国津神

登録日:2016/01/27 Wed 11:07:50
更新日:2021/12/15 Wed 02:09:46
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◆国津神◆

「国津神(くにつかみ)」は日本神話に登場してくる神々。
主に出雲系と呼ばれる、記紀神話にて高天原への国譲りによって王朝支配を受け入れたカミがこう呼ばれるが、蝦夷に代表される様な中央政権樹立後に平定された氏族や地方のカミと云った記紀神話には記述されていない服(順=まつろ)わぬカミや荒ぶるカミ達もまた国津神と呼ばれている。
天神(天津神)に対応した地祇(ちぎ)と云う呼び方もあり、両者を纏めた「神祇(じんぎ)」のみで“八百万の神”を指す詞になる。
記紀神話の記述者側視点で描かれている天津神と比べると乱暴者であったり、戦乱を平定する為とは云え武力を用いたりと、荒事や汚い役回りを担当させられているのも特徴である。


【系譜】
国津神と呼ばれるカミは、大きく分けて以下の三つにカテゴリー出来る。

※国生み神話にも登場する由緒正しい神であり、系譜的にも天津神とは曖昧な境界線にある。国土その物や自然現象を司る。

※記紀神話に組み込まれた有力な氏神や地方神で、それらが統合された神々。
出雲系と呼ばれるカミはこれに当たる。

  • 三、生み出された国土に自然発生していたカミ。
※尤も国津神のイメージに合致するであろう地方毎の「オラほのカミさん」達。
近世までに記紀神話に登場してくる神と名前を取り替えられてしまったり、神社を上書きされてしまったカミもいる。


【主要な神々】

■=男神
□=女神

【自然神】
■大綿津見神(オオワタツミ)
国生み神話で生み出された海神。
日本の民間伝承や民話に於ける漠然とした「海の神」とはこの方の事。
山幸と海幸の神話に見られる様に貧富を左右する力を持つ。
また、古代では海の神は童子の姿をしていたとされ、矢張り様々な民間伝承に引き継がれる。
河童や恵比寿の原型であり、古代のゆるキャラの発信源である。

□豊玉毘売命(トヨタマビメ)
オオワタツミの娘で、山幸(火遠理=ホオリ)と結ばれるも、出産の様子を見ないようにホオリに言いつけていたのに破られ、正体である八尋鰐(大鮫)の姿を見られてしまい海に帰る。
「浦島太郎」の乙姫や「鶴の恩返し」の原型となった存在であり、元祖萌えキャラたる「異種婚嫁」の元祖である。*1
昔話にも見られるように漠然とした概念の父親以上に大人気で、寧ろ海神としての信仰ではトヨタマたんの方が有名。


■大山津見神(オオヤマツミ)
国生み神話で生み出された山神。
古代日本に於ける国土その物、そして異界である深山幽谷その物。
山は神秘の象徴であり、雷=神鳴りを起こしたとされていたことから雷神としても信仰される。
国土の象徴たるオオヤマツミの直径の子と須佐之男命、大国主神と云う高天原の血を引き継ぐ神が縁組みする構図は記紀神話の重要なポイントである。

□櫛名田比売(クシナダヒメ)
高天原より降ったスサノオノミコトが出会った美しい姫君で、オオヤマツミの子の足名椎・手名椎(アシナヅチ・テナヅチ)の子。
親子纏めて豊穣の神。
また、山の神霊を祀る祭祀の神。
「古事記」でスサノオはアシナヅチを指して「我が宮殿の首(おびと)任れ」と命じ、稲田宮主須賀之八耳神(「日本書紀」では稲田宮主神)の名を贈っているが、これは“須賀地の神霊総て”の意であると云う。
日本最古のヒロイックファンタジーの姫君であり、元祖ピーチ姫と思っても間違いはない。


□菊理媛神(ククリヒメノカミ)
黄泉比良坂で口論となったイザナギ・イザナミを仲裁したとされる謎多き女神。
加賀白山の祭神・白山姫大神の別名とされるが、神格の高さと高名に反して由来は謎に包まれている。
仲裁したがる美少女と云うジャンルは、既に古代日本から存在していたのである。古事記にも書かれている!(※と、言いたい所だがネタを抜くと、実際には「日本書記」の、しかも「一書」のみに登場と、偉い割りには益々出自が不明な女神であったりする。)
後の民間伝承では「番町皿屋敷」に代表される各地のお菊(お聞く=地の声をキク巫女)民話として広く伝わっている。


