千葉(死神の精度)

登録日:2018/01/03 (木曜日) 06:26:48
更新日:2023/04/04 Tue 23:34:05
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①CDショップに以上に入りびたる
②苗字に町や市の名前がつかわれている
③受け答えが微妙にずれている
④素手で人に触れようとしない
⑤いつも雨にたたられている

そんな人が近くにいたら死神かもしれません

千葉とは『死神の精度』及び『死神の浮力』の主人公である死神のこと。
実写映画版での俳優は金城武。

死神とは?

死神とは伊坂幸太郎作品に度々登場する組織。監査部や情報部など様々な事務機構に分かれている。千葉はその中でも実際に人間と出会い『』か『見送り』かを選ぶ調査部に属している。

仕事は人間界に赴き調査対象となる人間と接触し、7日間調査すること。調査結果を報告し、『可』であれば8日目に調査対象は事故などの外的要因で死に、『見送り』であれば死なず寿命まで生きていられる。もっとも千葉に限らず死神は人間の生死に興味はないためよっぽどのことがない限りは『可』を選ぶ。というか可否を決める判定が『例外にするほどの価値があるのか』と非常に曖昧であるため、ぶっちゃけ死神本人の主観で決められている。

ちなみに『8日目に事故などの外的要因で死ぬ』というのは厳密なルールであり、病気や事故など本人に関わることだけで死ぬことはなく、逆に調査期間の7日間は何があっても死なずこの期間に生じた怪我が8日目の死に繋がるということは決してない。さらに言えばこの世界で事故死した者には全て何らかの形で死神に出会っているということになる。

なお彼らの外見は決まっておらず、調査ごとにふさわしい外見を選ぶことになる。ただ形式番号的に名前だけは固定であり、都道府県名などの地名で統一されている。

また彼らは味覚を持っておらず食事の必要はない。さらに痛覚もなく怪我もせず毒物も通用しない。伊坂作品の悪役キラーと言える。

調査の仕方は人それぞれであり、サボってCDショップに入りびたるやつもいれば、『どうせ最後の7日間だから』と調査対象の幸せを演出する奴もいるし、千葉のように真面目に7日間調査する奴もいる。

また全員が無類の音楽好きであり千葉も例外ではない。調査対象に会う時以外はCDショップの試聴機で店員に睨まれながら延々と音楽を聴いている。ただ自由になる時間は必然的に夜になるため、深夜営業をやっている店を探すのは難しいのが悩みらしい。

全員が手袋をしているが、これは死神が人間に素手で触れるとショックで気絶してしまうため。ちなみに寿命も僅かに縮んでしまうらしい。なので下手に素手で触れることは規約違反になっている。違反した者は一定期間の肉体労働と、学習カリキュラムの受講が強制される。

……死神は会社か何かなのだろうか。ちなみに新人研修も存在するらしい。

人物

一人称は「俺」、稀に「僕」だが地の文では一貫して「私」となっている。

冷静な性格の男で同僚たちからも「落ち着いている」だとか「冷たそう」などと言われることが多い。ただ千葉本人に言わせれば無駄にはしゃぐのが好きではなく、喜怒哀楽を表現するのが得意ではないというだけとのこと。千葉自身、自分の性格が特殊であるということは自覚している。
ただ冷酷というわけでもなく頼まれれば立会人、客寄せ、復讐と大体なんでも手伝ってくれるし、(本人は意図していないというケースも多いが)的確なアドバイスを送ることもある。自覚していないがかなりのお人好し。

仕事に対しては非常にストイックであり、前述の通り調査対象とろくに話もせずに報告をするものが少なくない中ちゃんと調査対象と接触し報告内容を決める。こだわりを持っており、やるべきことはちゃんとやるタイプ。
しかし別に仕事が好きだとか死について興味があるとかそういうわけではなく「仕事だから」と割り切っている面が強く別に情熱があるというわけでもない。

