E-767

登録日:2024/02/04 Sun 10:42:30
更新日:2025/01/19 Sun 09:33:17
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E-767とは、航空自衛隊が保有するAWACS(空中警戒管制機)の一種。
世界中でも4機しか存在しないレア軍用機である。



諸元

全長:48.5m
全幅:47.6m
全高:15.8m
空虚重量:133t
巡航速度:720km/h
最高速度:830km/h
最大離陸重量:175t
レーダー探知範囲:高度3万ft(約9100m)で796km
航続距離:9000~10370km
航続時間:12時間(哨戒時10時間)
乗員:20人
価格:約550億円



事の発端

本機が導入される最大の原因は、1976年9月6日のベレンコ中尉亡命事件まで遡る。
ソ連空軍のヴィクトル・ベレンコ中尉が、当時のソ連の最新鋭戦闘機であるMiG-25に乗り、日本は北海道の函館空港に強行着陸を敢行し西側への亡命を求めた事件である。
これにより、期せずして鹵獲されたMiG-25を返却する前にアメリカが徹底的に調べ上げた結果、
MiG-25は西側諸国が恐れていたような「驚異の超音速万能戦闘機」などではなく「スピードに全てを捧げた迎撃性能極振り機」である事が判明したり*1
万が一の為に出動し一帯を封鎖した陸上自衛隊が道路の不法占拠で道交法違反扱いされるなど、方々に波紋を広げた本件であるが、もう一つ、全く笑えない事実も判明していた。
「日本のルックダウン能力の欠如」である。

ルックダウン能力とはその名の通り、平たく言えば「空から地上を見下ろし(ルックダウン)監視・警戒する能力」のこと。
地上の対空レーダーはその構造上、水平線の向こう側や超低空を飛行する物体は地球の丸みに隠れてしまい探知できない。
このため、そういったものを探知する為には空から地上を走査するレーダーによって監視する必要がある。
それを行う能力がルックダウン能力である。
ただこのルックダウン能力、実は「地形などからの反射波と目標物からの反射波を区別する必要がある」ことからレーダー技術が発展している必要がある。
F-4EJの段階では旧式レーダーだったために自機より下の航空機を捉える事が難しかったのである。

ベレンコ中尉亡命事件では、MiG-25の姿は領空侵犯する前に日本のレーダーが捉えてはおり、それに対応する為にF-4EJがスクランブル発進してはいた。
だが、地上レーダーもF-4EJも超低空飛行するMiG-25の姿を途中で見失ってしまい、次に見つけた時は函館上空であり、そのまま着陸を許す形となった。

今回はたまたま西側への亡命者だったからまだ良かったものの……
もしこれが日本への攻撃を意図した特殊部隊や工作員だったら? 爆撃機や核弾頭を搭載した巡航ミサイルだったら?

低空から高速侵入したMiG-25が函館空港に着陸できてしまった事実は、とりもなおさずこの方法なら日本には侵入し放題、攻撃し放題という事を示していたのである。

これを受け、「日本にもAWACSが必要である」という機運が持ち上がる事となる。
それとは別に中継ぎとしてF-4EJはレーダーユニットをF-16の物に更新し、ルックダウン能力を改善したF-4EJ改となった。


AWACSとは?

ここで一旦横道に逸れるが、AWACS(エイワックス)とはAirborne Warning And Control System の頭文字である。
日本語では「空中警戒管制機」と呼ばれ、その名の通り強力なレーダーと管制能力備えた「空飛ぶレーダー&防空司令部」とでも言うべき電子戦機の一種。
なお、AWACSはE-767及びE-3に搭載されている警戒管制システムの名称であり、空中早期警戒管制機全般を指す語は厳密にはAEW&C(Airborne Early Warning and Control)である。
まあAWACSも今となっては一般名詞化してしまったので使い分けることにあまり意味は無いが。
同じように大型のレーダーを備えたAEW(Airborne Early Warning)、「空中早期警戒機」という航空機もあるが、その名の通り管制(Control)能力がないか大きく劣ると考えればよい。

平時は数百キロ四方を探査できるレーダーで国土を見張り、戦時では安全な後方から戦場をモニターしつつ前線の航空機の戦闘指揮を執る能力を持つ。
警戒機であると同時に管制機でもあるため、もし地上の司令部が壊滅させられてもAWACSが生き残っていればこちらが指揮を代行できる。
当然、敵と本格的に撃ち合いをするための航空機ではないため戦闘機のような運動性は持たず、武装もほぼ積まれていない。精々ミサイルを撒くためのフレア・チャフを持っているかという程度。
だが、上記の通り地上レーダーは地平線の向こう側や地上付近の物体は探知できないが、高空に浮かびながら地上に向けてレーダー照射するAWACSはより広い範囲を、空中のみならず地表付近の物体まで監視する事ができるのが特長。
もしAWACSが北海道を監視していれば、おそらくMiG-25を函館空港に出て来るまでしばらく見失う事態にはならなかっただろう。

