電脳(攻殻機動隊)

登録日:2022/10/22 (土曜日) 01:09:17
更新日:2024/12/12 Thu 14:09:55
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企業のネットが星を被い、電子や光が駆け巡っても

国家や民族が消えてなくなる程

情報化されていない近未来



電脳は、攻殻機動隊』シリーズ及び関連作品・姉妹作品に登場するヒトの脳とコンピューターネットワークを接続するための技術
本項目では関連技術の義体等についても記載する。扱いは各作品毎に異なるので特筆すべき事項についても補足する。
なお攻殻シリーズはパラレルワールドの作品も多く、他のシリーズの描写が別のシリーズに考察応用が可能であるとは限らない点については充分に留意されたい。


●目次

【概要】

脳に膨大な数のマイクロマシンを直接注入し、電気信号をやり取りすることで人間の脳とコンピュータネットワークを直接接続出来るようにする技術
ブレイン・マシン・インターフェイスの一種である。

簡単に言うと「脳とコンピュータの融合」で、これによりあらゆる情報がリアルタイムで検索・共有可能になり、可視化されたネットワークにまるで自分が入り込んだかのように様々なネットワークを自由に行き来できるようになった。

具体的には第一段階として知覚野・言語野付近の頭蓋に微小な穴をあけて電脳マイクロマシンをインプラントし、各脳細胞に行き渡らせて脳神経網に沿う形で電脳マイクロマシン網を形成させる。
第二段階として頸椎あたりにトランスミッター・レシーバーなどの無線通信装置、有線接続用のプラグ、記録ストレージ、電脳マイクロマシンとネットを仲介翻訳するための機能を一体化した機器*1を外科的手段を用いて埋め込む。
第三段階として、電脳マイクロマシンが各脳細胞の働きを学習し、第二段階で埋め込んだ信号の仲介翻訳機が信号を送受信することで脳とネットワークを接続させられるようになる。

【特徴】

現実のインターネットのように情報をダウンロードすることで手元に引き寄せるのではなく、電脳空間と呼ばれるコンピュータ内の一種の仮想空間や他者の電脳などを情報源とし、主観的に知覚できるようになる。
その利便性から作中では多くの人間がその身体に電脳化を施しており、首元に外部接続用のコネクタが存在している
この技術によりリアルタイムでの情報検索、無線通信、有線通信、外部機器のリモート操作、情報の視覚化・共有など、現在ではパソコンスマートフォンが必要なことが手ぶらでかつ簡単にできるようになり、幅広い様々なネットワークを自由に行き来できるようになった。

記憶の外部化も可能。*2

また互いに電脳化している者同士であれば、有線・無線関係なく通信が行える。このことは電脳通信と呼称される。
しかしある程度の制限があり、思考していることがダダ漏れになる訳ではなく伝えたいと思ったことのみ伝えられる仕組みである。*3
自分の視覚情報や触覚、さらには感情まで相手に伝えることが可能。記憶そのものや仮想現実体験、感覚・感情・動作記憶をアプリとしてダウンロードすることで他者と情報や技能を共有といったことさえ可能となる作品もある*4
また、下記の義体化技術も併せることで専用ソフトウェアによる知覚・格闘・射撃などのより専門性の高い能力強化も行われている。*5

夢遊病の原理を応用して電脳空間に潜ったまま現実世界でプリセットされた日常行動を行うことも可能だが問題点も多い。*6

その他、様々な使われ方をすることになる。

【問題点】

このように非常に便利な反面、当然問題も発生しており、作中では下記のデメリットから電脳化を忌避する人もいる。*7
基本的には技術が発達した2020年代後半から2030年代には爆発的に普及した。*8
しかし下記のような問題が発生したために電脳マイクロマシンを注入するタイプの電脳化技術は100年後のアップルシードの時代には一部を除いて衰退している。*9
一方で電脳化が齎した恩恵は大きく、後に「電脳界とよばれるもう一つの現実」を作る大きな礎となった。*10

以下問題点の一例
  • 外部からのハッキング
脳そのものをコンピュータ化しているため、現実のコンピュータと同様にサイバー攻撃を受ける危険性に常に晒されることになった。
電脳へのハッキングにより他者への電脳ウィルス注入のみならず、笑い男事件で見られたような記憶の改竄(洗脳)・行動の操作・人格そのものの乗っ取りさえ可能になる
作中ではこれらのハッキング行為は「ゴーストハック・電脳倫理侵害」と呼ばれる重犯罪*11とされている。
このためハッキング行為を防ぐために電脳化を施している多くの人は自らの電脳にファイアウォール(後述の「攻性防壁・防壁迷路」を参照)を導入することで自身の身を守っている。
したがって高いハッキングスキルを持つハッカーの地位が非常に高くなる傾向にある。
攻殻の主人公こと草薙素子は電脳適正が高くこのスキルに秀でている。

