虚構推理

登録日:2018/07/31 Tue 16:04:01
更新日:2025/03/18 Tue 14:10:21
所要時間:約 5 分で読めます





虚構が真実とされていたんです。
確たる証明もされていないのに皆がそうと信じて、
その説明が一番になっていたのです


『虚構推理』は、日本のミステリー小説。
作者は、小説だけでなくスパイラル~推理の絆~の原作を担当するなど、様々な媒体でミステリー作品を創出してきた城平京。
本作も1巻が第12回本格ミステリ大賞を受賞するなど高く評価されている。

ノベルズ版の挿絵は清原紘が担当。
講談社タイガ版の文庫版は漫画版の作画も担当する片瀬茶柴。
既刊は三巻。


【あらすじ】

グラビアアイドル七瀬かりんが無抵抗のまま鉄鋼に潰され死亡するという変死事件を契機に、
囁かれ始めた都市伝説・鋼人七瀬。

鉄鋼を振りかざす顔の潰れた彼女の亡霊が夜な夜な人を襲うという無責任な噂を模倣するかのように、
連続して起こる無差別傷害事件の謎に安楽椅子探偵・岩永琴子と相棒・桜川九郎が挑む。


【登場人物】

  • 岩永琴子
本作の探偵役。
幼少期に拉致され、意識のない間に片眼と片足を切断されるという未解決事件の被害を受けており、
そのことがきっかけで、様々な怪事件に首を突っ込んでいる。
探偵としての分類は安楽椅子探偵の部類に入り、聞き出した情報を元に結論を導き出す。
甘い物が大好きでいつも口にしており、日頃所かまわず転寝している、一見するだけならこの上なく愛らしいお嬢さんである。

  • 桜川九郎
琴子の一応彼氏。
女性の好みは琴子と真逆のタイプで、紗季とは周囲の目からも本人同士の認識でもお似合いのカップルだった。
一見すると、普通の優男だが胡散臭い連中から恐れられている。
紗季と別れたきっかけも暴漢に襲われた彼女を庇った際に、九郎の存在に気付いた暴漢が目の色を変えて慌てて逃げ出したため。
琴子に代わり荒事を担当する。

  • 弓原紗季
九郎の元彼女。鋼人七瀬事件がきっかけで九郎と再会し、現彼女の琴子と関わることとなる。
警察側の中心人物……なのだが、オカルト肯定派であり鋼人七瀬が実在すると捜査を撹乱する。

  • 寺田徳之助
鋼人七瀬事件を調査する刑事。
事件現場の距離と犯行時刻から複数犯と疑い捜査し、真実に近付くが七瀬かりんと同様に頭部を潰された状態で発見される。

  • 桜川六花
九郎の従姉。
原因不明の奇病により長らく入院していたが、既に亡くなっている。

  • 七瀬かりん
スキャンダルが理由で世間から逃亡中に、
建設現場で鉄鋼に頭部を潰され死亡した状態で発見された。
抵抗の痕跡が無いことから事故死として処理されているが、様々な憶測が囁かれている。























ところで受賞作に天狗は登場しませんが、カッパやお化けは登場します。 どうなっているのでしょうね。


本作は普通に妖怪の類が登場し、傷害事件や寺田刑事殺害の犯人も都市伝説の怪異・鋼人七瀬である。

本作に限らず、妖怪や幽霊やらが登場するオカルトミステリーは少なくないが、(作中ではそんなのミステリーじゃねぇ、と突っ込まれてる)
本作の特徴は、真相を解明するのではなく、
ロジックの通った虚構を構築し、それが真実だと信じ込ませるというもの*1
というのも本作の事件は琴子が関わることになった時点で、もう真実では片付けられない状況になっているため、「関係者が如何に納得するか(させるか)」というのが重要なのである。
故にそれらしい内容である虚構を組み上げて解決する物語が本作の肝となっており、普通の推理物を期待していると、都合の良い屁理屈を捏ねているようにしか見えないだろう。
重ねて言うが、本作は真実だけではもう解決出来ないが故に、虚構で立ち向かう作品であることを念頭に置いて鑑賞することを推奨する。




【登場人物】

  • 岩永琴子
CV:小澤亜李(漫画CM)、鬼頭明里(アニメ)
幼少期に妖怪達に請われ承諾したことで彼らの「知恵の神」となり、右目と左脚を失った結果、一眼一足の神にされた。*2
事件以降は義眼、義足をつけている。

