SCP-2639

登録日:2019/09/22 Sun 11:13:05
更新日:2024/02/25 Sun 20:21:02
所要時間:約 25 分で読めます





いつか真の暗闇に落ちる私たちが、いま仮の暗闇で出来ること。それは昔と変わらない。


SCP-2639はシェアード・ワールドSCP Foundationに登場するオブジェクトである。
オブジェクトクラスKeterEuclid
メタタイトルは「ビデオゲーム・バイオレンス」。

概要

SCP-2639は1立方kmの異常な空間が発生する現象である。余剰次元が出現するわけではなく、それまでは普通の空間だった範囲内で異常なことが巻き起こる形になる。
何が起きるのかというと、異常実体群(SCP-2639-A)とオブジェクト群(SCP-2639-B)が発生するのだ。

SCP-2639-Aは3体の人型実体で、異常な武器や装備を身に着けている。スピード・パワー・スタミナ・ダメージ耐性のどれをとっても超人的で、苦痛や不快感を全く表に出さない。
そればかりか、破壊されても即座に無傷のコピーが範囲内のどこかにリスポーンする。

SCP-2639-Bは範囲内に存在する実体を持たない22種類のオブジェクト群で、地上10cmに浮かびながらコマのように回っている。-Aに接触されることで消失し、-Aにとって有益な何かが起こる。具体的には新兵器の獲得・パワーの増強・ダメージ耐性の強化などなど。
特筆すべきこととして、「弾薬パック」とされる-Bは-Aまたは範囲内の非異常性の人間が死亡した時にのみ出現するらしい。

SCP-2639-Aおよび-Bは出現してからおよそ1~2時間で消失し、不可視の障壁により-Aは範囲からは出られない。
要は発生すると世界のどこかが強制的に戦場になり、超人兵士3人に破壊し尽くされるわけだ。予防手段もないだろうし発見も対抗も難しく、Keter指定もやむなしだろう。
元記事には「SCP-2639事案データベース」というものの一部があるが、確認できるだけで2009年8月18日時点で231件ものSCP-2639が発生しているらしい。事案ナンバー231ではSCP-2639はイタリアにある小さな教会を中心として発生し、最終的に死者54名・負傷者42名が出てしまった。タンクローリーが転覆炎上したとのカバーストーリーで収まったが、このレベルの事案が200件以上も発生しているのは非常にまずい。

また、ここまでの描写およびメタタイトルでコレがどういう異常なのか少し勘付いた方もおられるだろう。
2010年にこれの原因とも言えるだろうオブジェクトが見つかった。
SCP-2639-Cは異常改造されたデスクトップPCで、電源なしに動作し続けている。そして、これまた異常改造されたQUAKE」というオンラインFPSのデスマッチを1997年からずっとホスティングしていたのだ。
このデスマッチには3人の参加者が異常な手段で接続されており、すでに身元が特定されている。
  • グロリア・スタンフェルド(16)
  • ジム・イヤーデン(16)
  • トーマス・ワーデン(15)
彼らは1997年6月18日に失踪していたことも判明している。-Aの正体は彼らだと見て間違いないだろう。
この3名の実体は、オンラインFPSに取り込まれて現実世界にロードされ十何年もドンパチやっている若いビデオゲーマーだったのだ。
すると-Bはいわゆるアイテムの類だろう。
後述するが、彼らは自分たちがゲームに取り込まれていることも、ゲームじゃなくて現実で戦っていたことも、そもそも10年以上ゲームし続けていることにすら気づいていなかった。起こした被害は凄まじいが、被害者でもあったのだ。

しかし財団がホストマシンである-Cを発見できたことで、彼らへのコンタクトが可能になった。これ以上の被害を出さないために、というより彼らにこれ以上の”ゲーム”を起こさせないために、彼らを止めなければならない。



チャットログ


参加しているのは以下の4名。
  • [GRRGRL] - SCP-2639-A、グロリア・スタンフェルド。
  • [WTF_STFU] - SCP-2639-A、ジム・イヤーデン。
  • [BOOGER] - SCP-2639-A、トーマス・ワーデン。
  • [JBREINER]- SCP-2639担当職員、ブレイナー博士。

