登録日:2024/11/19 Tue 20:50:18
更新日:2025/04/11 Fri 19:07:32
所要時間:約 22 分で読めます
キューブリックの映像がとらえた
20世紀最大の
モダン・ホラー最高傑作!
仕事ばかりで遊ばない
ジャックは今に気が狂う
THE SHINING
『シャイニング(原題:The Shining)』は、1980年5月に公開された米国のサイコスリラー/サスペンス/モダン・ホラー映画。
77年に発表された、スティーヴン・キングの同名小説をスタンリー・キューブリックが映像化した。
製作・配給はワーナー・ブラザース。
日本では1980年12月13日より公開された。
かつてはTV放映もされていたのだが、後にR15+指定を受けている。
主演はジャック・ニコルソンで、キューブリックが意図的に追い詰めて(られて)いった部分も大きいからだが、本作で見せた狂気的な演技は永遠に語り継がれることになるであろう。
【概要】
直接的に幽霊などが描かれている場面は殆どないものの、キューブリック特有の画面越しからですら伝わってくる呪われたホテルの圧迫感・閉塞感が、
シーンによっては疑似体験させられているかの如くレベルで表現されているのが特徴。
圧巻の映像美と画面構成の美しさが話題に挙がりやすいが、それに付随する不安と焦燥感を掻き立ててくる音の演出や、
サブリミナル効果にも通じるような細やかで異質な場面が挿入される編集の妙、
難解で疑問符だらけになりながらも目が離せなくなってゆくストーリー構成……と、
のめり込める人間ならばとことんまでのめり込める類の映画というか映像作品である。
前述のように心霊や超能力を取り扱った映画であるにもかかわらず、決してそれを目立つように描いてもいなければ前面に押し出している訳でもないのだが、
かつての英国での検証にて数学的に見て最も怖い映画━━と、分析されたこともある。
上述の通りで公開当時は余りの難解さから賛否両論が巻き起こり、原作小説から多くの部分でアレンジを加えられたことには作者のキングからも批判が寄せられた。
……が、とにかく様々な方面から深読みや分析を出来る類の映画であるためか口コミで内容が広がると共に多数のリピーターをも生み、
結果として、劇場公開されている内に否定意見を隅に追いやっていき、大ヒット作となると同時にカルト的な人気をも獲得させることになった。
今日では、映画に於けるモダン・ホラーの開祖・代名詞と呼ばれている。
余りの影響力の大きさから、本作自体が代表的なポップカルチャーの一つとまでになっていった。
2018年には「文化的、歴史的、または美学的に重要である」として、米国議会図書館によってアメリカ国立フィルム登録簿に保存されている。
【物語】
売れない小説家のジャック・トランスは、
当面の生活費を稼ぐ為の仕事として、厳冬期には客ばかりか従業員にすら暇を出す、
コロラド州ロッキー山脈中のオーバールック・ホテルの冬季管理人の仕事に応募を出し、仕事にありついた。
……支配人による面接自体はスムーズに進んだものの、前の支配人の時に雇われた1970年の冬季管理人のチャールズ・グレイディが一緒に連れてきていた妻と双子の娘を斧で殺害したという事件の話を聞かされる。
オーナー曰く「孤独が原因で、それだけが心配」とのことだったが、ジャックは明るく「孤独は、寧ろ創作に好都合だ」と答えるのだった。
━━仕事が決まったことを妻のウェンディに報告するジャック。
しかし、2人の一人息子であるダニーは自分の内に潜む“トニー”からホテルで良くないことが起きる……という警告を受け取っていた。
【主要登場人物】
※吹替版は、嘗てテレビ東京にて製作されたTV放映版のみで、基本的にソフト化・VOD化はされていないがLeminoとSPOOXでのみ視聴可能。
演:ジャック・ニコルソン/吹替:石田太郎
本作の主人公。
中年に差し掛かり、妻子を抱えながらも夢を諦めきれずに(自分でも順調とは言い難いと理解している)創作活動を続けている売れない小説家。(作家志望とも。)
映画では(公開された部分では)触れられていないものの元職は高校教師であり、ディベートチームのコーチも務めていた。
本作の最大の被害者にして最大の敵であり、難解と言われる本作のストーリーではあるが、要は呪われた土地(ホテル)に足を踏み入れたジャックがじわじわと狂っていく様を描いている物語である。(ただし、映画では狂気に陥った原因について様々に考察できる要素を浅く広く配置することで徹底的に真相を曖昧にしている。それこそ、映画に限れば呪いを抜きにジャックが狂っただけかもしれず、答えは個々人に委ねているとも言える。)
