きみの色

登録日:2025/01/16 Thu 01:42:23
更新日:2025/04/18 Fri 02:44:22
所要時間:約 28 分で読めます





私が惹かれるのは、あなたの「色」。

きみの色とは2024年8月30日に公開されたアニメ映画作品である。
監督は『けいおん!』『聲の形』などを手掛けた山田尚子で、
同氏のオリジナル作品としては『たまこまーけっと』『たまこラブストーリー』に続く三作目となる。
脚本は上記の作品でも脚本・シリーズ構成などを務めた吉田玲子。


「青春と音楽」をテーマに3人の少年少女が織りなす物語を描く。


あらすじ

人のことが「色」で見える日暮トツ子は、同じ高校に通っていた作永きみの持つ「色」に惹かれていた。
しかし突然きみが学校を退学してしまい、日常から彩りが失われたように感じてしまう。
そんな折、きみが町の書店でバイトをしているという噂を聞きつけ、町中を探し回ってきみとの再会を果たす。
更にその場へ美しい「色」を持つ少年影平ルイが現れ、「2人でバンド活動をやっているのか」と尋ねられる。
2人の持つ「色」に見とれたトツ子は咄嗟に「私達のバンドに入りませんか?」ときみの同意も得ずにルイをバンドへと誘ってしまう。
きみとルイはバンド結成に賛同し、3人は島の古教会を舞台に練習を重ね、心を通わせていく。
3人の中に友情とほのかな恋のような感情が芽生えていくのであった。

そして様々なハプニングを経て、バンドの目標は「学園祭のステージでライブ演奏を行う」ことに。
学園祭で3人は自分たちの「色」と「心の内」を曲にして披露する。


登場人物

しろねこ堂

トツ子、きみ、ルイの3人で結成したバンド。
物語はこの3人がメインとなって進むようになっており、3人それぞれが自分の悩みを打ち明けて前に進んで行く。
ギターヴォーカル、キーボード、テルミン・オルガン・シンセサイザーというバンドアニメとしては珍しい編成をしており、音楽性もテクノポップ(テクノロック)に分類される。
なお、作品キービジュアルではトツ子とルイが制服、きみが普段着姿で舞台に立って演奏を行っているが、劇中で3人がこの格好で揃って演奏したことはない。
全員が制服姿で演奏をするグッズもあるが、こちらも劇中に該当するシーンはない。いずれも分かりやすさ優先となっている。


○日暮トツ子(CV:鈴川紗由)
ふっくらした体格と三つ編みおさげが特徴の女子生徒。身長は157cmで、3人の中では最も小柄。
明るく朗らかな性格でニヤニヤすることが多い一方、時々その場で感じたことを考えもなしにそのまま口走ることがある。
名前がカタカナ表記なので一風変わった名前に見えるが、小説によると名前の漢字表記は「登津子」とのこと。
敬虔なカトリック教徒であり、毎朝聖堂での祈りを欠かさない。
世俗的な感覚で捉える部分がある一方、自分がやったことへの反省として自らゆるしの秘跡を行おうとするなど、信仰心自体は篤い。
ベッドに昔誰かが刻んだ"GOD almighty"の文字もありがたい言葉だと思って毎日拝んでいる。
他県出身者*1であり、虹光女子高等学校ではクラスメートのさく、しほ、スミカと同じ部屋で寮生として生活している。
両親との関係は極めて良好であるにもかかわらずなかなか帰省しない傾向があり、夏休みでも在寮の日数が長い。
食堂のシーンから好きな食べ物の傾向は読み取りにくいが、常にリンゴを丸ごと取っているため、丸齧りが好きなのだろう。
私服はワンピースやオーバーオールなどで、色合いやデザインはガーリッシュだが地味目なものが多い。
幼少期にバレエを習っていた経験があるため身軽であり、機嫌がいいときに廊下でくるくる回って踊る場面がある。
バレエは上達せずに挫折してやめたため軸がブレブレで決して上手くないとはいえ、経験者にしかできない軽やかな動きを劇中で披露している。
苦手なものは乗り物で、船に乗れば短時間でもすぐに酔って気分が悪くなり、長距離バスでも確実に気分が悪くなるなど乗り物酔いがひどい。