チャットログ001


[GRRGRL] ハハハ
[WTF_STFU] 俺の科学銃でその顔をフッ飛ばしてやったぜ :>
[BOOGER] まぁ確かに顔面アレな感じにされたことはあった
[BOOGER] 科学じゃなかったけど
[WTF_STFU] >:D
[WTF_STFU] <3
[BOOGER] <3
[GRRGRL] 次のマップ選んでよ
[GRRGRL] またデスマッチ?
[WTF_STFU] ああ

いつものように新しいゲームを始めようとする彼ら。「顔をフッ飛ば」されたのは敵のモンスターなどではないのだ。止めなくてはならない。

[JBREINER] ちょっと失礼します。
[GRRGRL] えっ
[GRRGRL] 誰?
[WTF_STFU] 今すぐ消えな
[BOOGER] 優しくね
[GRRGRL] ごめんなさい、でもここはプライベートなサーバーなの
[JBREINER] 承知しています、お邪魔して申し訳ありません。
[JBREINER] しかし貴方がた3人とお話ししなければいけないのです。
[WTF_STFU] BANしろ
[WTF_STFU] 次のマップ読み込めよ
[GRRGRL] 待って そもそもあなたはどうやってこのサーバーに入った?
[JBREINER] 我々の発見したコンピュータからアクセスしています。
[JBREINER] 貴方がたの一人が所有している物ですね? グロリア・スタンフェルドさん?
[BOOGER] …え
[WTF_STFU] クソハッカーめ
[WTF_STFU] いいからBANしろよ 行こうぜ
[GRRGRL] どうして私の名前を知っているの?

まあ、完全に自分たち3人しかいないと思っていたチャットにこんな人が入り込んで来たらこういう反応になるのも当たり前だろう。15歳やそこらなのだし。
また、-Cはグロリアのものであり彼女自身も巻き込まれていることから彼女は原因ではないことがわかる。
ともかく、まずは彼らに現状を把握させることだ。

[JBREINER] 我々は今、ある事を把握しようとしています。貴方がたの中に、今、自分が何処にいるかを説明できる人はいますか?
[WTF_STFU] なぁ なんでまだこんな荒らしと話さなきゃなんねーの
[GRRGRL] 待って
[GRRGRL] "自分が何処にいるか"って、どういう意味?
[JBREINER] 周囲の状況を説明できますか? 貴方の前にあるコンピュータの画面以外をです。
[BOOGER] …えっと
[BOOGER] できない
[WTF_STFU] 構うとつけあがるぞ
[BOOGER] いやそうじゃなくて
[BOOGER] ホントに説明できない
[BOOGER] どうなってんの
[BOOGER] この画面以外には何も見えないよ
[WTF_STFU] wtf
[WTF_STFU] wtf
[WTF_STFU] 俺も見えない
[WTF_STFU] あいついったい何しやがった
[JBREINER] オーケイ。私は何もしていません。あまり納得できない事とは思いますが、我々は貴方がたが全員、このコンピュータに閉じ込められていると考えています。
[GRRGRL] 私も
[GRRGRL] つまり、何も見えてない
[GRRGRL] このスクリーン以外
[WTF_STFU] 俺はそもそもどうやってタイピングしてんだ
[WTF_STFU] キーボード見えない

ここでようやく、彼らはただゲームしているという状態ではないことに気付いた。スクリーン以外何も見えていない、キーボードも見えていないのに文字は打てる。
もはや彼らはスクリーンを見て・キーボードを見て文字を打つのではなく、スクリーンの情報をそのまま視覚情報として認識し、文字情報をキーボードすら介さず直接パソコンにぶち込む状態になっていた。

