SCP-194-JP

登録日:2020/05/07 Thu 01:15:48
更新日:2025/01/16 Thu 20:01:48
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どこかで見た街並み
いつも通っていた道
よく遊んだ公園

何もかもが懐かしい


でも、あれは・・・誰・・・?



SCP-194-JPはシェアード・ワールドSCP Foundationに登場するオブジェクト(SCiP)のひとつである。
項目名は「記憶の中の楽園」。
オブジェクトクラスはEuclid。

概要

SCP-194-JPは、████地方で発見される水溜り(SCP-194-JP-1)を介して起きる異常現象である。
この水溜りは一見ただの水溜りと変わらないように見えるが、水面が鏡のようになっていて底が見えないという特徴がある。
SCP-194-JP-1に足を踏み入れると、SCP-194-JP-2と呼ばれる異常空間へ引きずり込まれる。

SCP-194-JP-2の中には、引きずり込まれた人物が生まれ育った街がそっくりそのまま存在している。この街は半径10kmほどに渡って再現されており、その外側は上述の水溜りに似た底の見えない海が一面に広がっている。
この街は対象者の生まれた当時の状態を再現しているらしく、対象者がよく思い出せないものや見覚えのないものもあったりする。

この異常空間から出るためには、対象者の「生まれ育った家」に戻り、玄関をくぐらなければならない。
しかし、SCP-194-JP-2内にはSCP-194-JP-3と呼ばれる人型存在がいて、対象者をなんとかして引き留めようとしてくる。この存在はおおむね対象者の知らない人物らしい。

水溜りに入ってから3時間ほど経過すると異常空間内の太陽が沈み、対象者の代わりにSCP-194-JP-3の1体が水溜りから出現し、SCP-194-JP-1は蒸発して無くなる。
つまり、制限時間内に出られないと、永遠に異常空間内に取り残されたままになるのだ。

このSCP-194-JP-3は一見成人のようだが、全ての臓器が1歳児ほどの大きさしかない。
また、運動能力や知能も1歳児並みなのか、立って歩くことができずに這いずって移動し、質問をしても「いたい…」「おかあさん…」などと言うばかりでまともに受け答えできない。

特別収容プロトコル
  • 指定エリアには、『この水溜りは深くなっているので注意してください』と書かれた看板を、国土交通省の協力のもとできるだけ大量に設置する。
  • 晴天の時は4名、雨天時と降雨後24時間は20名以上の警備職員が指定エリア内を巡回し、SCP-194-JP-1およびSCP-194-JP-3の発見に努める。
  • SCP-194-JP-1を発見したら、テントを設置してそれ以上水溜りが大きくなるのを防ぎ、最低3時間待機。
  • 待機後、熱風を吹き付けて水溜りを乾かし、消滅させる。大の大人が寄ってたかって水溜りを乾かしてる絵面はシュール
  • 水溜りへ転落して生還した人や転落する瞬間を目撃した人には記憶処理をして解放。
  • SCP-194-JP-3を確保したら、ヒト型オブジェクト用の収容施設に収容する。7~30日の経過観察後に終了処分する。

探査記録

Dクラス職員を用いた探査記録がある。
Dクラス職員には通信機とGPS送信機を装備。カメラ映像はノイズにより不鮮明だったが、その他の機器は正常に作動した。
事前調査でそのDクラスが生まれ育った街の生まれた当時の地図を入手し、担当研究員の誘導の元Dクラスが自分の生家を目指す。

20██/06/10 09:17:45
SCP-194-JP-D001: おう。せんせ。入ったぜ。ほんとにワープしたみたいに上に何もないな。

研究員T: いまどこにいますか?

SCP-194-JP-D001: 神社に続く山道の途中だな。こっから家までどれくらいだったかなあ。しかしほんとにここは異空間ってやつなのか?見た目は現実そのものだ。太陽のぐあいからすると午後3時くらいか?虫も鳥も人間もいねえこと以外…いや、においもないな。

研究員T: におい?

SCP-194-JP-D001: ふるさとに帰ると懐かしいにおいってするもんだろ?なんもにおわない。15年ぶりだからかな?それにしては他の匂いも無いが。気味悪いな。風もない音もない。すごく小さく波の音がするな。

研究員T: その山道を降りて、左に曲がってください。まず橋についたら教えてください。また案内します。

20██/06/10 09:29:33
SCP-194-JP-D001: はあ、橋についたぜ。なつかしいな、こんな小さい橋だったんだな。下を見るのが怖かったもんだ。

研究員T: 橋を渡ったら右にまっすぐ行って下さい。10分くらい歩くと酒屋があるはずです。

20██/06/10 09:32:17
SCP-194-JP-D001: おい、せんせ。酒屋なんてないぜ。

研究員T: おかしいですね。地図ではそうなってるんですが…隣の駐車場は確認できますか?

