SCP-2308

登録日:2017/12/09 Sat 14:19:56
更新日:2022/11/29 Tue 22:25:53
所要時間:約 6 分で読めます




記録・情報保安管理局より通達

この文書は発見・分類に先立って既に無力化していた異常存在について記述しています。この記録はRAISA-3010 ("無力化済み異常存在の文書アーカイブ")に基づき、歴史的および科学的な参照のために維持されています。



「絶対に競争に負けないシステム」と「必ず競争に勝つシステム」はイコールではない。




SCP-2308は、シェアード・ワールドSCP Foundationに登場…する前に既に無力化していたオブジェクト
オブジェクトクラスはNeutralized。

項目名は『Futures Trading(未来車先物取引)』。


特別収容プロトコル

さて、解説をする前にまずは特別収容プロトコルから…見ていきたいのだが。



特別収容プロトコル: N/A



…えー、上述の通り、このオブジェクトは発見時点ですでに無力化してしまっており、特別収容プロトコルが設定された記録がない。
ただ一応異常性があったものだけに、次似たような事件があったらなんだから記録だけは残しとこうという報告書である。

理由が理由とは言え、珍しいといえば珍しい。
例えば、SCP-579([データ削除])やSCP-579-JP(コロボックル)は概要がないオブジェクトとして有名だが、
それらの特別収容プロトコルは滅茶苦茶詳細に書かれている。

しかしこっちは特別収容プロトコルがないのである。そりゃそうだ、だってそもそも無力化しているんだもん。


概要

SCP-2308は、かつて存在した自動車メーカー、アルゴ・オートモーティブ社の製造ラインである。
アルゴ社は、1999年から2009年にかけて自動車を製造し、1998年から2008年にかけて高性能な民生自動車を販売していた。
常に「最先端かつ高性能」という評価を得ていたとされるアルゴ社の自動車だが、自動車自体には異常性はなかった。

販売の翌年に製造がスタートすることを除けば。

そう、アルゴ社はタイムスリップを何かしらの方法で実現した自動車メーカーだったのだ。

言ってみれば単純な話で、アルゴ社は何も馬鹿正直にその年作った車をその年に売ったりしないわけだ。
その年に作った車を、1年前に送れば、当然、他社より1年の長がある製品を売れる。
そしてその車を売って稼いだ金で、その車を製造するというループをしていたのである。

財団が調べた結果、そのループは自己完結しており、タイム・パラドックスは起きていない。
2009年に倒産した際にも、倒産するまで作っていた車を前年にしっかり送っており、矛盾が起きないようにして倒産している。

財団がこの件を把握したのは、失業したアルゴ社の社員を財団のフロント企業で雇用した際のことである。
財団は可能な限り時間遡行について調べ、その時間遡行を引き起こした機械を捜索したが、
それらは見つかることはなく、おそらく倒産時に何者かに売却されたのだろうと財団は判断している。
未来に作って過去に売ることを除けば、異常なものはなにもなく、ふつうのものとわかってるそれを収容しても詮なき話である。
よってそれらを収容しようとはしなかった。

で、ここが重要なのだが、じゃあなんでアルゴ社のこのループは途中で破綻したのか、ということである。
それだけ見れば完璧な作戦と言えるだろう。
絶対他社に負けないんだから。アルゴ社の設計者が無能でない限り、絶対に上手く行くわけである。

ここで一つ、SCPとは関係ない話をしよう。


リーマン・ショック

このWikiを見ている人はリーマン・ショックというのはご存知かと思うが、
リーマン・ショックについて詳しく知っている方は多くはないかもしれない。
日本も大いに巻き込まれたとは言え、発端は海の向こうだったしね。

知っての通り住宅というのは物凄く値段が高い。それは日本でもアメリカでも同じである。
ので、ふつうの人は金融機関からお金を借りて家を買い、借りたお金は家の購入後に何年もかけて返済していくのである。

