Return of the Obra Dinn

登録日:2023/03/05 Sun 21:24:00
更新日:2024/12/22 Sun 10:53:06
所要時間:約 9 分で読めます






「オブラ・ディン号」

情報、求む

1803年、航海中に消息を絶つ



『Return of the Obra Dinn』(邦題:オブラ・ディン号の帰還)は、『Papers,Please』を作ったゲームクリエイターLucas Pope氏が開発した推理ADVゲーム。
2018年10月18日にPCゲームとして登場し、1年後にはPS4・Xbox One・Switch版もそれぞれ提供されている*1


概要



時は19世紀初頭。4年の消息不明を経て無人で戻ってきた商船「オブラ・ディン号」を舞台に、
プレイヤーは東インド会社の保険調査員を主人公として乗員たちがいかなる末路を遂げたのかを解き明かしていく。

主人公を導くのは謎めく前書きが記された手記、そして不可思議な力を持つ時計。
死体の痕跡を通じて最期の瞬間を垣間見ることで、船員・乗客合わせて60名の安否、死因……そして下手人が少しずつ明らかになっていく。

しかし、主人公は開始時点で乗員名簿と船上で描かれたスケッチ群しか手がかりを持っていないため、登場人物それぞれの身元が全く分からない
全編を通じて1ビットモノクロの陰鬱さを強調するグラフィックも相まって登場人物を顔貌から判断することには限界があるため、
プレイヤーは現実と記憶の中のオブラ・ディン号をくまなく探し回り、正体を特定する手がかりを見つけて各人物の正体を洗い出していくことになる。

そして手がかりはゲーム的なフラグとして表示されることはないため、シーン内の些細な描写からプレイヤー自らが推理していく必要がある。
僅かな瞬間の会話の中に出てきた名前は誰のものか?誰かが喋った外国語は一体どこの言葉か?
顔でダメなら身体や持ち物から正体を推測できないか?或いは服装から推理する手がかりはないか?
割り当てられた職務、部屋や寝床を解明できれば芋蔓式に正体がわかるだろう。とすれば船内の構造それ自体も手がかりになる筈……
なんならただ立っているだけのシーンさえ、「誰が傍らにいるのか」という情報を提供してくれるだろう。
こうした要素の積み重ねを経て、プレイヤーはこの船の真相に段階的に近づいていくことになる。

プレイヤー自らの手で事件を解き明かしていくことにこだわった骨太のゲーム設計と、
徐々に内情を明らかにすることでオブラ・ディン号を襲った惨劇へとプレイヤーを引き込む物語構造は抜群の噛み合いを見せ人々を魅了。
The Game Awards 2018のBEST ART DIRECTIONを勝ち取るなど高い評価を集めている。


用語



  • 商船「オブラ・ディン号」
イングランドのファルマス港から喜望峰を目指し出港するも、1803年に消息を絶った商船。
1807年に前触れなくファルマス港に帰着するも、乗員51人&乗客9名が悉く蒸発した無人船と化していた。
船の管理者であるイギリス東インド会社から主人公が派遣されたことで、物語は幕を開ける。
諸々を考慮した上でも尚、誰か気付いてやれよと言いたくなる放置死体が2つほどある。長い航海は人を鈍感にするのかもしれない。

  • 『オブラディン号の帰港 その航海と悲劇の記録』
主人公に託された未完成の手記。
中にはヘンリー・エバンズを名乗る人物による序文と、乗員名簿や船内図、(1名を除く)全員の顔を網羅するスケッチ群*2
そしてオブラ・ディン号を襲った出来事を暗示するいくつかの章題が割り振られている。
残留思念を垣間見ることで徐々に内容が充実していくこの手記を完成させ、エバンズの指示した宛先へと返送することが本作の目的となる。

本作の謎解きはこの手記を通じて登場人物の正体及び安否を記録していくことが中心となるが、その正解は段階的にしか明かされない。
3人の人物について正体・安否・(死因によっては)下手人の全てを特定することに成功すると、「調査進展」としてその内容が確定する仕組みとなっている。
そのためいざとなれば、総当たりで不明部分を順繰りに当てはめていくとそのうち確定する。
なお死因についてはある程度の解釈の幅が認められており、そのどれかに当て嵌まれば正解として処理される。でなきゃやってられないくらい形容しがたい死に様の奴も少なくない。

