インセスト(黒白のアヴェスター)

登録日:2020/06/12 Fri 23:33:07
更新日:2024/07/02 Tue 19:24:41
所要時間:約 ? 分で読めます





ちょおォォっと待ったあああァ―――!

お待たせしたねお嬢さん、僕が来たからにはもう安心だ。
さあ、ヒーロータイムの始まりだよ!


黒白のアヴェスター』の登場人物。


プロフィール

種族:人間
性別:女性
身長:わりと高いぞ
体重:秘密だ
CV:_____

戒律:『最善なる天則(フヴァエトヴァダタ)



概要

悪なる不義者(ドルグワント)に抗する善なる義者(アシャワン)の一人。


第五位魔王マシュヤーナが支配する空葬圏ドゥルジ・ナスに住む銀髪の女性。

羽飾りのついた帽子にケープ付きの派手な男装と非常に傾いた格好をしており、服装に違わず言動もどこか人を食ったような、演技じみた風でクイン曰く「胡散臭さの塊」「場違い(ピエロ)感が半端ない」

その奇抜さや態度、また嘘を嫌うところなどは、同郷でありかつてマシュヤーナに敗北し人間に転生したズルワーンに通じるところがあり、『ズルワーンのコスプレ』とも称される。


ズルワーン自身は面識がないとのことだが、インセストはズルワーンを前にすると非常にテンパってしまい、一人称も「僕」から素の「私」に戻る。
彼をヒーローと称して目も合わせられず、会話にも彼女ら義者を背に乗せて空葬圏を飛行する霊鳥アショーズシュタの通訳を介さないとならないほど。


正田卿の『余裕がないズルワーンの代打の狂言回し』という評のように、基本的には普段の彼のように軽口を叩いて話を進めるムードメーカーだが、一方でその言葉の裏には非常に強力な信念が宿っている。

その意志の強さは、戒律『輝ける従順(アクワルタ・スラオシャ)』で他人の命令に従わなければならないクインが、魔王クワルナフや聖王スィリオスと同格と認定し葛藤せざるを得ないほど。


魔王にして空葬圏の星霊であるマシュヤーナに対してはどこか憐れみにも似た感情を抱いている。
星とはそこで生まれた生物にとっての親であり、愛着を持つのは普通なことだがそれは善悪二元真我(アフラ・マズダ)においては善悪が同じであればの話。
義者のインセストが不義者の王であるマシュヤーナに対して憐憫を抱くのはある種の異常と言える。



能力

ヒーローを自称するがその戦闘力は弱い。それも一般的な義者と比較しても平均かそれ以下と、恐ろしいほど弱い。
具体的にはマシュヤーナが操るナス・ワウサガの梅雨払い程度の羽ばたきに吹き飛ばされ、10歳そこそこの外見のアショーズシュタの魂体に一方的にボコられるくらいには弱い。


しかしマシュヤーナと対峙した時のみ例外で、最強の不義者の一角であるマシュヤーナに対して最弱の義者であるインセストの銃撃がこれ以上ない特効として作用する。
それはもはや相性どころか因果律と言って差し支えないほどの絶対性であるが、あくまでマシュヤーナに対して特効なだけであり使い魔のナス・ワウサガには効果がない。


これは戒律による効果なのだが、そもそもこれほどの弱者であるインセストが戒律を理解するほどに真我(アヴェスター)を深く読み取っているという矛盾がある。


クインに深読みしないようにと釘を刺した彼女の正体は――






























以下ネタバレ































来た、来た――ついにこの日がやって来た。

あまりに待ち侘びすぎてどれくらい経ったのか不明だけど、
時間の長短で価値が左右されるなんてことはない。


一瞬だろうと一億年だろうと私は待った。
重要なのはその事実で、自分が本気だという一点にある。

よって躊躇も恐怖も心に無かった。疼くような切なさと恥ずかしさなら感じるものの、
これこそ己の証明だと信じているから足枷になんか成り得ない。


ああ、好きだ。大好きだ。
生まれる前からずっとずっと、私は君を愛してる。

祈りは必ず叶うだろう。
私が私になれたのは、そういう仕組みなのだから。

道が困難なのは知っているが、踏破できることも知っているのだ。


私はただドラマチックに、君と最善の天則を体現したい。


「もうすぐ会えるよ、ズルワーン」



近親姦(インセスト)という直球な名前から、読者の間でも『マシュヤーナとズルワーンの子供』『ズルワーンを捕食して発生したマシュヤーナの善の側面』など、マシュヤーナの分身という推測は立てられていた。