また彼が人間界に行くと必ず雨が降っており、青空を見たことは一度もない。これは死神特有の性質だと彼自身は考えていたが、同僚は普通に青空を見ているため単純に千葉が運のない奴、というだけであるようだ。

死神は皆音楽好きだがその中でも千葉は常軌を逸脱した音楽好きであり、それらが絡むと軽くキャラ崩壊する。千葉がまともに感情を表に出すのは「あるシーン」を除けば大抵音楽が絡んでいる。というか作中で数少ない『見送り』を選んだ回での理由は「将来カリスマミュージシャンになりそうだから」だった。
だがカラオケは嫌い。渋滞はもっと嫌い。

周りの死神と比べ音楽以外では殆ど趣味も持たず、積極的に人と関わることもないため妙に世間知らずなところがある。言ってしまえばかなりのマイペース野郎。雪男と雨男を間違えたり、ヤクザの兄貴分を実の兄貴だと思ったり、片思いの意味を知らなかったりなど。安藤は空気を読めない言動も含めて「帰国子女なのだろうか」と訝しんでいた。彼に限らず千葉と話した者の殆どはマイペースな言動に困惑する。

『死神の浮力』では悪化したのか天然とかアホの子と言えるものとなっていた。
……それでいいのか?

記憶力はいいらしく一度聞いた知識は忘れることはない。作中でも参勤交代の実態や再勧誘禁止法など妙な知識を披露していた。知識が変に偏っているタイプなのだろう。少なくも2000年前から生きているらしく歴史系の知識は案外豊富。

だがバカというわけではなくむしろ頭の回転はかなり速い。住所が電話番号だけで割れたトリックや、誘拐事件の裏側など様々な事象の真実にいち早く気が付いている。メタ的なことを言うと、一応本作はミステリーであるので探偵役の千葉に速攻で謎を解かれるわけにはいかないので何らかの弱点を付加する必要があったのだろう。

活躍



『死神の浮力』以外は全て短編

【死神の精度】

藤木一恵という女性が調査対象と。彼女と親密になるため態と服を汚し、お詫びとして高級ロシア料理専門店に連れ込むという初っ端からズレた行動をする。そしてそこで何故か彼女にだけ絡んでくる電話クレーマーの話を聞くことになる。

【死神と藤田】

藤田という中年のヤクザが調査対象。藤田は栗木という別のヤクザに兄貴分を殺されており、かたき討ちをしようとしている。そしてその抗争の最中に調査にやってきた千葉がそのゴタゴタに巻き込まれてしまう。

【吹雪に死神】

田中総江という中年女性が調査対象。夫の幹夫と共に旅行で洋館に向かった彼女を追う千葉。だが洋館は雪に閉ざされ、さらに幹夫が死体として発見される。クローズドサークルのパロディ。というかそこに千葉が入り込んでハチャメチャをやる話。・・・冷静になってみると一番ギャグな気がするのは気のせいだろうか?


【恋愛に死神】

荻原という恋する男が調査対象。荻原の片思いの女性・古川は違法勧誘に悩まされており、千葉たちはその解決のため動くことになる。初めて調査対象の死までが描写された。ラストシーンはちょっぴり切ない。

【旅路を死神】

森岡耕介という逃亡中の殺人犯が調査対象。千葉は森岡に脅され車を乗っ取られている・・・という名目で彼と接触し、調査中。その旅路の中で森岡の内面を知り、さらに森岡自身の気が付けなかった真実に気が付く。

【死神対老女】

最終話。美容院を経営する老女が調査対象。「一生の願い」と言われてしまい、千葉は街中で美容院の客探しをすることになる。音楽以外で千葉が大きく動揺することになる唯一のエピソード。

【死神の浮力】

9年ぶりに発表された新作。前述の通り本作は長編作品になっている。時系列的には少なくとも「死神対老女」よりは前だと思われる。
山野辺遼という人気作家が調査対象。
山野辺は本城という男に娘を殺されており、妻と共に彼に復讐する計画を立てている。
千葉は調査のために夫妻の復讐に付き合うことになる。

