ブレードランナー(映画)

登録日:2012/07/12 Thu 00:17:00
更新日:2024/12/05 Thu 20:43:48
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21世紀初め アメリカのタイレル社は━━
人間そっくりのネクサス型ロボットを開発
それらは“レプリカント”と呼ばれた
特にネクサス6型レプリカントは━━
体力も敏しょうさも人間に勝り━━
知力も それを作った技術者に匹敵した
レプリカントは地球外基地での奴隷労働や━━
ほかの惑星の探検などに使われていたが━━
ある時 反乱を起こして人間の敵に回った
地球に来たレプリカントを処分するために━━
ブレードランナー特捜班が組織された



オレはお前たち人間には信じられぬ物を見てきた……(I've seen things you people wouldn't believe...)

オリオン座の近くで燃える宇宙船……タンホイザーゲートのオーロラ……(Attack ships on fire off the shoulder of Orion... I watched C-beams glitter in the dark near the Tannhauser gate...)

だが、そうした記憶も涙のように、この雨のように消え去ってしまう……(All those moments will be lost in time... like tears in rain...)



BLADE RUNNER
LOS ANGELES
NOVEMBER,2019

『ブレードランナー(BLADE RUNNER)』は1982年6月公開の米国のSFアクション映画。
製作は米国のラッドカンパニーと香港のショウ・ブラザース。
配給はワーナー・ブラザースで、日本では1982年7月10日から公開された。
監督はリドリー・スコットで、彼にとっては『エイリアン』に続く本格SF作品。
主演は『スターウォーズ』のハン・ソロ役にて遅咲きのスター街道を歩み始めたハリソン・フォード。


【概要】

原作はSF作家フィリップ・K・ディックの『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』。
だが原作と同じなのはキャラの名前と「アンドロイド狩り」くらいだったりする*1
因みに、特徴すぎるが妙に格好良く、それでいて作品内容に関係しているのか意味不明なタイトルはディックではなくウィリアム・バロウズの小説作品からタイトルのみを引用したもの。
(※手術用のメスの運び屋(ブレードランナー)という意味で、やっぱり映画とは関係ない。)

SF映画と言えば宇宙を股に掛けた大活劇と思われていた時代に
  • 現代社会の延長線上にある多国籍的、特にアジア的感覚の強いイメージ
  • 最先端のテクノロジーと薄汚れたスラム的な感覚が同居する退廃的世界観
  • 酸性雨の降りしきる高層ビルの近未来都市で繰り広げられるハードボイルド作品
……と云うビジュアルを映画で提示した革命的な作品。
これは、当時のSF文学の主流となりつつあった「ニューロマンサー」などの「サイバーパンク」のビジュアルイメージに重なる物だった。
シド・ミードが本作で提示した近未来のL.Aのイメージは、現在でも直接、間接を問わずに様々なジャンルに影響を与え続けていると言っても過言ではない。
「サイバーパンクを最初に誰がやったのか?」という問いに、本作を知っている人間であれば真っ先にこの映画を挙げるだろう。

そんな本作だが公開当初、先進的ながら暗いビジュアルと哲学的なテーマは、いわゆる“娯楽作品”からは程遠かった。
大衆娯楽としては見過ごされ、一部の愛好家にのみ好まれる通好みの作品としてカルト映画扱いされていた。
しかし名画座での公開とレンタルビデオの普及により再評価が高まり、制作の意義も見直された事により評価が一変。
TVによる配信もあり、90年代までにはSF映画史上に残る革命的な名作傑作との評価を得るまでになった。

美術担当のシド・ミードや音楽を担当したシンセサイザーの鬼才ヴァンゲリスの名も、本作を語る際には外せない要素であろう。

また現在までに複数のバージョンが存在している事も有名で、レンタル店でも視聴出来る下記の3バージョンと、07年には「アルティメットエディション(UE)」が公開。
完全未公開だった特別試写版と、25周年記念にリドリー・スコットが再編集した“最”最終版がソフト化され、合わせて5バージョンが存在している。