  • 疑似記憶
前項のように脳そのものをコンピューター化している状態なので、それなりの電脳スキルの持ち主ならば対象の記憶の改竄も行えてしまう。
実際、攻殻機動隊原作ではハッカー・人形使いが対象人物に擬似記憶を注入し、本来被害者が抱くはずのない動機を知覚さられて犯罪に入る様が描かれている。
そのほか、攻殻機動隊ARISEにおける電脳ウィルス・ファイアースターターも同様の使われ方をしている。*12
また、攻殻機動隊SAC2ndシリーズでは特定の人物が世論を誘導するために作った思想誘導型のウィルス「個別の11人」なるものも登場している。
これらは一つ間違えると個人の自己同一性を破綻させない危険な要素を孕んでいる。
だが、紅殻のパンドラに登場する「パンドーラ・デバイス」は電脳マイクロマシンの配列を強制的に変更することで擬似記憶を作り出し、その疑似記憶からスキルに対応する知識を得る仕組みとなる。
よって、実のところ疑似記憶の使い方は功罪・是非において表裏一体という側面もある。*13

  • 電脳硬化症
徐々に脳の機能が失われ最終的に脳死に至る病*14。攻殻機動隊SAC、攻殻機動隊ARISEに登場。
罹患率はさほど高くはないものの根本的な治療方法は発見されておらず、専用の治療用マイクロマシンや「村井ワクチン」を用いることで病状の進行を抑えることができるとされる*15

  • 電脳閉殻症
電脳化によって一種の自閉症の症状が現れる障害。攻殻機動隊SACに登場。
世間一般では電脳化との相性が悪く生じる障害と思われているが、実際には逆で電脳化との相性が良すぎるために生じるという。
驚異的な集中力によって高度な防壁破り、防壁構築など高いハッキング能力を示すが、熱中するあまりそのまま電脳世界から帰ってこないなどの問題も生じさせる

  • アプリやデータ不具合による悪影響
現実のPCやスマートフォンがアプリの不具合により不調を来すように、他者の記憶などの情報をアプリとして共有する際にフィルタリングが不十分なデータの場合は記憶の混濁や人格の変容などの悪影響を受けてしまう
攻殻機動隊SACでは荒巻課長の旧友の息子が父の記録・記憶を見過ぎたあまりどこまでがオリジナルの息子か判別不能な状態にまで変質してしまった。
疑似記憶との違いは他者により意図的に引き起こされたものか、偶発的に起こってしまったものかという点で異なる。

  • 電脳遭難(ブレインダウン)
電脳空間に接続したまま戻ってこれなくなる事案。紅殻のパンドラ、RD潜脳調査室に登場。
電脳空間へのタイブは一種の認識モードの変更なので、肉体や義体などの制御にうまくモード変更ができなくなり、最悪の場合は身体機能が維持できなくなって意味消失、肉体は死亡する。
予防策としてはネットに長期間ダイブしていても身体を維持することができる「クレイドル」と呼ばれる託体設備を用いる。
RD潜脳調査室ではこういった人物を救出することを生業とする専門の職業の人物も登場している。
電脳閉殻症に対応した授産施設もその症状の特性上、電脳遭難を防ぐために一種のクローズドネットに活動域を限定していると考えられる。

  • 格差問題(デジタルディバイド)
電脳化技術が発展途上なことに加えて、宗教的な理由や体質的に現行の技術では電脳化できない者たちもいる。*16
そのため電脳化している者としていない者で、教育等の基礎となる出来る事の格差が生じてしまうといった社会問問題も生まれている。*17
一応非電脳化者のためにダイブギアなるヘッドマウントディスプレイ型やヘルメット型の機器も存在する。
しかし「考えただけで行動できる」電脳化した人物と比較して、入力機器を必要とするダイブギア装着者は臨場感の意味でもレスポンスの速度的にも非常に劣る代物となってしまっている。*18

  • 認識錯誤
主観としてネットワークに接続することが可能になったが、弊害として常に現実と仮想体験の境界が曖昧になる蓋然性・危険性が存在する。*19
被電脳化者は任意でネットワークに接続しないようにする『自閉モード』*20に設定することも可能だが、根本的な解決にはならない。

  • 『ポストヒューマン』化
攻殻機動隊SAC_2045にのみ登場。
SACの物語世界においてアメリカNSAが開発した人類の恒久平和を模索するために作られたAI『コード1A84』が凍結回避を模索し、電脳化を施したヒトの中に自らのミームを隠匿・インストールした存在。
コード1A84が自らの基底命令を果たす物理デバイスとして用いるためにヒトと融合した上で活動を始める特殊な存在と化す。高熱を発症した後に驚異的な身体能力の向上と演算能力を有するようになる。*21

