SCP-2072-JP

登録日:2020/05/3 (日) 17:05:00
更新日:2025/04/20 Sun 21:23:21
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法によらず、個人や集団が勝手に犯罪者などに加える制裁。私的制裁。リンチ。*1



SCP-2072-JPはシェアード・ワールドSCP Foundationに登場するオブジェクト(SCiP)である。
オブジェクトクラスはEuclid。

項目名(メタタイトル)は『私刑』。
JPとある通り、日本支部で作成されたオブジェクト記事となる。


前置き

始めに言っておくと、このオブジェクト記事自体はかなり短い。
「アイテム番号」から「説明」の末尾まででカウントした文字数が、たったの659文字である。
画像もなければ折り畳みもなく、ついでに脚注すらない。

短編コンテスト等特定の趣旨で執筆されたオブジェクト群(SCP-2165SCP-2521等)よりは当然字数は多いが、飛び道具的な記事が多いコンテスト作品と異なり当記事は普通のSCP記事としてオーソドックスな体裁で投稿されている。

参考までに、原点にしてオーソドックス記事の見本とも言えるSCP-173の日本語訳記事の文字数が、「アイテム番号」から「説明」の末尾まででおよそ566文字である。比較して100字程度しか多くない。


決して複雑な記事ではないが、2020年に執筆されたにしてはシンプルで趣あるオブジェクトなので当Wikiで紹介したい。


概要

SCP-2072-JPはとある人間の死体である。
現在はMRI機能を有した人型異常存在収容ケースに保管され、常に監視下に置かれるという形で収容されている。


身元も判明しており、神奈川県警所管の事件データベースによると、SCP-2072-JPは当時18歳の女子高生、菱川琴音さん。
まだ二十歳にもなっていない少女である。

……県警の事件データベースに情報が収録されていることと、これまた簡潔なメタタイトルから既に嫌な予感しかしない方、残念ながら当たりである。


琴音さんは2011年12月11日に発生した集団暴行殺人事件の被害者である。
死体には数十箇所の打撲痕があり、胸部や臀部にはタバコの火を押し付けたと思しき火傷痕も残っていたという。

根性焼きの記事を見ていただければ分かるが、タバコによる火傷は非常に高熱なため、治療するのにレーザー治療等の技術が必要な上、皮膚が完全には治癒されない。
火傷痕のあるのが通常下着で隠れる(つまりは目立たない)部位であることも踏まえると、明らかに度を過ぎたいじめ被害に遭っていたものと見て間違いないだろう。


これだけでも既に痛ましいのに、検視記録によると琴音さんの死因は「低気温下での数時間の放置による衰弱死」。
つまり、殴る蹴る等の暴行を受け、お尻や胸に根性焼きを無理矢理された挙句、12月の寒空の下に長時間放置されたことで遂に死に至ったのだ。
あまりに残忍で、想像するだに嫌悪を覚えるような事件と言えるだろう。


聴取調査によると、生前の琴音さんは真面目で規律性があるいわゆる優等生タイプの高校生だったとのこと。
加えて、生前の段階では何ら異常性の発現や兆候も見られなかったそうである。
すなわち、死んでから異常性が発現したタイプのSCPオブジェクトと言うことだ。


異常性

さて、SCP界隈では異常性をもった死体等もはや珍しくもないが、当オブジェクトは動き回ったり現実改変認識災害等の目に見えて厄介な異常性は持ち合わせていない。
前述のシンプル極まりない収容方法からもそれは見て取れる。


当オブジェクトの異常性は、事件発生直後の解剖検査中に発覚し、それにより財団の知るところとなった。
その異常性は、大きく分けて2つに分けられる。


1つ目は高度な腐敗抵抗性と破壊耐性
SCP名物「劣化しない、壊れない」というやつである。そこ、「ハイハイ破壊耐性破壊耐性」とか言わない。
解剖しようにもメスが受け付けなかったのだろうか、検死担当者はさぞ困惑したことだろう。


より注目すべきは2つ目の異常性で、この死体の胎内に4体の人型生物が存在しているということ。
これらの生物群はSCP-2072-JP-1群と定義付けられており、MRI検査によると以下のことが分かっている。

  • 頭部を除き、一般的な妊娠15週程度の胎児に準拠している筋肉及び体構造
  • 栄養器官は存在するが、栄養源の摂取は必要としていない
  • 頭部を子宮内膜に擦り付けたり、子宮口に密集する等している。これらが胎外離脱の為の意図的な行為であるかは不明。

……いよいよキナ臭い流れになってきた。
異常な母胎の内に、これまた異常な胎児が4体も潜んでいるというのだ。

先ほどこのオブジェクトは、遺体の解剖検査がきっかけで財団に発見されたと言ったが、報告書の原文から引用すると「解剖検査中における下腹部の異常膨張及び破壊耐性の発覚を切欠とし」とある。

