別天津神

登録日:2016/01/28 Thu 10:41:37
更新日:2023/05/13 Sat 14:03:20
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◇◆別天津神◆◇

「別天津神(ことあまつかみ)」は日本神話に登場して来る原初の神。
神道のみに限った話では無いものの、基本的に前(さき)に生まれた神の方が神格が高くなる為、日本神話の系統の中では“神の中の神”と注釈される程にランクが高い。

日本の基本的なカミとは成り立ちや性格に違いがあり、一般的なカミの様に自然の恵みや脅威への感謝と畏れ、人々の生活の営みの中から自然発生したカミではなく、記紀神話の成立時に政治、宗教的な意図を以て編纂、或いは創作されたカミであると考えられている。*1

この様な経緯から誕生した神々の為か、当初は記紀神話が一部の上層階級の人間にのみ拓かれた知識であった事も手伝い、実際の信仰の場では馴染みがなく、民間での人気も暫くは生まれようが無かった。*2

しかし、様々な神道学派の発展と、特にそれらの中でも強い影響力を持っていた伊勢神道では、王朝による主宰神の書き換えに伴い内宮の祭祀職を奪われた外宮の神職家・渡会氏により、外宮の祭神・豊宇気大御神を天之御中主と同体とし、天照大御神の管理者的なカミであるとする、独自の理論なども生み出されていった。
この他にも、近世に至るまでに名だたる神道家や国学者が仏教道教、その他の大陸思想を受けつつ神道を発展させて行く中で、実際に最高位の“神”としての意味付けを行い、それに基づく信仰が根付いていったと云う経緯がある。


【系譜】
宇宙開闢と共に高天原に“成り”座した三柱のカミに、続いて成った二柱を加えた五柱のカミ。*3

最初に出現した三柱のカミを特に“造化三神(ぞうけ(か)のさんしん)”と呼び、彼らこそが日本神話に登場する八百万の神々の起源にして頂点である。

造化三神(三)から→彼らを含む別天津神五柱(五)→続く神世七代(七)の最初の二柱の神までは「独神(完成されたカミ)と成りまして(出現なされまして)、身を隠したまひき(姿は視えません)」と繰り返し繰り返し注釈が付けられており、これらは始源の七柱の神が“性別も姿も持たない観念的なカミ”である事を示している。

神道は基本的には自然信仰から生まれた多神教である事は間違いないのだが、例外的に「古事記」の初めに語られる七柱は一神教の“主”や大乗仏教の“仏”にも通じる哲学、形而上学的な概念なのである。
尤も、造化三神の内の高御産巣日神と神産巣日神に関しては、記紀神話成立以前より確固たる信仰の下地を持っていたカミであった事は間違いないようで、神格の高さもそれらを反映した物である模様(※以下は後述の個別解説へ)。
恐らくは皇祖神たる天照と大国主の原形だろう、と予想されている。

因みに、造化三神から神世七代に至る三→五→七の数の推移も大陸思想に於ける聖数を反映したものであり、後に生まれる「三貴子(天照・月讀・須佐之男)」と同様に意図的な構成となっている。



【造化三神】


◎天之御中主神(アメノミナカヌシ)
天地開闢と共に出現した造化三神の中心尊で、その名の示す様に“宇宙の中心(根源)に(で)在るカミ”である。
イメージ的には根本的な生命エネルギーその物であり、神智学的なイメージでは龍神と見なす神道家も居る。
前述の様に記紀神話の成立に併せて生み出されたカミである為に特定の伝承を持たないが、後に神道教派、国学の発展と共に最高神としての地位を固め、江戸時代後期には平田篤胤により「天地万物の大元主宰の神」と解説され、これが近世までに踏襲、発展していき、現代までには「神道の最高神」としての地位を盤石の物とした。*4
尤も、前述の様に平田篤胤らの思想が広められる以前より、伊勢神道の様にアメノミナカヌシに独自の解釈を見出す教派は少なからず存在しており、姿を持たない天之御中主神は世界形成の段階に於いて天之御中主神→国之常立神→天照大御神と中心尊として姿を顕した(変えた)とする考えは神道家には共通の理解として広がっていた様である。

尚、こうした考えには他宗教、特に古代中国の天帝耶蘇教天主の概念が影響を与えたらしく、平田篤胤も禁書であった「ばいぶる」等からアイディアを得たと予想されている。
事実、明治期にキリスト教が解禁されると、キリスト教関係者からもアメノミナカヌシを“ゴッド”と見なす意見が出されたと云う。
神仏習合では“不動の天空神”の属性の共通項からか妙見菩薩と同体とされてきたが、神仏分離以降は水天宮にも祀られている。
これは、仏教の水天が元来は古代インドの至高神ヴァルナであった為で、寧ろ神仏習合の時点で天之御中主神の神格が決定されていれば、根源仏大日如来と習合されていたのは間違いないところであろう。*5
これらの様に現代ではアメノミナカヌシを祭神とする神社は多く、天地(あめつち)を拓いたカミと云う事から、国土創世のカミである大国主神と同様に北海道開拓に挑んだ人々にも信仰を受けた。



