海底人間メバル

登録日:2024/09/29 Sun 20:58:00
更新日:2025/07/14 Mon 14:36:06
所要時間:約 5 分で読めます






海底人間メバル』とは、藤子不二雄のマンガである。
海底国の発展のために陸上を次々と沈める海底人たちと陸上人たちの対立、そしてそれを必ずしも快く思わない心優しい海底人の少年・メバルの活躍を描いている。

単行本では、2012年に発売された『藤子・F・不二雄大全集 初期SF作品』に収録されている。


【あらすじ】

突然の大洪水におそわれ世界が沈没の危機に!? 実はこれは陸上人にうらみを抱く海底人が起こしたものだった。心やさしい海底人のメバルはどちらの味方に?
(藤子・F・不二雄大全集 別巻2 Fの森の大冒険,小学館,2011,P.199より引用)
…というのが公式によるあらすじであるが、実際のところ海底人が陸上人に恨みを抱いていたととれる描写は作中になかったりする。


【連載時の状況】

講談社の漫画雑誌『ぼくら』の創刊号である1955年1月号と同年2月号・4月号で連載された。
つまり、この作品は3話(ページ数にすると僅か12頁)しかない。
なぜそんなことになっているのかというと、2話が掲載された次の号で仕事量の多さにパンクした藤子先生がこの作品を含め大量に原稿を落としてしまったから。結果連載が打ち切られ、話を畳むために1号飛ばして最終話が掲載されたのである。ここらへんの詳しい事情は後ろの【『まんが道』において】という項で触れる。

なお、藤子不二雄名義の時代の作品ではあるが、実際の執筆はF先生が行っていたらしく、「藤子・F・不二雄大全集」などでもF先生の単独作品として扱われている*1


【登場人物】

  • メバル
主人公。
地上を次々沈める海底国の一員ではあるが、避難船に乗り遅れ取り残されたムク博士を救うため単身海に飛び込むなど心優しい性格。
洪水自体についても「陸の人が気の毒」と述べるなど、考え方も穏健派である。
また、鮫に襲われた際にトラックを投げつけて撃退するなど身体能力の高さも窺える。
これらを買われたのか、物語中盤*2では大統領から陸上の人々の間に入って色々調べて来るように命令を受けている。

+ 終盤のネタバレ
大統領のやり方をじれったいと断じ、全ての陸上人を滅ぼさんと独断で地上の総攻撃に打って出た司令官。
その暴走から地球を守るためにメバルは潜航艇に乗り込み、単身で砲台に突撃
かくして砲台と司令官の一派は潰滅し、地上は守られたのであった。

名前はそのまま魚類のメバルからだろう。

  • ムク博士
陸上人の科学者で、現在進行形で各地を襲う大洪水について研究を行っている。
物語開始時に住んでいた街が洪水に襲われ、娘*3と助手らしき男と一緒に避難船へ乗り込もうとするも、忘れ物を取りに戻ってしまったことで船に乗り遅れてしまう。
その後、水底に一人取り残されていたところを主人公のメバルに救出された。
物語終盤で再登場し、海底国を訪れ海底国の大統領と会議を行うことになる。

  • カレー大佐
海底人の一人。
メバルに大統領からの命令を伝える、後述のログマ少尉からメバルを守る、海底国を訪れたムク博士を大統領の元に案内するなどの行動を取っていた。
メバルと同じく穏健派…というより大統領に忠実なのだと思われる。
名前はこちらもそのままカレイからだろう。

  • ログマ少尉
海底人の一人。
大統領と対立している司令官の部下であり、彼と同じく陸上人は全て滅ぼすべきだと考えている。
そのため、大統領からの命令を受けたメバルが余計なことをしないうちに始末しようとする。
名前はマグロの逆読みだろう。

  • 大統領
海底国の大統領。
海底国を栄えさせるために陸上を沈めている一方で陸上人を苦しめたくないと考えており、陸上の調査のためにメバルを派遣しようとしたのもその考えあってのことである。
司令官が陸上への攻撃を始めた際にはそれを止めるよう勧告を出していた。