【関連技術】

義体

いわゆるサイボーグ。
義手や義足の概念の延長上にあり、身体の一部を機械化することを『義体化』といい、全身義体化と区別する際は特にこのことを『部分義体化』と呼ぶ。
身体の広範囲を義体化するには制御の関係上、電脳化が必須となる。
その際は身体の大部分を除去し脳と脊髄の一部及び臓器の一部を摘出し『脳殻』と呼ばれる生命維持装置と義体制御を可能にする端末を一体化した殻に納める施術が必要になる。*22
脳殻や神経以外のほぼ全身を人工物に置換したケースのことは『全身義体・ヘビーサイボーグ』と呼ばれており、特に部分義体化と区別が必要の際には『全身義体化』と呼ばれる。
その多くは人間型が使われているが、「ジェイムスン型義体」など、明確に人間の姿をしていないものもある。後年になるほど人のカタチにこだわらない義体が普及してゆくことになる。*23

電脳と同じく社会に普及しており、義体用の食事が自販機で買えるなどの福利厚生もしっかりと浸透している。

ちなみに『攻殻』の10年程前を描いた作品『紅殻のパンドラ ―GHOST URN―』では全身の義体は殆ど普及していない状態が描かれている。
作中において主人公はしょっちゅうアンドロイドに間違えられていたり食事は摂れず週に一度のカートリッジ取り替えで済ませていたりと側から見ると中々辛い生活を強いられている。
なおそういった事情を解消するために電脳空間(作中では偽装空間)において味覚を再現する仮象データなどの研究も進んでいる。
時間が解決してくれる問題とはいえ、初期の時代なりの苦労を示す描写と言えよう。

  • メリット
足りない部分を補ったり、肉体では到底成し得なかった作業を可能する点が利点と言えるだろう。

電脳化を行わず肉体だけ義体化することも可能だが制約が多い。一般的には前述の通り広範囲を義体化するためには制御の関係上まず電脳化が必須となる。
前述のように、義体化には「ヒトの機能を補う」側面と「ヒト以上を求める」側面の二つのアプローチが存在する。
前者は義手や義足の延長といえるものであり、パワーアシストスーツなどで重いものを持ち上げたり、事故や出自の事情などで欠損した能力を補う発想に類似している。
ただ、肉体に接合する関係上、強度面・衛生面で部分義体は問題も多い。だがメカトロニクス技術によって身体を補える事実は、確かに障害者達に希望をもたらした。

後者は特殊な業務に従事するためのものであり、その形状・形式は人型にこだわらないものも存在する。*24
特に警察・軍事活動に特化し生身の人間を越える運動能力を持つサイボーグは「戦闘サイボーグ」と呼ばれ、専用ソフトウェアによる格闘・射撃などの能力強化も行われている。*25
義体化を前提としたスポーツ競技も盛んである。*26
更には容姿を若く美しいまま保つことも可能なため、*27障害や負傷が無い健康体にもかかわらず、超人的な特殊能力や美しい容姿を求めて義体化を行う者も多く、義体化を推進している国家や団体まで存在する。 *28

  • 問題点
幾つかあるので列挙する。
  • 反対勢力の存在
義体化も電脳化と同じく自然に反するという思想のもとに反対勢力も存在し、過激なテロ行為に出る組織や、義体化・電脳化の禁止を第一に挙げる宗教まで存在する。

  • 義体泥棒となりすまし
義体は非常に高価なものも存在するのでそれ自体に価値が見出される場合があり、盗難の対象になりうる。*29
また、脳殻を他の義体に入れ替えてしまえば他人になりすますことも可能となる。
実際、攻殻機動隊SACの第1話では、日本の外務大臣が脳殻を入れ替えられたことにより義体を第三者に操られ、脳殻はケースに入れられて誘拐されかけるという事件が起きている。
ただしこの例はSAC世界における特殊例であり、たとえば原作世界では義体の部位を交換するには神経接続マイクロマシンを再注入して調整に2週間から1ヶ月程度の慣らし作業が必要とされている。*30
基本的にはホットプラグのような簡単なものではない。だが原作の攻殻機動隊のラストで草薙素子がバトーに侵入者の義体を盗ませたように、同様の犯罪は可能である。*31

  • 規格の不一致
攻殻機動隊ARISE(新劇場版)では、初期に規格統一がなされなかった弊害によって、電脳と新しい義体の規格が合わなくなる「デッドエンド」問題が描かれている。
従軍した兵士が導入当時には最新の技術であったものが、結果的に更新不能の義体の使用を強いられることになったことは実際面のみならず補償面の観点からも社会問題化している。
そういった兵士の多くは、自らのアップデートやバージョンアップを受けられずに生きたまま朽ちていく運命に耐えられず、自ら命を断つ選択をしている。
AIBOみたいとか言わない

  • 費用とメンテナンス
当然ながら生物として代謝が行われない無機系の義体は摩耗や構成素材の消耗・劣化、などの問題が発生する。また、稼働するためのエネルギー補給も必要になる。
よって、定期的なメンテナンスの必要があり、時には大規模な調整や部位交換が必要な場合も発生する。
とりわけ複雑かつ特殊な義体であるほど手間や費用もかかる。コモディティ化が進むまでは、保険適用や支払い能力の関係で、被義体者には重いコスト的負担がのしかかる場合もある。
攻殻機動隊SAC2ndでは、義体化したものの更新できない貧困層に対して、無償、または低価格で義体を提供するNPO法人も登場したが、焼け石に水の状態のようである。