[JBREINER] まずは落ち着きを保つよう努めてください。困惑し、動転しているのは分かります。しかし我々もまたこれを理解しようと試みている事は伝えておきたい。
[JBREINER] 我々は助けるためにここにいるのです。
[JBREINER] しかし、貴方がたがこれ以上お互いに試合を行わないようにするのが必須事項でもある。
[GRRGRL] なぜ?
[WTF_STFU] 俺たちはどれだけ長くこうしてるんだ
[WTF_STFU] どれだけ長くこのゲームをプレイしてる
[WTF_STFU] 何が起きてる
[WTF_STFU] wtf
[BOOGER] まあ落ち着きなよ
[BOOGER] 大丈夫だから
[BOOGER] これが何だろうと僕らきっと理解できるから
[GRRGRL] なぜ試合をしてはいけないの?
[WTF_STFU] マジで言ってんのか 誰が気にするか
[WTF_STFU] 俺はなんでこのクソ画面しか見えないのかが知りたいんだよ
[GRRGRL] いや違くて そこは賛成する
[GRRGRL] ただどうして私たちが試合しないのが*必須事項*なのか気になっただけ
[JBREINER] 貴方がたを救助する試みを複雑にする可能性があります。
[BOOGER] Ok

あまりに重大な事実を知ってジムは取り乱しているが、ほか二人はおおむね落ち着いているようだ。しかし、彼らにとっての真の問題はこれからなのだが…。
ともかく、まだ財団としてもわかっていないことが多い。一度彼らの協力の元、SCP-2639を発生させて状況を見る必要があるだろう。

[BOOGER] いつから僕らはここにいるんだ? 夢の中で起きてるような感じがする
[WTF_STFU] はっきり覚えてる
[WTF_STFU] 何百回も試合した
[WTF_STFU] 何週間でもここに居座れるぐらい
[WTF_STFU] クソ
[BOOGER] 僕らの両親は何が起きてるか知ってる?
[JBREINER] いいえ、まだです。彼らは貴方がたが全員1997年に失踪したと考えています。
[WTF_STFU] 待て なんて言った
[WTF_STFU] 1997年にってどういう意味だ
[BOOGER] いつから僕らはここにいる?
[BOOGER] ??
[BOOGER] ハロー?
[BOOGER] 今日の日付は?
[JBREINER] 今は2010年です。
[BOOGER] え??
[BOOGER] まさか
[BOOGER] そんなわけない
[WTF_STFU] 俺たちは10年以上ここにいる
[WTF_STFU] もう10年以上もこんなゲームプレイしてる
[GRRGRL] どうして試合すると"複雑に"なるの?
[WTF_STFU] 黙れ
[WTF_STFU] 黙ってろ 知ったことか
[WTF_STFU] 俺たちはよりによって10年もお前のクソサーバーでQUAKEプレイしてんだよ
[WTF_STFU] なんで止めてほしいかなんてどうだっていい
[BOOGER] ジム
[BOOGER] ジム、よしてよ。
[BOOGER] ジム?
[WTF_STFU] 畜生
[WTF_STFU] クソ
[WTF_STFU] ごめん
[WTF_STFU] ごめんな
[GRRGRL] 別にいいよ。
[GRRGRL] 試合を止めて、この事をじっくり考えなきゃいけないだけ。

ここで彼らは13年もゲームをしていたことに初めて気づいた。時間の感覚も希薄になっていたようだ。
そして、なお悪いことに、彼らは落ち着いているというよりはまだ事態を受け止め切れていないだけらしい。

[GRRGRL] JBREINER、まだそこにいる?
[JBREINER] はい。失礼しました。同僚と会って、どんな解決策が可能かを議論しています。幾つかの実験が必要かもしれません。
[JBREINER] 恐らく一度、試合を開始するべきでしょう — しかし、実際にプレイする代わりに、我々の指示に従っていただきます。
[GRRGRL] ok
[GRRGRL] 何をすればいいかだけ教えて
[JBREINER] 次のマップを読み込み、他に何もしないでください。動かず、攻撃せず、そのまま立っていてください。
[GRRGRL] ok