2017年には35年越しの正当続編として『ブレードランナー2049』が公開された。


【バージョン】

  • ワークプリント版(82年)
最初期の形態で、07年に初めてソフト化された。
後のバージョンではカットされたデッカードが屋台で注文した似非日本食が唯一見れる。

  • 劇場公開版(82年)
本国と日本で公開されたバージョンで、TV放映版は本バージョンの編集。
試写版には無かったデッカードの独白(説明)やハッピーエンドが加わり、理解し易い様になっている。

  • 完全版・インターナショナル公開版(82年)
レンタルでは完全版と銘打たれていた、国際公開版。
デッカードの独白も存在。
劇場公開版からは削除された暴力シーンが追加されている。

  • 最終版・ディレクターズカット(92年)
公開10年を記念して制作された再編集版。
試写版に近づける為にデッカードの独白がカットされた他、ファンの議論を呼んだ「ユニコーンの夢」が追加された。

  • ファイナル・カット・再編集最終版(07年)
公開25周年を記念して制作された“最”最終版とも呼ぶべきバージョンで「UE」に収録。
これまでは再生メディアの影響で落とされていた解像度が上げられ、現在の視点で見ても驚くような映像に生まれ変わった(※まだ鮮明なバージョンもあるとの噂もある)。
編集は最終版に近いが、試写版にのみ存在していたシーンが加えられている。
リドリー・スコット曰わく、最も自分の意図に近いバージョン。

※ビデオソフトの時代には劇場公開版、完全版、最終版の3つが個別にレンタルされていた。
DVD、Blu-rayでは3バージョンを一纏めにしたクロニクル版(ARCHIVAL VERSION)が出回っている。
ちなみに各バージョンごとにエンディングが微妙に違う。


【物語】

21世紀初頭、地球は度重なる環境破壊により荒廃し、人類の大半は宇宙への移住を余儀なくされていた。
そんな2019年11月……酸性雨の降りしきるロサンゼルスに、宇宙から5人の使役用人造人間…『レプリカント』が侵入する。
地球へと“脱走”したレプリカント達は、地球に残された人間に紛れて街に潜み何かを企てている。
脱走レプリカント達を判別し見つけ出した上で「解任(抹殺)」する任務を負うのが、警察の専任捜査官『ブレードランナー』であった。

ロサンゼルス市警のブレードランナーが、尋問中のレプリカントに銃撃される事件が発生。
血なまぐさい生活から足を洗っていたデッカードだったが、嘗ての上司の脅しにより再びブレードランナーとして復帰……。
手始めに侵入したレプリカントを生み出したタイレル社に向かい、レイチェルと云う女と出会うのだった……。

荒れ果てたロスの中で、ブレードランナー・デッカードのレプリカント追跡劇がはじまる。


【登場人物】

吹替は左から「劇場公開版&インターナショナル公開版」 / 「ファイナル・カット日本語吹替音声追加収録版」の順で記載。

  • リック・デッカード
演:ハリソン・フォード
声:堀勝之祐 / 磯部勉
元ブレードランナー。この仕事に嫌気がさし退職したのだが、嘗ての上司の脅迫に屈し再び殺し屋に戻る。
最終版にて追加された「夢」のシーンにより彼もまたレプリカントであったとの可能性が示されたが……が、明確な答えは提示されていない。
なお、その場合は女性の上にただの慰安型のレプリカントに全く歯が立たないなどの矛盾が目立つ*2
劇場公開版で追加されたナレーションによると結婚歴があるらしい。
実際、後に見られるようになった未公開シーンでは明確に妻の写真が登場して“宇宙で成功した金持ち男”に取られたと語られていた。
一方、物語の後半。デッカードはゾーラを処分した後の自分の血に塗れた姿から、離婚の原因は単に妻の浮気ではなく“殺し屋(ブレードランナー)の仕事をしていたから怖がられていたこと”を思い出す。
……こうした描写を見ると、元々は公開版よりも原作を意識した設定が採用されていたようである。
間違いなくハリソンの代表作の一つなのだが、撮影前も撮影中も撮影後も色々とありすぎて、本人的には大嫌いな映画と明言していたことでも有名。*3


ちなみに原作ではイーランという妻がいる警察付き賞金稼ぎ。ただし夫婦仲はあまりよくない。
普段は普通の警官の仕事もしていて、電気羊のグルーチョというメカペットを自宅の屋上で飼っている。
いつか大金で「環境破壊でプレミア物となった天然動物のペットを買う」というのが夢。
その夢を叶えるための資金集め込みで賞金首アンドロイド狩りに挑むが、その結末は…。