これも、映画ではジャックの台詞とウェンディの反応から“匂わせる”程度に留めているが、(父親から引き継がれた)酒乱とアルコール依存症に悩まされていた過去があり、その時に振るった暴力によりダニーの腕を骨折させている。
……勿論、このことはジャックにとっても不本意であり、二度とあってはならない事と認識している。
事実、以降は意思の強さから断酒しているものの、酒を飲めないことが潜在的には発散できないままのストレスを溜めることにも繋がっていたと思われる。
そして、中盤からは精神的にも立場的にも追い詰められていった結果、無人の筈のバーに逃げ込み再び酒に逃げる━━が、これすらも映画に限れば現実では飲んでいない可能性が高い。(ただし、精神的には飲酒を再開したと呼んでも差し支えがない酩酊・酒乱の状態。)
中盤ともなると創作の行き詰まりや、(悪霊共の存在を肯定するのならば)ホテルに取り憑いた邪悪な意志の介入と誘惑が強まり、愛する妻と息子との絆すら断ち切られてしまうことに。
━━いや、そもそもがジャックは自分が熱心に創作に打ち込んでいると思い込んでいたが……という描写となっているあたり、ジャックがどの時点で狂っていたのかも、考察し甲斐のあるポイントである。
……『シャイニング』といえば、メインビジュアルとして使われるジャックのあの顔だが、ぶっちゃけると、ニコルソンの演技と存在感が凄すぎて全編が顔芸と言ってもいいレベルのホラー要員である。
演:シェリー・デュヴァル/吹替:山田栄子
ジャックの妻。
如何にも伝統的な価値観を持つ良妻賢母だが、割とダメな夫を立てる一方で、ダニーを守るためには立ち向かう勇気を持つなど普段の控え目な態度や見た目からは想像できない程に芯が強い。
これも、現在の公開版では触れられていないが過去に感情的に不安定な母親からの虐待に遭い、それに立ち向かった過去があるため。喫煙者でもある。
この人も中々の顔芸ホラー要員で、追い詰められていくシーンは寧ろホラーである。(褒め言葉)
演:ダニー・ロイド/吹替:伊藤隆大
ジャックとウェンディの一人息子。
まだ未就学児ながら、自ら“トニー”と呼ぶ未来予知の能力を持つ“友達”を内に秘めており、その“トニー”の導きもあってか、年齢に見合わない程に知能や理解力に優れた様子を見せる。
この能力は、オーバールック・ホテルにて出会い、彼のメンターとなるハロランが“輝き”と呼ぶものである。
尚、ハロランが「本の中の絵」と語っていたように、悍ましいものではあるが恐れるようなものではないと語っていたホテルに潜む邪悪にダニーが襲われたのは、ダニーの“輝き”がハロランより遥かに強力であったためである。
本作でダニーを演じた6歳当時のダニー・ロイドは非常に愛くるしいが、彼も映画を見れば判る通りの結構なホラー要員。
演:スキャットマン・クローザース/吹替:前田昌明
オーバールック・ホテルの料理長。
快活な性格の黒人の老人で、楽しそうにウェンディとダニーにキッチンを案内していた。
……一方、ウェンディが指摘したように見聞きする前からジャックとウェンディのみが用いるダニーのあだ名である“先生”を使うなど、奇妙な様子を見せる。(ウェンディに指摘された際には“先生”が決め言葉の『バッグス・バニー』の物真似で誤魔化していた。)
……実は、ダニーと同じく常人を超えるレベルの“輝き”の持ち主であり、一目でダニーが何者なのかを見抜き、既にダニーが感じ取っていたホテルの邪悪に近づかないようにとの忠告を与えていたが……。
演:バリー・ネルソン/吹替:阪脩
オーバールック・ホテルの現在の支配人。
ジャックを面接で雇い入れる一方で、1970年に発生した当時の管理人“グレイディ”による惨殺事件を伝えた。
演じるバリー・ネルソンは、54年のTVドラマ『カジノ・ロワイヤル』にて初めてジェームズ・ボンドを演じた俳優である。
演:フィリップ・ストーン/吹替:大木民夫
物語の後半にジャックが出会うことになるホテルのボーイ。
“グレイディ”ではあるが、あの“グレイディ”ではないと語る。
……が、家族構成は一緒である。
そして、ジャックには必要だったので“しつけた”とも語り、同じ事をすることを迫る。
演:ジョー・ターケル/吹替:糸博
ホテルのバーテン。
ジャックとは顔馴染み。
“ロイド”とは、此処に立つ者が記憶と共に引き継いでいく名前のようである。
演じているのは『ブレードランナー』のタイレル社長。
【後半からの展開】
※以下はネタバレ含む。
