SCP-2576

登録日:2020/11/08 Sun 05:45:02
更新日:2025/04/15 Tue 21:40:36
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SCP-2576とは、シェアード・ワールド「SCP Foundation」において登録されたオブジェクトの一つ。
オブジェクトクラスは「Euclid」。
項目名は『ヨセフと不思議なテクニカラー・ドリームゴート』。


説明

SCP-2576は、全身が多才色(虹色)として視認できる、ヤギを模したミーム的非実体である。あくまでも人間のみが知覚でき、現実において実態を持たない。簡単に説明するとホログラムである。

どうやら人間の精神に干渉しているらしく、ビデオなどで観察した場合はやはり人間のみが視認できる。また、テレパシーに近い能力によって相手の母国語で精神に直接、意志疎通を図ることも可能。

一方でこのカラフルなヤギ自体はこちら側に干渉することが出来ず、物体をすり抜けることが出来るため収容は困難、かと思いきや実際はそこまで危険性は少ないと証明されている。理由は後述。

栄養は必要ないと証言している(現実世界に干渉出来ないため)が、味覚は有しているらしく、食べ物を口に含む動作によって味を感じるらしい。

因みにSCP-2576は自身のことを混沌の先駆者ディスコーディウスと自称しており、周りの人間のにもそう呼称するよう求めてくる。その際、自分に従うよう高圧的に語りかけてくる。


なかなか強力な能力を秘めているように見えるが、現段階においてコイツのオブジェクトクラスは「Euclid」。それを説明するには、SCP-2576を制御することの出来る人物、ヨセフ・アッバシ氏について語る必要がある。


凸凹コンビ結成

SCP-2576は2009年に"パキスタン人の男に憑りついた幽霊生物"という噂を嗅ぎ付けた財団エージェントによって発見された。同時にコイツと共に保護されたのが、旧SCP-2576-Bに指定されていたヤギ飼いのヨセフ・アッバシ氏である。

その際に行われたインタビューが以下である。

[記録開始]

バクーリ博士: では、貴方がヤギを最初に見た夜の事を教えてください。

アッバシ氏: そうですね、仕事の夢を見ることがあるでしょう? 大抵の人はそうだと思います。私も時々ヤギの夢を見るんです、それが仕事ですから。それであの晩、私はいつもより遅くに寝て、その眠りも浅かったんです。

SCP-2576: 浅くして猥雑な、人の子の穢れた精神よ。浅き眠りは疑いようも無くディスコーディウスの存在ゆえのことである。

アッバシ氏: せめて5分でいいから静かにしておくれ。 (SCP-2576は沈黙する。) ありがとう。夢の中で、私は空が虹の色に染まるのを見ました。とても明るい光が空を横切っていました。そして、色に包まれた何かが空から現れるのを見たんです。
一つ目のように見えましたが、沢山の目でもあって、とても、とても素早く回転していました。そいつに見つめられた物は何であれ破壊されました。黒い稲妻が私の周りに落ち、地面を打っては揺さ振りました。ひどく落ち着かなかったですとも、それで、程なくして目は私を見つめたんです。

バクーリ博士: そして、何が起こったのですか?

SCP-2576: 唾棄すべき事だ! 冒涜! 惨めな穢—

アッバシ氏: プーキ! もういい! (アッバシ氏は実体を平手打ちし、対象は物理形態を欠いているにも拘らず後退してアッバシ氏を部屋の隅から睨み付ける。)
あのヤギはプーキと名付けました。あまりお気に召さないようですが、こっちも寝ようとしてる時に人類の罪の惨めな波動がどうしたこうしたと聞かされたくはありませんのでね、プーキ。



アッバシ氏、完全にSCP-2576を手なずけている。しかも2576の自称ガン無視で名前まで与えてるし、完全にペット扱いである。



SCP-2576: -余は貴様の存在そのものを蹂躙し、貴様の哀れな本質を消し去ってくれよう。貴様らの赤子どもは涙を流して慈悲深き死を希うことに-

アッバシ氏: プーキ、そこで横になってなさい

SCP-2576: 余はディスコーディウス、混沌の先駆者である。余は貴様らの下へと至るであろう、真の力の前に忘我する飼い慣らされたヒト羊どもよ。余は血と鉄を食む。貴様らは標的なのだ!
(沈黙) だが横になるとしよう、余は暫時の休息を望むがゆえに。 (アッバシ氏とバクーリ博士を睨み付ける) 余が微睡む間、貴様らは身を寄せ合って震えているが好かろう。

バクーリ博士: いつもこんな感じですか?

アッバシ氏: 普段通りです。でもね、信じられないかもしれませんが、プーキは耳の後ろを掻いてもらうのを心底楽しみにしてます。それをやると大抵落ち着いてくれますね。ああ、あとカラス麦。カラス麦が大好物です。彼は… 実際には食べられません。でもそういう仕草をしている時の彼は幸せそうですよ。



完全に調教されてるね。
で、なんでこんな姿なのかとアッバシに質問してみると、彼は自身の推測を語ってくれた。


アッバシ氏: そうですなぁ… プーキが何処から来たにせよ、彼は傑物だったに違いないと思いますよ。彼も大物らしく振る舞うつもりでここまで来たんでしょう。
しかし… 貧乏牧夫の脳みそに夢ヤギとして捕まってたら、まず大それた事なんてやりようがありませんな
(笑い) でもまぁ、彼は面白いですよ。私は彼が周りにいることを気に掛けやしません。何処か他所様に迷惑をかけさせるよりかは、ヤギとしてここに留めた方がいいでしょうからね?