欠点は何しろ非常に高価であること。
大型レーダーとその制御コンピュータが飛行機に詰め込まれているようなものであるため一機で戦闘機数機が買えるほど高価で、運用できるのは一部の先進国か金持ち国家に限られる。そのうえ、常時警戒監視を行おうとすると、燃料消費や乗員の疲労、機体のメンテナンスを言った問題にぶち当たり、ただでさえ高価な機体を複数機同時に運用しなければならない。*2
このため、比較的安価で済むAEWを導入したり、F-14やMiG-31のような高性能なレーダーを持つ戦闘機が代わりを務めたりといった例も少なくない。
詳しくは後述するが日本もかつてはそうであった。

因みに、ガンダムシリーズには時々EWAC(イーワック)機という似たような用語が登場するが、これはガンダムシリーズの造語と思われる。
「EWAC」でインターネット検索にかけても現実の兵器がヒットする事は無い。*3


導入、そして開発への道のり

「ベレンコ中尉亡命事件を受けてAWACS導入の機運が高まった」。
……だが何事も機運が高まったからといって、実際には中々簡単に行ってくれるものではない。
いわんや軍事である。そう易々と事は進んではくれなかった。

1976年当時の世界でAWACSといえば、米空軍が開発したE-3 セントリーであった。つまり、当時のAWACS導入の機運とはイコール「E-3購入の検討」を意味する。

しかし当時のE-3は初飛行直後、簡単に言えば一応の完成を見て間もないくらいの時期であり、当の米軍すらまだ運用前。
米軍での運用開始は明くる1977年という当時のアメリカ空軍の最新鋭中の最新鋭機であり、またその中身も最新鋭軍事機密の塊。
更に言えば、そもそも当時のアメリカは兵器輸出に消極的な姿勢を取っていた。
要するに当時のE-3は、如何に友邦相手と言えども金を積めば売ってくれるというような代物では到底無かったのである。
またE-3が単純に高価である点や採用されれば空自史上最大のサイズと重量の機材となる事から運用基地に補強工事を施す必要が出て来るなどの点もあり、結局E-3の導入は一旦見送られる事となった。

結果、代わりに導入されることになったのは60年代から既に運用されていた、比較的小型で安価な(そしてその分性能もそれなりな)早期警戒機E-2 ホークアイとなった。
航空自衛隊としてはやはりE-3が欲しい所だったが、すぐに手に入るのはE-2だけだった以上、致し方ない措置であった。*4
1987年1月、航空自衛隊でE-2の運用が始まるが、それでもめげる事なくAWACS導入の必要性を訴え、E-3は求められ続ける事となる。

1990年12月、切っ掛けとなったベレンコ中尉亡命事件から約14年後にして空自の動きがようやく実り、日本もいよいよ1991年度にE-3を導入する目途が立つ。
しかし不運な事に、丁度その1991年にE-3の改造ベースであるボーイング707が生産終了してしまった
改造元がもう無い以上E-3の新造も不可能となり、E-3は導入できなくなってしまったのである。
これを受けてE-3の導入は一旦白紙撤回される事となる。

またしてもAWACS導入断念かと思いきや、その後ボーイングが代案として提案したのがまだ生産が続いているB-767-200ERをベースとした新たなAWACSの開発であった。
日本側はこれを了承した事で建造が開始、かくしてE-767は誕生する事となった。

なお、E-767には特に愛称などは付けられなかったが、米軍からは「日本のエイワックス」ということでJ-WACS(ジェイワックス)などと呼ばれる事もあるそうである。


配備状況

E-767の発注は1993年度に2機、1994年度にもう2機という二段階で行われた。
しかし、E-3の日本版オーダーメイドモデルとでも言うべきE-767は、僅か4機という発注数の少なさもあって量産効果も効かず価格は高騰、
そのお値段、驚きの約550億円。それまで導入反対の理由として散々高い高いと言って来たE-3の約1.8倍、E-2の約2倍、4機合わせてF-15Jが20機手に入るという超高級軍用機となってしまった。
世界一高価な軍用機でお馴染みB-2爆撃機には流石に負けるが、おそらくそれに次ぐレベルの超高級品である。
因みに、B-2はその高価さをよく「同質量の金とほぼ同価格」と例えられるが、それで言えばE-767も同質量の洋白*5とほぼ同価格である。今一つピンと来ないな
ここまで高価になったのは上記の理由とは別に大人の事情も含まれている。
というのも、当時の日米間では深刻な貿易摩擦が起きており、簡単に言えば日本だけ儲かり過ぎてアメリカから軽く恨まれていた。
そんな状況の中、アメリカから高い買い物をして散財する事で少しでも配慮したかったという面もあったようである。