【出雲系神話】
■五十猛命(イトタケル)
別名を大屋毘古神(オオヤビコ)と云い、スサノオとクシナダの息子。
スサノオと共に日本は勿論、新羅にまで樹木を植林したとされる。
古代日本で自然の山野が切り開かれ、人間に有用な樹木が植え付けられた事を象徴化した神と云え、同じ属性を持つ妹の大屋津媛(オオヤツヒメ)・都麻津姫(ツマツヒメ)と共に林業関係者から信仰を受け続けている。
紀伊国(木国)の支配者としても知られ、後に子孫であるオオナムチ(大国主神)を助けている。
これらの神話から紀伊海人の功績(朝鮮地域にまで及ぶ殖民・交易と大陸侵攻の案内人)を寓意化された神とも考えられる。


■大年神(オオトシヌシノカミ)
スサノオとオオヤマツミの娘の神大市比売の子供で、歳時と穀物を司る。平たく言えば時間の神かつ作物の神。
本来「トシ」は穀物を指したが、四季の循環との連想や、記紀の漢字(当て字)表記によって現在知られる意味になった。
大国主神に協力して国作りをしたとする伝承の他、肉食に対する祟りによりイナゴを発生させたと云う神話が残る。
妻は天津神の天知迦流美豆比売。
子供にも多くの土地の神、穀物や豊穣に関わる神が誕生している。

□宇迦之御魂神(ウカノミタマノカミ)
大年主に次いで誕生した穀物の神。別名は倉稲魂命(ウカノミタマノミコト)、稲荷神。
稲荷神社の祭神として知られるが、元から狐や白蛇に纏わる伝説があった訳ではなく、仏教などの影響を受けつつ民間伝承の中で習合していったらしい。
名前の読みの共通から宇賀明神と同一視され、弁才天とも同一視される。
実は性別は不明で元々は男神だったが、多くは女神と考えられている。
「古事記」の大気津比売、「日本書紀」の一書の保食神とも同一視され、スサノオ(月読)に殺された事で五穀や蚕、牛馬が地上に広がったとされている。
また、伊勢神宮外宮の食物の女神・豊宇気毘売神(トヨウケビメノカミ)とは早くから同一視された信仰を持つ。


大国主神(オオクニヌシ)
詳細は当該項目へ。
出雲系神話の主神で、国土平定を行った英雄神。
様々な神話が統合されており、元来は天照と並ぶ皇祖神の名であったとも考えられている。

■少名毘古那神(スクナビコナ)
造化三神の神産巣日神(カミムスビ)の子。
常世国(異界・冥界)から天の羅摩船(うつぼ船)に乗り渡って来たガチョウ(蛾)の衣服を纏った小さき神。
大国主神の目の前に現れるが正体は不明で、多邇具久(ヒキガエル)と久延毘古(カカシ)により正体が明かされた後に大国主神の国造りに協力した。
「古事記」では都合により出番がカットされているものの、元々は大国主神のパートナーとして農耕、医術、温泉に酒造と凡る技術を齎した神との信仰がある。
現在で言えば「プリキュア」とかに出てくる妖精みたいな物である。
後にこれらの説話は「一寸法師」や恵比寿信仰として広がった。

■大物主(オオモノヌシ)
三輪の祭神。
大国主神の協力者とも同体ともされる。

■八重事代主神(コトシロヌシ)
大国主神と神屋楯比売命の子供で、国譲りにて高天原への従属を進言した神。
更に、託宣を下した後に自分はさっさと身を隠してしまった為に「臆病者」と思われたりもしているが、国譲り神話自体が出来レースみたいな物なのでコトシロヌシのみを責めても仕方がない。
国譲りの際には美保岬にて釣りをして鯛まで抱えていたとの伝説から、ヒルコと共に恵比寿の原型と考えられている。


■大山咋神(オオヤマクイ)
オオトシヌシの子で日吉大社の祭神。
別名を山末之大主神と呼ばれ、山神として広く信仰を集める。


建御名方神(タケミナカタ)
□八坂刀売神(ヤサカトメ)
大国主神と高志沼河比売の子で、コトシロヌシとと共に判断を仰がれるも、国譲りの際には最後まで抵抗した。
しかし、高天原より派遣されたタケミカヅチに敗れ、諏訪まで逃走した後に二度とそこから出ない事を誓ったとされる。
元々は諏訪の水神であり、狩猟の神としても信仰を集めていた。
ヤサカトメはタケミナカタの妻で、共に諏訪大社の祭神。
旧くは上社がタケミナカタ、下社がヤサカトメを祀っていたが現在は区別がない。


■猿田毘古神(サルタビコ)
天孫降臨の際に天之八衢(あめのやちまた)でニニギ一行を待ち構えていた光り輝く異相の神。
身長七尺(2m10cm)、鼻は七咫(1m26cm)もある偉丈夫で、天狗や手塚治虫の鼻デカキャラの原型とも考えられている。
元来は伊勢の土着信仰の太陽神であり、伊勢神宮が天照大御神を祀る太陽信仰の聖地となったのもこの事が影響していると考えられている。
記紀神話では都合が悪い存在の為か溺死させられると云うあんまりな最後が語られているが、民間伝承では嫁になったアメノウズメと共に幸せに暮らしたとされている。
その子孫が猿女氏であり、芸能と託宣により朝廷に仕えた。