  • ”メメント・モーテム”
主人公に託された奇怪な力を持つ懐中時計。中央には髑髏があしらわれている。
死の痕跡を前にすると針が逆走して反応し、この状態でアクションを行うと死者の残留思念を再現した世界へと主人公を誘う。謎解きの中核を担う本作の最重要ギミック。
記憶の中に別の死体が存在すると針を無軌道に動かしながら大きく震えだし、この状態から
アクションでその死体を強調表示→死体の場所まで行ってアクションで”その死体の思念”を吸い出し現実へ帰還→現実でさらにアクションで”死体の思念”を吐き出しそちらへの侵入が可能に
という過程で連動して別の残留思念へと案内することも。重要な機能なのだが初見では確実にビビる。

一方であくまでも「死者の痕跡から記憶を垣間見る」物品であり、眼前に何かしらの死の痕跡がなければいかなる反応も示さない。
このためプレイヤーは手がかりを見直すためには対応する地点まで足を運ぶ他なく、また死の痕跡が船上或いは思念の中で確認できない一部の登場人物の末路は覗けない。
結果、一番情報量の多いシーンを見直すために「うんこしてたら死んだ人」に足繫く通いその排便音を聞く羽目に……

  • ”貝殻”
乗客であるフォルモサの王族一行*3が持ち込んだ神秘的秘宝。
眩く輝くこの貝殻を一行は昼夜を問わぬ警備体制を敷きつつ隠し持っていたが、積み荷の強奪を目論む一派の暴挙によってその存在は白日に晒され、オブラ・ディン号の運命は暗転することとなる。
現実世界のオブラ・ディン号からは既に喪失済み。しかし、その輝きはどこかで目にしている筈。


登場人物



1807年

  • 調査官
本作の主人公となる、東インド会社の保険調査員。性別は開始時にランダム設定の模様。
本作は完全一人称視点のためその姿は判明せず、名前も一切読み取れない達筆のサインでしか示されない。
真摯に事件に向き合う探求者となるか、事件から目を逸らし逃げ帰る臆病者となるか或いは適当な結論をゴリ押す”仕事の早い”社員となるかはあなた次第。

  • ボートを漕ぐ男
主人公をオブラ・ディン号まで送り届けた東インド会社の一員。
天候の悪化(=船上で確認できるすべての記憶の発見時)以降、主人公が調査を切り上げるのをずっと待っている。
彼と共に帰港を選んだら最後、オブラ・ディン号へはもう戻れない。調査結果に後悔はないか、よくよく考えよう。


1803年

オブラ・ディン号の命運に関わる人々。
あらゆる情報がネタバレを含むため、本記事では役職の解説以外は割愛させていただく。

  • 18人の職員
オブラ・ディン号を差配する士官たちや、管理職或いは専門職を任ぜられた人々。
船長とこれを補佐する4人の航海士を中核とし、水夫を監督する甲板長・甲板手、武装管理と非常時の戦闘監督を担う掌砲長・掌砲手、そして操舵手によってオブラ・ディン号は運行されている。
専門職としては船医とその助手、船の補修修繕を担う船匠とその助手、料理人や家畜番に事務長、そして記録要員としての画家が同行している。

  • 8人の乗客
オブラ・ディン号のお客様
大きくフォルモサ王族一行の4人組と、それ以外の人々に分けられる。

  • 6人の司厨手
給仕たち。乗組員の身の回りの世話を担う他、士官担当の者は士官の手足として動き回ることも。
船長及び各航海士に一人ずつの専任司厨手が就き、これに加え船全般の世話を担う司厨手が一人いる。

  • 3人の士官候補生
修行中の新米船乗りたち。
寝食を共にする仲間と共に、各職員の作業を手伝い、見習いながら船上の職務を学んでいる。

  • 10人の檣楼員
  • 15人の甲板員
各国から集められた水夫たち。
身軽さを活かしマスト上や索具上・外壁での作業を行うのが檣楼員、それ以外の専ら肉体労働を担うのが甲板員。

  • ?????
乗員名簿にその名を残さないものたち。
身分特定の必要はないが、本作の謎を解き明かす上で彼らの生と死もまた、欠かせないピースとなる。





各章に正確な事実を追記・修正して記事を完成させたのち、
保証付き郵便にてモロッコのフランス人駐在所まで郵送してほしい。

ただし、各事件の内容は、今は伏せさせてもらう。
私はその顛末を把握しているが、今は他者の目にさらす時ではないと判断した。


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最終更新:2024年12月22日 10:53

*1 但し、Steam版は本記事初稿執筆時点でアップデート内容に不備があり、作品の想定する正解と作中描写に矛盾が発生している

*2 スケッチ内の各人物は、正体を特定する手がかりがあるシーンに辿り着くまでぼやけた状態で表示されその貌を判別できない仕様になっている

*3 フォルモサは台湾に対するポルトガル語由来の呼称。……歴史上存在した形跡がない”台湾の王族”が何を指すのかは作中でも明かされずじまいである