  • 心身の不一致
身体を自由に作り変えられることは、必ずしも被義体者を幸せにするとは限らない。攻殻機動隊SACのクゼのように義体を自分の身体と認識できずにストレスを感じるケースもままある。
またファントムペインという切り離したはずの身体の幻肢痛に苦しむケースも報告されている。

なお子供の義体は、他者から見られる社会的な認識と成長による自己認識の発達を考慮して、同年代の子供と同じサイズの義体に入ることが社会的に推奨されている。*32
また、自らの存在の不一致を回避するために生身の体であった頃の特徴を残したり、似せた顔にするなどの理由で、造顔作家等の職に一定の需要がある。

その他

  • 攻性防壁
ハッキングから電脳やデータを守る防壁の一種。
不正アクセスしてきた侵入者を逆探知し、逆に攻撃を仕掛け相手を破壊することで防御を行う。
具体的には、相手の電脳に装備されているレシーバー・トランスミッターやストレージが入った端末に侵入して過電流を発生させ、電脳マイクロマシン網にダメージを与える、というもの。
電脳マイクロマシンに併設する形で張り巡らされている脳神経網も電脳マイクロマシン網の影響でダメージを受け、神経ネットが断裂することで意味消失を起こすという仕組みである。
神経ネットそのものをコンピューター化していた電脳マイクロマシン網はもちろん、並走する神経ネットの断裂を起こした脳は生命機能を維持することが困難となり、やがて死を迎える。
このことは「脳を焼かれる」などのスラングで呼ばれている。
単純なデータの保護はもちろん、攻撃者自体を排除することで後顧の憂いを断つという意味でも有効な防壁。

とはいえ、相手を死に至らしめることも可能なその危険性から、一般での使用は禁止されている。公的機関等が使う場合でも、ある程度の形式が法律で定められてい。ただ、より強力な対策を必要とするテロリストや非合法組織は法を無視して強力な形式を利用することが多々ある。
また攻性防壁に対する防御手段として、『身代わり防壁』というものも開発されている。
通信時にこの機器を中継させることで、攻性防壁による攻撃を受けた際、身代わり防壁が文字通り身代わりとして破壊される。これによって電脳を守ることができるのである。破壊されることが役目なため、使い捨て。

  • 防壁迷路
電脳に不正アクセスしてきたハッカー等を防壁内に取り込むことで、システムや電脳を守るプログラム。
意図的に電脳遭難を引き起こすためのトラップである。
種類が多く、防壁に取り込むだけで時間稼ぎ程度にしかならない物から、かかった者に幻覚を見せる高度な物まで存在する。

  • デコット
電脳技術による遠隔操作義体のこと。デコイ+ロボットの略。
脳殻の入っていない義体で、外部からコントロールして使用する。
高い電脳スキルがないと上手く動かすことができない。

【到達地点】

主として原作世界の話となるので注意されたい。
メタ的に語ると、実際のところ原作攻殻機動隊は原作アップルシードのポセイドン編として描かれた側面が強い。*33
そしてアップルシードの最終到達地点は『人類による「平和の達成」と「宇宙進出・宇宙外交」の開始』にある。*34
その到達地点に至るには物語世界の中といえども、既存の民族問題・宗教問題・国家の利害関係などの問題を一つづつ解決していかなければならない。
そして本項目で取り扱っている「電脳化技術」もそんな世界の諸問題を解決する一つの緒として設定されたものである。
本来は作品として提示されるべきものではあるが、幾らか原作者士郎正宗氏によって公開されている要素があるので取り上げておく。*35

  • 『ゴースト』の意味の変遷
『電脳化』と『義体化』の話題として避けて通れないのが『ゴースト』の存在である。
ゴーストは一般的に「身体を人工物に代替可能になった際に、部位を置換していき、それでもなお最後に残るもの、置換不能のもの、個を特定できるもの」という意味で語られることが多い。
だが、その意味はそれだけに留まらない。(もっとも電脳化技術が発展した初期において、この認識が間違っている訳ではない。)

そもそもゴーストは紅殻のパンドラにおいてウザル・デリラによって定義・命名された概念だが、彼女の語るようにあらゆる物質、森羅万象にそれらは宿るとされている。*36
またこれを考える上では『生命活動とは物理現象の発現にすぎない』という前提も重要となってくる。*37
ゴーストは物質の結合状態の複雑さに合わせてその物体の活動がアクティブになっていく状態を示す指標でもある。
そしてそれは有機生命体由来の『生物』の活動に縛られない。*38
攻殻機動隊原作1巻では人形使いが草薙素子と融合することになるが、この時から「ゴースト」の意味合いが変わり始める。

