SCP-2513

登録日:2017/02/09 (木) 18:55:42
更新日:2024/04/17 Wed 19:51:34
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何もかも全て奴等が悪い。やはり何がなんでも滅ぼすべきだ!


SCP-2513は、シェアード・ワールド「SCP Foundation」で創作されたSCPオブジェクトの一つ。
オブジェクトクラスはEuclid。

財団世界のオブジェクトは本当に色々あるが、そのいずれもがK-クラスシナリオ、生命の危機に直結していたり、発生経緯がエグかったり、あらゆる意味でロクでもなかったり……とにかく基本的に有害である。

SCP-2513も有害と言えば有害だが、少なくともオブジェクト全体の中では極めて無害な部類に属する。


概要

コイツが何かというと、イタリアはシチリア島の、ラグーザという町の北に位置する古ーい石製の橋である。
元々はローマ共和国によって建設された橋だが1693年のイタリア・シチリア島沖地震で一度崩落しており、2006年にラグーザ歴史協会が復元した。これが現在のSCP-2513である。
ただ、作られたのがあまりにも昔であるため、経年劣化による崩落の兆しがみられている。

さて、オブジェクトである以上コイツにも異常な特性がある。
それは何かというと、この橋を南から北へ向けて渡ると、半ばを過ぎた辺りで突如として、現在のチュニジアに当たる場所に紀元前146年頃まで存在していた都市国家・カルタゴ共和国に対する唐突かつ不合理な憎しみが湧き上がってくる、というものである。
ちなみに、逆に北から南へ渡るとこの感情は収まる。
この手のよくわからない理不尽さはSCPオブジェクトらしいとも言えるが、例によってなぜこうなるのかはわかっていない。

ただ、カルタゴと言っても歴史に疎い人間はそれを知らないことがある。
そういう人間が渡った場合、北アフリカ中央部とそこの住民に対する憎悪の念という形で異常性が現れる。アフリカ大陸に関する知識が全くない場合、異常性はほとんど影響が現れないか、そもそも異常性自体が出て来ない。
その場合でも、カルタゴに関する知識を僅かでも得れば、標準的な曝露者の症状を現し始める。

で、曝露した人間はカルタゴに対する嫌悪感と怒りと憎しみで暴走気味になるが、これは時間がたつにつれて弱まり、最終的には直接的な行動の原因とはならなくなる。要するに熱が冷めるのである。
しかし完全には元に戻らず、この効果を打ち消すには、SCP-2513を北から南へと渡る必要がある。

ちなみに暴走状態でも周囲の声が聞こえないわけではなく、何か指示されれば普通に従う。

特別収容プロトコルだが、これはEuclidにしてはかなり簡素。
  • 民間人が渡らないように警備
  • 周辺10平方キロメートルは自然保護区として隔離
というもの。

普通、この手の場所系オブジェクトは周辺の情報も改竄することが多いが、SCP-2513については橋のかかっている場所の知名度が低く、橋があること自体も地元の人間でなければほぼ知らない、という認知度の低さから、歴史的記録の改ざんは必要ないとされている。
研究中にまだ財団の把握していない記録があれば、担当研究者にその旨を伝えることになっているが、それくらいである。
要は「特に隠蔽の必要なし。何か見つけたら報告ヨロシク」ということだ。


さて、そもそもこのオブジェクトはどうして財団の目に留まったのか?
それは語られていないが、代わりにこの橋についての歴史的記録がある。

元々SCP-2513は紀元前253年、ローマ共和国によって最初に建設された。
これは表向きには、第一次ポエニ戦争において、シチリア島において戦闘を繰り広げているローマ共和国の支援として、ラグーザの街からやってくる人々の通行を助けるためのものとされていた。
ところが建築の後、ラグーザは島を占領したカルタゴ軍に忠誠を移した。さらにその後の紀元前251年になって、ラグーザは再びその忠誠をローマ共和国へと戻した。
戦争の残りの期間におけるシチリア島の他の都市国家と異なり、ラグーザについてはこれ以降、ローマ共和国から離反したことはない。

そして紀元前132年には、SCP-2513につながる道路は、もはやシチリア南部から移動するためのメインルートとしては、機能しなくなっていた。
歴史的記録はこれが全てで、近代でこの橋に言及しているのは、「フィロソフィカル・トランザクションズ」という科学雑誌に掲載されたウィンセンティウス・ボナユトゥスなる人物の記事における、橋の崩落に関する脚注のみである。

だが、財団はこのボナ何とかさんの書いた論文に注目した。
それは、ムラード朝の支配に関する異議を含んだカルタゴ共和国の復活の危険性に関する、明確な関連性を持った未発表の論文であった。
これは恐らく、記録されている中では最古のSCP-2513関連のインシデントだと考えられている。
どうやらこのボナ何とかさん、何かのきっかけでこの橋を渡ってしまった上、その後で橋が地震で崩落してしまった模様。

ちなみに財団が調査したところ、橋の周辺からローマ神話の石工の神・ヤヌスを刻んだ石がいくつか発見された。
さらにSCP-2513は同じような石をいくつか組み込まれており、もしやこれが異常性と何か関連があるのではないか、と財団はさらなる調査を続けている。


実験記録

財団は新しいオブジェクトを収容すると、性質を調べるために実験を行うことになっている。
このオブジェクトについては、色んな条件で橋を渡らせてみる、というのがその内容。
大ざっぱにまとめると、

