能力語(MTG)

登録日:2023/02/06 Mon 17:43:00
更新日:2025/05/01 Thu 22:15:26
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207.2c 能力語は、能力の最初にイタリック体で書かれている(以前の日本語版ではフォントが区別されておらず、―で区切られていることで区別する必要があった)。能力語は、同様の機能を持ったカードを区別できるようにするために定められたキーワードのようなものであるが、ルール上の意味を持たず、総合ルールに独立した項目を持たない。(後略)
― 総合ルールより引用

能力語とは、TCG『Magic the Gathering』におけるカードのテキストにおいて使用される表現の一つ。
各セットで用意されるメカニズムをわかりやすくする指標として付与される単語である。


概要

英語などの海外版では斜体、日本語版では教科書体で表記される。
特徴として、能力語そのものにルール上の意味は存在しない。
そのためある能力語が他のカードのテキストによって参照されることはなく、その部分を無いものとして扱っても問題ないようにできている。
セット内における新メカニズムを示したり、同じメカニズムの動きを分かりやすくするといった役割で使われる。
また共通の記述が入るため、同じ様な動きをするカードを検索しやすくなるという効果もある。
簡単に言えば「公式が付けた通称」といったところ。

例として、以下の2枚のカードを提示しよう。
裕福な亭主/Prosperous Innkeeper (1)(緑)
クリーチャー — ハーフリング・市民
裕福な亭主が戦場に出たとき、宝物トークン1つを生成する。(それは、「(T),このアーティファクトを生け贄に捧げる:好きな色1色のマナ1点を加える。」を持つアーティファクトである。)
これ以外のクリーチャー1体があなたのコントロール下で戦場に出るたび、あなたは1点のライフを得る。
1/1
社交界の野心家/Social Climber (2)(緑)
クリーチャー — 人間・ドルイド
団結これでないクリーチャー1体があなたのコントロール下で戦場に出るたび、あなたは1点のライフを得る。
3/2
上の《裕福な亭主》は「フォーゴトン・レルム探訪(AFR)」で登場したカード。
出た時に宝物・トークンを生成してマナ加速ができ、自身が居続ければ他のクリーチャーが出るたびにライフを回復出来る優秀なクリーチャーである。
一方で、能力そのものは特にセット固有のメカニズムと関わっているわけではない。
下の《社交界の野心家》は「ニューカペナの街角(SNC)」で登場したカード。
こちらも自身が居る限り他のクリーチャーが出るたびにライフを回復できる。
こちらはセットの舞台となる次元、ニューカペナに存在する組織「舞台座一家」関連であることを表す能力語「団結」が用いられている。

……下線を引いたライフ回復能力の部分を見比べてもらえればすぐ理解できるだろう。
細部の記述は異なるが、この2枚の持つライフ回復の能力は全く同じ様に機能する。
そしてそれは《社交界の野心家》から能力語である「団結」の部分を取っても変わらないのだ。
逆に仮に《裕福な亭主》のライフ回復能力の方に「団結」を付けたとしても変わらない。

能力語が初めて使用されたのは「神河救済(SOK)」の「魂力」と「掃引」から。
それより前の時代のセットにも「スレッショルド」や「刻印」があるが、これらについては時代で扱いが変わっている。

他メカニズム用語との違い

しばしば混同されがちな概念として「キーワード能力」「キーワード処理」「フレイバー語」が存在する。
キーワード能力やキーワード処理は能力語と合わせて「メカニズム」として一纏めにされることが特に多いが、全く別物である。
これらの違いは以下の通り。

  • キーワード能力/キーワード処理(例:飛行、速攻/格闘を行う、切削する)
    これらは「ルール上で定義されている言葉」である。つまりルールブックに「飛行を持つカードは、こう扱う」などとはっきり書いてあるもの。
    なので単に「飛行」「切削する」という単語だけ書いてあっても、ちゃんとそのルールに従って扱わなければならない。
    カードに説明が書かれていることもあるが、それは知らない人への配慮として書いてあるだけであり、無くても機能する。
    また「飛行を持つクリーチャーにダメージを与える」「対戦相手がカードを切削するとき」というように、他のカードの効果で参照されることがある。