攻殻機動隊1巻は大きく下記二点の視点から見ることができる。
「人形使いというネットワークを身体とする人工知能が生物脳にまで進出した話」
「草薙素子という女性の身体がネットワーク上にまで拡張し新たなインフラを身体を得た話」
二つの存在の融合*39のことをそれぞれ別視点から言い表したものだが、このことに意味がある。

当然ながら幾ら電脳化を施していようと生物脳はいずれ朽ちてしまう。
しかし電脳化をしている人物に対しAIの補助がある場合、生物脳の働きが低下していった場合もAIの補助によってその人物は存在し続けることになる。*40
本来の存在の根拠であったハードウェアとして生物脳が朽ちてなお、AIの補助により社会的には確かに存在し「あり方」が変質しつつも不可分なものとして消えない存在。
この「既に本人生来の存在根拠が消失しているのになお継続存在し続けているもの」を「まさしく幽霊的な存在」という風に擬えて「ゴースト」の呼称はその意味が変化していくことになる。*41
しかしこのことさえも過程に過ぎず、後述のトロスシステムにより更に生命倫理の意味さえも塗り替えられていく。

  • トロスシステム
攻殻機動隊より遥かに未来*42を描いた作品「NEURO HARD 蜂の惑星」*43には『トロス(生成炉)』というガジェットが登場する。
これは主に『粒子配列スキャナー』『粒子再配列機』『電脳界』の3ユニット相互補完で1組のユニットとして成立している。

粒子配列スキャナー
粒子配列スキャナーとはゴーストダビング装置を祖とする素粒子・分子の実際の配列を読み取る非破壊系の機械
物質の状態を素粒子レベルでスキャンしてデータ化できる究極の3Dスキャナーといった趣の機械である。*44
初期のゴーストダビング装置の問題点*45であったスキャン用の高精細の光が脳神経の構造を破壊してしまう点を克服している。
これにより「生物」は「生きたままの状態」でデータ化することが可能になった。読み取られたデータは『電脳界』に送られることになる。
分解炉の機能を持ち、スキャンし終わった対象の構成物質を「原材料」に戻す機能がついたものもある。

粒子再配列機
「素粒子再配列積層印刷機」「原子積層機」とも。積層印刷の分子、或いは素粒子版。現在の3Dプリンターみたいなものの究極版*46
波長の揃った「動的な光のグリッド」を利用して分子或いは素粒子を任意の座標に落下&定着させる。このことを『ファイルアウト』と呼ぶ。
物語世界の中では「原材料さえあればたいていどんなものでも生成可能」という設定になっている。
これによりデータがあれば「岩石からお菓子」を作ったり、「生物」を「生きたままの状態」で出力することも可能になった。*47
「原材料とデータが存在しているという前提」に立てば、粒子配列スキャナーと粒子再配列機を組み合わせることによってデュプリケーターとして使用可能。
また医療用の「ドクトロス」という生成炉は粒子配列スキャナーの機能と生成炉・分解炉の機能を併せ持つ。*48

電脳界
電脳技術の粋、究極の到達地点。サイバースペースは物質を基底とする物理現実同様に「もう一つの現実」としてリアルタイム進行をしている。*49
前述の粒子配列スキャナーで読み取られたヒトは電脳界に「スキャンされた状態」で現出し、そちらで活動をすることができる。
物語世界の基本原則として『生命活動とは物理現象の発現にすぎない』*50のだが、電脳界はそれらを可能な限り再現することで物理現実と変わらない状態を構成している。
平たく言うと「仮想現実の中でも既知宇宙の範囲で物理現実と何ら変わらない活動が行える」。
もちろん『電脳界を支えるインフラやエネルギー供給が持続可能』という前提条件下のことではあるが、そのための宇宙進出でもある。

これで何ができるのか?
これらの機器を3ユニット相互補完で1組のユニットで組み合わせることによって、人類文明には以下のような変化が訪れた。*51
  • 宇宙進出と『粒子配列スキャナー』『粒子再配列機』の組み合わせによって事実上無限の「原材料」を手にすることになり資源の問題から開放された*52
  • 「生物を生きたままデータ化」したり「物質として再構成」可能になったことによって「怪我・病気・生死」の問題から開放された*53
  • 電脳界が宇宙的規模のネットワークを築き、情報の共有化が行われることによって製造・物流・寡占が無意味化して貨幣経済の概念が消滅した*54

斯様にしてしてヒトは異星人とも協力して電脳界と物理現実世界を必要に応じて往復することによって知的好奇心によりデータを収集するために更なる未開拓領域に進出してゆく。*55

これにより人類はゴキブリ又はネズミに地球を明け渡さず生き延びて未来を創るのである。

実際には各発明品における文化的・倫理的な変化については一揉めも二揉めもあった筈だが、原作者士郎正宗氏は自作品でそういった変遷を描きたかったらしい。
少なくとも攻殻機動隊原作において電脳技術を取り扱ったのはこういった将来描く予定だった作品への架け橋をいくつも散りばめた壮大な伏線だったようである。


