野ばらの森の乙女たち

登録日:2023/11/23 Mon 23:37:10
更新日:2023/12/03 Sun 00:37:01
所要時間:約 18分で読めます




『野ばらの森の乙女たち』は2010年になかよしで連載された少女漫画。
作者は白沢まりも。全2巻プラス2話。
テーマは百合でありお嬢様学校である音羽女学院を舞台とした少女同士の恋愛が描かれる。

なかよしではかなり珍しいというか、実質唯一の百合を主題にした作品。
少女漫画誌の中でもオタ寄りのなかよしということもあってかがっつりとした百合モノ。
普通に女の子同士で交際しているし1話目から百合キスシーンがある。

内容は『マリみて』に『ストパニ』を足したようないかにもなお嬢様学校百合。人によってはすさまじく既視感のある設定。
お嬢様学校、女子寮、お姉さま、王子様などの王道百合要素を少女漫画の雰囲気で描いたもの。
歴史あるお嬢様学校に入学した外部生の主人公が王子様女子のお姉さまに恋する物語である。
主な登場人物は主人公の初美、親友のさくら、王子様の泉、その幼馴染の繭子の4人。
テンプレとお約束とベタベタによって構成されている。だがそれがいい。
ただしラストシーンはなかよしの限界に挑戦したものになっている。
直接描写がなければ何やってもいいってわけじゃないんだぞ!?

残念ながら途中で打ち切られた。
2巻までがなかよし本誌連載でそれ以降が増刊号なかよしラブリーでの連載。
しかしなかよしラブリーが本作連載中に休刊になってしまったためあえなく自然打ち切りに。
しかも新規エピソードは2話分しかないため3巻も発売されなかった。その2話は単行本未収録のため読むのは困難。
2巻巻末に3巻の予告として関西弁の少女が登場したが、彼女の正体は未だに謎に包まれている。
それ以降は2017年に電子書籍版なかよしで何故か本作の試し読みが掲載されたくらい。ちなみにその時は「なんと『なかよし』の歴代人気作品がここで読めちゃうよ!!」と宣伝していた。そこまで推すなら3巻出してくれよ。


【あらすじ】


憧れの由緒あるお嬢さま学校「音羽女学院」に入学した初美とさくら。
初日にひょんなことから初美は学園の王子様である泉と出会い仲良くなっていく。
そんなある日初美とさくらは、泉が親友の繭子とキスをしている光景を目にしてしまう
その日を境に初美は泉に対して、恋のような感情を抱いていき……。


【用語】


◆私立音羽女学院
本作の舞台となるお嬢様学校。作中の描写を見るにミッションスクール。
明治から続く由緒ある学校で、敷地の森には野ばらが咲き乱れている。基本寮暮らしであり二人一部屋。
某リリアンのごとくエスカレーター式の模様。初美のように高校から入学した生徒は外部生と呼ばれる。
時代錯誤なぐらいにコテコテな学校。校則で許嫁以外の男女交際が禁じられていたり、「いつ殿方に踊りを申し込まれるかわからない」という理由でダンスの課外授業があったり。だが「ごきげんよう」とは言わない。
学校の治安はあまりよくないらしい。作中でも初美がいじめを受けたり千津子さまがあんなことをしたりしている。


◆音羽の華
「音羽の華」と書いて「ソーシャライツ」と読む。
音羽の学生の代表のことであり、家柄と成績が良くかつ生徒たちに慕われているものに与えられる称号。
作中で言及されているのは泉、繭子、アキの3名。


◆野ばらの森の約束
西寮で古くから伝わっている噂話。
礼拝堂の祭壇で野ばらを交換しひらいにキスをすると秘密の絆で結ばれ、卒業しても特別な仲でいられるらしい。
話が進むごとに本当にキスだけの儀式なのか疑問が生じてくる。


【登場人物】


メインキャラクターは初美、さくら、泉、繭子の4名。
それぞれの心理は
  • 初美→私女の人だけど泉さまのことが好きなのかもしれない……あ、さくらは親友として大好きだよ!
  • さくら→初美のことが好きだけど、こんなこと本人には言えない……
  • 泉→?
  • 繭子→私は泉を愛している。邪魔するやつは死ねばいい
となっている。


◆西園寺初美
本作の主人公。少女漫画の主人公らしい明るく優しい女の子。
感受性の強い性格。そのため作中では様々なものに感動したり、逆に悩んでしまったりする。こんな子が同性に恋をしてしまったことから物語は動き始めた。
スポーツが得意でテニス好きという設定があるが作中では活かしている暇がなかった。