オーバールック・ホテルに身を落ち着けてから暫くが経ち、遂に噂に聞く大雪がやって来てホテルは現世から隔離されることとなった。
電話線は絶たれ、外界との連絡は不便な無線のみとなりウェンディは不安を覚える。
ジャックはホテルに来て以来、待望していた有り余る時間の中での創作━━に挑んでいるのだが上手く行かずに苛立ちを募らせた結果、家族間に溝が出来てゆく。
そんな中、夜に眠れなくなっていたジャックは自分がウェンディとダニーを殺害してしまうという悪夢を、疲労が限界に達して意識を失った時に見てしまい苦悶の声を挙げる。
余りの異様な声に駆け付けたウェンディ。
こんな状況だが、しばらくぶりに夫婦で話し合う場を持てた━━と思っていた所に、何者かに殴られて傷ついたダニーがやって来る。
ダニーの様子から、再びジャックがダニーを傷つけたのかと思い態度を一変させてダニーを連れて去っていくウェンディ。
いたたまれなくなったジャックは無人のバーへ。
こんな時には一杯のバーボンが救いになる……。
すると、ジャックにバーテンのロイドが話しかけてくる。
ツケも通じるということで、渇望していた一杯にありつこうとしたジャックだったが、そこにウェンディが。
ウェンディが言うには、ダニーは237号室で見知らぬ女に傷付けられたらのだという。
━━237号室に確認に入るジャック。
すると、浴室には美しい裸の女が居た。
女に誘われるように口づけを交わすジャックだったが、ふと目の前の鏡に気づくと自分が抱いているのは腐った老婆だった。
邪悪な笑い声を挙げて迫ってくる老婆から逃げるように237号室から出ていくジャック。
━━見たものが現実とは思えなかったジャックは、管理人室に戻ると「異常はなかった」と伝える。
ジャックの報告に一先ずは安心したウェンディだったが、何とかして外に逃げようという訴えはジャックを激怒させてしまい上手く行かなかった。
怒りのままに無人のバーに戻って来たジャックに━━再びロイドが話しかけてくる。
ふと周りを見るとパーティーも始まり、ホールは盛況となっていた。
今度はちゃんと金もある……として、気前よく支払いをしようとしたジャックだったが、ロイドは「貴方からは受け取れない」という。
僅かに違和感を感じつつも、酔いに任せて自らもパーティー会場へと向かうジャックだったが酒を運んでいたボーイにぶつかってしまう。
服を汚してしまった、として謝罪するボーイはジャックをトイレに連れて来てナプキンで拭き清められていくジャック。
ふと、ボーイの名前を聞くと“グレイディ”だという。
……名前こそ聞いていたものとは別だったが、あの“グレイディ”に違いないとして酔った勢いで“グレイディ”を問い詰めるジャックだったが……「ここの管理人は昔から貴方です」━━それが“グレイディ”の返答だった。
しかし、ジャックに“グレイディ”は言う。
「私は皆の願いに応えて娘達も妻も“しつけ”たが貴方は出来るのか?」と。
そして、ダニーが超能力を持っていて、外から別の人間━━あの黒人の料理長(ハロラン)を呼び寄せた、と。
一夜が明け、ウェンディはジャックの仕事机に。
ジャックは居なかったが、タイプライターには以前には見せるのを拒まれた新作が。
All work and no Play makes Jack a dull boy
仕事ばかりで遊ばない。ジャックは今に気が狂う。
……この諺の文言のみが、文体を整えつつビッシリと書き込まれただけの“新作”を見て、ジャックが狂ったことを悟るウェンディ。
そこに、ジャックがやって来る。
階段にて追い詰められた末に、思わず手にしていたバットで殴ってしまうウェンディ。
階段から転げ落ちて、気絶するジャック。
ウェンディはジャックに息があるのを確認すると、一先ずの安全の確保と説得も兼ねてジャックを保存食品倉庫に閉じ込める。
雪上車で町まで行って医者を連れてくるというウェンディに、ジャックは既に無線も雪上車も壊してしまったことを告げる。
どうしようもない状況の中でジャックの監禁は継続され、取りあえずはウェンディとダニーも眠りにつく。
━━夜。
閉じ込められたジャックを“グレイディ”が訪問する。
今のような有り様で「役目を果たせるのか?」と問うてくる“グレイディ”に、ジャックは勿論だと応える━━そして、鍵が開けられた。
同じ頃━━、
“トニー”から警告を受け取ったダニーが警告のために、ウェンディの寝室に。
最初は微かだったが、今やけたたましい程に「REDRUM!」という謎の文言を叫ぶダニーの姿に目を見張っていたウェンディだったが、ダニーが寝室のドアに書いた“REDRUM”の文言が鏡の中では反転しており、ウェンディもその意味を悟る!