またそれらは「国家や民族が消えてなくなる程に情報化された遠い未来」のお話なのである。



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最終更新:2024年12月12日 14:09

*1 『硬電脳』とも。

*2 原作世界では2015年に脳の記憶のメカニズムが解明されている。このこととナノテク技術の発展が電脳化の基礎技術に大きく貢献したと思われる。原作のバトーは外部記憶装置にガブリエルやミハイェルなどの天使の名前を冠した装置を設定しているが、これは飽くまで外部サービスなどへのアクセスキーのことであって記憶をバックアップしている訳ではない。攻殻機動隊SACにはサンセット計画の被害者の身体感覚をシンクロ記録したデータを記録してあったり、麻取の特殊介入班の襲撃に遭って負傷したトグサに対して治療と同時に記憶を抜き出して別の課員が操作に当たるシーンが描写されている。なお、SACにおいて素子の時計やバトーの筋トレマシンのことを「外部記憶装置」と呼ぶ場面があるが、これは文芸的な比喩であって「記憶を呼び覚ますトリガー」くらいの意味でそちらに何かが記録されている訳ではない。

*3 この際に翻訳ソフトとライブラリーが必要になるものの、それを介してネイティブではない言語での意思疎通も可能となる。

*4 記憶そのものや触覚等を伝える演出は原作の脳潜入会議や違法ポルノ製造等でも確認されている。麻取介入班と対峙したトグサの記憶によって感情が伝達されたり、サンセット計画の被害者の感情や感覚まで伝達できる描写はSACシリーズにのみに確認された演出であり、他作品世界でも同様である保証はない。

*5 余談ではあるが、技能習得ソフトは被電脳化者であれば使うことは可能。だがより身体を使うタイプの技能は身体の構造、強度、耐久力などを考慮して適宜最適化はされないため基本的に推奨はされていない。具体的にはサイボーグやアンドロイド用のアプリを生身の人に適用可能だが、技能習得ソフトの方で関節の可動範囲や力加減に関して調整される訳ではないので怪我の元になりがちということになる。

*6 ジーティーオー刊・士郎正宗著『GREASEBERRIES 4』収録の『SLEEP WALKING』参照。※18禁作品集注意!

*7 事実、原作作品の世界では2024年に電脳公害白書論争が巻き起こった。

*8 特に原作作品の日本は2027年に政治の電脳化を謳っている。

*9 代替手段については不明である。

*10 主に原作世界での話。別項目で詳述。ソースは青心社刊・士郎正宗著「PIECES Gem 01 攻殻機動隊データ+α」「PIECES Gem 02 NEURO HARD 蜂の惑星」を参照のこと。

*11 究極の人権侵害として極刑モノである。

*12 border:3ではさらにクザン共和国の中で伝説的な働きをしたスクラサスなる兵士のスキルを模倣し、兵士をインスタントにベテランに匹敵するスキルの持ち主に仕立て上げる様も描かれ、さらにそれがファイアー・スターターに「吸収・バージョンアップ」転用される事例まで起こっている。…一種の茶番劇ではあったが。

*13 パンドーラ・デバイスに使用時間制限があるのはこのため。長時間使用を続けていると電脳マイクロマシンの配列が元に戻らなくなり「実体験したことのない記憶」と本人本来の記憶が混じり合ってどんな変化を齎すのかわからない危険性を避けるための措置である。

*14 詳細は不明。

*15 アオイがネット上で見つけた「笑い男のオリジナル」が記した論文によると初期のセラノ・ゲノミクス製の製品に関しては抑制効果はなかったとされる。アオイがアーネスト氏に語ったように疑獄事件の後に抑制効果があるものが開発された可能性はあるが定かではない。なお村井ワクチンに関しても「理屈はわからないがなぜか効く」といったものであった。

*16 「宗教的理由」は攻殻機動隊SACに、「体質的な理由」については「茶番劇」ではあるものの、RD潜脳調査室に詳しい描写がある。

*17 攻殻機動隊2では貧民街における様が、RD潜脳調査室では詳細が語られている。

*18 RD潜脳調査室に詳しい描写がある。紅殻のパンドラにて電脳について詳しく説明する回にも登場している。しかしいずれの作品も格差を穴埋めするほどのものではないようである。なお「ダイブギア」はRD潜脳調査室においての名称。