チャットログ002


[JBREINER] ハロー?
[GRRGRL] yo
[GRRGRL] マップ読み込んだ
[JBREINER] 了解しました。何が見えるかを伝えてください。
[WTF_STFU] ただの別なカスタムマップ
[WTF_STFU] 広いフィールドと何本かの木
[WTF_STFU] ゾンビとロットワイラーが何匹かいる
[JBREINER] ロットワイラー?
[BOOGER] モンスターの一種
[JBREINER] 成程。他に何か、貴方がたから見える識別可能な特性はありますか?
[GRRGRL] 識別可能な特性?
[BOOGER] なんでモンスター逃げてんの?
[WTF_STFU] いつもそうだろ
[WTF_STFU] いや いつもじゃないけどさ 大抵そうだ
[WTF_STFU] そういうmodの仕様なんじゃね
[BOOGER] そっか。今まで考えもしてなかった
[JBREINER] じっとしていてください。動かず、何も攻撃せずに。今貴方がたを見つけようとしています。
[BOOGER] 見つけようとしているって?

新たなSCP-2639を発生させ、財団がそれを探す実験が始まった。
が、どうやら彼らにはSCP-2639範囲内の人間がモンスターに見えているらしい。それらは人間なのだから当然逃げていくが、これまで疑問に思わなかったようだ。

[WTF_STFU] クソ
[WTF_STFU] グラントだ
[GRRGRL] 動かないで。放っておいて。
[WTF_STFU] 撃たれてるんだぞ
[GRRGRL] それでいい。
[WTF_STFU] 死んじまうよ
[GRRGRL] 復活する
[GRRGRL] ジム
[GRRGRL] ジム やめて
[GRRGRL] 撃たないで
[GRRGRL] ジム 今すぐやめて
[GRRGRL] 撃たせておけばいい
[GRRGRL] ジム
[WTF_STFU] wtf
[WTF_STFU] wtf なんでお前そんなキレてんだ
[GRRGRL] グラントじゃない
[GRRGRL] 人間だよ
[WTF_STFU] 何を言ってんだ
[GRRGRL] 警察
[GRRGRL] それか 分かんない 兵士か銃を持った誰か
[BOOGER] まさか
[BOOGER] 嫌だ
[BOOGER] 嫌だよ そんな なんかの胸糞悪いジョークだろ
[WTF_STFU] ただの馬鹿馬鹿しいゲームだろ
[WTF_STFU] 違う
[WTF_STFU] ああ
[WTF_STFU] ファック
[WTF_STFU] ファック
[WTF_STFU] ここは公園だ
[WTF_STFU] 俺たちは公園にいるんだ
[WTF_STFU] 今までずっと俺がやってたのは
[WTF_STFU] 弾が必要になった時俺はただ
[WTF_STFU] 違うんだ

グラント、狂った兵士。プレイヤーを見つけるとショットガンを撃ってくる。彼らにはそう見えている。ちょっと我慢したが、耐え切れず攻撃し返した。
だが、違う。それはモンスターではなく治安維持のため発砲しただけの警官なり兵士だった。そしてジムはたった今、それを排除した。

そして、彼らは理解してしまった。自分たちが実は何をやっていたのかを。
自分たちがモンスターと思っていたのは、人だった。
自分たちが戦場と思っていた場所は、誰かの暮らす場所だった。
「弾薬パック」は、民間人を殺さないと出てこない。モンスターだと思っていた。
そしてたった今自分は…。

[JBREINER] 失礼しました。キーボードから離れなければいけない事情があったので。
[JBREINER] 絶対に何も行わないでください。そのまま立っていてください。貴方がたの居場所を突き止めました。回収班を派遣しています。
[BOOGER] 僕らはどこにいるんだ
[BOOGER] どうやって僕らを見つけた
[GRRGRL] どうやったと思う
[GRRGRL] きっとニュースを見るだけで済んだと思うよ

チャットログ054


[JBREINER] ハロー。
[JBREINER] ?
[JBREINER] 誰かいますか?
[GRRGRL] yo
[JBREINER] 用意はいいですか? 貴方がたが次のマップを読み込まないと実験が行えません。
[GRRGRL] 先生 今日はそういう感じじゃないみたい
[JBREINER] どうしました? 何か話したい事がありますか?
[BOOGER] ジムが僕らと口を利かないんだ
[BOOGER] ここ3日間ずっと黙ってる
[GRRGRL] あのね 私たちは感謝してるよ… こう、何もかも
[GRRGRL] あなたたちはこれがどういう仕組みになってるかの大部分を理解する助けになってくれた
[GRRGRL] 出現する場所の選び方も掴んだ
[GRRGRL] でもなんていうか