そして、その瞬間に管理人室のドアにジャックの斧が打ち付けられ始める!
外と面したバスルームへと逃げ込んだウェンディは、雪が窓際近くまでを覆っているのを利用してダニーを外へと逃がすが、体格的に自分も窓から外に出ることは諦めてダニーに出来るだけ遠くに逃げるように諭す。
そして、管理人室に侵入したジャックは、ウェンディが立て籠もるバスルームのドアにも斧を打ち付け始める!
ドアの穴から顔を覗かせて絶叫したジャックは、更に鍵を開けようとするがウェンディもナイフで手を切りつけて抵抗する。
すると、そこに外から近づいてくるエンジン音━━来るはずのない訪問者を知らせる報せが。
そう、遥かマイアミからダニーのSOSを受け取ったハロランが雪上車で様子見にやって来たのだ。
ターゲットを変えて外に出ていくジャック。
━━そして、親子を探すハロランの隙をついて胸元に深々と斧を突き立てる!
ホテルに戻ってきていたダニーに自らの殺人の瞬間を見られたジャックは逃げるダニーを追う。
ダニーは、雪が降る前にウェンディと散策した巨大迷路へ逃げ込む。
追いかけるジャックだが、疲労と足の怪我もあってかダニーには追いつけない。
一方、ジャックが去ったことで管理人室から抜け出たウェンディもダニーを探すが、その途中でハロランの死体や、奇妙な光景を目撃する。
━━ジャックはダニーを追い続けていたが遂に姿を追えない程に引き離される。
ダニーは迷路を抜け出て外へ。
そして、ウェンディと合流するとハロランの乗ってきた雪上車を動かし母子は去っていく。
……一人、迷路に取り残されたジャックはもう居ないダニーを探し続け━━そして。
……エピローグ。
カメラは、沢山の写真が飾られたホテルの壁にフォーカスする。
ジャック達が注意深く見ることのなかった、その記念写真の中に1921年7月4日の舞踏会の様子を写したものがあった。
━━そこに写るのは、ジャックやウェンディが“幻”の中で見た人々の姿。
そして、その最前列の中央で微笑むのはジャックに瓜二つの“管理人”の姿……であった。
【原作との違い】
先ず、キングによる原作が明確に超能力と悪霊の存在を前提に置いた物語であるのに対し、キューブリックが心霊否定派ということもあってか、リアリティの増した反面、肝心の原作の主題は非常に曖昧な表現に留まり、なんなら存在するかしないのかすら解らない程度までに留まっている。
そして、原作では何よりも悪霊により父親が狂わされたとはいえ主題は家族愛を描くことであり、事件の解決のために活かされるのが息子のもつ“輝き”……なのだが、映画ではせいぜい観客を怖がらせる要素の一つ程度であり、原作では本作の時点でダニーのメンターとなるハロランの存在も軽んじられている。
以上のように、キューブリック版は俗っぽい言い方をすればファンタジー色の強いオカルトホラーである原作を、同じ素材を扱いつつも遥かにリアリティのある、何なら狂人の見た夢━━とも解釈できる乾いた物語に纏められた、とも言ってしまえる。
因みに、キューブリックは前述のように最初から心霊否定派なこともあってか原作を無視する気が満々だったようで、ニコルソンに「この物語はどんな話だ?」と聞かれて「(幽霊なんて出てくるんだから)簡単な話だ」……と、答えたなんて話まで伝わっているあたり、リスペクトに欠けた態度までが窺える。
キャスティングに関しても、ニコルソンやデュヴァルは前述の通りでキューブリックが自ら希望して出演させた俳優達だが、特に原作では“普通の男が狂っていく過程を大事に描く”都合もあってか、ジャックを没個性的とイメージしていたキングからしてみれば、ニコルソンやその他の候補も何れも希望にはそぐわない役者ばかりで、そんなことが続いた中でキングが折れて晴れてニコルソンの起用となったのかもしれない。(そして、案の定で映画の公開後は世間の『シャイニング』のイメージはキューブリックの手柄かニコルソンの演技か……に上書きされることに。)
……そんな訳で、まだキャリア的には浅かった(『シャイニング』は長編3作目。)のもあったのたのだろうが、結構な
原作レイプに遭ってしまったキングは、確かに問答無用というレベルで完成されたキューブリック版の圧倒的なビジュアルに関しては流石に認めざるを得ない……としているものの、