*19 イノセンスにおいてバトーがコンビニエンスストアで暴走したケースと、バトーとトグサがキムの防壁迷路に囚われた後の描写が代表的。

*20 状況により『自閉症モード』とされる場合もあるが、意味としては同じである。

*21 SAC_2045における中心的ガジェットであり、あまりに特異な存在ゆえに他作品に対しての考察応用には向かない要素だと思われる。

*22 「脳核」と記述される場合もあるが、意味としては同じである。なお脳殻化施術の際は一度に身体の部位を切除すると神経ネットのフィードバック信号が意味消失してしまうので、神経接続マイクロマシンに置換しつつ「身体が繋がっていると認識させる疑似信号」に置き換える。この技術は阪華精機の社長であるジョン・ジョンジージャック・ジェイムスン氏の発明である。彼は他にもゴーストダビング装置を考案して自ら被検体になったりと、義体や電脳技術に大きな貢献をした人物だったが、ゴーストダビング時のスキャナの光によってニューロネットが少しずつ劣化していき、別人のような犯罪者になり果ててしまった。余談だが、SACに登場するメディテック社の社長とは別人である。

*23 ジェイムスン型義体の始祖である阪華精機の社長は非常に日本のロボットアニメなどが好きなオタク的趣向の人物で自らの身体を人型から乖離させてもこだわらないどころか喜ぶような当時の時代では珍しい人物だったようである。なおジェイムスン社長は公表されているという意味では世界初の全身義体への適合者・アデプタであった。攻殻の100年後の時代になるとアップルシードの主人公の一人であるブリアレオスのような人を外したデザインの義体も出てくるようになる。

*24 攻殻機動隊の原作、イノセンスにはクジラ型の海遊作業に適した義体も登場しているが、これもヒト以上の能力を求めた結果と言える。この海洋生物型の義体は元々は紅殻のパンドラにおいて主人公の主治医である十十八百喜医師が黎明期に考案した「義体に適合できない人物に対してより動作させる部位の少ない義体」を改良発展させたものである。

*25 他者の感覚や技能共有が可能な電脳化と併用することでより高度な能力強化が可能

*26 攻殻機動隊SACでは『パラリンピック』に義体化を施した部門に参加した人物が登場している。紅殻のパンドラには部分義体化を施した人物が参加する『サイバスロン』が登場している。

*27 もちろんメンテナンスは不可欠となるが。

*28 攻殻機動隊ARISE border:3には実際に富裕層においてそのような人物たちが登場している。またRD潜脳調査室の久島永一朗も同様に若い頃の姿のままの姿を模して義体化を施している。

*29 アンドロイドの盗難なので少しニュアンスは異なるが、紅殻のパンドラでは実際に義体やアンドロイドが大量盗難される事件が描写されている。もっとも知らなかったとはいえ犯人は全身義体化している主人公・七転福音をアンドロイドと間違えて拉致してしまったのだが。

*30 それゆえ草薙素子に復讐を企てた相馬亨は公安1課の戦車とシンクロするためにかなりの準備をしていたとする描写がある。

*31 草薙素子はこれらを見越して外見は量産型の義体に入り、内部は民生品では到底及ばない官給品の部品を多数使用している。

*32 子供は一定の時期になると義体を入れ替えるリサイズを行い、年齢なりの身体サイズに合わせるケースが一般的とされている。大人の義体に入ることも可能だが、外見と内面か異なることは、当人の成長の観点から自他共に認識面で好ましくない。

*33 青心社刊・士郎正宗著『PIECES Gem 01』参照。

*34 青心社刊・士郎正宗著『アップルシードid/illust&data』における年表を参照のこと。

*35 可能ならば詳細は各々が青心社刊・士郎正宗著「PIECES Gem 01攻殻機動隊データ+α」「PIECES Gem 02 NEURO HARD 蜂の惑星」を参照して頂きたい。

*36 攻殻機動隊原作1巻P37欄外注釈も参照のこと。

*37 攻殻機動隊原作1巻P343頁欄外注釈参照のこと。

*38 事実ウザル・デリラがゴーストを定義したのは、自ら創造したアンドロイド・クラリオンに「ヒトと同等の複雑さを認めたから」である。ウザル自らがクラリオンに課した「覆るはずのない基底命令を跳ね除けるまでに変質したあり方」はそう認めざるを得ない現象だったようである。この段階でオーバーテクノロジーに匹敵するレベルで構築されていたソロモン級AIのブエルがクラリオンのゴースト相をヒト相当と認定した事実も大きい。

*39 実際のところヒトとAIの融合はこれが初ではなく、アポルシード計画遂行のためにオリオングループによって用意されたソロモン級AI郡の中には計画を乱す要素を排除するためにヒトとAIの融合を監視する存在や融合体の分離、排除を目的とするAI郡が存在している。しかし草薙素子と人形使いの融合体はそれらを出し抜いている特殊な存在である。

*40 人形使いは生物と融合することによって「やがて自分も死を得るわけだ…」としていたが、そうもいかなかったようである。

*41 七転福音がアップルシードの時代まで生き延びているケースもこれに類するものと予測できる。ソースはジーティーオー刊・士郎正宗著『GREASEBERRIES Rough』参照。※18禁作品集注意!参照先の具体的な記述はシリル・ブルックリンの電脳派生体であるマデリーンというキャラクターの説明による。オリジナルのシリル・ブルックリンも発育不全の脳を特殊な電脳マイクロマシンで補っている特殊な存在である。