あの後何回か実験もあって、思った場所に出現できるようになったのだろうが、彼らにとっては明らかにそんな場合じゃなかっただろう。10代も半ばの子供が、13年もゲームに閉じ込められ、数えきれないほどの人をそうとは知らないままに殺し続けてきたことを否応なしに突き付けられたのだ。心が折れない方がおかしい。

[WTF_STFU] 俺は何人殺した
[BOOGER] ジム!
[WTF_STFU] 頼む
[WTF_STFU] 教えてくれよ
[WTF_STFU] 俺は今までに何人殺したか知らなきゃならない
[JBREINER] 確認しなければ分かりません。それに、仮に分かったとしても、その数字が本当に助けになるかは何とも言えません。
[WTF_STFU] 千人以上かな
[WTF_STFU] 間違いなく千人以上のはずだ
[BOOGER] ジム、やめてくれ
[WTF_STFU] 何が最悪って
[WTF_STFU] 俺はその人たちを弾薬のために殺した
[WTF_STFU] そうすればダチを撃つことができるから
[WTF_STFU] いや違う それは最悪じゃない
[WTF_STFU] ホントに最悪なのは俺がその人たちの顔も知らないってことだ
[WTF_STFU] その人たちはみんなただのゾンビやグラントやロットワイラーだった
[WTF_STFU] 俺は自分がどんな人を殺したかさえ分かってない
[BOOGER] 僕らは皆そうだよ
[BOOGER] 皆が一緒に背負うべき事だ
[WTF_STFU] 無理だ
[WTF_STFU] 死にたい
[WTF_STFU] 死んで当然だ
[WTF_STFU] でもどうせ復活させられる
[GRRGRL] また後で来てくれる、ブレイナー博士?
[JBREINER] 分かりました。

口に出すことはできる。だが、決して彼らに受け止められるようなことではなかった。
もう死んで償いたい。なのにもうそれすらできない身体になってしまった。
真っ先に罪の深さを痛感したのはジムだったが、ほどなくして他の二人も同じことになっただろうことは想像に難くない。

チャットログ059


[JBREINER] ハロー?
[JBREINER] 誰か?
[JBREINER] ?
[JBREINER] 皆さんがそこにいるのは分かりますよ。まだ接続中なのがこちらからも見えます。
[JBREINER] あれから1ヶ月になりますけれど、もう貴方がたは誰も我々と話そうとしない。
[JBREINER] いいですか、私もこれが辛いだろうとは分かっています。
[JBREINER] しかし、そこからただ隠れてばかりはいられないんですよ。
[JBREINER] さて。
[JBREINER] オーケイ。
[JBREINER] 貴方がたは隠れられるのかもしれません。
[JBREINER] 明日また来ます。

打ちのめされた彼らは、チャットに現れなくなった。あまりの罪の重さに何もできなくなったのか、SCP-2639も発生しない。
時間が解決してくれるわけでもない。そうして、時間が流れていった。

チャットログ312


[JBREINER] ハロー。
[JBREINER] 毎週のチェックに来ました。貴方がたがまだそこにいるか、話す意思があるかどうかの確認です。
[JBREINER] 何と言うべきか
[JBREINER] オーケイ、これはかなりプロ意識に欠ける言動かもしれないが、率直に言おう。君たちが姿を見せなくなってかなり経つものだから、上層部はもう君らが異常だと見做すことさえほとんど無くなった。

SCP-2639は発生しない現象系オブジェクトになりかけていた。チャットの確認も週一になっており、もうこの時点でEuclidになっていただろう。
彼らは辛くなくなるまで隠れることができる。だが、それでは事態は変わらない。