共感覚と呼ばれる珍しい知覚の持ち主であり、幼い頃から人のことが「色」で見えていたが、それを他人に話すと奇異の目で見られるため、周囲に対して「色」のことを秘密にして生きてきた。
彼女が持つ一番の悩みは「周囲に合わせすぎること」。
自分が人と異なる感覚を持ち、それを誰からも理解してもらえないところと、そんな自分を自分で受け入れられず否定してしまうところにある。
自分を否定する傾向は共感覚にも反映されており、人のことは「色」で見えても自分自身の「色」を見ることができない。
熱心なカトリック教徒であるため、日々聖堂で祈りを捧げ「ニーバーの祈り」を唱えながら悩みの解決を模索している。

同学年の作永きみから感じる「色」はトツ子の日常を鮮やかに彩るものであったが、きみが学校を退学すると日常が日に日に彩りを失っていくように見えてしまった。
そんなとき、きみが書店でバイトをしているという噂を聞きつけ、町中を探し回ってきみを見つけ出す。
更にそこへ居合わせたルイから声を掛けられたとき、ルイからもまた別の惹かれるような「色」を感じ取る。
自分の惹かれる「色」を持つ2人を見て咄嗟に「私達のバンドに入りませんか?」と言ってしまったところ、きみもルイも思うところあって乗り気になり、そのままバンドが結成されるに至った。
退学したきみを追い回したり、勝手に寮へ泊めようとしたり、実はやっていることがかなり大胆で図太い傾向にある。
とはいえ本人は純粋な気持ちで行動しており、周囲もそれを理解しているため、態度が悪いという扱いを受けることはない。

バンドではキーボードとコーラスを担当。することがないときは左右にステップを踏みながら踊るなど軽やかな動きを見せている。
ステージ衣装はピアノの発表会を意識したような白いスカートで、左胸にバラを付けている。
音楽に関しては初心者同然であったが、一応ピアノの経験があったためバンドではキーボードの担当になった。
寮にはピアノがないため、ルイが中古で買ったキーボードを借りて練習していた。
最初はタンバリンなども担当楽器の候補だったようだが、あまりにも微妙だと言うことでピアノ一本に落ち着いた。
このタンバリンはデモ音源などで使われていた様子を確認することができる。
作中の描写から推測すると、ほとんど音楽初心者の状態から僅か3か月以内に『水金地火木土天アーメン』の草稿を書き上げており、その音楽的才能の高さをよくネタにされる。

+ 大好きだった「ジゼル」
冒頭の回想でもトツ子がバレエを踊るシーンがあるが、これについて詳しく語られるのはクリスマスのバンド練習のときである。
船が欠航して「合宿」を行うことになった際、ルイがラジオのチューニングを行っていたとき「ジゼル」が流れてきた。
このときトツ子は2人に対し、それまで誰にも語らなかった幼少期の思い出を語り出す。昔バレエを習っていたこと、バレエ教室のお姉さんが踊っていた「ジゼル」に憧れていたこと、上達せずに辞めてしまったこと…。
きみとルイ、トツ子と同様に自分に正直になれない部分を持つ2人がいたからこそ、自分の本音を語ることができたのであった。
するとルイがテルミンを使って「ジゼル」を即興で演奏してみせた。トツ子はそれに合わせて、見様見真似で覚えたバレエを2人の前で少しだけ披露する。
決して上手くはない踊りでも、2人がいてくれたから久々に人前で踊れたのであった。
この後きみもギターで演奏に参加し、音楽とバレエを通じて3人の関係は深まっていった。


やがて日は流れ、聖バレンタイン祭も終わった静かな校庭*2でルイの演奏する「ジゼル」を思い出しながら好きだったバレエを下手ながらも一人で踊りだす場面がある。
3人でのバンド活動を経て自分の心を解き放ち、下手でも良いからもう自分を否定しないという決意の現れだった。
無我夢中で踊り続け、青空へと手を伸ばしたとき、トツ子は一瞬だったが自分の手から赤い「色」を感じ取った。
初めて自分の「色」が見えるようになったのだった。
そして長年抱えていた迷いを振り切り、そのまま最後まで大好きな「ジゼル」を踊りきる。