それ以外は完全否定する立場と批判の攻撃は止むことなく続けている。(曰く「美しいだけでエンジンが積まれていないキャデラック」)
キングも、その後のキャリアにて発言を無視することの出来ないレベルの巨匠になったこともあってか、後には「キューブリック版を批判しないことを条件」に原作に忠実なTVドラマの製作を許されており、実際に総監修したものが1997年に公開されたのだが、99年にキューブリックが逝去すると再び批判を再開している。
……尚、このキング版とも呼ばれる原作に忠実なTVドラマ版だが、映像作品としては退屈にも程がある駄作として有名。
他のキングの手掛けた映像作品にも共通してしまっているのだが、矢張り文章をそのまま素直に映像化してもテンポが再現できる訳がなかったというか━━。
【結末について】
実は、当初はしっかりとエンディングと呼べるものが用意されていた。
雪上車にて、無事にホテルを脱出したウェンディとダニーの下を支配人のアルが訪問する。
アルが言うには、ハロランの遺体は発見できたがジャックの身柄は生きているにしても死んだにしても見つからなかったという。
アルは、去り際にダニーにテニスボールを渡す。
……それは、執筆の途中でジャックがストレス解消に投げていたボールだった。
━━というもので、これは支配人のアルがジャック(の魂)が元々、オーバールック・ホテルと関わりがあることを知っていたことを示すエンディングだったと解釈されている。
そして、エピローグの写真の解釈も増えることになり、現在の展開だと“ジャックもホテルに取り込まれた”……というものが有力な説として挙げられるが、支配人が登場するバージョンではジャックは“ホテルに関わる人生をループしており、支配人もそれを知っていた”……というものがある。
このエンディングが変更されたことをウェンディ役のシェリー・デュヴァルは、(実際に撮影したという事情もあるのか)この部分を無くしたせいで「映画がより難解なものになった」として批判している。
【余談】
- キューブリックが本作の撮影にあたり、参考として事前にスタッフに見せたのはデヴィッド・リンチの『イレイザーヘッド』である。
- 繰り返すが、キューブリックは演出のためにも役者を疲れさせるべくリテイクを要求し続けたことで、平気で100デイクを越える場合も少なくなかった。
そして、ウェンディがバットを振るシーンのリテイクは127回に及び、世界で最も撮り直されたシーンとしてギネスブックに載っている。
- 巨大迷路やホテルの一部は英国のエルストリー・スタジオに組まれた実物大セット。
特に、迷路はリアルに作りすぎて撮影の為に中に入ったキューブリック達が出られなくなることもしばしばだった。
尚、撮影中に迷路と一部のセットが火災で焼けて作り直す羽目になり、その後に同じスタジオで撮影予定だった『スター・ウォーズ帝国の逆襲』のスケジュールを遅延させている。
- 凄まじく寒々しい映画だが、実は映画内で用いられているのは塩と発泡スチロール。
なので、ダニーが大雪の中を上着も付けずに走り回ってても虐待じゃない。
というか、あんなに寒そうな演技が出来るニコルソンやその他のキャストが凄すぎる。
- オカルトへのスタンスの違いもあってか、原作の多くを無視する形となったキューブリックだが、どうやら「超常現象は人間の深層心理に基づく」という哲学を持っていたらしく、その考えには添う形で原作の要素を織り交ぜているとの意見も。(蜂が出てこない→蜂の巣を思わせるホテルのカーペットの柄。ダニーを驚かせる犬男→初代支配人とアッーに及んでいる熊男。先住民族の呪い→ホテルの至る所の意匠やウェンディの服装。)
- 最も有名なエレベーターから大量の血液(2000ガロン=7500リットル相当!)が溢れ出すシーンの撮影には意外なことにキューブリックは立ち合っていなかった。流石にあのシーンはやり直し不可の一発撮りである……はずもなく実は3回撮り直している。他のシーンに比べると少なく感じてしまうが、再撮影の度に清掃とセットに血糊を満たすのに膨大な時間がかかり、撮影に一年を費やしている。
あの迫力にはキューブリックも満足だったらしく、自ら編集した予告編では当該シーンのみを用いるなど、名実ともに本作を象徴するシーンとなっている。