[JBREINER] だから…
[JBREINER] ちょっとした秘密を教えよう。
[JBREINER] 私は君たちに、辛い事だとは理解していると言い続けている。
[JBREINER] しかし本当の問題は、私には見当も付かないという点だ。
[JBREINER] これが君たちにとってどれほどの苦しみかは誰にも分からない。
[JBREINER] 私たちの誰一人として、これがどのような現象かを見極めることさえ出来ない。
[JBREINER] 君たちは皆、気付かないうちに何故かゲームに取り込まれてしまった、ごく普通の若者たちだ。我々が知る限り、君たちは物理的な肉体を持たない。
[JBREINER] そして、自ら進んで犯した過ちではないにせよ、君たちは結果的に…
[JBREINER] …数は1,531だった。少なくとも、それが我々に確認できた範囲だ。つまり死者という意味だが。
[JBREINER] そして私は、これがどういうものかを真に理解できる者が、我々の中にそう多くいるとは思っていない。ある日夢から覚めてみるとそれは夢ではなく、大切に思っている人々と過ごしたはずの記憶の全てが実際には…
[JBREINER] 私にも10代の息子が一人いる。だから、何だ — 理解できるとは言わない。しかし共感している。もしこういう事が息子の身に起きたら、私は何を思うだろうと想像してしまう。そして… 分からない。起こり得るという事実が、私を怯えさせる。
[JBREINER] 君たちの誰一人として悪だとは思わない。私は… 君たちの身に起きた事は、不公平だと思う。不公平を越えている。
[JBREINER] しかし、暗闇に隠れ続けてどうにかなるとも思っていない。
[JBREINER] 我々と話し合おう。
[JBREINER] 我々のためだけじゃない。君たちのためだ。
[JBREINER] オーケイ、話は以上だ。ぐだぐだと続けてすまなかった。普段のやり方じゃないのでね。
[JBREINER] 来週また来る。

ブレイナー博士はあきらめない。財団職員は暗闇の中で世界を光の中に生かすことが仕事だ。立ち止まることは許されないし彼自身もそうしたくはなかった。
SCP-2639-Aはアノマリーだが、その実ただの若者だ。財団はすでに彼らを確保・収容したが、今のままでは十全に保護しているとは言い難い。それには彼らの協力が必要なのだ。




そんなある時、事件が起こった。


警告: 以下の文書はレベル4/2639機密情報です

これらのファイルにレベル4/2639承認無しで行われるアクセス試行は記録され即時懲戒処分の対象となります。


チャットログ551


[JBREINER] 助けてくれ
[JBREINER] まだ君たちはそこにいるか?
[JBREINER] 君たちと会話を試み始めてからどのぐらい経ったか分からない
[JBREINER] だがお願いだ、応えてくれ
[JBREINER] 君たちの助けが要るんだ。ハロー? 頼む
[JBREINER] 反応してくれ
[JBREINER] ファック
[GRRGRL] yo
[JBREINER] ああよかった
[JBREINER] 助けが要る
[JBREINER] 私はこの研究室に閉じ込められている
[GRRGRL] なぜ
[JBREINER] 収容違反が起きている
[GRRGRL] なにそれ
[JBREINER] 全てを教えるだけの時間は無い
[JBREINER] だが簡潔に言うと、君たちは我々が収容している唯一の異常な存在じゃない
[JBREINER] その中には
[JBREINER] 怪物もいる
[JBREINER] うち1匹が自由になった

ブレイナー博士のいるサイトで収容違反が発生した。相当ヤバいやつだったらしく、博士の研究室にも脅威が迫っていた。
しかし博士は研究室に閉じ込められてしまい、もう彼らに助けを求めるしかなかった。

[GRRGRL] ok
[GRRGRL] 私たちにそれをどうしてほしいの?
[JBREINER] 我々を助けてくれ
[JBREINER] ?
[JBREINER] お願いだ
[GRRGRL] 自分が何を言ってるか分かってないでしょ、先生
[GRRGRL] 他の2人がまだここにいるかさえ分かんないのに
[JBREINER] 奴がホールの外で暴れているのが聞こえる
[JBREINER] 頼む、奴は人を殺している
[BOOGER] そいつと戦ってほしいの?
[JBREINER] そうだ
[GRRGRL] まだ生きてた?
[BOOGER] 分かんない
[BOOGER] 多分そう
[JBREINER] 助けてくれないか?
[BOOGER] どうする、G?
[GRRGRL] なんで私に訊くの トム
[WTF_STFU] お前がリーダーだからだろ
[GRRGRL] ジム? マジで
[GRRGRL] まだここにいたの?
[WTF_STFU] 死ねないんだ

