マシュヤーナ(黒白のアヴェスター)

登録日:2020/05/15 Fri 23:28:54
更新日:2024/12/15 Sun 16:17:40
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なんという不実。許しがたい背信。
その瞬間まで想像すらしていなかった、土壇場での掌返しに私は愕然としてしまった。

言葉の内容は私への罵倒でありながら、ズルワーンの意識はどこか遠くへ向いている。
それがただただ信じられず、未だもって受け入れられない。

お前の口から出る想いが、真実私にだけ向けられるものだったなら、
たとえどんな呪いであろうと諸手を挙げて寿いだのに。

ズルワーンは私を見ていなかった。
私をいない者のように扱ったのだ!


おまえが悪いのだズルワーン。何もかもが、おまえのせいだ



黒白のアヴェスター』の登場人物。

名前の由来はイラン神話においてガヨーマルトから生まれた女性マシュヤーナグ


プロフィール

種族:星霊
性別:女性
身長:170cm
体重:57kg
二つ名:不浄不動
魔王序列:五位
所在地:空葬圏ドゥルジ・ナス

戒律:『最愛なる天則(フヴァエトヴァダタ)

CV:浅川悠


概要

善なる義者(アシャワン)と敵対する悪なる不義者(ドルグワント)の頂点に君臨する絶対悪、『七大魔王』の一角。
善の殿堂『聖王領(ワフマン・ヤシュト)』による序列は五位。与えられた異名は『不浄不動』


死面(デスマスク)じみた怜悧な相貌と足元まで伸びた黒髪を持つ、民族衣装(和装)に身を包んだ痩身の美女。
『不動』という二つ名の通り、その姿に躍動感はなく瞬きどころか喋る際も口を動かさないなど、人形あるいは樹木のような佇まいと評される。


その正体は、現在は空葬圏ドゥルジ・ナスと呼ばれている七つの星からなる星系を飲み込んだ星霊

魂体は上記の通りの美女だが、星霊としての本質である星体は「世界樹(ガヨーマルト)」と呼ばれる超巨大な枝垂桜。
その花弁一枚ですら下手な島よりも巨大であり、ガス惑星である空葬圏を貫いて聳える世界樹。まさしく星の核とも表現できる。

だがその星体は死臭を帯び、生ける屍と呼んでも差し支えない手遅れな汚穢と化している。
その理由は彼女の出生、そして一人の男との関係に起因している。


人物

彼女が厳密な意味で自我を得たのが何時頃かは不明だが、まず感じたのは孤独。恐怖にも近い寂しさであった。

後に暴窮飛蝗の構成員となる問題児らを始めとして、常に戦場だった自分という星の上で生まれては殺しあう有象無象。
自分の上を這いまわりながら自分を顧みない者たち。

手も足もなく、口もない
他者との関わりによる自我の構築すら不明瞭な意識は『私』というものすら作れずに揺蕩いながら、ただ一つ核となる強い願いを抱いていた。
殺戮でも慈愛でもいい、とにかく「自分がここにいるのだ」と知らしめたい。自分を自分と認識し、互いに認め合う関係性を誰かと築きたいという渇望を募らせていた。


その結果は三十年前、ある一つの奇跡として結実する。
彼女の祈りは『破滅工房』作品(こども)の一つを招き寄せ、そして一つの存在を生み出した。

ズルワーン。同じ星系に芽生えた星霊の意思。
自分の願いによって生まれたという意味では弟であり、しかし彼に憎悪(アイ)を向けられたことで正しく自我を確立させたという意味では兄とも言える男。

善悪(イロ)こそ違ったが、向けられるのが敵意と嫌悪だろうが、自分を見てくれる誰かを望むマシュヤーナにとってそんなことは些事でしかなかった。

(いもうと)(おとうと)と戦うことも、どちらが先かと言い合うことさえも愛おしく喜ばしいと感じていた。
永遠に続けたいというこの思いもズルワーンが決着を望むのならばと全身全霊、一世一代の全力で彼女は応えた。勝敗など意味はなく(どうでもよく)、共に生まれ共に死ぬことで自分は完成すると信じていた。

しかし、その十数年に及ぶ聖戦の決着の時。泣きながら喜ぶマシュヤーナの問いにズルワーンは己を偽った。


「反吐が出る。死んじまえ」


ズルワーンにも理由はある。
善悪闘争に勝利したマシュヤーナが望むのは宿敵の怨嗟と憎悪の断末魔だろう、「おまえと争いたくなかった」などと言われるのは拍子抜けだろう。
そんな言葉を返された後を思えば哀れだという配慮からの嘘だった。

しかし、マシュヤーナはその瞬間に望んでいた死に場を奪われた

結果、無様な生ける屍と化し、裏切られた苦しみに星体(カラダ)が爛れ腐れ落ち悶える壊れた魔王。
それこそが『不浄不動』の由来である。

彼女が支配する空葬圏は彼女の権能に巻き込まれ、そこに生きる生物諸共、徐々に腐敗が進行している。


能力

その来歴ゆえにズルワーンへの執着は恐ろしく強く、龍骸星の水晶宮アルザングでほとんどすれ違ったも同然なほどズルワーンとの関わりの薄いフレデリカからズルワーンの匂いを感じ取るほど。

また、本来であれば五感や霊覚さえも透明化できるアショーズシュタの隠形(ステルス)の権能も、物理的に接触してしまえば感知されてしまう。

基本積極的に前線に出ようとはしないが、戦いの際には身体から樹木を生やして刺し貫くことができる。


戒律:最愛なる天則(フヴァエトヴァダタ)