  • レイチェル(レイチェル・ローゼン)
演:ショーン・ヤング
声:戸田恵子 / 岡寛恵
タイレル社の社長秘書。実は第6世代のネクサス6型人造人間、レプリカント。
それも特別なレプリカントであり、タイレルの姪の記憶を移植されている。そのため自分が本物の人間だと信じていた。
後に疑問を抱きデッカードのもとを訪ね、自分の正体を知ってショックを受け逃亡。
その為、彼女も『廃棄処分』の対象となってしまうが…?
最後は残りの寿命もいつ尽きるか分からぬまま、デッカードと共に逃避行した。


  • ガフ
演:エドワード・ジェームズ・オルモス
声:池田勝 / 佳月大人
ブライアントの使い。実はレプリカント…という噂もある謎の男。顔色が非常に悪い。
何かを知っている様だが、何も語らない不気味な男でもある。折り紙が趣味でよく折っている。
また、翻訳ではブレードランナー間でのみ通じる“隠語”とされている「City speak(シティスピーク)*4」を喋る。
これも後述のロイ・バティの独白と同様に脚本や設定段階では存在しておらず、演じたオルモスのアイディアが盛り込まれたものである。
作品を代表する名台詞、「彼女も生きられずに残念ですな。だが、誰もがそうかもしれない(It’s too bad she won’t live, but then again, who does?)」も彼のアドリブ。凄すぎ。
未公開バージョンではデッカードと共に現場に赴くなど、後の『ブレードランナー2049』での発言を裏付けるような描写があったりする。
また、ブライアントと共にデッカードを監視する一方で、心情的にはデッカード(とレイチェル)に寄り添った様子が見られるなど、まだ人間味のある性格として描かれていたようだ。
因みに、公開版では“ブレードランナー間の隠語”と、さもデッカードにも解る風になっている“シティスピーク”だが、元々はガフが勝手に使っているだけで半分も理解できない代物という扱いだった模様。
それを良いことにブライアントをバカにした発言がある。
続編小説『ブレードランナー2 レプリカントの墓標』では任務の途中で死亡する。

  • ブライアント(ハリイ・ブライアント)
演:M・エメット・ウォルシュ
声:神山卓三 / 浦山迅
ロサンゼルス市警の警部。デッカードの元上司で、彼を脅迫して現場に戻す。
人使いが荒く、性格も悪い。レプリカントを「人間モドキ(skin-job)」と呼んで見下している。
続編小説『ブレードランナー2 レプリカントの墓標』ではガフの葬儀に出席してまもなく病死した。

  • デイヴ・ホールデン
演:モーガン・ポール
声:二瓶秀雄 / 高岡瓶々
映画の冒頭でリオンにレプリカントのテストを仕掛けて撃たれたブレードランナー。
よく勘違いされるが、彼は重傷は負ったが死んではいない。小説ではアンドロイドのリストを作った警官。
未公開バージョンではリオンにやられ半身不随の身となって入院している姿が描かれている。
しかもデッカードは何度か見舞いついでに捜査の進展と相談に訪れるなど、元々はかなりの出番があった。
公開版からは殆ど削れているが、原作版に近い=元々は確りとした未来都市を舞台とした刑事(推理)物としての体を為していたようだ。
単に生真面目な刑事というイメージだったのだが、削られたシーンでは相当に下卑た発言も多く、全く印象が変わる可能性高し。
また、明確に“ネクサス6は普通の人間と見分けがつかない”と、公開版では曖昧な表現に留まってしまっている前提の設定を明示してくれる役割も持たされていた。
まあ結局全部カットされてるが。

  • ハンニバル・チュウ
演:ジェームズ・ホン
声:千葉順二 / 浦山迅
遺伝子工学者。タイレル社に雇われてレプリカントの眼球を製作している。
研究所にやって来たロイに脅されレプリカントの構造や寿命の伸ばし方を聞かれたが、彼には分からなかった。
代わりにタイレルに近づくために必要な人物として、セバスチャンのことを教える。

