ヘベ(ギリシャ神話)

登録日:2020/12/27 Sun 14:57:00
更新日:2025/10/10 Fri 19:42:32
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「ヘベ(またはヘーベー)」ギリシャ神話に登場する女神。
名前は「若さ」や「青春」を示し、その言葉の様に若々しい可憐な乙女の神として表現される。

【概要】

オリュンポスに住む主神ゼウスと正妻ヘラの子。
アレスヘパイストスは彼女の兄。

青春、若さを司る神で、老人を若返らせたり子供を成長させるなど人を全盛期に変える力を持っており、ゼウスらオリュンポスの神々が若さを保つ為に口にする神酒(ネクタル)や、神饌(アムブロシアー)を運ぶ給仕の役割を担っている神メイドである。
また、ヘラが春に若返りの泉に入る時に同行しその若返りを助ける役割も持っている。
ヘラクレスヒュドラに冒され人間の部分を焼いて神へと変わる時に戦車で迎えにくるのがヘベだと考えられその様子が絵にもなっている。

ローマ神話ではユウェンタース*1と習合した。
ヘラの若い頃にそっくりらしく乙女のヘラ(ヘーラー・パイス)という名前もある。
ヘラが若返るとゼウスも浮気を忘れるほどの美人なので、この女神も滅茶苦茶な美人なのだろう。
実際に美の神を差し置いて神々の中で最も美しいと称える歌もあったりする。


シンボルは水差し、または杯。


【神話】

ぶっちゃけ地味。両親や他の兄弟姉妹みたいに悪目立ちするよりは遥かにマシだが。
主神と正妻の娘という出自こそ凄いものの活躍や出番は数えるほどしかない。
ヘラからはかなり愛されていたようで、ヘラクレスの出産を遅らせた*2ヘラへの制裁としてゼウスが(全然関係ないのに)彼女の髪を天井にくくりつけて吊るしたことがある。ヘラはこの時うろたえた*3ようだがヘベはそこまで気にしておらず笑っていたそうな。天然かな?

音楽の神やアポロンの演奏を聞きながら宴会でアフロディーテらと共に舞踊を踊っているという話があり宴会を運行する立場だったのだろう。

仕事の給仕に関してもヘマをしてクビにされた、ゼウスがお気に入りの美少年を見つけてきたから辞めさせられた、後述の結婚によって寿退社した……などの逸話がありずっとやっていたわけではない。
ちなみにヘマをしてクビにされた話の場合、ヘラが怒って抗議しているが取り合われなかった。どの逸話にしても後任は水瓶座のモデルであるガニュメデスが就いている。
ヘラの愛娘という立場から死後神の座に上ったヘラクレスに対し、ヘラが和解の印としてヘベを嫁にやるという措置を下している。どんだけ娘を愛していたのだろうか、それともヘラクレスを嫌っていたのか。

そんな彼女にも神らしい活躍は少ないがある。
アルゴノートの船長イアソンの父アイソーンを若返らせるため妻のメディアはヘカテーとヘベに祈りを捧げる儀式を行った。*4
トロイヤ戦争においてはヘラの馬車を用意してヘラがアテナと共にアカイアを助ける準備をし、その後アテナの加護を受けたディオメデスにボコられて帰って来たアレス*5の傷を泉の水で洗い治療している。

ヘラクレスの甥イオラオス*6はヘラクレスをよく助け、ヘラクレスの死後イオラオスはヘラクレスの子供達(ヘラクレーダイ)の保護者としてエウリュステウス*7の迫害から守りながら過ごしていた。
そんな彼も年老い迫害を防ぎきれなくなると、彼はゼウスに一日だけ若変えることを祈った。その願いは叶い、ゼウスはヘベを連れてイオラオスの所に赴き彼を若返らせた。
若返ったイオラオスはヘラクレーダイを率いてエウリュステウスを討った。*8この時ヘラクレスとヘベは星に姿を変えてイオラオスを祝福したという。つくづくヘラクレスと縁がある女神である

このことは流石にヤバいと思ったのかイオラオスの後にカリロエーという女性の復讐のために彼女の幼子達を青年に成長させる願いを断ろうとしたが掟と神託の女神であるテミスが許可したためその願いを叶えてあげた

なお人間の年齢を操作できることを示した結果贔屓の人間にも同じことをしてもらおうとする神々が続出したがゼウスが「イオラオスとカリロエーの件は運命によって行われたものでお前達がやろうとしたことは運命に逆らうものだ私だって運命には逆らえない*9のになぜお前達にできるというのだ」と一喝してそういったことはなくなった

このようにギリシャ神話らしからぬ*10まともで穏やかな性格。活躍も前妻の子を助けるなどかなり好感度が上がるものだったりする。……描写が少なすぎるだけとも言う。
だが、本来の美の神より美しいだけに留まらず性格も良くて精神力も強いなんて、あの両親からは考えられないほどのできた娘と断言して良いだろう。

彼女の属性を神話からざっくりまとめると天然ドジっ娘箱入りお姫様メイド嫁。ギリシャ人は未来に生き過ぎである

日本での知名度は「へべれけという言葉は『女神ヘベのお酌(ヘーベー・エリュエーケ)』に由来する」という民間語源で多少知られる程度。





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最終更新:2025年10月10日 19:42

*1 こちらも若さの女神、ただしヘベが青春の美を司るのに対してこちらは青年男子の守護神

*2 ヘラクレスが生まれてくる時の祝福として、次に生まれたペルセウスの末裔が王になるという予言をゼウスがしていたのを妨害するため。これのせいで同じくペルセウスの末裔のエウリュステウスが王となりヘラクレスに試練を与える

*3 ヘラはポセイドンと組んでゼウスに反逆しようとしたが失敗し、罰として雲に括り付けられて吊るされたことがある

*4 イアソンに王位を渡さなかったペリアスには嘘の儀式を教えて自分の娘に殺されるということになったが

*5 トロイヤ側についていた

*6 種違いの兄弟のイピクレスの子。

*7 ペルセウスの孫でミュケナイ国の王

*8 一説にはエウリュステウスは捕らえられヘラクレスの母に引き渡された。この時に命乞いをしたがヘラクレスの苦労を想った母は許すことができず殺された

*9 例えば最初の妻メティスから生まれた男神がゼウスの王位を奪うという予言。女神であるアテナが生まれた為簒奪こそされなかったが予言自体は有効

*10 現代日本の常識からの判断であるが