打ちのめされていた彼らも、博士の必死の頼みで再び現れた。死にたいが死ねないのでもう何もしないという思考に陥っていたらしい。
彼らの判断はSCP-2639-C、PCとサーバーの持ち主、リーダーであるグロリアに託された。彼女は自分のPCがSCP-2639の始まりだった点から、一番罪の意識を背負っていた。
だが、まだ押し潰されてはいなかった。

[WTF_STFU] だから まぁな
[WTF_STFU] お前が決めてくれ
[GRRGRL] 無理
[GRRGRL] だって
[GRRGRL] 私たちがみんなおかしくなったのは私のせい
[GRRGRL] 死んだ人たちのことで自分を責めてるのは知ってる でもジム それはあんたのせいじゃない 絶対に違う
[GRRGRL] あれは私のコンピュータで
[GRRGRL] 私のmodで
[GRRGRL] 私のサーバーで
[GRRGRL] できない
[WTF_STFU] バカ言うな
[WTF_STFU] できるさ
[WTF_STFU] 決めてくれ
[WTF_STFU] お前の指示に従うよ
[JBREINER] 助けてくれ ドアを破っている
[GRRGRL] マップ、ロード中。今向かう。






チャットログ553


[JBREINER] ハロー?
[GRRGRL] yo
[JBREINER] 皆、今日の気分はどうかな?
[GRRGRL] マシになった
[GRRGRL] お互いたくさん話した
[GRRGRL] 何人の人が死んだの
[GRRGRL] 昨日のこと
[JBREINER] まだ計上中なんだ。それでも。
[JBREINER] 君たちがいなかった場合に予想された数よりも大幅に少ないよ。
[GRRGRL] ok
[GRRGRL] よかったって意味
[GRRGRL] あのね 私は率直な答えが聞きたい
[GRRGRL] 私はもう答えを知ってると思う だから
[GRRGRL] もし嘘ついたら分かる。また黙って過ごすやり方に戻る
[GRRGRL] だから次の質問には正直に答えてほしいの。Ok?
[JBREINER] Ok。
[GRRGRL] モンスターの他に
[GRRGRL] 私たちは誰も殺してない? つまり… モンスターじゃない人
[JBREINER] ああ。
[GRRGRL] 確かなの
[JBREINER] 確かだ。私自身と他2人を別とすれば、君たちが出現したエリアの者は全員既に死んでいた。
[GRRGRL] ok
[GRRGRL] 私たちもそうだろうとは思った。ただ
[GRRGRL] はっきりさせておきたかったから
[JBREINER] たくさんの話をしたと言ったね。何について?
[GRRGRL] 決断を下す時が来たと思うんだ
[JBREINER] 決断?

彼らの”ゲーム”により、ブレイナー博士とサイトは救われたようだ。彼らがさらなる罪を重ねることもなかった。
そして、目を覚ました彼らは話し合っていくつかのことを決めていた。