SCP-194-JP-D001: 更地っぽいもんならあるけど、あれが駐車場でいいのか?

研究員T: わかりません…とにかく、そこを左にまがって突き当りまで歩いてください。

20██/06/10 10:07:24
SCP-194-JP-D001: おい、せんせ。なんか曲がった道を進んでるんだけど、いいのかい?

研究員T: そんな…地図ではまっすぐのはずですが…

SCP-194-JP-D001: いやでも山から家まではこういう道を通った気はするんだ、たぶん地図が古すぎるか新しすぎるんだ。

研究員T: 急いで図書館へ問い合わせてみます。太陽はまだ昇っていますか?そこで待機していてください。

SCP-194-JP-D001: せんせ!まってくれ!近くの家の窓から誰か呼んでるんだ!マイクを向けてみるよ。

(非常に聞き取りづらいが、『こっちにきて』と聞き取れる)

SCP-194-JP-D001: せんせ。どうしよう。入ってみるか?

研究員T: ダメです。今回は生還する方法を探るテストです。家を目指してください。

SCP-194-JP-D001: ああ…でも、昔はどこの家も自分の家だったような気がする…そんな時代もあったな。いい時代だったよな。せんせ。

研究員T: ええ。今は関係ありません。その家には入らず、待機していてください。

(さきほど聞こえた声がまた聞こえるが、さきほどより少し大きく、音もひずんでいる)

SCP-194-JP-D001: あのひと知ってるヒトだったような…そうだ知ってるヒトだ。ああそうだよ…思い出した。

研究員T: 聞こえていますか?引き返してください。応答してください。

20██/06/10 10:10:42
不鮮明ながら、カメラはSCP-194-JP-D001が一軒の民家の玄関ドアの前に立つところを映し出す。それから、3秒ほどしてドアが開くが、屋内はまったく光がなく内部の様子が確認できない。その中にSCP-194-JP-D001が踏み入り、画面が真っ黒になったところで映像は通信不能になる。音声通信はしばらく正常に作動し続ける。楽しそうなSCP-194-JP-D001の声と、正体不明の女性とも男性とも人間とも判断できない声が、会話を始める。正体不明の存在はSCP-194-JP-D001を居間に案内していると思われる。

20██/06/10 10:12:10
おそらく居間か客間に座る音が聞こえる。SCP-194-JP-D001と、SCP-194-JP-3と思われる声との楽しそうな会話は続くが、時折何かを引きずるような音と、詳細不明の湿った水の音が混ざり始める。

20██/06/10 10:21:56
楽しそうな会話は続くが、時折固いものを噛み砕く音が混ざり始め、SCP-194-JP-D001の声が途切れがちになる。この間研究員はSCP-194-JP-D001に語りかけ続けるが応答はなく、SCP-194-JP-D001は咳き込み何かを吐き出しながら会話を続けた。

20██/06/10 11:32:50
何か重たいものが床に落ちる音を最後に無音になる。それ以上の変化は見られなかった。

Dクラス、ロスト。
聴こえてきた音からすると何かの実体に捕食されてしまったのだろうか?
家の中に誘ってきた人型実体は会話を続けているので、別の存在がいるのかもしれない。

調査中、GPS装置は正常に作動し続けており、Dクラスが生まれ育った街にいることを示していた。通信途絶後、最後にGPSの反応があった場所へ向かうとDクラスが持っていた服や装備がそのまま残されていた。出現したSCP-194-JP-3はプロトコルに則って処理された。


補遺001

ほとんどの人が中の人型実体に誘われて内部に取り残されてしまう中、生還者が3人確認されている。
対象者 生還までの状況
一般市民 45歳男性 協力的なSCP-194-JP-3が出現したため。
一般市民 78歳女性 SCP-194-JP-2内部が空襲直後の平坦な街になっていたため目標の扉のみが目立っていた。
Dクラス職員 36歳男性 担当職員による案内に全て従ったため。入手した地図が正確だったため。
事例を見るに、周囲がどんな状況でも出口の扉だけは残っているらしい。また、資料などで当時の道を正確に辿れれば生還しやすいようだ。


聴取記録194-SV001

前述の協力的なSCP-194-JP-3についてのインタビュー記録。生還者の証言から、このオブジェクトの本質が垣間見える。

あれは祖母でした。10年前に亡くなった祖母でした。ええわかっています。もしかしたらおぞましい存在が祖母を模した存在だったかもしれません。しかし、私はこうしてあの地獄から生還しました。地獄…あそこは地獄だったのでしょうか。