◎他者から向けられる想いに同質同量の想いを返す。
→敵の攻撃を完全な形で反射する。

ズルワーンの死後、もう二度とすれ違いたくないという思いから得たマシュヤーナの戒律。
『孤独への恐れ』を自我の根幹に持つマシュヤーナは、己の半身となり得る相手に対して一方通行の虚しい関係にならないよう、己を鏡のごとき存在とすることを課している。

ただし、自身の核となるほどに祈り続けた(つがい)に対して要求するハードルは異様なほどに高く、『マシュヤーナ一人だけを見てくれる』というレベルでなければ浮気と断じてしまう。
マシュヤーナ「フリンなんだよ、いけないんだからね」
コズミック変質者「いや、そのりくつはおかしい」

そのためこの戒律は基本的に常時劣化しており、ごく当たり前の反撃、応報行為としてしか反応しない。

唯一の例外がズルワーンで、彼と相対した時のみ完全な反射として成立する。実質専用の戒律と言える。
ただし、魔王であるマシュヤーナと人間の身に墜ちたズルワーンとでは本来なら圧倒的な実力差があるが、『完全反射』という性質上そのアドバンテージを捨てることになる。

しかし、マシュヤーナはそのことについて一切頓着していない。
彼女が望むのは宿敵(おとこ)との無謬の逢瀬であり、勝ち負けなどどうでもいいのだから。


ナス・ワウサガ

マシュヤーナの使い魔。
蝿や蜂の姿をした牛ほどの大きさを持つ魔将(ダエーワ)で、二級相当の実力を持つが知能と呼べるものは持たず、あるのは食欲と繁殖欲のみ。
世界樹を苗床に増殖するため、一種の共生関係に近い。
彼女の花弁一枚につき数億匹、数億匹×数百億枚の乱れ舞う桜の花弁を単純計算するだけでも100京を超えるという天文学的数で襲い掛かる。



原初顕す番の環(マシュヤグ)

マシュヤーナが持つ歪な形状の指輪。

クワルナフが創造した作品の一つで、その効果は『複製』
所有者の強い願いによって物質、現象、概念などあらゆるモノを複製するが、その際に陰陽的な違いが生じる。

マシュヤーナの場合は『自分を見てくれる他人』を願った結果、ズルワーンという兄であり弟を生み出した。

原初環を破壊すれば複製品も消失するが、ズルワーンは戒律『我は我として立つ(デーンカルド・アイオーン)』の効果で自己を確立しているため例外となる。


なお、マグサリオンとの邂逅時にマシュヤーナにも想定外の動作を起こしたが、製作者曰く「私の作品(こども)に間違いなど起きん」とのこと。
マシュヤーナ「貴社の製品が誤作動を起こしたのですが原因はわかりますか?」
クワルナフ「お客様が製品の仕様を把握していないだけかと思われます」



空葬圏ドゥルジ・ナス

マシュヤーナが支配する巨大なガス惑星。
元はマシュヤーナやズルワーンを含め七つの星からなる星系で、現在はマシュヤーナがすべてを吸収・統合している。

世界樹(ガヨーマルト)以外に大地と呼べるものはなく、住人たちはアショーズシュタを始めとした巨大な飛行生物の背に生活基盤を築いている。

義者・不義者を問わずに強力な者が生まれやすい土地で、五百年前にタルヴィードとザリチェードが生まれたのもこの星系である。

特に二十年前に魔王と勇者の激戦の果てに善悪痛み分けとなった結果、後継者選びとして強者が多数生まれ、蟲毒とも言える大激戦が繰り広げられたという。
その結果生き残り魔王の座に就いたのがマシュヤーナである。



余談

名前及び原初環の由来はイラン神話における原初の夫婦マシュヤグとマシュヤーナグ。
後述の通り同じ胎から生まれた双子の兄妹であり、近親婚を行い人類の始祖となった。


世界樹ガヨーマルトの由来はマシュヤグ、マシュヤーナグの親である金属の身体を持つ原初の人間ガヨーマルト。
その名前は『死につつある命』を意味し、悪神アーリマンによって毒を盛られた死に際に精液が放たれ、聖霊スプンタ・アールマティの体内で育ち生まれたのがマシュヤグとマシュヤーナグである。


戒律名のフヴァエトヴァダタはゾロアスター教において最も徳のある行為とされる最近親婚のこと。
親子あるいは兄妹姉弟による近親婚は『最大にして最勝かつ最美なるもの』であり、悪魔を退ける力があるとされている。
ゾロアスター教徒は未来に生きてんな。


空葬圏ドゥルジ・ナスの由来であるドゥルジはゾロアスター教において不義と偽り、不浄を司る悪魔。
特にドゥルジ・ナスと呼ばれる場合は『死の穢れ』を司る、蝿の姿をした複数の女悪魔の集合体として扱われる。
空葬とは風葬とも呼ばれ、死体を風化させ残った骨を改めて弔う葬制のことを指す。


神座世界において統治の末期には観測者と呼ばれる人物とその恋人的な女性は必ず登場するが、マシュヤーナもその一人。
初代インポガール。

また、第七神座:曙光八百万(アマテラス)の覇道神であるヒルメとは本体が桜という点や、兄弟にへばり付き、手足を持つ兄弟を羨んでいたヒルメの大元である畸形脳腫と似た境遇であるなどの共通点がある。


正田卿曰く『すべてのインポはここから始まった』『ヒルメとキャラ被ってるのはうっかりではないのでご安心を』





いいぞ、おまえの編集を感じる。
目を逸らすな、私も逸らさん。共に追記・修正の彼方まで行こう――

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最終更新:2024年12月15日 16:17