そんな彼女を「おひいさま」と慕う幽霊、妖怪の類いからトラブルの依頼が舞い込み、大抵二人で解決する。また逆に自分の支援なども妖怪に頼むことがある。

二年間片想いを続けた末に、紗季と別れたと知った瞬間にアタックを仕掛け、九郎には承諾されないまま恋人の座に収まっている。
それなりに大切にされてはいるはずだが、優先度は豚汁>琴子。……少なくとも琴子自身は判断しており、おかげで常に不満と性欲をもて余している。


このように、琴子は一見すると妖怪の神と崇められる超然とした存在に見えるのだが、その立場は非常に危うい。
琴子は極々真面目に学生及び令嬢としての日々を送っているのだが、その日常と並行して妖怪絡みのトラブルも解決している所為で、毎日が非常に多忙で過酷。
甘い物が大好きなのも、頻繁に所構わず転寝するのも、常に頭脳と肉体をフル回転させて心身に限界が着ているからである。

人間を神の一柱へと昇華させて、自分達に恩恵を与える急造の神を設ける人柱とそれを成す儀式。
その信仰は古来に在ったとされ、モチーフとする作品は複数あるが、「人間の勢力が増す中で、人と妖怪の架け橋となって妖怪を庇護する存在が欲しい」と妖怪達が無意識のうちに望み生んだと思しき、妖怪達にとっての「人柱」である。

こうした後天的な神であるが故に、信仰されるからこそ存在出来る神であり、信仰を失えばその存在意義と価値を失う。
そのため、妖怪を庇護する神として力不足と看做された場合、妖怪達によって失格者として次の"神"に挿げ替える為に排斥される可能性すら有る。
彼女は妖怪及び妖怪と人間の現在のパワーバランスを維持することに非常に献身的だが、その心構えも、妖怪達の無意識の願望によって"人柱の神"に相応しいように改造された結果かも知れない。
九郎はそう推察しており、彼女の行く末を非常に危惧している。

  • 桜川九郎
CV:宮野真守
不吉な未来を告げると云われる人面牛の件(くだん)と、肉を喰うことで不死となれる人魚の混じり者。
先祖代々の悲願を果たそうとした祖母の手で、件と人魚の肉が混入された料理を親戚一同と共に食し、生き残ったことで限定的に両者の能力を身に着けている。
死に至る瞬間のみ、様々に分岐する未来を認識し選び取り蘇生することが可能だが、
あくまで直近の未来しか視ることが出来ず、確定できるのも起こってもおかしくない些細なものに限られる。
人間としての見た目は線の細い美男子だが、妖怪の目から見るとそれはそれは恐ろしい姿に見えるため露骨に避けられている。*3
不死の身体に慣れている上に、過去に不死身ぶりや未来予知を検証する為にと、祖母の手で拷問染みた虐待行為に晒されてきた影響で、痛みに対して鈍感を通り越して無反応になってしまった。
その所為で若干天然気味で、怪我や死ぬことをなんとも思っておらず、日常生活でもうっかり死んだり重傷を負うこともしばしば。

岩永に対しては普段かなりぞんざいに扱う素振りを見せて、しばしば琴子をやきもきさせるのだが、それはあくまで九郎が取り繕った表層の態度。
全ては琴子を想ってのこと。彼女にとって琴子は、儚く守ってやりたい存在である。

琴子は確かに九郎が自覚する好みの容姿ではないのだが、その危うい在り様や健気さに、九郎自身は無自覚ながらも、この上無く魅了されている。
「妖怪にとっての神」と崇められながらも、同時に「命が費えれば挿げ替えられる、消耗品の人柱」として、若くして過労で命を落とすだろう琴子の行く末を非常に危うんでいる。

彼女に対するおざなりな態度やぞんざいに扱う素振りも、彼女をこの上なく心配しているからこそ。
本心では彼女に極力負担をかけたくなくて、見えない場所で妖怪達に圧をかけつつ、自分の親愛の情は押し殺して琴子に見せないようにしている。

また、琴子が「妖怪と人の架け橋となる神」の座を堅持する為には、「人でも妖怪でもない、逸脱した化け物である自分」をいつかは処刑しなければならない可能性は、常日頃付きまとっている。
九郎としては、ずっと琴子の傍に居て守ってやりたいが、同時に、いざとなったら琴子が気兼ねなく切り捨てられるような距離感を保たねばならない。
だからこそ、琴子が愛着や未練を抱かずにさっさと処刑出来るように、出来る限り九郎が抱え込む琴子への愛情を見せないようにと努めている。


  • 弓原紗季
CV:福圓美里
九郎とデートしていた際に河童と出会い、河童が九郎から逃げ出したことがきっかけで、
九郎が純粋な人間で無いことを知り、彼の一族の死傷者の異常な多さに業を感じ取り距離を置くようになり別れた。

