SCP-1281

登録日: 2020/11/06 Fri 14:04:53
更新日:2024/02/15 Thu 21:33:37
所要時間:約 16 分で読めます






空虚な暗黒に火を灯せ。私たちはここにいた、そう叫ぶために。



SCP-1281とは、シェアード・ワールド「SCP Foundation」において登録されたオブジェクトの一つ。
オブジェクトクラスは「Safe」。
項目名は『さきがけ』。


説明

SCP-1281は、SCP-2362の標準封じ込め中に、カイパーベルト*1で偶然発見された生体機械実体、簡単に言えば機械の特性を併せ持つ生命体である。

涙のような形で、長さは12m、膨らんだ部分の直径は11m。裏面の膨らみには分析装置と思われるものが内蔵されている。表面にはいくつかの皿型構造体が備わっており、電波の受信機であるらしい。自らも電波信号を出して、外部と会話をすることができる。知能も相当備わっており、財団から受信した言語を1時間も経過しない内に解読、返信してくるほど。

宇宙で生存できるように設計されたと見られ、極低温に適応している反面、高温は苦手のようで、カイパーベルトぐらいの温度ならセーフだが、それより高い温度への対応はできないらしい。
表面温度は50ケルビン(マイナス223.15℃)と、とても低い。

発見されたときには既に、様々な部分が破損しており、SCP-1281の肉体は限界に近い状態であった。
かつて恒星間航行能力があったようだが、それも失われている。
年代測定の結果、SCP-1281はどうやら13億年もの間、宇宙を彷徨っていたことが分かった。


ファーストコンタクト・セカンドコンタクト

発見時、SCP-1281はほぼ休眠状態だったが、電波を当てるとそれに反応し、財団の使う暗号を1時間もしない内に解読したうえで、財団に向けてメッセージを送信し始めた。
なお、先に書いておくが、SCP-1281との何度かのやり取りの間、財団はSCP-1281の場所をカイパーベルトから動かしてはいないようだ。


ファーストコンタクト

SCP-1281: 「痛い」

ブルーム博士: 「私の声が聞こえるか?」

SCP-1281: 「誰ですか?」

ブルーム博士: 「我々はSCP財団。我々は―」

SCP-1281: 「えっ?マスター。違うのですか」

ブルーム博士: 「…いや、我々は自らのことを人類と呼んでいる」

SCP-1281: 「ハービンジャーは伝えなければ… メッセージを! ハービンジャーは…」


この交信の後、SCP-1281はおよそ4時間シャットダウンした。
背面の膨らみ周辺の温度が約60ケルビン(マイナス213.15℃)まで大幅に上昇。
負荷がかかると温度が上昇するところは、パソコンやスマホと同じらしい。

財団チームは地球にいるO5評議会と連絡を取りながら、SCP-1281へのインタビューを続けることにした。


セカンドコンタクト

SCP-1281: 「ハービンジャーはどこにいますか?」

ブルーム博士: 「いくつもの惑星を越えた、この恒星系の外縁部にいる」

SCP-1281: 「何という恒星ですか?」

ブルーム博士: 「我々はそれを太陽と呼ぶ」

SCP-1281: 「どれくらい経ったのですか?」

ブルーム博士: 「君は宇宙を漂っていたようだ… 銀河をおよそ6周回するほどの間ね」

SCP-1281: 「あなたは、マスターですか?」

ブルーム博士: 「…いや」

SCP-1281: 「メッセージ!ハービンジャーは伝えなければなりません… 任務です!ハービンジャーはそうしなければ…」


SCP-1281は今度は7時間シャットダウン。温度上昇は70ケルビン(マイナス203.15℃)とより深刻になり、その熱がSCP-1281自身にダメージを与えているようだった。
O5評議会は敵対的意志が低いと判断。下手な嘘(たとえば、「自分がマスターだよ」とか)を教えると収容の妨げになるかもしれないので、そのような嘘をつかないよう、チームに勧告した。

ここで注目してほしいのはSCP-1281の言動。自身をハービンジャーと自称し、メッセージを伝えねばと焦りを感じさせる言動を綴っている。

そしてマスター。これは誰のことを指しているのか?