- オープニングの地を這うような空撮シーンの迫力も有名だが、この空撮の未使用部分は、後に同じく英国出身のリドリー・スコットの『ブレードランナー』にて、試写会にてダメ出しを食らって慌てて付け足したハッピーエンド(最初の公開バージョンのレイチェルと逃げるエンディング)のシーンとして流用されている。
リドリー・スコット曰く「キューブリックなら余分に撮影している筈」とカマをかけたら案の定で、更にはスムーズに提供もしてくれたそうな。
- それなりに古く知名度がある映画だからか、アメリカ国内・国外問わず様々な作品でパロディやオマージュとして引用されている。
特に映画『レディ・プレイヤー1』では、劇中で主人公達に与えられる試練として本作の世界が再現されたものが登場している。結構再現度が高いので必見。そしてキングが本作に対してかなり否定的だった件についても劇中でしっかりと触れている。
ちなみに、原作『ゲームウォーズ』にて登場してくるのは『ブレードランナー』で、製作当時に続編の『ブレードランナー2049』も製作中だったので差し替えられたと言われるなど、何処までも妙に関係(因縁)の深い2作であった。
追記修正は呪われたホテルから脱出してからお願い致します。
- 好きな映画よ。好きだけど、原作読んだらキングさんがキレたのも分かるのよ…。 -- 名無しさん (2024-11-19 21:16:57)
- タイトルは知らなくても「ドアから髭面の男が覗き込む例のシーン」はパロディされまくってるからそっちだけ知ってる人も多そう。ちなみに「最も成功してしまった原作レイプ」タグがあるけど、同じ監督の「時計仕掛けのオレンジ」も負けてないと思う -- 名無しさん (2024-11-19 21:36:16)
- レッドラム!レッドラム! -- 名無しさん (2024-11-19 21:55:42)
- ↑2 あっちは一応原作通りではあるらしいけどな。でもキューブリック監督作品は原作に沿うことがないのが特徴だったりする。 -- 名無しさん (2024-11-19 22:45:14)
- 様々なメディア作品にもその名が登場してたりする( 例:スペキオン星人ジェニオのモチーフ、ルイージマンション3のシアターエリアの部分、チェンソーマンのパロ絵、OL進化論の作者の好きな映画の一つ....金田一少年のレッドラムの件は....違うかな? )。 -- 名無しさん (2024-11-19 22:49:54)
- 入院中の友人に貸したがBDを再生できずに、見ることができないと言われたな。 -- 名無しさん (2024-11-19 22:58:01)
- ドラマ版も観たけどたしかに原作再現度は100%だった。……が、やっぱ小説のセリフを一言一句変えることなく喋ってるのは正直テンポ悪すぎるなぁと思った。ちなみに日本語吹き替え版のジャックは大塚明夫さんだったりと意外と豪華声優陣 -- 名無しさん (2024-11-19 22:59:04)
- キンタローの顔芸?も凄い -- 名無しさん (2024-11-19 22:59:36)
- ↑2 時計じかけのオレンジは映画では結末部分の更生までの顛末が削られている。なので、今後もアレックスが暴れまくることを示唆して終わる映画とは解釈が真逆で、自主的に更生することを主題としていた原作者は迷惑を被ったって話。 -- 名無しさん (2024-11-19 23:01:11)
- 成功してしまった原作レイプって他に何かあるのかね? -- 名無しさん (2024-11-19 23:48:04)
- ↑宮崎駿の原作付きの作品全部… -- 名無しさん (2024-11-20 01:12:06)
- ↑2 ディズニー。とくにリトルマーメイドあたり。 -- 名無しさん (2024-11-20 07:45:28)
- シェリー・デュヴァルは今やネタにもできないほど変わり果てちゃったなぁ… -- 名無しさん (2024-11-20 07:48:55)
- レディプレイヤー、ドクタースリープでは実質的に映画館で2回もこのホテルが見れたから超感激。 -- 名無しさん (2024-11-20 08:54:34)