  1. マカロック博士が一人で渡る。橋の向こう側にはハンニバルのプラスチックの胸像を置く。
  2. ジェイコブズ博士とスミス助手が参加し、助手だけ渡る。
  3. アフリカに関する知識のないDクラスに渡らせ、別のDクラスに「カルタゴの人間です」と言わせる。

というもの。
で、それぞれの反応を抜粋すると、

  • マカロック博士
畜生めが! てめぇの所業でどれほどの寡婦が生まれたか分かってんだろうな、えぇ!? タルタロスで朽ち果てるがいいさ、髭面さらした砂漠のファック野郎が!
とわめきながらハンニバルの胸像を破壊。実験後に曰く、
私には一人も兄弟はいないがね、あれを見た時は「こいつが兄貴を殺りやがったんだ」としか考えられなかったんだよ。
だとか。

  • スミス助手(&ジェイコブズ博士)
待ってくださいどうして僕らこんなことやってるんです!? 僕らが持ってるありとあらゆる最悪なあれやこれやをカルタゴのファック野郎どもに投下しに行くべきじゃないんですか!!
あいつらが全滅しないと枕を高くして眠れないんです! あなたも僕と同じぐらい、カルタゴ人がどれほどクソかってことは分かってるでしょう! このままあいつらの帝国を育つがままにしておけば、いずれ僕らの元に押し寄せてきますよ!

で、博士に言われて素直に戻って来ると、曝露の影響はなくなった。

博士:まだカルタゴを焼き払いたい気分かね?
助手:先生、あのときはカルタゴに核を落としたいくらいでした。
とのこと。

  • Dクラス職員
橋を渡らなかったもう一人が「私は生粋のカルタゴ人です」と読み上げると、
んだとこの野郎!? ブチ殺してやるよてめえこのクソったれの裏切り者の象乗りのサノバビッチがァ!!
と、猛然と橋を引き返した。当然これによって影響は消えたが、勢い余って胸倉をつかみあげていた。
あー、すまねぇ。お前が”カルタゴ”って言った途端に、脳天に一発くらわさなきゃならねぇように感じたんだ。
と述べた辺り、ミーム汚染系の一種だと思われる。


で、ここでニューマンという研究員が名乗りを上げた。
この人は財団の雇用が終わり、記憶処理を受けて一般社会に復帰することが決まっていたのだが、「どうせやめるのなら、最後に財団の役に立ってからやめよう」とでも思ったのか、自らを実験台にすることを提案した。
今までの実験ではこの橋を渡ってすぐに引き返していたが、ボナ何とかさんのケースを再現するように、渡ってその後長期間過ごしたらどうなるのか、という観察実験をやってみよう、というものである。

財団はこの提案を承認し、早速ニューマン研究員はSCP-2513を渡った。
その後、研究員は経過観察のため、情報漏洩対策を施したノートパソコンを持って財団で生活。
結果、1週間にわたってノートパソコンに張り付いていた。
そうでない場合、頻繁に同僚や他の研究員に、カルタゴへの憎悪について説明することを試みていた。

ちなみにノートパソコンの記録を調べてみると、こんなアクセスが見られた。

  • カルタゴに対するネガティブなワードでの検索エンジンの使用
  • 人気のある戦略ゲームをダウンロードし、カルタゴを滅亡させることに専念するシナリオの作成
  • 別の戦略ゲームにおける、カルタゴ側のプレイヤーとの熾烈な論争
  • カルタゴの破壊に関する情報読み込みの繰り返し
  • カルタゴに関する記事に対しての度重なる荒らし行為

……相当である。
実験開始から1週間後、研究員の影響状態は急激に衰えたが、カルタゴへの嫌悪感は弱まりつつも残っていた。
様子を見るためにさらに24時間の経過観察の後、研究員はSCP-2513を北から南へ渡ることで影響を消去。一般社会に復帰した研究員については、財団が念のため追跡調査を行ったが、反カルタゴ感情の兆候は見られていない。



ローマ共和国はカルタゴを相手に、第一次・第二次・第三次のポエニ戦争を続けてきた。
その前後で再三災いをもたらしたカルタゴに対するローマの憎しみは深く、第三次ポエニ戦争の後にカルタゴを占領した際は、侵略の報復として市民は徹底的に痛めつけて殺し、都市は徹底的に破壊し、港は徹底的に焼かれ、さらに草一本生えることも許されないとして土地には徹底的に塩が撒かれたという。
ローマによってつくられた橋であるSCP-2513が、カルタゴに対する憎悪を誘発するのは、そのせいだろうか。

最後に、ローマ共和国の政治家であった、「大カトー」ことマルクス・ポルキウス・カト・ケンソリウスが、第二次ポエニ戦争の後、話題の最後に付け加えた、それを物語るフレーズを引用して終わることにする。





SCP-2513

Also, Carthage Must Be Destroyed(ともあれ、カルタゴ滅ぶべし)





追記・修正はカルタゴ滅ぶべしと考える人にお願いします。


SCP-2513 - Also, Carthage Must Be Destroyed
by Doctor Cimmerian
scp-wiki.net/scp-2513
ja.scp-wiki.net/scp-2513(翻訳)
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最終更新:2024年04月17日 19:51