雨の日も神様と相撲を

登録日:2021/04/20 (火) 19:58:09
更新日:2021/04/22 Thu 01:05:35
所要時間:約7分で読めます



「頼みがある。相撲を教えてくれないか?」神様がそう言った。*1

『雨の日も神様と相撲を』は城平京作の小説。
作者の過去同様ミステリー・推理物の要素もあるが、
むしろ青春小説と言える内容になっており、作品冒頭にも少年少女青春伝奇と書かれている。
書き下ろしとして発表され文庫本1冊で完結しているので、
他には鳥獣戯画くらいであろうカエルと相撲というニッチな題材はともかく
比較的ライトな作風なこともあり城平作品入門にもおすすめかもしれない。

戸賀環の作画でコミカライズもされている。単行本は既刊2巻で全3巻の予定。
絵が付いたことでカエルの相撲が視覚的に分かりやすくなっているので、原作既読勢にもおすすめ。

【あらすじ】

相撲好きの両親の元で相撲漬けの生活を送っていた逢沢文季は両親を交通事故で亡くしたことで叔父に引き取られることとなった。
叔父の住む久々留木村では豊穣をもたらすというカエルが神様として信仰され、そのカエル様が好むという相撲が大きな価値を持っていた。
文季は体格にこそ恵まれないが確かな相撲の知識とそれに裏付けられた実力からやがて村でも一目置かれるようになった。
ある日文季は村を治める遠泉家の大柄でお尻の大きな娘、真夏に相談があると遠泉家に呼び出される。
遠泉家に赴いた文季が見たのは、カエル達が2本足で立ち相撲を取る異様な光景であった。
カエルの言葉が分かるという真夏は文季に伝える。
「相撲を教えてくれないか」
そしてカエルからの相談と前後して村境の林で死体の入ったトランクが見つかり…

【登場人物】

  • 逢沢文季
久々留木村に転校してきた主人公。
角界入りも目指したこともある大男の父と相撲マニアの母の間に生まれ、
立派な相撲取りになるようにと幼い頃から相撲道場に通っていた。
が、190cmを超える大男の父とは対照的に小柄な母に似たようで、
中3にして身長150cm以下・体重も40㎏に満たないと同年代の女子顔負けの小柄な体格。
しかし小柄な体格で勝つべく身に付けた相撲理論に則った洞察力は確かなもので、
それに基づいた立ち回りと相手からすればやりにくいことこの上ない小柄な体格と相まって実は中々の実力者。
体格の良い村の者と相撲で渡り合うだけでなく取り組んだ相手の欠点を的確に言葉にして見せたことで、
いつしか村では「逢沢文季に相撲を教われば強くなれる」という噂が流れ尊敬を集めるようになる。
成り立ちを始めとした相撲の歴史にも詳しく物語の要所要所で村の伝承についての考察を披露している。
それまで関わりのなかった叔父にいつまでも世話になるわけにいかないと寮付きの高校へと進学し1年で村を去るつもりであり、
1年で去る予定の村では目立たぬよう願っていたが上記のように村で一躍注目の的となってしまっている。

  • 遠泉真夏
村を治めている遠泉家の長女。
身長は170cmを超える文季の見立てでは体重も文季の1.5倍はありそうな大柄な中学2年生。
そしてお尻が大きい(重要)
文季の知識と実力を見込んだカエル様の命により遠泉家に文季を呼び出し、
以後文季の指導によるカエル様の相撲の特訓に付き添うことになる。
遠泉家の者*2はカエル様の言葉を聞き村人に伝えるかんなぎの役割を担っており、
特訓においてはカエル様の言葉を文季に伝える通訳を担うことになる。
文季は村にやってくる時に電車の窓からオートバイを片手で持ち上げ運んでいた真夏らしき人物を目撃しており、
遠泉家の女は剛力の持ち主であるという言い伝えを耳にした文季に度々そのことを尋ねられてははぐらかしている。
どこか不愛想な性格であり文季にも出会った当初からキツい口調で素っ気ないとも取れる態度を取っているが・・・

  • カエル様
村で神様として崇められているカエル。否、カエル様。
豊穣をもたらすという彼ら(?)が相撲好きであるとのことで久々留木村では相撲が盛んとなっている。
村人の前ではあくまで普通のカエルとして振舞っているが、相撲を好む彼らが相撲を取らないはずがなかった。
通常カエルは2足歩行ができないばかりか首がないため2本足で立つと前が見えないはずであり、
作中で文季にもその点を指摘されているが真夏曰く「村にいるのはカエルじゃなくてカエル様だから」とのこと。
村に住むカエルは全員が神として遠泉の者に言葉を伝え相撲を取ることもできる。
村に現れた小さくて赤いカエルが異常な強さで手が付けられず、余所者であるそのカエルが頂点に立ったままでは秩序が曖昧になってしまう。
ある種の儀式でもある村祭りが執り行われる前に倒す必要に迫られたこと、カエル達の間で万策尽きた感が出てきたことから、
村で評判を集め村の理屈に縛られていない文季に教えを乞うこととなった。
なんでも赤い小さいカエルと取り組んでいると次第に体が痺れてきてしまうらしい。ん?