  • 能力語(例:上陸、星座、強襲)
    これらは「ルール上の意味を持たない言葉」である。ルールブックにも「上陸を持つカードはこう扱う」などとは書いていない。
    つまりそのカードの個別の能力に対し、わかりやすくするために共通の呼称を付けてあるだけのもの。
    あくまで呼称でしかないので、例えば「上陸」と単語だけが書いてあることは絶対に無い。その後に必ず説明文が書いてあり、そっちが本体である。
    ルール上の意味を持たない呼称でしかないので、他のカードの効果で参照されることも無い。
    同じ能力を持つカードたちに同じ呼称を付けることで、同じカテゴリーのカード群であることを分かりやすくするためにある。
    また検索には引っかかるので、同じ様な動きをするカードを探しやすくなるメリットもある。

  • フレイバー語
    ルール上意味を持たない呼称、という点では能力語と同じ。
    異なる点はその用途。これらはそのカード単体のフレイバーを表現するためのものである。
    能力語が複数のカードで共有され、同カテゴリーであることを示すのに対し、これらは基本他のカードと共有されない。
    たまに共有する例もあるが、それでも能力語ほど枚数は多くならない。

まとめるとキーワード能力/処理とは似ているようで明確に別物、フレイバー語とは近い存在で意図が違うといったところ。

能力語とキーワード能力/処理を見分ける方法としては、その単語に括弧で囲まれた文章が付随しているかを確認するのが一番手軽。

上陸 ― 土地が1つあなたのコントロール下で戦場に出るたび、ターン終了時まで、アクームのヘルハウンドは+2/+2の修整を受ける。
飛行このクリーチャーは飛行や到達を持たないクリーチャーによってはブロックされない。

前者は後の文章が括弧で囲まれていないので能力語。それ単体では意味を持たないので、後には主体となる効果説明が省略されずに書いてある。
後者は括弧で囲まれた文章での解説があるのでキーワード能力。それ単体で機能するので、後の説明はただの注釈でしかない。
そのため括弧で閉じられているし、場合によっては省略される。
特別なアートやフレームのカードならば、注釈文が基本省略されるのでより判別しやすくなるだろう。

能力語とフレイバー語はフレイバーの意図の違い以外に意味は無いため、特に気にする必要はない。
ただフレイバー語が初登場した「フォーゴトン・レルム探訪(AFR)」では能力語の「集団戦術」と同時収録だったので紛らわしかったりした


代表的な能力語

スレッショルド/Threshold

陰謀団の儀式/Cabal Ritual (1)(黒)
インスタント
(黒)(黒)(黒)を加える。
スレッショルド あなたの墓地にカードが7枚以上あるなら 、代わりに(黒)(黒)(黒)(黒)(黒)を加える。
「オデッセイ・ブロック」で登場した、コントローラーの墓地にカードが7枚以上ある場合に付加される能力を示す能力語。
基本的にはメリットが付与されるが、同時にデメリットが付与される場合もある。
墓地利用を得意とする黒のカードが一番多い。反対に青のカードはかなり少なめだったが、「ブルームバロウ」で青黒のメカニズムとして使われたことである程度増加した。

実は「時のらせん(TSP)」まではキーワード能力であった。
「あなたの墓地に7枚以上のカードがある場合、このオブジェクトは[「スレッショルド ―」の文章]を持つ」という特性定義能力として定められていた。
基本的な動きは現在と変わらないが、墓地の枚数が規定未満だとそもそもその能力を持っていない扱いになるのが現在との違いである。

上陸/Landfall

水蓮のコブラ/Lotus Cobra (1)(緑)
クリーチャー ― 蛇
上陸 土地が1つあなたのコントロール下で戦場に出るたび 、好きな色1色のマナ1点を加える。
2/1
深遠の謎/Mysteries of the Deep (4)(青)
インスタント
カードを2枚引く。
上陸 このターン、土地があなたのコントロール下で戦場に出ている場合 、代わりにカードを3枚引く。
「ゼンディカー・ブロック」で登場した、土地が戦場に出ることに関係する能力を示す能力語。
次元としてのゼンディカーを代表する能力語であり、スタン外のセットで用いられることもある。
「パーマネントの場合と非パーマネントの場合であらわす特性が全く違う」というめんどくさい問題児タイプの能力語の中でも特に有名。

パーマネントの場合は「自分のコントロール下で土地が出るたびに誘発する」能力を示す。
非パーマネントの場合は「そのターンに自分のコントロール下で土地が出ていたら異なる効果が適用される」ことを示す。
いずれも通常は自分のターンでしか使えないが、フェッチランドや土地を出すインスタントなどで工夫すれば相手のターンにも使える。
とはいえ混ざった時のややこしさが開発側でも問題視されたためか「ワールドウェイク(WWK)」を除き非パーマネントの「上陸」持ちは登場していない。