  • 鋼人七瀬
七瀬かりん(CV:上坂すみれ)の不審死に伴う噂話から生まれた“想像力の怪物”。
口裂け女人面犬のように、多くの人々の間で囁かれる噂話が名が与えられることで集約され誕生するものであり、
実在を疑われるだけで消滅するため、本来なら実体化できたとしても対して被害を出せない内に消滅する筈だが、
インターネットという現代のネットワークを利用することで爆発的な勢いで拡散した結果、確かな存在力を持って活動を開始、その目撃例が新たな噂を生み力を強めていき遂には殺人を起こせるまでに至っている。
琴子達がまとめサイトにて開催した攻略議会にて『鋼人七瀬なんてものは存在しない(してない、出来ない、するわけがない)』という存在否定の理由を閲覧者にバラ撒かれることによって消失した。


+ ...
  • 桜川六花
CV:佐古真弓
鋼人七瀬編の黒幕。
九郎と同じく、件と人魚の混じり者であり、体質を受け入れた彼と異なり人間に戻ることを諦めていない。
そのため大学病院で長期に渡り調べて貰っていたが、現代医学では治らないと見切りを付けると、人工的に神を創りだすことを目的に暗躍を始めた。
やっていることは自殺を繰り返しながらのレスポンスバトルだが。
鋼人七瀬の誕生はあくまでも自分の不死を失くすための神を生み出す実験としてやっているのだが、犠牲者を出す気は一切なかった。
しかし、そんな彼女の未来決定能力と思惑を超えて、怪物は一人の刑事を手にかけてしまっている。



【漫画版】

片瀬茶柴作画で「少年マガジンR」で連載中。既刊11巻。累計250万部突破。

原作者は漫画版をいたく気に入っており、
鋼人七瀬編の時点でも、一切口を挟まずネームも確認せずに掲載を許可と甘々な対応をしていたが、

鋼人七瀬編が終わりに近付くと、漫画を続けさせるためだけに、
『虚構推理 鋼人七瀬』の刊行から6年ぶりに新作を書き始めた。

メフィストに掲載された小説も漫画になった際の見栄えを意識して執筆されており、
一切発表予定の無い短編も漫画用に描きおろされている。

なお、コミカライズを想定していない長編小説を忠実に再現し過ぎた結果、鋼人七瀬編は3巻目でようやく寺田が殺され解決編開始が4巻とストーリー展開が非常に遅いので、漫画版から入るという人は要注意。

【アニメ版】

漫画版を元にブレインズ・ベース制作。監督は後藤圭二、シリーズ構成は高木登。
第1期は20年1月から放送開始。連動してTwitterにて七瀬かりんがアカウントを取得、投稿を行っている。
第1話などの一部を除いて「鋼人七瀬」編をほぼ1クール使って描いている。
…が、いくらほぼ本一本分とはいえ事件発生や捜査パートに約半分、推理披露パートを約半分と分けられた構成のため、全体的にテンポかなり冗長である。
特に推理パートは進みが悪く、あまりにアンバランスな構成によって、作画の良さとお話の面白さに反してアニメの評判自体はそこまでよくなかった。

しかし放送後間もなく20年11月に第二期の製作が発表された。2022年10月から放送開始予定されたが延期。
結果として発表からほぼ約2年後となる2023年の冬に放送が決定、今度は予定通り1月に放送された。
前作の反省を活かしてか、軒並みのエピソードが長くても4話程度に短くまとまっており、この構成のおかげで原作の各エピソードが映像化された。
元々1期の頃からそうして欲しかったという声は多かったが、まさに理想的なテンポ改善であった。
ただ1期での悪評が災いしたか、前作のように即アニメ3期が決まる…といったことはなかった様子。
2期のOPを担当したカノエラナは、以前に1期を見て個人的に虚構推理をイメージした楽曲を製作し、
それが巡り巡って主題歌になったという変わった経緯を辿っている。


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最終更新:2025年03月18日 14:10

*1 少なくとも第一作時点では

*2 民俗学的にも根拠のある手法。火花や熱によって片目や手足が不自由になった鍛冶師を由来として、片目片手足を森を拓く超自然と人の架け橋≒神の象徴と看做す、といった伝承は古来より存在する。詳細は柳田國男などの著書を参照

*3 妖怪からすると、何かうにゃうにゃしてて生臭いとのこと。ただし、長期間に渡って接し続けていると、妖怪達も割と慣れるらしい。