1号機(501号機)と2号機(502号機)は1998年に、3号機(503号機)と4号機(504号機)は1999年に航空自衛隊に引き渡され、一年間の評価・運用試験の後に浜松基地の飛行警戒管制隊(現・第602飛行隊)にて2000年(平成12年)より運用が開始された。
ベレンコ中尉亡命事件から数えて、実に24年後の事であった。

2024年現在も4機とも浜松基地にて任務に就いており、時たま航空ショーでも飛行シーンを拝む事ができる。
部隊シンボルマークは日本最大の梟であるシマフクロウ。
「森の賢者」の異名を持ち、鋭い目で夜間でも獲物を見逃さないフクロウは、空飛ぶレーダーと精密機器の塊たる本機に相応しいモチーフと言えよう。

アメリカも自国採用に興味を示していた様だったが、結局E-3の後継機に採用したのはE-7 ウェッジテイルで、E-767の新規発注は行われていない。


性能

要は「E-3のレーダーと電子装備を積んだボーイング767-200ER」なので、基本的な性能はそれらに準じる。
自身が発する強力な電波から乗員を保護すべく窓はほぼ全て塞がれているのはE-3と同様。

先述の通り、戦場の外からの警戒と管制を主目的としている性質上、「走・攻・守」で言えば戦闘機と比べればいずれもかなり低いといった所。
武装は無く、身を守るためのチャフやフレアさえ装備していないため、もしミサイルに狙われればイチコロである。
しかし勿論、だからと言って本機が弱い・役に立たないなどという訳では、無論ない。本機は戦闘機でも攻撃機でも爆撃機でもなく、あくまで早期警戒管制機である。
走攻守は低くとも、代わりには他の追随を許さないレベルで突出している。
走力も、未だ完全には姿を消してはいないレシプロ機と比べればより高い。
戦域の外側に展開するという点を考慮すればむしろ戦闘機などより生残性は高いと言える。
もっとも、昨今はステルス戦闘機の台頭や長距離対空ミサイルの発達により、AWACSが安全に飛行できる空域は狭まっているとも予想されているが…

何よりも目を引くのはE-3以来の巨大な円盤のようなロートドーム。
E-3と同じく、直径9.14m、厚さ1.83m、重量6.8tという巨大レーダードームが毎分6回転のペースで回っている。大体天井を潰したグランピング用大型テントが乗っかっているようなものと言えば分かる人には分かるか。
こんなシロモノを載せておいて空力的にはほとんど影響が無いというのだから航空力学というのは不思議である。
搭載されているAN/APY-2レーダーは最大約800kmという探査範囲を持ち、東京上空に居れば北は北海道千歳市、西は下関市を除いた山口県の大部分や大分県東部までがすっぽり収まり、その範囲内の600個の目標の探知と、200個の目標の追尾が可能とされる。
同時に2機飛ばせば東西に長い日本の本土をほぼカバーでき、日本列島のほぼ中央にある浜松基地に所属している事から、日本中どこであれ有事が発生すればすぐに駆け付けては、
もとい現地まで駆け付けるまでもなく、(飛行機のスピード感覚では)さっと移動してすぐ走査が可能となる訳である。
その他情報処理用コンピュータ等も内部に装備し、総合的な電子戦性能はE-3の最新バージョン、E-3Gとほぼ同等とされる。

元が大型寄りの中型旅客機であるB-767であるため胴体はE-3より太く、床面積も容積も広いため、内部の空間も広々としており居住性はE-3より高いとされている。
簡易キッチンやトイレなどは引き続き装備され、乗員の休憩室まで設けられているなど、軍用機として見れば破格の快適さである。
長時間飛びっ放しが前提となるE-767としては、こういった点はカタログスペックに乗らないながらも中々に重要である。

E-2と比べて大きい分、航続距離・航続時間も長いため、より長距離に、より長時間任務に当たる事ができ、またジェット機であるためより高度を高く取り、より早く現場に移動することができる。
飛行距離と時間はアメリカで運用されているE-3を上回り、どちらもE-3の約1.5倍ほどの長さを有する。
なお、E-3より更に大きい自衛隊機中最大級のボディを擁することから、E-3導入検討時に問題になった通り浜松基地はE-767に対応する為に滑走路の補強工事を行う事となった。