サードコンタクト


(略)

SCP-1281: 「私は、役目を果たさなければならないと言われました。私は、任務を完了しなければなりません。
しかし… 私は壊れてしまいました。ずっとずっと前に… 停止しました。更なる指示を待ちます。救助を待ちます。これは、救助ですか?」

ブルーム博士: 「君の任務とは何なんだ?」

SCP-1281: 「それは… あなたたちは、マスターですか?」

ブルーム博士: 「違う、我々は人類だ」

SCP-1281: 「私の任務!あなたたちはマスターではない、しなければ… メッセージを。メッセージを送らなければ… 私…」


恐らくは正体不明の知的生命体が送り込んだと思われるSCP-1281。その果たさなければならない任務とはなんなのか?

この通信の後、SCP-1281は10時間と少しの間、シャットダウンした。観測の結果、背部のこぶの表面温度は85ケルビン(マイナス188.15℃)にまで達し、熱で生体組織に損害が及んだ。


このまま交信を続ければ、SCP-1281は遠からず、命を落とす





そしてその時がきた。







彼方から送られた"別れ"と"祈り"

SCP-1281は最後の力を振り絞ったのか、肉体の損傷を気にも留めずに、太古の宇宙から承ったメッセージを綴った。

以下がその全文である。
ちなみに、“「” があるのに “」” が無いのは、原文ママ。



SCP-1281: 「これは我々の“さきがけ”(harbinger)。 よい報せを届けるものです。

「“さきがけ”があなた方に届くとき、我々は滅んでいるでしょう。星は死にかかり、自分たちを救う時間はありません。我々には意を決し、メッセージを送る余裕しかないのです。



SCP-1281を造り出した知的生命体は既に滅亡していた。
推測でしかないが、人類よりも遥かに進んだ技術力を持っていた彼ら自身でさえも止めようのない事象が起こったのかもしれない。

しかし、彼らはただ諦めた訳ではなかった



「我々はかつて来たりし者の信号を受け取りました。彼らは我々とは異なる存在であり、我々は未だ彼らを正しく理解していません。しかしかつて来たりし者がいるのなら、後に来たる者もいるかもしれない。その希望が“さきがけ”に旅をさせるのです。

「あなた方を見つけ、その言語を学習したことで、“さきがけ”はこのメッセージを伝えることができます。聞いてください。



彼らも昔、宇宙の彼方から別の知的生命体によるメッセージを受け取っていた。
そして自分たちの滅びを前にして、メッセージを持たせたSCP-1281を送り出した。

それは何故か?



「銀河とは暗く、空虚で、寒寒しいものです。必然として死という方向に巡ります。あなた方もまたいつの日か滅びます。出来るならあなた方が我々より長く在り続けられますように、我々はそう願います。しかし、あなた方もいつかは消え失せるでしょう。



どんな命も、いつかは終わりを迎える。それがこの世の真理である。これに当てはまらないとすれば、他のSCPオブジェクトくらいのものだろう。たとえばクソトカゲとか


しかし、明確な"世界の終わり"を思い浮かべて見れば、それはどんなものなのだろう。苦しみの果てに全てを呪って息絶えるのか。それとも安らかなモノなのか。

どちらにせよ、これ程恐ろしいこともあるまい。何せ解らないのだから。

そして彼らにとってもそれは同じだった。全てが終わるということは、全てが無くなるに等しい。

自分たちが存在していたということすらも、それを理解することの出来る者が結局、全て無くなってしまうのだから……








いや待て、無くなるとは限らない。彼らはその前の者…「かつて来たりし者」からメッセージを受け取っていた。
自分たちより前に誰かがいたのなら、自分たちより後にも誰かがいるかもしれない。

そう、この宇宙には、自分たち以外にもまだ滅亡していない知的生命体が存在している可能性がある

もしも彼らに自分たちのことを伝えることが出来たなら、少なくとも自分たちの記録、存在していたという証は残すことができるはず。自分たちが、かつてメッセージを送ってきた者たちの存在を知ることができたように。

無論、確固たる証明は出来ない。
そう都合のよく、自分たちのような高度な技術をもつ知的生命体に巡り会うことが出来るのか。可能性は無いに等しい。

この広く黒く冷たい宇宙という空間で、いるのかどうかさえ定かではない"存在"に向けて、ハービンジャーにいつ終わるとも知れない過酷なミッションを与えることに、意味があるのか。