寮で初めて出会ったお姉さまである三条泉に恋をしている。さくらのことは本気で親友としか思っていない。
最初はいろいろ気にかけてくれている泉にあこがれを抱いているだけだった。だがその気持ちは徐々に強くなっていき、泉が繭子と仲良くしている光景に心を痛めたことで自分の恋心を自覚した。そのため泉と繭子の仲を知った時には思わず泣いていた。
このように初美から泉への恋心が本作の主軸。それに付随して親友であるさくらから初美への想いや、泉を思うあまりヤンデレと化した繭子の初美へのいじめなどが描かれる。
入学数か月で女子校のイザコザに巻き込まれるある種不幸な主人公。


◆穂波さくら
さくらの親友であり幼馴染。音羽の寮でも初美と同室。
気が強いしっかり者。小さいときからどこか抜けている初美の手助けをしていたらしい。
回想シーンでは男子にいじめられている初美を助けていた。音羽でもいろいろと思いつめやすい初美のフォローに回っている。

初美に対し友情を超えた淡い恋心を抱いている。長年の片思いだが親友にこんな気持ちを向けてはいけないと考えているタイプ。
1話でとある事情で初美とキスのまねごとをすることになった際は「ほんとうにキスしたら…初美どんな顔するかな…」と呟いていた。
実際初美は泉が特別なだけでノンケ寄りの人。さくらにキスされた際には思わず突き飛ばしていたし、告白された際には明らかに慄いていた(同時に親友の想いに応えられない自分に罪悪感も抱いていたが)。
中盤では自分の気持ちも知らずに泉に恋心を抱く初美にイラつきけんかしてしまう。それでも陰湿ないじめを受ける初美にてをさしのべるなど親友であり続けた。「幼馴染は不憫」というラブコメの法則を体現している人。
恋愛ものにおいてこの手のポジションは滑り台行きが相場だが……。


◆三条泉
学園の二年生。中世的な外見の学園の王子様。
財閥の令嬢で成績トップで乗馬クラブ所属というこれ以上ないくらいの王子様キャラ。
実は高校から入学した外部生。まだ学園生活が2年目にもかかわらず音羽の華になっているあたり本当にカリスマがあるらしい。
気さくで茶目っ気のある面倒見の良い少女。生徒たちにとっては雲の上の存在であるが、本人はそんな立場も気にせず初美たちにやさしく接している。作中でも初美のダンスの練習相手になってやったり、勉強を教えたり。

初美のことがお気に入りらしく作中ではたびたび声をかけている。そんな優しい姿に初美は徐々に恋心を抱くようになっていった。しかし初美は自分の中に芽生えた感情にとまどうようになっていき……。
幼馴染である繭子との仲は複雑。親友であり仲が良く、陰で隠れてキスをするような仲ではある。その反面繭子は泉に極端に執着しており、逆に泉はそんな親友の想いをかなり疎んでいる。……というか繭子が自分に向ける感情を理解しているくせにスルーし、初美と一緒にいようとしている。さらに繭子は泉との関係を今カノと言っているが泉は元カノ扱い。親友だがどこかぎくしゃくした仲である。
ちなみに彼女が初美に声をかけた結果、初美は繭子に目を付けられいじめを受けるようになった。ついでに初美の一番でいられなくなったさくらは精神的にかなり不安定になった。
そういう意味で言うとこの人がすべての元凶なのかもしれない。多分天然女たらし。


◆白川繭子
泉の幼馴染。そして本作のラスボス
王子様っぽい泉とは対照的にお姫さまのような外見の少女。
中身も穏やかでおしとやかなお嬢さま。性格は正反対だが泉とは仲が良く、常に行動を共にしている。
野ばらの森で泉と口づけをするなど、ただならぬ関係であるらしい。

その正体は泉に重い執着を向けるメンヘラ。そのため泉に近づいてくる初美に深い憎悪を抱いている。
繭子が自分のシンパを利用して初美に陰湿ないじめを仕掛けるのが後半のストーリー。
ということで後半の繭子は悪女としてかなりアクティブ。初美へのいじめを失敗したシンパを表向きは許すも、裏では「使えない子たちねえ…」とキレるなど。その場にいたアゲハ蝶をつぶしながら言っているのだから怖い。さらに初美が繭子の家に訪問した際は素手のキャットファイトを繰り広げた。
極めつけに繭子に呆れた泉が初美と野ばらの森の約束を行うことを決めると自殺を試みて飛び降りた(普通に生きていた)。
ちなみに婚約者がいて1巻にチラッと登場している。だが繭子本人は自分にかまってくれない泉を嫉妬させるために婚約者と付き合っているくらいにしか思っていない節がある。実際泉が結婚を気にしないそぶりを見せた時には切れてビンタをかました。
終盤では泉に絶望し、離れようと彼女に内緒で留学を決意するが……。婚約者のお兄さんかわいそう。