2020年代に入った今では20年前の機体であるため、時代に対応する為に度々近代化改修が行われており、
探知距離の延長やF-15Jとの連携、巡航ミサイルの追尾、味方の電子支援といったことが可能になるなど時代を経るごとに性能が強化されている。
今後もしばらくは彼らのお世話になるだろう。


創作での活躍

日本で4機しか運用されていない珍しい機種なので、創作での出番はそう多くはない。
しかし航空自衛隊の出番とあらば、一緒に登場する例も散見される。

有川浩の自衛隊三部作の一つ『空の中』や、同作者の『空飛ぶ広報室』では空自を主役としているだけあって登場場面がある。

トム・クランシーの小説『日米開戦』では、史実とは異なり日本に全10機が導入されており、
本作に於けるE-767は「米軍のE-3を日本が独自に改良を加えた、E-3を上回る性能の最新鋭AWACS」のような扱いとなっている。
コールサインはなんと「神」であり、それぞれ神-1~神-10のナンバーが振られたものが常に三機一組となり交代で日本を警備している。
アメリカ視点の架空戦記なので役回りとしては敵役であり、「まずはこれをどうにかしない事には反撃には回れない」というエースコンバットの敵側の超兵器のような扱い。
終盤ではうち一機はアメリカの逆転の一手として目くらまし攻撃で墜落させられる事になる。
因みに本作の発行は1994年。当時のE-767は現実には配備前どころか完成前の最新鋭機である。

創作でのE-767の活躍といえば、やはり『ACE COMBATシリーズ』が最も代表的だろう。
本作に登場するAWACSといえば専らE-767であり、主人公やその仲間たちの戦いを支えるオペレーターも多くがE-767に搭乗している。
その性質もあってプレイアブル機としての登場機会は無いが、初登場以降エネミーとしても主人公のサポート役としてもほとんどの作品に登場している。
『04』のスカイアイを皮切りに毎回個性豊かなE-767のオペレーターが登場しており、多くの主人公とプレイヤーが彼らの指示に助けられ、時に彼らが飛ばすジョークに和んだ事だろう。

AWACSの性質上、基本的に戦場の外に居るためステージ中に登場する事はほぼ無いが、エネミーとして登場する時は別で、
敵戦闘機部隊等に帯同して(流石に自機だとストールするほど高高度にいる事が多い)は実物のE-767は装備していないECM装置でこちらのレーダーを妨害して来る事がある他*6
『5』では安全な後方で支援に徹していたはずが、主人公部隊の突破力が高過ぎたせいで戦場のド真ん中をウロついていた、もといウロつかされた不運な者も。
一方で味方部隊にも、主人公部隊を電子支援する為に戦闘機同士が撃ち合う戦闘空域に堂々と突入して来る肝の太過ぎるE-767が登場したりする。
電子支援型E-767の近くではミサイルのロック速度やリロード速度が大幅に早まる、通常ミサイル2発を要する敵機の撃破を1発でできるようになるといった恩恵があるため是非活用したいところ。
味方の支援E-767は防御装備として、これまた実物は装備していないフレアを装備している。





追記修正は800km四方を見渡す広い視野で情報を確認してお願いします。

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最終更新:2025年01月19日 09:33

*1 本題から脱線するためここでは深掘りはしないが、実際にはアメリカは本件で判明する前からMiG-25の正体に勘付きかけていたとも言われる。

*2 任務中の機体、補給中または交代用の機体、工場でメンテナンスを受ける機体…と2シフト制でも3機は要る計算になる。

*3 ガンダムの方のEWACはEarly Warning And Control(早期警戒と管制)の略だそうでAirborne(飛翔する)が入っていない。宇宙空間では飛翔という行動自体が無いことや、ホバークラフト等飛翔機以外にこの機能を持たせる場合があるというのもあるとは思われるが。

*4 E-2は米海軍が空母に搭載して運用するために開発させた機体であり、艦載機で艦上での取り回しが良いように小型であることが必須。そして小型であれば搭載できる機器には限りがあり、人員もあまり乗せられない。その為警戒管制能力はどうしても大型機に劣ってしまう。

*5 銅とニッケルと亜鉛の合金。金管楽器や500円玉などに使われている

*6 流石に近年の作品ではE-767が電子戦機として出ることは少なく、プレイアブル機としても登場するEA-18GやEA-6に取って代わられたり、『6』では「EA-200」という同じ767ベースの機体にEC-1などの要素を組み合わせた架空機がその役割を担っている。