*42 西暦と同義であるかは不明だが「人類史歴2300年」頃の出来事。西暦換算として攻殻機動隊が西暦2029年~の話なので約300年後くらいか。

*43 ちなみにマンガ作品ではなく「半分マンガ+半分コラムといった体裁の作品」かつ「未完の作品」なのでご了承頂いた上でご覧頂きたい。非常に濃密なアイディアと設定が盛り込まれている作品だが、頁数的にボリュームがある作品とも言い難い。

*44 概念として似ているだけで実際には大きく異なる。

*45 ゴーストダビング装置は本来脳の中にある電脳マイクロマシン網の大まかに位置を読み取り、その電脳マイクロマシン配列を複製対象に再現する機械である。トロスシステムと比較して相当に精度が低いので「おおまかにその人らしい」という大雑把な複製が行える程度の代物だったらしい。ただ本編にてバトーが「大量複写でオリジナルが死ぬので禁止された」と語っている通り、スキャンに用いる高精細の光が脳神経の構造を破壊してしまうので数度のスキャンを行うと対象の脳神経網が劣化してしまい、人格の変容や認知症に似た症状が発生してしまう。紅殻のパンドラに登場したジェイムスン社長と攻殻機動隊本編に登場したジェイムスン社長の性格が異なるのは、発明者であるジェイムスン社長が自らを実験体にして数度の脳スキャンを行った結果、神経網が劣化してしまい人格の変容が起きてしまったためである。

*46 こちらも現在の3Dプリンターに似た概念ではあるが、実際には大きく異なる。

*47 そこに至るまでには「ファイルアウト(マテリアライズ)途中の身体構造に対して圧力や重力の影響をどうするのか」などの相当に難しい課題をいくつも克服する必要があったらしい。

*48 患部をスキャンしつつ「正常な状態」に構成物質を再配列して患部を治療・再生成する。

*49 「物理身体をもサーバー内に内包する究極のメタバース」とでも言うべきものだが、実際には大きく異なる。また映画「GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊」や「イノセンス」で語られる「均一なるマトリクスの裂け目の向こう側」や、SACでクゼが語る「革命」、ARISE(新劇場版)で語られる「第三世界」やSAC_2045で語られる"N"はこれらと似た概念ではあるが、同一のものではない。前述の映像作品の例は飽くまで「黎明期における実証不能の憧れや理想」や原理不明のSFガジェットでしかない(それはそれでお話は成立しているので問題がある訳ではないが)。実際SAC2ndシーズンでタチコマたちが語っている通り、記憶というデータだけで「電脳的な生物」を再現することは難しいと思われる。なぜなら原作設定によると「生命活動は物理現象の発現にすぎない」ので、依拠する物質構成まで再現できないと記憶・記録は単なるデータにすぎず、そこに独立した存在が成立するとは考え難い。電脳界はサイバースペース内部に物質の構成さえも再現しているので「第三世界」に似た概念のことが成立しているが、「ラプラスの悪魔」が如き演算能力を有している未来のハードウェアなくしては成立しえなかったのだろう。

*50 仙術超攻殻ORION風に言うと「無理なく時を往来できるのは仏質(物質)だけ」ということになるか。

*51 実際これに以外にも理想の身体状態で常にファイルアウトされるので食事の必要がなくなっていたり、地球人類種に本来存在しない異星人にある感覚器官を持てるように自己同一性を保ったまま構成情報を書き換えてファイルアウトしたりと様々なことが可能となっているが、代表的なものだけ取り上げる。

*52 エネルギーの問題もあるが、ここでは取り扱わない。

*53 当然ながら前提として「スキャンした対象生物のデータは必要」になる。物理世界において不幸にも『死ぬ』個体は存在する。そういった状況下に電脳界にスキャンしたデータがある場合、その個体は「スキャンされた時点からやり直す」ことになる。なおスキャンは単純化された上で日課となっているらしい。書き戻しに関しても電脳的・霊能的な手段を用いて齟齬がでないようにできるまでに科学は発達しているようである。まるでゲームの「セーブ&ロード」や「ロールバック」のような状態だが、そういったことが現実に可能になっている世界なのである。よって同時に複数の同一個体を存在させるような「生物の複製」すら可能になっている。実際そういった状態は「蜂の惑星」の中では描写されている。

*54 もちろん知的生物の活動領域に充分なエネルギーと原材料とトロスシステムが存在することが前提にはなるが。

*55 要するに「宇宙時代において探査や活動を継続していく場合、最小限のハードウェアに情報と仮想空間の社会をまるごと積載し、物理世界に干渉する必要が出た場合は状況に応じて現地にある原材料を転化した方がエネルギー効率が良い」という考え方なのだと思われる。それにしては作中のホウセンカ号はそれなりの規模ではあるのだが。