□木花之佐久夜毘売(コノハナサクヤ)
オオヤマツミの娘で、天孫ニニギノミコトに嫁いだ桜の花の女神。
後に日本の霊峰・富士山の女神ともされた。
咲き誇る花の栄華と命の儚さを司り、ニニギは美しいコノハナサクヤのみと契った事で永き命を喪った。
これらの神話から可憐で弱々しい女神と思われがちだがそんな事はなく、たった一夜で身ごもった事でニニギに「自分の子ではない」と疑われた事から、自ら火の点けた産屋の中で出産に臨んだ女傑。

サクヤ「花は桜木、女は咲耶ァ!!」
ニニギ「アイエエエエエエ!」

この時に生まれたのが火照命(海幸彦)・火須勢理命・火遠理命(山幸彦)の三兄弟である。
因みに、コノハナサクヤ(木花咲耶)は通称で、本名は「古事記」では神阿多都比売、「日本書紀」では鹿葦津姫とされ、元々は南九州の女神と考えられている。

□石長比売(イワナガヒメ)
コノハナサクヤの姉で、名前の通り巌の女神。
盤石たる不死を象徴するが石の神だけあってか醜く、コノハナサクヤの序でにニニギに嫁ぐも「チェンジ」された。
……が、これによって天皇(人間)は永遠を喪ったと云う。
(厳密に言うと、命が花のように儚くなったという説明は『古事記』と『日本書紀』で共通しているが、前者では「天皇命(スメラミコト)」の命であり、後者では「顯見蒼生(ウツシキアオヒトクサ=人間)」の命である)
このイワナガヒメの話は、バナナ型神話の一種に分類される。なおプロメテウス神話では、腐る肉は定命の者の食物、腐らない骨は不死の者(=神)の食物として分けられたともいう。


■塩椎神(シオツチ)
イザナギの子と伝えられる潮流の神。
山幸彦をオオワタツミの下へと導いた。


□玉依毘売命(タマヨリビメ)
オオワタツミの娘で、トヨタマビメの妹。
海に帰った姉より子供の養育を頼まれ、自らが育てた子(鵜葺草葺不合命)と契り4人の子を生んだ。
……義母相姦とか流石は古代。始まってんな。
この内の四男がイワレビコ(神武天皇)である。
この他にも日本神話にはタマヨリビメの名を持つ別の女神が登場しており、この名は“玉(神霊)の依る(憑く)”…即ち巫女の意であると云う。


■武内宿禰(たけうちのすくね)
記紀神話に語られる伝説的神人。
日本版サンジェルマン伯爵みたいな人で、歴代天皇に仕えながら300歳を越える生涯を送った。
流石に世襲の名であったと考えるのが当然だが、紀神記話には「世の長人」「世の遠人」と記されている辺り……マジかもしれない。



【その他】
※「記紀神話」ではマイナーだが、近年の創作で有名な大物。

天津甕星(アマツミカボシ)
「古事記」にも「日本書紀」にも記述が無く、一書(あるふみ)のみに登場する日本最強の邪神。
特に悪い事はしていないが強過ぎるので邪神。
星の神と伝えられる。
経津主神(フツヌシ)と武甕槌命(タケミカヅチ)と云う高天原無敵のコンビが挑んでも全く相手にならず、仕方なく倭文神(しとりがみ)建葉槌命(たけはづちのみこと)と云う神を遣わして、やっと懐柔したとされている。
別名を天香香背男(アメノカガセオ)と云い、名と星神の属性から堕ちた天津神とする考察もある。
本居宣長は「金星の神」と考察している。
……アンタ何処にでも居るな。
北極星信仰とも結びつき、妙見菩薩とも同一視された。
日本では未だにマイナーだが、近年では何故かMARVELの神様キャラクターとして大人気になってしまっており、日本のアメコミファンを激しく困惑させている。
流石は閣下。


■荒脛巾神(アラハバキ)
他にも表記多数。
東日本に信仰の痕跡が見られる謎多き神。
意図的に信仰が断絶させられたらしい。
メガテンでは蝦夷の象徴たる最強の国津神に据えられている。


【余談】
この他、氷川神社、渡来神であった稲荷明神や八幡大菩薩と云った、民間に信仰された神々もまた日本の至る所に居るカミと習合し今に至っている。



追記修正は出雲大社に参ってからお願いします。

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最終更新:2021年12月15日 02:09

*1 ※ハッキリ言って日本人は昔から変わっていない。