アメリカは日本と異なり、住宅ローンの証券化は広く一般的なものである。
所謂「低所得者」や「破産経験のある人」というのは、金融機関からすれば非常にリスクのある貸付先である。
こういった人たちにお金を貸す時、普通の人と同じように貸し付けるというわけには行かない。
だが金利を上げても、そもそもそういうのが払えない可能性があるのがこういった人たちである。
そこで「最初は低い金利でスタートし、後からどんどん上げる」「住宅を担保にする(金を返せない時は家をそのまま取り立てる)」という方法で貸し付けることにした。
優良層(Prime)の下(sub-)なので、「サブプライムローン」という。
更に、借りてから数年は返済額を少額で済ませることも可能であった。

さてここで問題なのだが、当然数年後には一気に返済額が苦しくなる。
のだが、アメリカでは当時不動産バブル全盛。
極端な話、所得が低いままでも、担保の住宅の価値がその分あがれば穴埋めできちゃったのである。

借りる側も端から「金を借りて、その後家を買って、値上がりしたところで転売した金でローン払えば丸儲けやんけ!」となった。

しかし、不動産バブルはその後崩壊。
当然、担保の住宅の価値も減少。売ってもローンは返せず、払いが遅れるほど金利はあがる。
結果として、返せなくなった借金が大量にでてきて、金融機関は大きな負債を抱えてしまう。

そのなかで、大手金融機関リーマンブラザーズは、世界最大額の6000億ドルの負債を抱えたまま倒産。
他の金融機関も全体的に負債を抱えたまま、経済が一気に冷え込むことになる。
当然、世界中の企業もものが売れなくなって倒産したり事業を縮小したりした。
なお世界中の国々はこのサブプライムローンに多額の投資をしていたのだが、日本は大和証券が軽微な被害を被っただけだった。
しかし世界中の景気の低迷の打撃を受け、「サブプライムローンには対して噛んでないのに被害は相当受ける」という事態になっていたりする。
よくも悪くも、グローバル化というのを実感させられる話である。

…以上、リーマン・ショックの話はおしまい。


…もうおわかりだろう。
リーマン・ショックの超不景気により、いい悪いの区別なく、車という車が全く売れなくなったのだ。
そこにやってくる去年分の生産ノルマで、あっさり破産してしまったというわけだ。

残された問題

…とまあ、こんな感じでアルゴ・オートモーティブ社は消えてなくなったのだが、まだ問題は残っている。
無論同社の新車を永久に買えなくなったユーザーの涙ではないし、路頭に迷うことになった元従業員たちの今後の暮らしでもない。

さて、概要冒頭へ戻ろう。

そう、アルゴ社はタイムスリップを何かしらの方法で実現した自動車メーカーだったのだ。


この「何かしらの方法」を、財団は突き止められていないのである。
財団のガサ入れの際には発見されていない。どうも倒産・精算手続き以前に、秘密裏にどこかの誰かに売却されたらしい。
発見の努力は進行中である。


関連

未来から来たなにか、のオブジェクトは他にもこういうのがある。

SCP-711-EX - Man From The Future Present(未来現代から来た男)

未来からやってきた黒人のお兄ちゃん。
非常に集積度の高い小さな電子機器を持ち、音楽を聞いている。他にもゲームやカレンダーまである。

後に黒人のお兄ちゃんが来た時代に差し掛かったが、その黒人さんは亡くなってしまう。
同時期に、スティーブ・ジョブズはSCP-711-EXが持っていた小さな機器、iPodを発売した。


余談

アルゴ・オートモーティブ社は元プロメテウス研究所の子会社であり、プロメテウス研究所が倒産してから独立した模様である。

出オチなあたりといい、尻を拭いきれてないあたりといい、親子そっくりであった。



CC BY-SA 3.0に基づく表示

SCP-2308 - Futures Trading
by GreenWolf
http://www.scp-wiki.net/scp-2308
http://ja.scp-wiki.net/scp-2308

SCP-711-EX - Man From The Future Present
by Salman Corbette
http://www.scp-wiki.net/scp-711-ex
http://ja.scp-wiki.net/scp-711-ex

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最終更新:2022年11月29日 22:25