  • 司令官
何の司令官なのか不明だが、恐らくは海底国の軍部かなにかの司令官だと思われる。
大統領らとは異なり強硬派で、海底国の発展のために陸上人を滅ぼすべきだと考えている。
物語終盤ではムク博士の来訪をきっかけに独断で陸上への総攻撃を開始。
その際の大統領の勧告に対しては「きょうから海底国はおれのものだ」と返しており、実質クーデターを画策していた模様である。


【『まんが道』において】

藤子不二雄時代の作品であるため、藤子不二雄A先生の半自伝的作品である『まんが道』にも登場。
新雑誌『ぼくら』の創刊に際し、新しい雑誌には新しい感覚の新人漫画家が必要だということで編集長の牛坂記者から直々に依頼が来る。なお、この時点ではあくまで読切を一本描いてほしいとのことで、それの出来次第で連載になるかどうか決まる、いわばこれは連載を勝ち取る試験だと言われていた。
そして、科学ものと言えば宇宙ものが多いが、地球上の2/3を占めながらも宇宙と同じく未知の世界である海底を舞台にした作品を書けば面白いんじゃないかという才野*4のアイデアを元に『海底人間メバル』の執筆を開始。
結果めでたく連載を勝ち取り順調に掲載される*5も、原稿大量落とし事件が発生。当然連載は打ち切りに。

+ 原稿大量落とし事件とは?
2人で故郷の高岡に帰省した際、気が緩んでしまい当時連載を持っていた各誌+別冊付録の原稿をまとめて落としてしまったという事件。
『まんが道』によれば、当時舞い込んできた仕事を自分たちのキャパシティを顧みずに次々と承諾してしまった結果発生したとされている。
詳しくは『まんが道』の項目を参照。

その後、覚悟を決めて再び上京してきた2人は、寺田ヒロオの激励もあり再起のためにまずは迷惑をかけた編集者たちへの謝罪を行うことに。そして「やさしいからそんなにしかられないかも」というなんとも言えない理由で最初に牛坂記者に謝罪することになる。



きみたちがなによりも一番大きなめいわくをかけたのは……
読者の少年しょくんに対してだ!!


きみたちはわれわれ編集者の期待と信頼を裏切り
全国のまんがファンの少年たちの期待と信頼を
裏切ったのだ!!



当然ものすごい剣幕で怒られるも、このままでは読者に申し訳が立たないとして最終話が掲載されることになるのであった。

ちなみに、『まんが道』の作中には『海底人間メバル』が掲載されているが、「藤子・F・不二雄大全集」に収録されているものと比べてセリフ回しやコマ割り、回の区切りが異なっている。
特に最終話最終コマの大ゴマは以下のモノローグも相まって結構印象に残る。


地球の2/3は海だ
陸の生物は海の生物と平和共存していかなくてはならない!







…後に当の牛坂記者から「そろそろカムバックしていいころだと思う!」として新たな連載を依頼され、『宇宙少年団』改め『ロケットくん』で2人が本格的にカムバックするのはまた別の話。


【余談】

自業自得とは言え余りにも短い連載期間で突き抜けてしまった『海底人間メバル』。
藤子不二雄両先生はこの作品に余程未練があったのか、後年には同じく海底人を主人公とする『海の王子』を『週刊少年サンデー』の創刊号から連載することになる*6
また、海底人対陸上人という構図はかの『大長編ドラえもん のび太の海底鬼岩城』にも見られるものである。
作品同士の関連をムリヤリ見出すのは褒められた行為とは言えないが、それでも、ページ数にして僅か12ページしかないながらも後年の作品に繋がる要素が見受けられるという点は中々興味深いと言えるだろう。






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最終更新:2025年07月14日 14:36

*1 この大全集において共著である作品には注釈が付いているのだが、『海底人間メバル』にはそれが見られない。

*2 といっても全3話中の第2話だが。

*3 本編では名前が出て来ないが『まんが道』によるとローズという名前らしい。

*4 『まんが道』の主人公・満賀道雄の親友にして相棒で、モデルはもちろんF先生。

*5 話数について触れらないので史実と同じく全3話なのかは不明。

*6 連載初期の原作は脚本家の高垣葵が担当しているが。