  • JF・セバスチャン
演:ウィリアム・サンダーソン
声:村越伊知郎 / 村治学
タイレル社に勤める技術者。早老症を発症していて、これでもまだ25歳。
廃墟の様なアパートに自作のロボットと住む。下記のタイレル社長はチェス仲間。
プリスに騙されロイにアパートをつきとめられ、タイレル社長の元に案内させられた。
レプリカントの延命治療が無理だと知ったロイの怒りのままに、社長に次いで殺された。
…しかしなぜだか続編小説では生き延びている。

  • エルドン・タイレル
演:ジョー・ターケル
声:大木民夫 / 小島敏彦
タイレル社の社長で、レプリカントを生み出した天才科学者。なんかすごくゴツイメガネをかけてる。
レプリカントの脳に自分の姪(レイチェル)の記憶を植え付け人間だと信じ込ませていた。
セバスチャンの手引きでやってきたロイに、レプリカントの延命方法がないと明かし凄惨な殺され方をした。
尚、実はオリジナルのタイレルではなくコピーのレプリカントであることを示唆するアイディアがあったとのこと。*5
凄く雰囲気のある役者さんが演じている(キューブリックの『シャイニング』のバーテン役でも有名)
だが、実は全く台詞を覚えられずカンペを出しながらの撮影だったとのこと。

  • リオン(リオン・コワルスキー)
  • 演:ブライオン・ジェームズ
  • 声:大宮悌二 / 中村浩太郎
地球に逃げたネクサス6の一人。口髭の生えた大男で製造番号:N6MAC41717。
地球外植民地で放射性物質の運搬をしていた、肉体労働型レプリカント。
すでに何人もの人間を殺害しており、タイレル社に廃棄物処理技術者として潜り込んでいた。
しかしデッカードの前任者ホールデンにフォークト=カンプフ検査をされた為、銃撃して逃亡。指名手配される。
逃走中にバッティとともにレプリカントの目玉を作るチュウの元を訪れていた。
一方リオンの部屋に残された写真から、デッカードにゾーラが仲間だとバレてしまう。
その後ゾーラが殺された場面を目撃していた為、逃亡したレイチェルを追うデッカードに襲い掛かった。
デッカードのブラスターを叩き落とし、200ポンドの核を1日中運べる怪力で停車中のトラックをパンチで破壊。
そのままデッカードを追い詰めるが、ブラスターを拾ったレイチェルに背後から撃たれて死亡した。
ちなみに性能は身体レベルAだが、知能レベルはCと低め。


  • ゾーラ(ゾーラ・サロメ)
  • 演:ジョアンナ・キャシディ
  • 声:横尾まり / 森夏姫
地球に逃げたネクサス6の一人で怪しげな雰囲気の女性。製造番号:N6FAB61216。
「チャイナクラブ」でヘビと踊るストリップショーに出演していた。
ストリップダンサーとして身を隠していたが、人工蛇の鱗から足が付きデッカードに発見されてしまう。
覆面調査員を装ったデッカードを不意打ちで殺そうと試みるも失敗し、逃走したところを射殺された。最期が切ない。
元々は実際に蛇と踊るシーンが撮影される予定だったが、お偉いさんに難色を示されてカットされてしまった。
因みに、演じたキャシディは2012年に、そのシーンを再現した動画をYouTubeにて公開している。
身体レベルA・知能レベルB。元は暗殺用ではなく地球外植民地の労働用であり、人殺しの訓練を受けている。


  • プリス(プリシラ・ストラットン)
演:ダリル・ハンナ
声:高島雅羅 / 小島幸子
地球に逃げたネクサス6の一人。ロイ・バッティとは恋愛関係。製造番号:N6FAB21416。
宇宙移民用の慰安専用レプリカントだった。レイチェルと外見はそっくりらしい。
タイレルに接触するためにゴミ置き場で行く当てのない家出少女のフリをし、セバスチャンに近づいた。
彼の死を捜査しにきたデッカードに襲いかかるが、反撃にあいあえなく死亡した。断末魔がキモい。
身体レベルA・知能レベルB…慰安型がAクラスの身体レベルとはどういうプレイを想定して造られたのか。
続編小説では自分をレプリカントだと思い込んでいた人間だった事になっていて、しかも生き返る。
ちなみに、『スターウォーズ』に登場するオーラ・シングのモデル元でもある。