なおこの作品では前述の通り何故か千葉が天然になっている。
以下、その一例

  • ママチャリを無駄にいい姿勢で漕ぎながら登場する。
  • 山野辺に何者であるのかを聞かれ「幼稚園時代の友人」と答える。
  • 家に入ったらとりあえず音楽関連のものが無いかを確かめる。
  • 「耳のオリンピックに出られますよ」と褒められ「出ようと思ったことがある」と返す。
  • チンピラからスタンガンを食らうが死神であるため無傷。しかしそれでは不審がられると思い数泊遅れてから「ぎゃあ」と叫んで倒れる。さらにもう少し生々しさが必要と考え「助けてくれえ」と付け足す。・・・逆に不審がられた
  • 拷問を受けるが苦しんでいないことに不気味がられ「瀉血だ」と言い訳する。
  • 同僚から「水には浮力が働いている」と聞き「地味に真面目に仕事をするものには好感が持てる」と勝手に感心する。
  • 本城に睡眠薬を飲まされるが当然効かない。本城にいつ眠るか、と観察される中無視して音楽を聴き続ける
  • 山野辺に「ただでは起きない」と言われ「いくらで起きたんだ?」と返す。流石に慣れたのか、「そう言うと思ってた」と返された。

最早アホの子と化している千葉だが、前作と同じく推理力は高い。そして何があってもぶれないマイペースさから読者からは「謎の安定感がある」と言われている。

最終的には自転車で車と並走するなど最早死神であることを隠す気もないような行動をしながらも山野辺夫妻を手助けし、彼らの物語を最後まで見届けた。

関連人物



◆藤木一恵
大手電機メーカーの苦情処理部署に務めている女性。元々気弱なうえに、クレーマーに悩まされているため結構メンタルをやられている。千葉には『声が小さい』と評された。
実はミュージシャンの才能があり、クレーマーの正体は彼女を調べていたプロデューサー。そして作中で数少ない『見送り』を受けたキャラ。

◆藤田
中年のヤクザオヤジ。別の組の栗木に兄貴分を殺されており、かたき討ちを狙っている。所謂任侠を重んじるタイプのヤクザ。死ぬことよりも負けることが怖いらしい。阿久津という子分に懐かれている。

◆田中総江
夫と共に洋館に泊まりに来た中年の宿泊客。実は息子を自殺に追い込んだ性悪女・真由子への復讐を画策していた。・・・しかし千葉がそこに紛れ込んできてしまったために、計画は予想外の方に向かってしまう。

◆荻原
ブティック店に勤める男性。素はイケメン顔であるのだが、外面だけで見られることを嫌って敢えて丸坊主に分厚い眼鏡をかけている。店のバーゲンでやってきた古川に好意を寄せているが、うまくいかない。

◆古川朝美
映画配給会社に勤める女性。荻原の近くのマンションに住んでおり、バス停でよく会う仲となっている。ストーカーに悩まされており、その正体が荻原ではないかと考えていた。

◆森岡耕介
イマドキのキレやすい若者。過去に誘拐された経験があり、その時に助けてくれた誘拐犯の一味である深津という人物に感謝している。しかし母親と深津が繋がっていると知り逆上し母親を刺し、さらにカッとなって渋谷で若者を刺し殺した。そのため警察から逃げつつ深津に会うため逃亡中。

◆青年
森岡と逃走中に千葉が偶然であった男。スプレー缶で壁に「GOD」と落書きをしていた。妙に従容な落ち着いた雰囲気であり、千葉には「死神だ」と名乗っても動揺されないと考えられていた。実際千葉の連れが殺人犯と知っても落ち着きをはらった様子だった。千葉と意気投合できる数少ない人物であり、二人で盛り上がっていた。
正体はおそらく……というか確実に『重力ピエロ』の春。春にとっても印象深い出来事だったのか、『重力ピエロ』で回想するシーンがある。