 (中略)

家に帰るまでの間、ずっと祖母と会話を続けていました。そしてその間、祖母は他の人間と遭遇しないように道を選んでいるようでした。あなたたちがSCP-194-JP-2と呼ぶあの街は、ところどころ私の知っている街で、ほとんど知らない街でした。たぶん私が生まれた時の状態なんでしょう。

 (中略)

祖母は道すがら見かける家を指して、あそこの家のヒトはスイカを育ててて時々もらってたとか、あなたはあそこのお姉さんとよく遊んでたとか、楽しそうに話してくれました。あそこは本当に地獄だったのでしょうか。なにもかもが懐かしく、そしてここにずっといたいと思わせる場所でした。そう話すと祖母は怒り、絶対に元の家に帰りなさいと私をしかりました。

 (中略)

そして無事に生まれた家の前までくると、扉を開ける前に祖母が娘に…つまり私の母にと伝言を頼みました。あなたが最初に踊りを見せてくれたとき、下手くそだと叱ってしまったけど、ほんとはとてもうれしかった、いまでもずっとその日のことを思い出してる。ほんとはほめてあげたかった…そう言っていました。扉を開けてからはあなたがたの知るところですね。


+ 考察

考察

このオブジェクトの謎は、「水溜りの中の異常空間はどのように作られているのか」そして「異常空間内にいる人型実体とDクラスを捕食した存在は何者か」というところだろう。

第一に、水溜りの中の異空間は対象者の記憶をもとに作られたものと思われる。
Dクラスによる探査記録では実際の資料と食い違う部分が多々あるが、彼の記憶が曖昧な部分は正確に再現されないのだろう。
酒屋や駐車場は幼い頃は縁の薄いモノなのでDクラスの記憶に残っておらず、再現されなかった。
逆に、橋はDクラスの印象に残っていたために正確に再現されていた。

その他、地図では道が真っ直ぐのはずなのに、異常空間では曲がった道になっているが、Dクラスは「こういう道を通った気はする」と言っており、
「真っ直ぐだったか曲がっていたか思い出せない」→「そういえば曲がっていたかも」と記憶が思い込みにより改変されている可能性がある。

次に、SCP-149-JP-3こと内部の人型実体だが……恐らく彼らは異常空間内に取り残されて帰れなくなった人々の成れの果てなのではないのだろうか。
彼らの声や姿は何らかのミーム的効果を帯びており、見聞きした時に「あの人は自分の知っている人だ」と思い込ませてしまう。
そして誘われて家の中に入ってしまうと…Dクラスを捕食した何かに食われ、オブジェクトの一部となってしまうのだ。
そう考えると、Dクラスを捕食した何かはこの異空間を生成している大本。オブジェクトそのものなのかもしれない。

新たな人が異常空間内にとらわれると、前からいた人物が1人現実世界へ帰ってくることができる。彼らは自分が帰りたい一心で入ってきた人を引き留めようとしているのだろう。

しかし、一度異常空間に食われ、取り込まれてしまった者は、現実に戻ると知能や肉体の一部が1歳児のそれと同じになってしまう。
あたかも「生まれ育った街」の時間から進んでいないように。
このオブジェクトが喰らったのは肉体ではなく生まれてから成長してきたという「事実」ということなのだろう。

一方で、最後のインタビュー記録に出てきた男性の祖母は水溜りに吸いこまれたわけではなく、「10年前に亡くなった」と明記されている。
もしかすると、この異常空間は此岸と彼岸の間に位置する場所で、男性の祖母は異常空間のルールを知ったうえで現れ、彼が無事に現実に帰れるように手助けをしてくれたのかもしれない。
最後に生前に伝えられなかった娘への伝言を頼んで……。


…あなたは自分が生まれ育ったあの当時のままの街に行ってみたいだろうか?

きっと生まれ故郷の街はあなたに懐かしさと安らぎを与えてくれるだろう。
厳しい現実から逃れてここから帰りたくないとさえ思うかもしれない。


……でも、私たちは過去の暖かい記憶にいつまでも囚われていてはならないのだ。
どんなに辛くても、不安でも、この「今」を生き、未来に向かって歩き続けなければならない。
あなたの生きる「今」のこの街もいつか、誰かの心の故郷になるはずなのだから。



SCP-194-JP

記憶の中の楽園


本当の楽園は、私たちの心の中にある。

追記・修正は生まれ故郷を心に描きながらお願いします。


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最終更新:2025年01月16日 20:01