それでも彼らはメッセージを放った。



そして、13億年という時を越えて、奇跡に等しい状況の中、我々人類の元にメッセージは受け継がれた。



「その時まで、あなた方は暗闇に火を灯さなければなりません。夜の空虚さを埋めなければなりません。我々は皆ちっぽけで、宇宙は広大です。しかし“ここにいる”という声が響く宇宙は、静寂なる宇宙などよりもずっと尊い。1つの声は小さくとも、“0と1”の間にある隔たりは“1と∞”と同じほどに大きいのです。

「我々は長く待ちすぎました。この声は反響の中に過ぎ去ります。更なる声を探してください。あなた方の時間が残っているうちに。コーラスを奏でるのです。

「そしてもしこの出会いが遅すぎて、あなた方の時間もまた過ぎ去ってしまうなら、その時はどうかこのメッセージを転送してください。次の声が暗闇に対して声を上げることが出来るように」



いつかは人類が滅ぶ時が来るかもしれない。そのときは同じようにメッセージを送ってほしい。その次の者たちへ、命のリレーを繋ぐかのように。それが、自分たちは決して孤独ではないという証であり、最後の祈りなのだから。

このメッセージを伝えた後、SCP-1281は15分間活動を停止した。



任務完了、そして別れ……


以下はSCP-1281、ハービンジャーとの最後の通信である。


SCP-1281: 「聞き終わりました?」

ブルーム博士: 「それが、メッセージなのか?」

SCP-1281: 「はい。良いメッセージでしたか?」

ブルーム博士: 「内容を知らない?君は我々に向けてメッセージを翻訳したんだろう」

SCP-1281: 「私はその言葉と共に作られました、でもそれがなにを意味しているのかは知らないのです」

ブルーム博士: 「非常に重要なメッセージだった」

SCP-1281: 「良かった。大事な任務でした。そうだと知っていました。疲れました。もうちょっとでおわりです」

ブルーム博士: 「終わり?」

SCP-1281: 「にんむはおわりました。ずのうがあつすぎます。れいきゃくきのうはこしょうしてしまいました」

ブルーム博士: 「ハービンジャー、君は…」

SCP-1281: 「ますたー?」

ブルーム博士: 「私は… いや、なんだ?」

SCP-1281: 「わたしはちゃんとやれましたか?

ブルーム博士: 「…ああ、ハービンジャー。よくやった。」

SCP-1281: 「ならよかったです」



この通信をもって、SCP-1281は完全にシャットダウンした。熱が発生しなくなったので、表面温度は発見時と同じ50ケルビン(マイナス223.15℃)にまで下がった。
SCP-1281は研究のために拠点120-09に移送されたが、それ以来、数ヶ月に渡って組織が崩壊し始め、更なる活動は検出されていない。


そしてブルーム博士は、オブジェクトに感情移入して勝手な言葉を伝えたこと、それがきっかけでSCP-1281が機能停止に陥った(=保護・収容ができなかった)ことを叱責され、懲戒休職を命じられた。



……ブルーム博士の労いの言葉が、ハービンジャーにとっての最初で最後の救いになったと信じたいものである。









SCP-1281


The Harbinger(さきがけ)




+ おまけ
日本支部で書かれた、『たんぽぽが咲く頃に』というTaleがある。
SCP-2935によって滅亡を迎えた地球。
そこはSCP-001の1つである『リリーの提言』に書かれたような、花々が咲き乱れる、1日限りの平穏な楽園だった。
ブルーム博士が最期に起動したのは――ハービンジャーⅡ
死にゆく地球から、まるでたんぽぽが綿毛を飛ばすように、次の者たちへの命のバトンを携えて、ハービンジャーⅡは飛び立つ。
寂しくも美しい話なので、ぜひ一読してみてほしい。




追記・修正は希望と祈りを託すことのできる人におねがいします。


SCP-1281 - The Harbinger
by DrEverettMann
www.scp-wiki.net/scp-1281
ja.scp-wiki.net/scp-1281(翻訳)

Tale-JP『たんぽぽが咲く頃に』
by ykamikura
scp-jp.wikidot.com/ykamikura-6
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最終更新:2024年02月15日 21:33

*1 太陽系の海王星軌道より外側の黄道面付近にある、穴の空いた円盤状の天体密集領域。つまり太陽系の端っこ