- ↑2 確か今年亡くなったとか -- 名無しさん (2024-11-20 14:51:36)
- まさかこの映画の記事がまだ無かったとは。割ったドアから顔出してるところアニヲタ全員大好きだろw -- 名無しさん (2024-11-20 15:28:44)
- 双子とかその他幽霊(?)の解説も欲しいな -- 名無しさん (2024-11-20 15:35:40)
- 「後半からの展開」の部分が詳細に書きすぎていることが気になります。エピソード項目ではないですがいわゆるファスト映画のような印象を受けました。 -- 名無しさん (2024-11-20 16:13:46)
- シナリオ的にはどっちかというとドクター・スリープの方が好きだったりする -- 名無しさん (2024-11-20 16:16:17)
- キューブリックがシェリー・デュヴァルにやったハラスメントはいくら名作のためだとしても許されざることだと思う -- 名無しさん (2024-11-20 22:36:45)
- 原作の深々と雪に振りこめられる孤立したホテルの中で超常的な恐怖と対峙する展開も、映画のゆっくりと親しい人物が狂気に陥っていく展開も好きだな。単にホラーと言ってもそれぞれの恐怖には別の味わいがある。 -- 名無しさん (2024-11-21 01:52:05)
- 注釈10は日本人で言えばホラーの悪役がドア叩き割りながら「タモリでーす!」とか言ってるようなニュアンス? -- 名無しさん (2024-11-21 08:25:11)
- ↑そんな感じらしい。より正確には、いいとも青年隊の歌かな。 -- 名無しさん (2024-11-21 08:38:15)
- 76年に公開された『家(原題:Burnt Offerings)』と結末がそっくりだったから同作のパクリなんじゃないかと言われてたりする。 -- 名無しさん (2024-11-21 20:13:04)
- ↑想像すると凄まじくシュールな絵面だなぁ…向こうの人も後からそう思ったんだろうか -- 名無しさん (2024-11-21 20:18:30)
- キングは作家としては間違いなく天才だが、映像媒体の製作者としては才能がまるでない -- 名無しさん (2024-11-21 23:38:48)
- 裸の女のシーンは何回リテイクしたのかな⁉️(´・∀・`) -- 名無しさん (2024-11-22 02:21:45)
- 例の扉から覗くシーンはパロディが多い。個人的なお気に入りはニャイニング。 -- 名無しさん (2024-11-22 06:08:05)
- 完璧主義者はブラック上司でもあるから。 長期化する撮影にスタッフは疲弊したことだろうな。 -- 名無しさん (2024-11-22 06:40:00)
- ↑完璧主義のキューブリックでもミスをするらしく、冒頭の空撮シーンをよく見るとヘリの影がチラチラ映り込んでる。また、意外なことに2, 3回の撮影だけですんなりOKが出たシーンなんかもあって逆にスタッフたちが驚いたなんて話もある。 -- 名無しさん (2024-11-23 15:43:32)
- 改めて見直してみるとダニー役の子も演技上手いなぁって思った -- 名無しさん (2024-11-23 16:13:07)
- ↑2 ハートマン軍曹なんか殆どお任せ状態だっていうんだからビックリよね。 -- 名無しさん (2024-11-23 16:50:31)
- 完璧主義者のキューブリックが原作読んでないはずがないんだよなあ。そのうえで敢えて原作無視してるんだから、そりゃキングも怒るわ。 -- 名無しさん (2024-11-25 21:00:59)
- ペンデレツキの音楽(カノン、ポリモルフィア、ウトレーニャ~第2部・福音など)が恐怖を増長させるのに一役買っている -- 名無しさん (2024-11-28 13:41:23)
- Here's Johnny!! | }(°∀°){ | の顔芸はほんと狂気 -- 名無しさん (2024-11-30 18:38:37)
- ちなみにキングは脚本も書いていたが、キューブリックは読もうともしなかった。 -- 名無しさん (2024-12-05 06:11:51)
最終更新:2025年04月11日 19:07