  • ロイ・バッティ
演:ルトガー・ハウアー
声:寺田農 / 谷口節
地球に逃げたネクサス6の一人で、彼らのリーダー格。2016年製造で製造番号:N6MMA10816。
唯一の純戦闘用レプリカントであり、凡る能力に於いて人間を上回り、仲間の死を悲しむ感情を持つ。
タイムリミットが迫っており、自分と仲間の寿命を回避する為に地球にやって来た。
項目冒頭の台詞はこのヒトのラストシーンの独白。
映画史上に残る名場面にも挙げられるが、何と中の人のアドリブ*6を正式採用した物だったとか……凄すぎ。
ちなみに「タンホイザーゲート」はハウアーのアドリブによる造語であり、特に意味はない。
少し意訳が入っており、「ファイナル・カット版」では下記のような訳になっている。
俺はおまえら人間が信じられないだろう物を見てきた。
オリオン座の近くで燃えた宇宙船。タンホイザーゲートの近くの闇に光る閃光。
それらすべての瞬間が時の中に消えていく。雨に打たれた涙のように。


ラスト

手を折られ銃を落としたデッカードは、人間とは比較にならない強さのロイから必死で逃げ周り屋上へ。
隣のビルに飛び移って逃げようとして失敗し、ギリギリ鉄骨にぶら下がった。
追いついたロイは軽々とビルに飛び移ると、今にも落下しそうなデッカードを見下ろす。
限界を迎えたデッカードは最後の抵抗に唾を吐きかけ、手が外れ落下した。

だが、ロイはその手を掴んで引き上げた。
「奴隷の生涯は恐怖の連続だ」と、ロイは人間にはできないような凄まじい経験の思い出を話す。
全て話し終えた時、ロイの寿命が訪れ、そのまま息を引き取った。
ロイは自身の寿命を分かっていた上で、デッカードを、ヒトの命を助けたのである。*7
ロイの最期を何も出来ずに看取ったデッカードの前に、突然現れたガフが落とされた銃を投げ渡す。
「お見事でした…彼女が死ぬのは残念ですね。でも死なない人がいますか?」
ガフはレイチェルの寿命ももう尽きる事を遠回しに告げると、その場から立ち去った。
デッカードは急いで家に戻るとドアが開いており、追手がすでにレイチェルを殺したと警戒したが、彼女は無事だった。
愛を確かめ共に生きると決めた二人は、共にアパートを出ていく。







  • 日本食屋台のマスター
演:ロバート・オカザキ
声:千葉順二 / 小島敏彦
下町のスシバー?の主人。デッカードが頑なに4つ注文しようとするのを止めたが押し切られた。
「ふたつでじゅうぶんですよ! 分かってくださいよぉ!」
日本で妙に大人気となったこの人を演じた俳優のお墓は横浜の外人墓地にあるらしい(実は過去にハリソンと共演歴あり)。
この時デッカードが「ヌードル(うどん)」以外に何をそんなに四つも注文しようとしていたのかは謎だった。
後に2007年アルティメットコレクターズエディションの試写用のワークプリント版で判明。
浅めの丼に米とネギ?、そして中央に生の深海魚みたいな変な魚がそのまま載っているという謎の食い物だった。

  • 強力わかもと芸者
演:アレクシス・リー
巨大高層ビルに煌々と表示された動画CMで、恐らく強力わかもとを一粒づつ口に運んでいる芸者ガール。
ちなみに実はこの看板、わかもと製薬には無断で使用している。雰囲気づくりの為でタイアップでもスポンサーCMでも何でもない。
芸者さんを演じているのは日本人ではなくアメリカ系韓国人女優。