[記録終了]



どうやらSCP-2576は、元々アッバシ氏の夢を通じて財団世界に降臨するはずだったが、なんの手違いか実体が向こう側に置いてけぼりの不完全な状態で顕現してしまった。しかもアッバシ氏の脳内イメージの影響でヤギの姿になってしまい、アッバシ氏の周り約30m内しか移動出来ない。

おまけにアッバシ氏が証言しないと他の人に認知してもらえないという有り様で相当ご不満の様子。何このポンコツ。


元来はコチラ側に干渉出来る程の多大な能力をもっているようだが、現段階では完全な状態で使用することが出来ない。そもそも自身に触れられないのにアッバシ氏の平手打ちを避けようとしているし、何気にビビりなのかもしれないが。

一つ言及しておくと、SCP-2576自体は現在の状況にそれなりに適応しているらしく、財団はアッバシ氏のSCPナンバー指定を解除した後に、彼の意思を尊重してエリア12に留めることがプロトコルで規定された。


話が逸れるが、SCP-2576との意志疎通で命令を聞きたくなる、聞かねばならないといったミーム効果は一切ない
これも不完全な顕現によるものなのだろうか。


補遺2576.2: 事案ログ


そんなSCP-2576だが、物質を透過出来るということで何気に施設を自由に闊歩している。もっとも、アッバシ氏の身の回りに限定されるが。以下はそれについての記録である。




事案ID: I.2576.1

日付: 2010/09/13

場所: サイト-17 B棟カフェテリア

概要: ローレン・パーマー博士が朝食時にSCP-2576と対面した。SCP-2576はパーマ―博士に対し、“穢れた肉体の悪辣なる奇形を零落させる”ことについて熱心に語り掛けた。
SCP-2576は数分間これを継続した後、疲れてパーマー博士のテーブルの近くに横たわって眠りに就いた。SCP-2576はその後間もなくアッバシ氏に回収され、収容舎に戻された。



........もしかして天然さん?




事案ID: I.2576.5

日付: 2011/11/25

場所: 実験チャンバーW-303

概要: SCP-2576は、SCP-████の定期実験中に実験チャンバーの壁を通り抜けて侵入した。
SCP-2576は“この陰鬱なる存在の儚さ”と“全ての邪悪な魂が直面せねばならぬ真実の赦し”について述べたが、ムーア博士のレーザーポインターに気を取られ、最終的に隣の部屋で定期検診を受けていたアッバシ氏の下へ帰った。



........やっぱりただのバカなのかも。




事案ID: I.2576.9

日付: 2012/06/01

場所: シンクレア管理補佐のオフィス

概要: SCP-2576はシンクレア管理補佐、サイト-81管理官アクタス、サイト-63管理官オーウェルの会議中に管理官補佐のオフィスに侵入した。
SCP-2576は管理官3名の注意を引いて自分に従わせようと試みたが無視された。管理官たちと相互作用しようと複数回試みた後、SCP-2576は一時的に静かになり、管理官たちをオフィスの隅から見つめていた。
しばらくしてSCP-2576はシンクレア管理補佐に接近し、シンクレア管理補佐はSCP-2576の耳の後ろを掻きながらカラス麦を与えた。SCP-2576は速やかにカラス麦を食べる様子が知覚された。
報告によると、SCP-2576はやり取りを通して尾を振り続けていた



........それとも構ってほしいだけなのだろうか?

また、上記の事案に記載されているとおり、SCP-2576がサイト内を限定的だが行き来していることは、サイト内の職員全員が理解している模様
危険性はほとんどないと皆が確信しているのかもしれないが、財団職員としては如何なものか?





SCP-2576


ヨセフと不思議なテクニカラー・ドリームゴート







余談

このようにマスコットの如くサイト内であしわられているSCP-2576だが、一つ推測してみると恐ろしいことが浮かび上がってくる。

SCP-2576は元々、アッバシ氏の脳内イメージを通して財団世界に顕現しようとした。この際、アッバシ氏は夢の中で幾つものの目玉といった名称から、SCP-2576の本来の姿をうかがい知ることが出来る。

そして彼のイメージによってヤギを模した姿。これはアッバシ氏のイメージである。つまり他の人間が最初にSCP-2576を恐ろしい怪物と認識していたら、恐らくはその通りとなっていた可能性が出てくる。


そう、SCP-2576の異常性は、あの相手が一番恐ろしいと思う姿になろうとするオブジェクトとほとんど同じ性質をもつ可能性が出てくるのだ。
もっともSCP-2576は姿を変えることは出来ないようだが、仮にモンスターの姿に完全な姿で顕現していた場合、十中八九、『Keter』クラス指定を喰らっていただろう。


そんなSCP-2576にとっての不運(幸運)だったのは、夢に繋げた人物がアッバシ氏であったことに他ならない。

彼にとって何よりも大切なことは生活における要、ヤギのことだけ。頭の中は常にヤギのことでいっぱい。その普通の人とは異なる物事の捉え方が、皮肉にもSCP-2576の性質とは上手く噛み合わなかったのだろう。

ある意味、アッバシ氏がSCP-2576と繋がったのは、財団世界にとって、とんでもない幸運なのかもしれない。



追記・修正は、ヤギのことで頭をいっぱいにしてからおねがいします。


SCP-2576 - Joseph and the Technicolor Dream Goat
by djkaktus
www.scp-wiki.net/scp-2576
ja.scp-wiki.net/scp-2576(翻訳)
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最終更新:2025年04月15日 21:40