[GRRGRL] そう
[GRRGRL] あなたたちは もうどれくらいになるかも分かんないけど 長い間私たちの実験してる
[GRRGRL] でも私たちはまだここに閉じ込められてる
[GRRGRL] あなたは私たちに家族と話をさせてくれないし
[GRRGRL] 実験でやる事はバカみたいなペット芸ばっかりだし
[JBREINER] 分かっている。すまない。君たちと家族の会話を許可できたらいいのにとは思うよ。特に君たちは私の命を、この施設の全員の命を救ったんだから。しかし、君たちの状況は複雑だ。
[GRRGRL] うん
[GRRGRL] 分かってる
[GRRGRL] でも要点はそこじゃなくて
[WTF_STFU] ファッキュー
[WTF_STFU] お前らもお前らの実験もクソ食らえってんだよ
[WTF_STFU] 要点はそれだ
[GRRGRL] もっと穏当に言うとね、私たちがここから出られるとは思えないんだ
[GRRGRL] そうでしょ?
[GRRGRL] ?
[JBREINER] すまない、考え事をしていた。
[JBREINER] 君たちが実験への参加を止める以前、我々は解決策を探っていた。しかし正直なところ、どうすべきか分かっていない。君たちが我々との意思疎通に使うコンピュータを調べてはいるが、そこから君たちを回収する手段は発見されていない。
[JBREINER] そもそも君たちの"精神"がコンピュータの内部にあると示唆する要素が全く無い。どこかの外部ソースから接続しているという方が近いようだ。ゲームの強制シャットダウンについても論じ合ったが、それはほぼ確実に君たちとの接触途絶を意味する — そして君たち同士の接触も絶たれてしまうだろう。
[BOOGER] うん、そうだろうと思った
[BOOGER] つまり僕らはここに閉じ込められっぱなし
[BOOGER] あなたたちの実験に付き合いながら、コンピュータがいつか壊れるのを待つしかない
[BOOGER] そしてその日が来たら、僕らは孤独になる
[BOOGER] もうお互いに話すこともない
[BOOGER] ただ永遠の暗闇があるだけ
[WTF_STFU] ワオ ok エモガキがいる
[BOOGER] *髪を垂らして目を隠す仕草* :>
[BOOGER] 君はこれが好きだったよね
[WTF_STFU] ハハ
[WTF_STFU] <3
[BOOGER] <3

彼らも財団も彼らを現実に戻す方法や、そもそも彼らが正確には今どういう状態なのかすら分からなかった。出来ることがあるとすれば、SCP-2639-Cの電源を落とすことくらい。だがそれをやれば彼らは本当に終わる。
少なくとも現状、戻る望みはない。そして、財団が電源を切らなくても終わりの日は必ず来るだろう。
だったら。

[JBREINER] それで… 私たちはどうすれば助けになれる? 何をすればいい?
[WTF_STFU] 俺たちは何かしたいんだ
[WTF_STFU] で正直な話 今の俺たちが上手くこなせる事なんて1つしかない
[GRRGRL] 私たちはもうかなりの被害を出してきた。私たちのせいで人が死んだ
[GRRGRL] 私たちはそれをゲームだと思ってた、でも
[GRRGRL] それで死んだ人たちの重みが軽くなったりはしない
[GRRGRL] でも私たちにはどうにもならない。それを修正したり、無かったことにしたりできない、それに… うん、私たちにできるのは、コンピュータの電源を落とすようにあなたに頼むことだけ
[GRRGRL] そして償いとして、暗闇に一人座り続ける
[GRRGRL] でもそれはどの道いつか起きる
[GRRGRL] だから、それまで
[BOOGER] そう、それまでの間、僕らは命を救えるんじゃないかと思うんだ。

彼らは背負った罪を償うことに決めた。今から何をしても罪は軽くならないし、最終的に無間地獄に落ちることは確定している。ならばそれまでにできることをやろう、と。
それは何かって?

[JBREINER] …どのように?
[WTF_STFU] よせよ アンタマジで言ってんのか
[WTF_STFU] 頭使ってんのかよドアホ
[WTF_STFU] 俺たちはエンドレスループ殺人祭りの中でお互い10年以上も殺しの練習して過ごした抑止不可能ほぼ不死身のデジタル死神だぜ
[WTF_STFU] 協力プレイの準備はできてる
[GRRGRL] 一つだけ条件がある
[BOOGER] 人間は無し。
[WTF_STFU] 俺たちは人を殺さない。絶対に。マル。議論終了
[WTF_STFU] モンスターだけだ
[JBREINER] 上司と話さなければいけないだろう。







そして…





[JBREINER] ハロー?
[GRRGRL] yo
[JBREINER] 許可が下りたよ。









追記・修正はFPSでデスゲームしながらお願いします。


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最終更新:2024年02月25日 20:21
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