△△
◎高御産巣日神(タカミムスビ)
造化三神の一柱で、神世の「高み」から万物を創世する力である「ムスビ」を司るカミ。
前述の様に始源の世代のカミとしては例外的に伝承が多く、神話内でも“姿のないカミ”と念を押されているにも関わらず、まるで肉体を持つ他のカミの様に活発に活動している。
特に、高天原の支配者となった天照と同じく天孫降臨を指導する役割を担っており、高天原の裏切り者となった天若日子(ワカヒコ)に「邪心があるならこの矢で罰を受けよ」として返し矢を放ち裁きを与える等、高天原の監督役の様な立ち位置にいる。*6

天照が記紀神話に併せて姿を整えられたカミであるとする説もある事から、実は本来の皇祖神(大和の氏神)はタカミムスビであり、それが大和が中央政権として地方を纏め上げる際に、各地の太陽信仰を集約・象徴化させて誕生した新たなる比売神・天照を台頭させる為にタカミムスビは敢えて隠されたとする考察もある。

異名を「高木神(たかぎのかみ)」と云い、これは古代では天高く伸びた樹木はカミと地上を繋ぐ道であり、樹木その物がカミの宿る神木となる……との考えからである。

日本で神を「柱」と数える倣わしはここに寄り、即ち「高木大神(たかぎのおおかみ)」とは、その最高位を示す尊称である。

つまり、最高位の神であるタカミムスビが天孫降臨や神武東征をバックアップしていると云う行為自体が、タカミムスビが「ティン!」て来て選んだカミ達の支配が正当な行いであると云う事の証となるのである。



△△△
◎神産巣日神(カミムスビ)
造化三神の一柱で、タカミムスビと同じく神世から万物の創世を司る「ムスビ」のカミである。
カミとしての名前と役割が似ていれば、始源の世代のカミ乍ら纏わる伝承が多いのも同じで、タカミムスビを天孫系神話の監督役とするなら、カミムスビは出雲系神話の監督役である。

特に大国主神との関わりが深く、八十神に殺されたオオナムチ(大穴牟遅神=大国主神の前の名)を二度に渡り蘇らせている他、須佐之男命)の試練を乗り越え、大国主神として国作りを開始した際に真っ先に協力した少名毘古那神はカミムスビの子とされている。*7

記紀神話の大筋は天孫系(天津神)のカミの前に出雲系(国津神)のカミが降る(敗北する)物語ではあるが、由来的には記紀神話として纏められたカミは何れもが大和の王朝支配を体現しらしめる目的で系譜に組み込まれたカミであり、これらの事実から出雲系の神もまた天津神として解説されている場合もある。



続く二柱の神

▽▽
○宇摩志阿斯詞備比古遅神(ウマシアシカビヒコジノカミ)
造化三神に続いて成ったカミで、葦の如く伸び上がる生命力を象徴するカミであると考えられている。*8

共に正体不明ながら、後の神道の発展と共に究極神としての信仰が整えられた造化三神と比べて特別な信仰を獲得していないが、生命力の根源となる神として、地上に生まれた多数の豊穣の神の祖、更には錬金術や練丹術をも象徴する“ムスビの神”から続く段階を司る“創世の神”である、との解釈も為されている。



○天之常立神(アメノトコタチノカミ)
ウマシアシカビヒコジノカミと共に成ったカミで、この頃には初めて天地が分かれるも、未だ形を取らない国土に立って、その安定を“約束”した神と考えられている。
特別な神話は持たないが、桃太郎伝説を生んだ吉備津彦神社の祭神としても祀られている。




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最終更新:2023年05月13日 14:03

*1 ※名前が凡て登場するのは「古事記」のみで「日本書紀」では省略。ただし一書により補足。後の思想の発展により意味付けが為されている。

*2 ※当初は天照ですらそうだったと云うのだから猶の事…である。

*3 ※“生じた”ではなく“成った”であり、存在その物が=としての現象その物を指す。

*4 ※皇祖神・天照大御神とはまた別の概念である。

*5 ※造化三神は古代オリエント神話と同様に原初の水から成ったとする解釈もある為、龍神=水神としても見なされる。

*6 ※詳細は大国主神の項目を参照。あくまでも裁きの形を取る事で高天原の正当性を印象付けている構図である。

*7 ※元来は大国主神とセットとなる小さき神だが、記紀神話にて意図的にカミムスビの子とされた。

*8 ※古代日本=葦原中国は、その名の様に葦の生い茂る国の意。