍を願わずにはいられない。

記録達成者(※2024年シーズン終了時点、☆は現役選手)


ここでは250セーブ達成者を記載する。


選手名 通算セーブ数 備考
佐々木主浩 381セーブ 『大魔神』
日米通算*11/300セーブ達成者/350セーブ達成者
高津臣吾 313セーブ 日米通算*12/300セーブ達成者
現ヤクルト監督
岩瀬仁紀 407セーブ 『死神』
300セーブ達成者/350セーブ達成者/400セーブ達成者/プロ野球最多セーブ記録保持者/9年連続30セーブ/史上最年長セーブ/通算最多登板記録保持者/40代シーズン最多登板記録保持者/1000登板達成*13
☆平野佳寿 記録更新中 日米通算*14/オリックス所属*15選手として初の名球会入り

250セーブに近い現役選手(※2024年シーズン終了時点・平野佳を除外、残り50セーブ以内)


選手名 通算セーブ数 備考
益田直也 243セーブ
松井裕樹 236セーブ 日米通算
山﨑康晃 231セーブ


追記・修正は、250セーブを達成してからお願いします。

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最終更新:2025年03月24日 23:16

*1 一応点差に関わらず3イニング以上投げて交代完了、さらに勝利投手にならなければセーブはつくが、負担がとんでもなく大きいのはわかるだろう

*2 昔は中0日や1日も普通にあったが、現代では4~6ローテ体制を用意できないようなら先発を酷使し過ぎとして体制を批判されたり疑問視される。理由も選手の体調管理のためでおかしいものではない。

*3 2023年現在現役の選手を含めれば6人。

*4 2024年時点で現役の平野佳寿を除く。

*5 そもそも会の設立が古いため投手分業制を前提にしておらず(「元祖・抑え専業投手」江夏豊が200勝の方で入会したのもあったと思われる)、分業システムそのものは好意的に解釈しているメンバー含めて「そもそもリリーフ投手の指標による入会を認めてしまっていいのか?」からの議論がなされたとする話もある。実際に中継ぎ投手の成績であるホールドに関しては現在でも基準そのものが存在しない(極めて優秀な成績の者、ではあるが、2024年シーズン終了時点で通算412ホールドの宮西尚生などは後述の会議による特例入会が噂されてはいる)。参考までに、類似の問題が出た沢村賞は実際に「佐々木主浩をいま沢村賞に選ぶことはできないが、将来的に『佐々木賞』かなにかでリリーフ界の沢村賞が別に設けられるだろう」という意見が一定の支持を集めた歴史がある。

*6 実際に近年でも「サファテや藤川クラスですら『ケガがなければ…』のifじゃないと達成できなかったから」「サファテ・藤川ですら届かない名球会」として妥当性を表現する野球ファンは一定数見られる

*7 理事会の推薦を受けた選手で、総会において全会員の4分の3以上の承認を得る。現在投手としてのこれでの入会は藤川、上原浩治の2名のみ

*8 300セーブをラインにするべき、という意見が「永川でも~」に付記された際に300の方の達成者として挙げられていたという理由もある。

*9 佐々木や岩瀬のような「まず救援失敗することがない」投手ではなく、いわゆる劇場タイプの平野が達成したという背景もある。

*10 『幕張の防波堤』小林雅英、定期的に「決壊」して試合をぶちこわしにしては「土嚢」やら「コアラのマーチの箱を並べて防波堤扱いしている」やら言われており、劇場型・両極端タイプの抑えの代表格としては益田とならんで今でもよく挙がる。本人の「満塁ホームランを打たれる可能性があるくらいなら、松井秀喜に押し出し四球を与えて同点にするべきだ」という発言などが有名

*11 NPB単独でも252セーブ

*12 NPB単独でも286セーブ

*13 1002登板407セーブ82ホールド51敗

*14 NPB単独では2024年シーズン終了時点で249セーブ

*15 他は全員が阪急ブレーブス時代のメンバー(福本豊など)か、入会資格を満たした時点ではオリックス外に移籍済であった(イチローなど)ため