また「Unfinity(UNF)」の発売と同時に落葉樹*1として定義された。
これによって《不屈の追跡者》や《水底のドルイド、タトヨヴァ》のように同条件だが「上陸」を使っていなかったカードにも付与されるようになった。

版図/domain

ドラコ/Doraco (16)
アーティファクト・クリーチャー — ドラゴン
版図 ― この呪文を唱えるためのコストは、 あなたがコントロールする土地の中の基本土地タイプ1種につき 、(2)少なくなる。
飛行
版図 ― あなたのアップキープの開始時に、あなたが(10)を支払わないかぎりドラコを生け贄に捧げる。このコストは、 あなたがコントロールする土地の中の基本土地タイプ1種につき 、(2)少なくなる。
9/9
コントロール下の基本土地タイプ*2の種類数によって効果が変わる能力を示す能力語。
メカニズムそのものは「インベイジョン(INV)」で登場し、後の「コンフラックス(CON)」での再登場時に能力語として名前がつけられた。

基本土地タイプが多くなる=デッキの多色化が要求されるため、多色を推奨するメカニズムである。
能力の都合上、複数の基本土地タイプを持つ多色土地と相性が良い。
「団結のドミナリア(DMU)」で再登場した際には3つの基本土地タイプを持つトライオームと組み合わせて活躍した。

星座/Constellation

開花の幻霊/Eidolon of Blossoms (2)(緑)(緑)
クリーチャー・エンチャント ― スピリット
星座 開花の幻霊か他のエンチャント1つがあなたのコントロール下で戦場に出るたび 、カードを1枚引く。
2/2
敬虔な旅人/Pious Wayfarer (白)
クリーチャー — 人間・スカウト
星座エンチャントが1つあなたのコントロール下で戦場に出るたび、クリーチャー1体を対象とする。ターン終了時まで、それは+1/+1の修整を受ける。
1/2
「ニクスへの旅(JOU)」で登場した、エンチャントが自分のコントロール下で戦場に出ることで誘発する能力を示す能力語。
いわゆる「エンチャントレス(女魔術師)」とは使い勝手が少々異なり、蘇生やトークンでも誘発する一方、唱えても戦場に出ないと誘発しない。

初登場した「ニクスへの旅(JOU)」ではエンチャントであるパーマネントのみが持っている。そのため自身が出た時にも誘発する。
再登場した「テーロス還魂記(THB)」では、逆にエンチャントでないクリーチャーのみが持っている。こちらは自身が出た時には誘発しない。
いずれのセットでも「瞬速」を持つエンチャントである指図サイクルやお告げサイクルによって相手ターンに誘発させることも可能。

魂力/Channel

星々の光の思念/Shinen of Stars' Light (2)(白)
クリーチャー ― スピリット
先制攻撃
魂力 ― (1)(白), 星々の光の思念を捨てる :クリーチャー1体を対象とする。それはターン終了時まで先制攻撃を得る。
2/1
増員された浪人/Reinforced Ronin (赤)
アーティファクト クリーチャー — 人間(Human) 侍(Samurai)
速攻
あなたの終了ステップの開始時に、増員された浪人をオーナーの手札に戻す。
魂力 ― (1)(赤),増員された浪人を捨てる:カード1枚を引く。
2/2
「神河救済(SOK)」で登場した、そのカードを捨てる事をコストに含む起動型能力を示す能力語。
発揮される能力は様々。それゆえに「他のメカニズムを代替できてしまう」というキーワード能力における「キッカー」に似た問題を抱えてもいる*3

それらと差別化するための要素として、「神河救済(SOK)」ではスピリットのみが持っていた。
再登場した「神河:輝ける世界(NEO)」ではアーティファクトとエンチャント、土地のみが持っている。
どちらにおいても、「魂力」による能力はそのカードが素で持つ能力と関連がある場合が多い。

強襲/Raid

帆綱走り/Rigging Runner (赤)
クリーチャー ― ゴブリン・海賊
先制攻撃
強襲 このターンにあなたが攻撃していたなら 、帆綱走りは+1/+1カウンターが1個置かれた状態で戦場に出る。
1/1
「タルキール覇王譚(KTK)」で登場した、クリーチャーで攻撃していたターンに適用されたり、起動できるようになる能力を示す能力語。
初出の「タルキール覇王譚(KTK)」ではマルドゥ族(赤白黒)に、再登場した「イクサラン・ブロック」では海賊(青黒赤)のメカニズムとして登場している。
必然的に黒と赤のカードが多く、緑には1枚も存在しない。どちらにおいても攻撃的な動きを推奨している。