【物語の結末】







【なかよしラブリー掲載分について】


一応第二章という位置づけ。掲載誌を増刊号であるなかよしラブリーに移し、2011年春の号および夏の号に掲載された。
だがその次の秋の号を最後に雑誌そのものが休刊に入り、その後受け入れ先も見つからなかったため、そこで事実上の打ち切りに。

物語は新章ではなく一話完結方式。話ごとに登場人物を移し様々な恋模様を描くというスタイルになっている。
そのため前作主要人物たちはあまり活躍しない。



【余談】


◆丘の家のミッキー
『マリア様がみてる』っぽいといわれる本作だが、作者的には『丘の家のミッキー』が好きらしい。
『丘の家のミッキー』は久美沙織による小説作品で、マリみてと同じく集英社コバルト文庫で発刊された女子校もの。80年代の作品なのでマリみての大先輩と言える。
だが百合か百合じゃないかなら百合じゃない。
お嬢様学校もののギャグパロディというか、「物心ついたときからお嬢様学校暮らしの箱入り少女が底辺女子校に転校しカルチャーショックを受ける」みたいな内容である。
1巻から「男が怖いから女同士でレズごっこしてるだけだろ(意訳)」みたいな言葉が出てくる。


◆ブルーフレンド
2010年はライバル誌であるりぼんでも百合漫画『ブルーフレンド』が連載されていた。
「野ばら~」がガッツリした百合だったのに対し、あっちは友情と恋心のはざまを主題にしたもの。
女子中学生心理でたまに言われる「女性は男性と比べ同性との繋がりに重きを置くため多感な思春期はそれが恋のように強いものとなる」みたいなもの。
中学生の歩は同じクラスになった美鈴と仲良くなるが、徐々に彼女から執着心めいた感情を向けられるというストーリー。
同時期に少女漫画二誌で百合が連載されたのは当時話題になったりならなかったりした。
実際漫画ニュースサイトコミックナタリーで「野ばらの森の乙女たち」が紹介された際は「なかよしでも百合」というタイトルだった。
なお少女漫画の百合は「思春期と友情と執着心が混ざり恋のようになる」というパターンが多い。そのため百合は同性愛よりかは思春期病のジャンルに位置付けられがち。
そういう意味で言うと同性愛として百合を描いた「野ばら~」は結構珍しい。



◆なかよしの疑似百合
なかよしにおいてストレートに百合をテーマにしたのはおそらく本作くらい。
しかしこれより過去(および未来)には、男側を女体化させることにより疑似的に百合を主題に作品がいくらかある。
全部キスシーンまでならあるぞ!

まずフクシマハルカの『けだものだもの』。2004年から連載していた。2007年に「4巻に続く!」と言って以降音沙汰がない。
幼馴染のハルキと微妙な関係である女子高生の小夏は、ある日ハルキが夜になると女体化してしまう特殊体質であると知ってしまう。
女体化した姿とのキスのほうが多いというか1話からそっちとである。
ちなみに主人公が女体化した幼馴染となかよしの限界に挑戦しようとするが、直前で男に戻ったためご破算になるというシーンがある。よくよく考えるととんでもないシーン。


もうひとつが遠山えまの『魔女メイドは女王の秘密を知っている』という中世ファンタジーもの。2022年から連載中。
舞台は中世。主人公のリズは予知の力を持つゆえに周囲に疎まれ家には結婚の道具にされ、いつしか男性不審に陥っていた。
そんなある日国の女王シュリエスに拾われ、彼女のメイドとして働くこととなる。
女王のカリスマにいつしか恋に落ちるリズ。だがリズは女王の正体が、魔術の力で姿を変えた女王の弟である第一王子ブラッドであることを知ってしまう。

疑似百合だがかなり百合を意識している作品。
そもそも作者がコミック百合姫で自選アンソロジー出した経験ある人である。
そんなこともあり描写が暴走しがち。初のキスシーンが女王の姿とだったり、ふたりの口移しシーンで何故か背景に百合の花が咲いたりなど。やりたい放題である。




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最終更新:2023年12月03日 00:37

*1 肌に舌を這わせているようにも見える