その正体は、なんと分身ではなくマシュヤーナ本人


過去の慙愧を清算するため、(いもうと)の前に立ったズルワーン。
しかし、善悪を超えて愛を示す(おとうと)に対し、マシュヤーナは鏡写しを定めた戒律で応えるのは不実であると考えた。

愛するズルワーンと真実対等でありたい。だからこそ本音を偽りその手を振り払う。それでようやく愛されるに相応しい己になれるという女としての矜持があった。


結果としてそれは破戒となる。
しかし、同時に“対等”という『最愛なる天則(フヴァエトヴァダタ)』の根源にある概念を守りきったその複雑な在り方は、その場にあった諸々の要素を取り込み一つの奇跡を起こした。


それが十三年前、ズルワーンがマシュヤーナに敗北した瞬間への時間逆光と転墜による善悪反転


ズルワーンが己を偽った瞬間に同じく己を偽ったマシュヤーナが並び立ち、原初環(マシュヤグ)の『複製』という効果に則りマシュヤーナが二人同時に存在するというパラドックスを発生させた。

マシュヤーナが腐敗に取り憑かれたのも、決定的な死(インセスト)が存在していたからに他ならない。


二重に存在するマシュヤーナが入れ替わり続ける。それは時間軸を超越し宇宙を増やすような出鱈目であり、この時代においては宇宙が滅びかねない存在してはならない概念。


ゆえに真我はその法則を守るため、一つの修正を施した。
それが『インセストはズルワーンを認識できない』という再会への阻害。
インセストは愛する男の姿を見ることができず、その声を聴くことも叶わない。

インセストとズルワーンが再会すれば宇宙のルールが崩壊する。ならば再会したことにしなければいい。
最少の労力で確実、それでいて当事者にとっては悪辣すぎるその介入、そして時間遡行の副作用か根源の因果関連以外の「未来」の記憶を殆ど喪った事で、インセストは以後慎重に立ち回らざるを得なかった。
愛する半身との再会を夢見たインセストの意志は、間違いなく魔王や聖王に匹敵するものであった。


そしてマシュヤーナが己の信念によって自滅し過去に飛ばされる。その時ようやくこの時間軸における『マシュヤーナ』はインセスト一人だけとなり、胸を張って再会することができる――はずだった。


しかし、ズルワーンは真我によってこの宇宙から放逐され、インセスト以外にその存在の全てを忘れ去られた。


それを理解した瞬間、インセスト、否マシュヤーナは再びその存在を反転させる。



なんていう、仕打ち。なんていう、非情……!

いやだ……戻りたくない。転びたくない。私は……彼と同じになったんだ。
世界を超えて、輝く景色を…、一緒に見ると……誓ったんだッ!

ああ……彼が見えない。聞こえない。一人は嫌だ……
顔を見せてよ、また抱きしめてよ■■■■■! ■■■■■!!

君にもらった生き方だから、変わりたくない――放したくない!
これだけは、どうか最後まで守らせてくれ! お願いだ、真我(カミ)よッ!