妊娠15週と言うと胎児はおよそグレープフルーツ大の大きさとされるが、それが4つも入っている上に切開しようにもメスが入らないのだから、検死担当者は困惑を通り越して度肝を抜かれたに違いない。


第一の異常性だけであればSafeクラスどころかAnomalousアイテムとして分類されただろうが、第二の異常性が判明したことで「死体の胎内に活動を続けている未知の人型実体が複数存在する」という状況が分かったため、オブジェクトクラスはEuclidに指定されたのだろう。


なお、生前の琴音さんに異常性が見られなかったことから、財団は暴行事件の犯行グループが当オブジェクトの異常性に関与していると推測。

現在は、事件直後から失踪している当時16歳の宮島通くん他3名を重要参考人と捉え、その所在を追っているという記述で、当オブジェクトの報告書は締めくくられている。





……宮島通くん他3名?

考察

もうお分かりかと思うが、4体のSCP-2072-JP-1群とは犯行グループと目される宮島たち4人であると推測される。


財団は彼らが異常性に関わっていると推測しているが、彼らのうちの誰かがこれまた異常性を持っていたのか、はたまた別のアノマリーを持っていてその異常性を利用したのかは不明である。

むしろ、琴音さん本人が死の間際に異常性を発現し、彼らを己の胎内に宿したと考える方が筋が通る。
確かに財団の調べでは、生前の琴音さんに異常性の発現も兆候も見られなかったとあるが、死の間際の状態までは流石に聴取調査では分からないであろう。


とすると今度は、何故琴音さんがこのような異常性を発現したのかという点だが、「異常性を獲得できた要因」は不明である一方、「このような異常性を獲得した理由」の方は推測できる。
SCP-2072-JP-1群の状態を思い出していただきたい。


頭部を除き、一般的な妊娠15週程度の胎児に準拠している筋肉及び体構造。
つまりは頭部だけが、一般的な胎児よりも発達しているということ。


栄養器官は存在するが、栄養源の摂取は必要としていない。
つまりは栄養を取らずとも生き続けられるということ。


そして頭部を子宮内膜に擦り付けたり、子宮口に密集する等している、という行動。



……宮島通ら4人は、自我を保ったまま菱川琴音の胎内に閉じ込められたのである。



頭部の発達というのがどの程度かは記述されていないが、現実でも起こり得る「4つ子」の胎生等と比べて明らかにおかしい点があったからこそ、「下腹部の“異常”膨張」と判断されて財団が目を付けたのだ。
他の身体部位は一般的な胎児に準拠している以上、外から見て異常と思われる程度に頭部の発達が著しい(=その分、母体の膨らみが尋常でない)と読み解くのが無難だろう。


財団は断定を渋っているが、彼らは十中八九ここから出ようとして子宮口に群がっていると思われる。
もっとも、胎内に居る上に切開もできない以上、彼ら4人に対して情報取得のためのアプローチをかける術もないのが現状である。*2


だが母体から栄養が供給されなくとも生存“させられて”しまう上に、当オブジェクトが腐敗抵抗と破壊耐性を有しているため、外的要因で死体が損壊し胎から出られる可能性も限りなく薄い。


もしもこのオブジェクトを発見したのが例えばGOCであったならば、異常性無力化のために死体を破壊したりあるいは死体の持つ異常性のみを消去する等の研究を続けたかもしれない。
その結果として胎内の者たちを終了することになったとしても、ひとまず死と言う終焉は訪れるだろう。


だが彼らにとって不幸なことに、当オブジェクトは財団によって発見された。
「確保、収容、保護」を理念とする財団に収容された以上、このオブジェクトを巡る状況が変化することは今後もないだろう。



18歳の少女を4人がかりで暴行し、ひどい傷痕があちこちに残る程の仕打ちを加えた上で衰弱死に追い込んだ、極悪非道の少年たち。


もしも異常性が発現しなければ、彼らが菱川琴音暴行事件の捜査線上に浮かび上がったかどうか、浮かんだとしてどのような処分が下されたか等はもはや推察もできない。


しかしながら偶然なのか必然なのか、少女は最期に異常性に目覚め、おぞましい犯人たちを永遠に逃れられない牢獄へ幽閉することができた。





さて、最後にもう一度、このオブジェクトのメタタイトルを思い出すとしよう。





SCP-2072-JP - 私刑


……誰から誰への“私刑”だったのかを考えながら追記・修正をお願いします。




※注意 コメント欄における現実の事件及びそれに準ずる話題の議論は絶対にしないで下さい。またSCP以外の話題を持ち出さないでください。よろしくお願いいたします。


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最終更新:2025年04月20日 21:23

*1 『大辞林(第三版)』「私刑」より

*2 胎児の生殖器は一般的に妊娠16週頃から形成されるので、もし財団に超技術があれば性別判定くらいは可能かもしれないが、より踏み込んだDNA調査等は困難だろう。