【用語解説】

レプリカント

21世紀初頭に米国タイレル社が開発した人造人間。クローン技術の「レプリケーション(細胞複製)」という用語が名前の由来。
劇中ではロボットと呼ばれているが、機能的には人間と同じである。*9登場するのは第6世代のネクサス6型。
感情が未発達なのが特徴だが、経験により人間と同等以上の存在となる為、安全装置として寿命は4年とされている。
危険な宇宙開発の任務に就かされる等、人間からは奴隷扱いされているが、偽りの記憶を持たされており自分達がレプリカントである自覚はない。
その為、偽りの記憶にすがって働く理由などを与え使役するのだが、まれに自分達の正体に気付いてしまう者がいる。
正体に気付いてもそのまま奴隷のように生活する者もいれば、人間に反乱を起こす者もいる。
また、偽りの記憶であると自覚した上でもそれを示唆する写真にアイデンティティを求め執着してしまう。
尚、レプリカントは地球では存在自体が違法という扱い*10なので、見つかったら「廃棄処分」になる。

ちなみにこの世界ではすでにほとんどの動物が絶滅しており、劇中に出てくる動物達もレプリカントと同じ人工物である。
そのため人工物でない動物は大変希少。

ブレードランナー

感情を獲得し人間に反乱を起こしたレプリカントを駆除する為に組織された市警の特捜班、という名目の殺し屋。
地球に侵入したレプリカントを特定・追跡し「退役」させるのが主な任務。
「フォークト=カンプフ検査*11」と呼ばれる心理テストによりレプリカントを炙り出し、支給された拳銃・ブラスターにより廃棄(射殺)する。
なお原作にこの名は登場せず、リドリー・スコットはウィリアム・バロウズの小説から引用した。
本来は「非合法医療器具(blade)の運び屋(runner)」という意味。
後に「デッカード・ブラスター」と通称されるようになった、ライフルとリボルバーを合わせて改造したプロップガンがある。
ちなみに作中のブラスターはレイガン(光線銃)、ニュートロンガン(中性子銃)、ソニック・ブラスター(超音波銃)などが多種多様な種類がある。
ただし唯一レプリカントに対抗できるのは、ブレードランナーの最新型レーザーガンとなっている。

フォークト=カンプフ検査

「カメはひっくり返り、灼熱の太陽によって腹は焼かれ、元に戻ろうと足をばたつかせているが戻れない。
 君の助けがなければ戻れないのに、君は助けない」

「どういうことだ?俺は助けない?」

「そういうことだ。君は助けない。どうしてだ、リオン?ただの質問だよ。
 誰かが作った質問に答えてもらうだけだ。これは感情を刺激するように作られたテストだ。続けてもいいかね?」

映画では「ヴォイト=カンプ・テスト」と呼ばれる、人間とレプリカントを識別するための感情移入度検査法。
検査対象者に向かって、さりげなく不愉快であったり、ありえない内容などの過程の話を持ち出し質問をする。
レプリカントには感情移入能力が欠けているため、感情を刺激する質問を行うことで相手の呼吸、心拍数、赤面反応、目の動きを測定し感情移入の度合いを測ることができる*12
上述のやり取りは「ファイナル・カット版」の冒頭でホールデンがリオンに対して行った会話。
デッカード曰く、だいたい20~30の質問を行えば人間かレプリカントかの判別が可能だとのこと。
「感情移入反応だ。いろいろな社会的状況に対するやつ。動物に関係のあるものが多い」
ちなみに映画では瞳孔の動きを正確に判別する為のヴォイト=カンプ・テスト分析装置が必要。

レイチェルには「腕に止まった蜂を殺す」「雑誌の女性ヌードを夫が喜んで壁に貼る」「オードブルで生ガキの次に茹でた犬が出る」というものだった。
夫に興味がなかったり犬を食べる食文化の人だったらどうするんだろうとか考えたら負けかなと思っている

【余談】

  • 本作ではわかもと以外にも実在の米国企業がネオン看板で多数登場するのだが、
パンアメリカン航空…1991年に破産
RCA…1986年にGEに吸収合併され消滅
アタリ…公開の翌年にアタリショックが発生、大量のソフトの墓ができる
コス…1984年に破産(その後再建)
クイジナート…1989年に破産
  • と、21世紀を迎える前に消滅した企業も多く、一部では「ブレードランナーの呪い」と呼ばれている。
    続編にもGoogleなどの実在企業が登場するが果たして。