ようやくつかみ取ったはずの宝物を逃すまいと、血涙を流して叫ぶマシュヤーナ(インセスト)


しかし最早逃れようのない転墜に、真我への敗北を理解する。



殺してくれ。

私は負けた……でもいつか、この無念を彼が晴らしてくれると信じてる。


では死ね。


彼女の願いを聞き届けたのは、その絶望の様を見て涙するクインではなく。
無慙無愧の冥府魔道への道に覚醒した、鎧姿の凶戦士だった。

無慙の萌え豚誕生の瞬間。



戒律:『最善なる天則(フヴァエトヴァダタ)

◎マシュヤーナの真実を叶える。
→マシュヤーナへの特効能力を持つ。

元魔王である最弱の義者が定めた戒律。

マシュヤーナの死という事象そのものであり、マシュヤーナの本心の具現でもあるインセストがマシュヤーナの望みである『ズルワーンと共に生きること』を願う限り、魔王としてのマシュヤーナを実力差を無視して問答無用で圧倒することができる。

マシュヤーナの『最愛なる天則(フヴァエトヴァダタ)』やズルワーンの『我は我として立つ(デーンカルド・アイオーン)』以上に一点特化した戒律であり、他には一切役に立たない。

しかし、ズルワーンを愛し共に生きることにすべてを懸けるインセストにとってはそれで充分なのである。


……結果として、ズルワーンが消えた世界において戒律の実行が不可能になり、再度の転墜を発生させたのは皮肉という他にない。



■■■

+ 欲をかくからそうなる。



> <



しかし、評価しよう。おまえの転墜は少々特殊で、面白かった。

円環とやらが発動し、私の法を限定的だが超越したのはそのためだな。
素晴らしい、なんという綾模様(しきさい)――!

私は心から思ったよ。
ああこれは、是非とも更なる美しさを見せてもらわねばなるまいと。

それだけに、最期は些か興醒めだったな。
“マシュヤーナの理想を叶える”というインセストの戒律は、もはや叶えられぬと絶望してしまった。

うむ、総合的に大いなる満足を味わえた。
及第どころか、近年稀にみる見世物だったぞマシュヤーナ。

我が事象の地平線に、おまえの名は特等として深く刻まれることだろう!


この一連の出来事すべてを高みから見下ろしていた者がいる。

真我。この宇宙の住民が法則(アヴェスター)と呼ぶ者。


天上に座する神がごとき存在は、マシュヤーナの人生を賭した覚悟と苦悩を見世物と評するのだった。

管理型の駄目な部分の見本
水銀でももう少し手心加える
波旬以上の邪神
納得の信者0
やっぱりミトラって糞だわ

ミトラ「うんうん、それもまた綾模様だね」

一応真我の行為に対し弁護するなら、ズルワーン放逐の理由自体は彼女のみが知るある存在への危惧や、それによりある存在の一人にそっくりなズルワーンが無自覚に破戒していた可能性へのカウンターだったのだが…。





余談


名前の由来は近親相姦を意味するインセスト。
現代日本の価値観に照らすとなかなかに業の深い名前だが、最近親婚(フヴァエトヴァダタ)を是とするゾロアスター教の価値観により、作中では『最善の愛(インセスト)』という意味で使われている。


永遠に続く時間の円環という概念は後の第四神座:永劫水銀回帰(オメガ・エイヴィヒカイト)によって完成する概念だが、彼女は単一時間軸である第一神座の時点でそれを疑似的に構築している。

そしてここで生じた時間軸を超越するという概念が第二神座:堕天無慙楽土(パラダイスロスト)において、ある一人の傲慢の罪を宿す男によって利用されることになる。


正体が判明してから読み返すことで『何故ズルワーンを直視できないのか』『何故ズルワーンとの会話がワンテンポ遅れるのか』といった謎が判明するようになっている。
と同時に、冷酷な美女を演じていたマシュヤーナが反転した途端に妙なポンコツハイテンションになっていると思うと可愛げがある。
そしてマシュヤーナへの愛着が湧くほどその最期にミトラへの殺意が高まる。





いきなり項目立てっていうのも風情がないだろ。
まずはwikiのことを分かり合って、編集と追記と修正を育んだ後にしても充分間に合うと思うんだ。
というか、それこそ王道だと思うんだっ!

この項目が面白かったなら……\ポチッと/

最終更新:2024年07月02日 19:24