SCP-4729

登録日:2020/11/02 Mon 12:58:15
更新日:2024/07/16 Tue 16:49:01
所要時間:約 5 分で読めます





願わくば、その終わりが暖かな安らぎに包まれていたことを。


SCP-4729『苦痛からの美』とは、シェアード・ワールド「SCP Foundation」において登録されたオブジェクトの一つで、オブジェクト本体は既に息絶えているので、オブジェクトクラスは「Neutralized」




まず解説の前にこのオブジェクトの"特別収容プロトコル"をご覧頂きたい。


SCP-4729の遺体は密閉された保管金庫に収容されます。SCP-4729の無力化地点は適切なサイトへオブジェクトの要素が移送されるまで隔壁で遮断されます。

財団衛星ネットワークはSCP-4729に類似するあらゆる物体を監視し、必要に応じ、それらのデブリの軌道解消と通常の天文学的偽情報プロトコルに従ったそれらの存在の秘匿が行われます。

故に「Neutralized」。これを頭の隅においておいて欲しい。

概要


SCP-4729は、南磁極付近にて発見された10枚の翼が生えた高さ11.9mの人型実体である。

生存していた時期の異常性は次の二つ。

  • "強力な磁場を放射していた"こと。
  • "翼から大量のプラズマを放電していた"こと。

これらの性質から近距離における電子機器などを用いた画像化は出来なかったが、放射分析解析と分光器測定の結果、SCP-4729は氷をイオン化し、生産した水素を補給していたと推測される。
金属水素で構成されていたその肉体は、死亡後に鉄とヘリウム泡、塵で構成変化した。
どういうわけかシリコンポリマーで構成された呼吸マスクを装着し、10枚のうち9枚の翼は折れ曲がり、弱々しく垂れ下がっていた。
目玉は結晶質で構成されたものが4つ存在したが、そのうち3つは砕けてしまっている。



発見とその最期

地球の高軌道上に留まっていたことが判明したSCP-4729が、南極で発見されたのは、1972年の冬にスペースデブリに衝突したことで南磁極付近に墜落してしまったから。

財団南極前哨から墜落地点に重大な干渉と磁気的異常が重なっていると報告を受けた財団は"巨大隕石の落下"(カバーストーリー)を流した後に調査隊を派遣。
しかし、多量の磁場と放射線、プラズマが放たれ続けているSCP-4729の直接視認、調査は不可能。調査隊はSCP-4729が辿った痕跡を追跡せざるを得なくなった。
この時点で、SCP-4729の体内では核融合による水素のヘリウム化が進行と共に移動スピードと能力範囲が低下していたことを追記する。

1972年12月09日、もう既に研究者らが特殊スーツを装着した状態で接近可能と判断出来るまでに、縮小・弱体化していたSCP-4729は突如移動を止める。

そして南極の日の出の開始後数分後にSCP-4729は死亡、10枚の翼は光とプラズマによる微かな爆発の後に崩壊した。

観測したエージェント曰く、
SCP-4729が死亡する直前、オーロラの下で、半径450mに及ぶ白熱する虹色のフラクタル状の氷構造物で構成された環状領域のなかにいた
肉体は周囲の気温によって冷却され黒く劣化していたが、視線を太陽の方向へと向け、SCP-4729が自身のマスクを外していた
とのこと。

以上をもってSCP-4729は「Neutralized」として分類された。
以降、コイツの同族は現在も発見されていない。





推測

ここで、SCP-4729から読み取れる幾つかの疑問を、解説してみたい。あくまでも初版製作者の意見であるので、他にも意見があったならどんどん追記して欲しい。

▷SCP-4729の生態

まず前提として、移動時に多量の磁場と放射線、プラズマが放たれ続けていたことから、体内での核融合によって活動していたと考えられる。
宇宙空間で移動する推進手段はこの核融合反応から生じる10本のプラズマ噴流で、時間経過で移動速度が低下したのは、要は飢えが酷くなったからだろう。

その身体を構成する金属水素は、木星や土星の中心核付近などの超超高圧環境下で水素が変質すると目される物質。
そして、死亡後の体を構成する、ヘリウム、鉄、マスクのシリコン。環状領域を構成する高温の氷(酸素+水素)

これらは恒星内部で生成される元素でもある

あまりにも周囲への影響が大きく、それでいて同種が発見されていないことから、まず間違いなく地球外生命体だろう。

水素を吸収し、常時核融合による超高温の体を持ち、プラズマ噴射により移動する生命体が生存できる環境となると……

彼、ないし彼女の故郷は『恒星』、もしかしたら、太陽(天体)だったのかもしれない。

同種がいるとするならば、たびたび放出していた強力な電磁場は、人間でいう"声"なのだろうか。


▷SCP-4729はなぜ弱体化したのか。

考えられる理由は、スペースデブリとの衝突と大気圏衝突によるダメージの蓄積。また、南極という極限環境における生存能力の弱体化もあっただろう。

辛うじて呼吸と構成物質の補給は出来たものの、上記のダメージに加えて、過酷な極低温下での活動がSCP-4729の命を削り取っていったのかもしれない。


▷なぜSCP-4729は移動を止めたのか。

周囲に自身の生息域を広げると同時に、オーロラを発生させたと思われることから、恐らくまだエネルギー自体は残っていたと思われる。呼吸と栄養等の問題はクリアしていた。が、SCP-4729は能力の発動を停止した。
結果的に肉体は極低温によって損傷が発生し、さらに寿命を縮めたであろう。それでも能力を止めた。


▷なぜSCP-4729はマスクを外したのか。

当然外してしまえば、最後の頼みの綱である呼吸までも不可能となり、命を落とす。なぜ。


…………アニヲタ支部職員の方々の中に本家ページをまだご覧になったことがない方はいるだろうか。もしいたのならば、是非本家ページの画像を目にして頂きたい。

SCP-4729が死亡した瞬間に撮影された、南極の彼方から昇る美しい日の出の写真があるはずだ。

勿論、SCP-4729もまた、この美しい日の出を目にした筈。この景色を目撃した瀕死のSCP-4729は何を思っただろうか。




ボロボロに成りながらも、最後まで必死に生き抜こうとしたのだろう。

理不尽な状況に追い詰められ、自身が何故こんな目に合わねばならないという思いに苛まれたのかもしれない。


しかし、ふと目の前の大地から昇る暖かな光。それを目撃した彼は、どんな思いになっただろうか。

恐らくは、心の底から安心しただろう。嘗て生息していた場所から見えた太陽の輝き、それが今、死に瀕した自分の目の前に現れてくれたのだから。

その暖かな輝きは、肉体の苦しみなど気にも止めない程に安らかだった。故に受け入れることにしたのだろう。
傷だらけの苦痛に苛まれて生き続けることよりも、




この暖かな温もりの中で命を終えることを、他ならぬ自らの意思で。













SCP-4729


苦痛からの美(Beauty From Pain)


追記・修正は命を想うことの出来る方にお願いします。


SCP-4729 - Beauty From Pain
by Weryllium
http://www.scp-wiki.net/scp-4729
http://ja.scp-wiki.net/scp-4729(翻訳)
この項目の内容は『 クリエイティブ・コモンズ 表示 - 継承3.0ライセンス 』に従います。
この項目が面白かったなら……\ポチッと/

最終更新:2024年07月16日 16:49