  • 原作のディックは人造人間=思考形態が稚拙な人間の比喩として考えていたのがレプリカントが人造人間である理由であるが、映画を見れば解る様にリドリー・スコットは逆にレプリカントを感情以外は人間より優れた存在と捉えており、両者の見解は真逆である。

  • 現在では原作者として広く知られるディックだが、映画化権を許してから長年が経過し、その間に原作から内容を大きく変えてタイトルも変えて……等々の紆余曲折を経た末にいざ撮影が始まるという段階にて存在を忘れられていたのか連絡されてすらおらず、友人から聞かされて映画が動いたことを知ったという有様であった。
    そこで、制作会社に連絡を取り「原作と入れて本を売っていいか?」と聞いた*13ものの、冷淡な態度を取られたことに憤慨。「どうせ失敗する」と罵詈雑言を吹聴しまくったものの、それを聞きつけたリドリー・スコットが連絡を付けて「一度、映像を見てほしい」と打診。
    ディックは「いい度胸だ目の前で貶してやる(意訳)」と息巻いていたものの、実際に映画の一部を見せられたディックは自分の思い描いていたビジュアルから決して遠くない映像美や世界観に感心し、リドリーと内容について話し込んだ程だったという。
    というわけで、それまでとは一転して映画の公開を楽しみにしていた原作者ディックであったが、残念なことに劇場公開前の1982年3月2日に逝去しており映画の完成版を見ることは叶わなかった。見れたら見れたで当初の低評価やら後のバージョン違いの混乱に巻き込まれていたかもしれないけれども。

  • リドリー・スコットはデッカードがレプリカントである事を確定的に話しているのに対し、主演のハリソン・フォード(…と、リドリー以外の殆どの関係者)はデッカードは人間であるべきと主張している。
    ちなみにリドリーがそう語る理由は「ディレクターズ・カット版(最終版)」で追加されたデッカードが見たユニコーンの白昼夢。なんの脈絡もなく挿入されたシーンと、それ以前からある「逃亡の際に玄関先でユニコーンの折り紙を拾う」というシーン。これは元々はガフは二人の行動を読んでおり、その上で見逃すというもの。しかし夢のシーンが登場したことで、デッカードしか知らないはずの白昼夢を知っている=記憶を植え付けられたレプリカントという解釈を残した演出だった。
    この他にも暗闇でデッカードの瞳が赤く光っている等の細かい描写でデッカード=レプリカントと印象付ける演出を行っているリドリーだが、こうした演出はロイ・バッティの最期の解釈等と共に撮影中にも(監督の中だけでも)二転三転した要素の一つであるので、前述のように脚本、演出と矛盾して見えてしまうのがどうしても納得がいかずに議論が続いている理由と言える。

  • 脚本のミスにより冒頭の台詞で脱走したレプリカントの数を間違えてしまっている。(冒頭では脱走したレプリカントは死亡した1名を除き5人と言っているが、後のシーンでデッカードが「残り4人」と発言している。)
    実は当初はしっかり6人存在する設定*14だったがそのうち一人が予算の関係で急遽出演できなくなり、レプリカントの数が変更されたのだが、変更前に作成した脚本を訂正するのを忘れていたため没になったキャラに言及した台詞がそのまま使われてしまったのである。
    「デッカード=最後のレプリカント」説は、この間違いからファンが推測したものだったが、後にこの説を気に入ったリドリーが逆輸入したのが最終版である。
    • ファイナル・カット版では台詞が差し替えられており(きちんと死亡数が二人に改められた)、またこの6人目のレプリカントに関するストーリーが小説として発表されている。

  • 主人公デッカードが携えるブラスターは通称「デッカードブラスター」と呼ばれ、従来のSFにありがちだったサイバーチックな雰囲気を真っ向から否定しつつもどこか近未来的な雰囲気を漂わせる武骨で泥臭いデザインから、映画史に残る名架空銃としてファンから絶大な人気を誇っている。
    • 当初予定されていたデッカードブラスターはパワーセルを装備したレーザーガンのような外観*15で、このままでは退廃的なサイバーパンク的世界観に合わないと考えられたことで急遽変更された。
    • ベースはステアーSLというボルトアクションライフル。この銃、通常のトリガーの後ろにセイフティ解除用のトリガーがもうひとつついているというなかなかのゲテモノ銃で、デッカードブラスターはソードオフして拳銃サイズまで無理やり縮めたこいつのバレルにチャーターアームズ社というメーカーが作っていた「ブルドッグリボルバー」のフレームを組み合わせて急遽作られた。