指定したマナ域からクリーチャーをランダムに出す特殊ルール「モミール・ベーシック」では、プレイヤーを悩ませる厄介な能力と化す。
出る時に適用されるタイプは戦闘後に出したい一方で、戦闘後に速攻持ちを引くと裏目になってしまうからである。

紛争/Revolt

致命的な一押し/Fatal Push (黒)
インスタント
クリーチャー1体を対象とし、それのマナ総量が2以下であるなら、それを破壊する。
紛争このターンにあなたがコントロールするパーマネントが戦場を離れていたなら、代わりに、そのクリーチャーのマナ総量が4以下であるなら、それを破壊する。
「霊気紛争(AER)」で登場した、このターンに自分のパーマネントが戦場から離れていたなら有効となる能力を示す能力語。
この「戦場から離れていた」という条件が非常に緩く、自他はもちろんトークンかどうかすらも問わない。
実戦ではフェッチランドを使ったり、宝物トークンを生け贄にしてマナを出したりする自作自演で達成されることがほとんど。
条件の緩さに加えて性能も優秀なものが多く、広く環境で使われるカードも存在している。

フレイバー面としては「カラデシュ領事館による圧政に対して反抗するカラデシュ市民」を表している。
……はずなのだが、条件がゆるゆるで自演でもOKだったせいで「カラデシュ市民は些細なことでブチギレて紛争を起こす連中」とネタにされる羽目に。

議決/Will of the Council、動議/Council's dilemma

議会の採決/Council's Judgment (1)(白)(白)
ソーサリー
議決 あなたから始めて各プレイヤーは 、あなたがコントロールしていない土地でないパーマネント1つに 投票する 。最多あるいは最多と同数の票を獲得した各パーマネントを追放する。
召し上げ/Expropriate (7)(青)(青)
ソーサリー
動議 あなたから始めて各プレイヤーは 「時」または「金」の いずれかに投票する 。「時」1票につき、このターンに続いて追加の1ターンを行う。「金」1票につき、その票に投票したプレイヤーがオーナーであるパーマネント1つを選ぶ、それのコントロールを得る。召し上げを追放する。

それぞれ「コンスピラシー(CNS)」「コンスピラシー:王位争奪(CN2)」で登場した、プレイヤーに投票させる能力を示す能力語。
「議決」は「最多か最多同数の票を得ると効果が変わる」のに対し、「動議」は「得た票1つにつき何らかの効果を行う」のが違い。

いずれも多人数戦での駆け引きを意識されている。
ただ「議決」は「『4対0』と『3対1』といった場合の違いが無い」「2人対戦では発揮される効果がほぼ決まってしまう*4」といった問題点が存在した。
そのため「コンスピラシー:王位争奪(CN2)」では1票ごとに意味がある「動議」を新造・収録したという経緯がある。


余談

  • 能力語は無視しても問題ない、と言うのは概要で述べた通り。
    だが実は
    ・指定した能力語に紐づく文章を失わせる《Pithing Spyglass》
    ・指定された能力語を持つ呪文のコストを(1)軽減する《Inspirational Antelope》
    というごくわずかな例外がある。
    ……といってもどちらも「Mystery Booster」にのみ封入された、構築フォーマットでは使用できない「R&D Playtest cards」のカード。
    なので「Mystery Booster」でのリミテッドを行う時でもなければ気にしなくていい。



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最終更新:2025年05月01日 22:15

*1 必要な場合にはいつでも使えるメカニズムの呼称。

*2 「平地」「島」「沼」「山」「森」の5つの土地タイプ。基本土地タイプを持つ土地は、テキストに書かれていなくてもルール上対応する色のマナを生み出す能力を持つ。

*3 たとえば例に挙げた《増員された浪人》の「魂力」能力は、「サイクリング」時に誘発する能力に関わらない以外は「サイクリング (1)(赤)」と完全に同等である。

*4 特に例に挙げた《議会の採決》は2人対戦だと「呪禁」や「被覆」を無視する強力な確定除去になってしまう(相手は他のを選ぶと2つ追放で被害が拡大するだけである)ため、多人数戦向けのデザインの失敗例として度々挙げられる。