  • 小さくて赤いカエル
文季と同時期に村に現れた外来種と思われる小さくて赤いカエル。
曰くウチダアキヤという人物に飼われていたのが捨てられてしまい村にやってきたとのこと。
高い実力を持つ上なぜか取り組んでいる内に相手の体が痺れていくこともあり村のカエルでは手が付けられない強さを誇っていた。
体格こそ他のカエルに劣れど実力は本物であり堂々とした態度に文季も感心していた。
その正体はイチゴヤドクガエル毒ガエルである。
毒を抜きにしても「以前からやつは相撲がうまく~」とは他のカエルの弁であり、
そもそも基本的にカエルは毒を持っている事や強い毒を持っていることにカエル様から文句が出ていないこと、
カエル同士の取り組みが30秒を超えることが少ないにも関わらず毒が効きだす30秒まで粘ってみせる実力を考慮して強い毒は個性の範囲内であるとされた。
外来種で余所者のカエルがなぜ村で神として相撲を取ることができるのかについてカエル様は「運が良かったからだろう」と曖昧に語っているが…

  • 浅沼悟
文季の叔父で刑事。
義父の登志郎から娘との結婚の条件に久々留木村に住み登志郎と同じ警察官になることを提示され、
これを承諾し新卒で採用試験に受かり県警で警部補を務めている。
しかし6年前に妻を病で亡くし、以来登志郎と男2人で同居していた。
世間体もあり村の行事に参加する意思はあるものの事件の捜査と重なって参加できないことも少なくないらしく、
死体遺棄事件の捜査が長引くことで次の村祭りにも参加できなくなることを文季からも危惧されている。

  • 浅沼登志郎
悟の義父で元刑事。
55歳の時に妻を早くに亡くし、一人娘も6年前に亡くなった現在は義理の息子の悟と2人で暮らしている。
文季の叔父の義父という文季とは無関係に等しい立場ではあるが、家にやってきた文季を快く迎え入れ、
死体遺棄事件について筋の良い推論を述べる文季を気に入っている様子。
関係が関係故に文季は彼をどう呼ぶか迷ったものの「としさん」と呼ぶことで落ち着いている。


久々留木村(くくるぎむら)

米作りが盛んな村で、カエルの鳴き声が村の名前の由来。
豊穣をもたらすというカエルが神として古くから崇められており、
カエル様が好むという相撲が村の行事や学校の授業にも取り入れられる等盛んに行われている。
カエル様の加護からか村の米作りは自然災害や虫害とも無縁で、
神様が嫌うと伝えられていることもあり過去一度も化学肥料や農薬は使われたことがない。
品種に限らず村の米自体がブランド化するほど高品質な米が収穫され、
一般的な米よりかなり高値で取引されるという別格の扱いをされている。
しかし目立ちすぎることは良くないという村の姿勢もあり、
料亭といった昔からの得意先に買われる以外村の外に広がることはなく、
他所からやってきた文季も叔父からの話で初めて耳にすることとなった。

年に2回村祭りが行われており、そこで行われる相撲の勝ち抜き戦で代表者が決められ、
カエル様の社の前で一人カエル様と相撲を取る演技をする神事相撲が行われる。
そこでカエル様に負けて見せることで村人はカエル様には敵わない、
今後も仰ぎ従いますと示すというカエル様と村人との関係を明確にする儀式となっている。


【死体遺棄事件】

村と隣の市の境がある林の中で死体の詰められたトランクが発見された事件。
被害者はIT関係の会社の社長である女性で、
事件が起こる少し前から行方が分からなくなっていたため副社長である夫から捜索願が出されていた。
トランクの中には被害者の死体の他、何故かコバルトヤドクガエルの死骸も入っていた。



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最終更新:2021年04月22日 01:05

*1 原作裏表紙のあらすじより

*2 作中では真夏だけでなく真夏の母もカエル様と意思疎通している描写がある