  • 本作は舞台裏でも監督とスタッフ・キャスト間でのトラブルが絶えず、現場ではストライキまで起こっていたことが暴露されている。
    主演のハリソンも唯でさえ嫌な現場だったのに、クランクアップの後も追加シーンの為に一年近く呼び出されたことに後々まで腹を立てていたことでも知られる。
    あまり名誉のある話では無いが、そうした現場の裏舞台を伝える話題も書籍化されたりしており、ファンにとってはそれすらも堪らない、作品を理解する為の重要な資料となっている。



追記修正は自分が人間だと証明してからお願いします。






























「レプリカントは単なるマシンだ。 脅威にもなるが――無抵抗なら問題ない」






BLADE RUNNER
2049



10.27.17 FRI


20171027日(金) 公開



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最終更新:2024年12月05日 20:43

*1 原作のデッカードは妻がいてロボット羊を飼っている賞金稼ぎ。マーサー教という独自の宗教要素が強い。

*2 リドリー・スコットの中では確定済みのようだが、ハリソン・フォードは人間であるべきと主張している。

*3 曰く「アクション俳優みたいな扱いだったからハードボイルドものなら演技力を見せられるぜ!」→リドリー・スコットはCM畑出身で画面映えを重視し演技力の無い役者も平気で起用するような奴だった。曰く「撮影が終わってせいせいしたのに一年近くも追加シーンを撮るために呼びつけられた」→撮影中にリドリー・スコットも本作の設定やテーマを消化しきれない内に撮影に入ったので、後からアイディアが膨らんだり整合性が取れない所が多く出てきたため。スタッフとも衝突したし監督は監督で苦労したのだが。

*4 日本語やハンガリー語などが混じり合ったクレオール言語

*5 殺される場面にて吹き出す血と共に人工物(ネジやバネ等)が飛び出してくるというもの。元々の脚本段階ではそのことに気付いたロイが、延命の為に冷凍睡眠で眠る本物のタイレルの元に案内させるも装置の故障で既にタイレルは死亡→動揺したロイがセバスチャンを殺してしまうという展開が予定されイメージボードも描かれていた。

*6 ハウアーによれば、元の脚本の台詞が「死に際のレプリカントの独白にしては長い」と感じたため、そのイメージを残したまま要約したのが例の台詞だという。

*7 因みに、撮影当時はどうしてもバティがデッカードを助けたことを理解出来なかったハウアーに対し、監督のリドリー・スコットはこの時には「自分がどう思おうとレプリカントは人間を助けてしまう。死の間際にバティはそれに気づいたから自嘲しながら死んだのだ」と説明し、ハウアーもそれに納得して周囲にも吹聴していた。……のだが、後にリドリー・スコットがそれとは真逆のこと→レプリカントであるロイ・バティが悟りを開いたようなことを言っていて驚いたという裏話も。

*8 尚、劇中でそんな説明はどこにもないし寿命の根拠も何も無かったりする。

*9 「ロボット」の由来であるチャペックの『R.U.R』における「ロボット」に近いのでこれは寧ろ原義的なのだが。

*10 宇宙植民地においてネクサス6型戦闘モデルによる大規模な反乱が勃発したため。

*11 「ヴォイト=カンプ検査」とも。

*12 原作では「知的能力に優れたアンドロイドでも、標準知能以下のピンボケを含めた全ての人間が何の苦もなくやっている体験を全く理解できない」「感情移入はどうやら人間社会だけに存在するらしい」と言われている。またフォークトカンプフ検査に合格出来ない人間もごく少数存在すると考えられているが、そういう連中は施設に収容されるべきなので問題ないとしていた。

*13 現在ではSF映画ファンからも熱い支持を受けるディックだが、名前が売れたのは寧ろ死後であり、生前には経済的には恵まれない作家だったという。

*14 脚本の段階では死亡した1名以外の5人、5人目のレプリカントのホッジと6人目のメアリーが登場していた

*15 グリップをつけたカメラのようなデザインだった