◆老女
一行目から千葉に「人間じゃないでしょ」と言い出す勘のいい老女。流石の千葉も怪しまれることはあったが人間ではないと勘づかれたのは初めてだったらしい。
拷問受けてもノーダメージだったり自転車で車と並走したりしておいてよく今まで気が付かれなかったな、とか言ってはいけない。
実は『恋愛で死神』に登場する古川朝美ご本人。そして音楽以外で千葉を驚愕させた唯一の人間である。

◆安藤
「魔王」の主人公。相手に自分の考えたことを話させる「腹話術」という超能力を持っている。この作品では千葉がゲストという形で出演している。
台詞から察するに安藤が調査対象であったらしい。安藤が結構な死亡フラグを立ててからの登場であったため、ちょっと肝が冷えた読者もいるだろう。最寄り駅が近いという理由でよく電車の中で話していた。本人が「調査期間が少ない」と愚痴っている通り、登場シーンは割と少ない。
最終的に犬養を止めようとするが能力の副作用により死亡。脳溢血と診断された。

ちなみにコミカライズ版でも千葉らしき男は登場している。まつ毛の長いメッシュをかけたスーツの男性という容貌。
大型バイクを乗り回したりとアグレッシブで僅かだが安藤と言葉を交わす。
ただし、音楽を聴いているシーンが無い他、晴れている日に登場したこともあるため、
『ラッシュライフ』に登場する黒澤ではないかという考察もある。
(彼もゲストキャラとして他作品によく登場している)

◆山野辺遼
売れっ子小説家兼テレビのコメンテーター。35歳。小説は3年前から書いていない。売れっ子だった時は調子に乗ってマスコミを非難するような発言までしていた。そのためそちらの業界からは結構嫌われていた。文学者・渡辺和夫の言葉を敬愛している。
一年前に本城という男に娘の菜摘を屈辱的な殺し方をされており、妻と共に復讐を計画している。序盤は少々精神をやられていることもありうだつ上がらないが終盤は伊坂作品屈指の漢となる。

◆本城祟
『死神の浮力』の悪役。サイコパスであり「人の尊厳を傷つけることによって、その人に自身の名を刻みつける」という外道じみた行動原理を持っている。頭脳明晰でもあり、目的の為なら手段を選ばない。逆に他人に覚えられないことを嫌い「お前」など名前以外の呼び方をされると露骨に不機嫌になる。
山野辺をターゲットとしており、
  • 山野辺の娘を騙して毒殺する
  • その映像を山野辺自身に送る(しかも一回見たら消えるプログラミング付き)
  • 敢えて捕まり、その後証人を脅し逆転無罪を勝ち取る。
  • 山野辺の元編集者を人質にし、爆殺を狙う。
  • さらに山野辺の名を騙りダムに毒を流すテロを行おうとする。
という無駄に計算高くえげつない犯罪のオンパレードを上述の行動原理の為だけに行った。山野辺を絶望のどん底に追い込もうとするも、よりによって千葉がいたのが運の尽き。伊坂作品の悪役の中でも屈指の悲惨的かつ屈辱的な末路を辿った。








最後に、忘れられがちだが千葉の本質は謎を解き明かす探偵でも悪に天誅を下すヒーローでもなく、ただの死神に過ぎない。
彼と関わってプラスになった人間は多いが、千葉からすれば仕事をしただけのこと。
だから(面倒見が良すぎるのは否めないが)千葉が人間に手を差し伸べるのは調査を円滑に行うためであるし、
謎解きをするのは基本的に千葉の気まぐれでしかない。
何より関わった人間を躊躇なく『』にしているのは他でもない千葉である

彼は正義の存在というわけでもなんでもなく、仕事をしているだけの死神だということを忘れてはならない。






人の死には意味がなくて、価値もない。
つまり逆に考えれば、誰の死も等価値ということになる。
だから私は、どの人間がいつ死のうが、興味がないのだ。
にもかかわらず私は今日も、人の死を見定めるためにわざわざ出向いている。
なぜか? 仕事だからだ。 床屋の主人の言う通り。


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最終更新:2023年04月04日 23:34