○作永きみ(CV:髙石あかり)
トツ子の隣のクラスに所属していた女子生徒。髪型はストレートのセミロング。聖歌隊のリーダーを務めるなど周囲からの人望も厚く、小テストでもあっさり満点を取る優等生。
"GOD almighty"という単語を見て、即座にこれが「なんてこった」を意味する英語のスラングでもあると気付くなど、知識も深い。

小説版によると母親は海外を股にかけるアーティストとして活躍しており、きみと兄の志郎は海外まで付いていく気にならなかったため、祖母の家に身を寄せることとなり、祖母宅が事実上の実家となっている。
自室は男子の部屋かと見紛うほどに物が少なく、インテリアの色合いや傾向も女子らしいものが殆どない。
エレキギターとメトロノーム代わりに使っている「ニュートンのゆりかご」が目立つが、それらは両方とも兄が買ったもので、持ち主がいなくなったものを勝手に貰い受けているだけである。
途中で部屋にぬいぐるみを置くようになるが、これまた成り行きで見つけて気に入って買っただけであり、最初から欲しくて買った訳ではない。
部屋に私物が少ないため趣味嗜好は不明だが、成り行きでエレキギターを譲り受けてからは自主的に練習へと励んでおり、聖歌隊への思い入れを見せている場面もあったため、音楽自体は趣味ということになりそうだ。

初登場の場面では明るくニコニコしていたが、素顔は見た目以上にかなりクールで、地が出るようになってからは表情を大きく変えずに感情を表すことが多い。
基本的に機嫌が良いときは目を細めずに口角を上げた優しい表情を見せることが多く、目を細めて笑う場面は非常に少ない。
一方で気を抜くと人前でもすぐにボーッとした表情やなんとも言えない妙な表情になることも多く、作中では色んな場所でその表情を見せている。
最初しっかり者のように見えたのは単純に気を張ってそういう風に見せていただけだったようだ。
私服はボーイッシュでトップスはオーバーサイズのシャツやパーカーを着用。ボトムスは極端に寒い時期を除きハーフパンツがメインで、両手を上に挙げてもなおボトムスがトップスに隠れる一方、足の細さは際立つ。
身長が162cmと高めでスレンダーなのでボディラインの出る服装も似合うはずだが、私服は一貫してオーバーサイズのトップスを着用していた。
キービジュアルなどで着用しているパーカーはお気に入りなのか、作中では様々な場面で着用している。
美人でクールなところやトツ子との対比でカッコよく見える部分があるものの、実はトツ子以上に服装へのこだわりがないタイプで、オーバーサイズでボーイッシュな私服も単純に兄のお下がりを使っているためである。
一応設定画によれば上品そうなワンピースやサンダルなどガーリッシュな、自分で買った服もちゃんと持っている模様。*3
他人から見れば頭脳明晰でクールな美人で周囲から頼りにされるパーフェクト美少女なのだが、素顔はお兄ちゃん大好きな妹で、割とボーッとしていて、上京した兄の影を見つめて置き土産を片っ端からお下がりにしているというギャップの大きい人物。
ついでに言えばオーバーサイズのトップスに加えて大きなギターケースを背負いボストンバッグを肩から提げる場面がそこそこあるため作画泣かせ。

+ そんな彼女はある日突然学校を退学してしまい、知人の古書店「しろねこ堂」で店番のバイトをする日々を送るようになる…
きみの抱えていた悩みは簡潔に言えば「ひとりで傷ついていた」。
学業での成績や聖歌隊の活動などで日々周囲からの期待に応えようとしており、それがやがて過剰なプレッシャーとなって耐えられなくなり、学校を退学するに至った。
ギターを始めた理由も元々は兄の置き土産から自分の価値を見つけようとする、自己肯定感の低さが発端である。
そんなきみがバンドを組むというトツ子の唐突な提案に即座に同意したのは、トツ子と在学中に一切の交流がなく、唯一直接的な接点があったのは体育の合同授業でドッジボールをトツ子の顔面にぶつけたときだけであったためである。
きみ視点で捉えればトツ子は同じ高校に在籍していた生徒だがしがらみのない存在で、それなのに何もかもから逃げ出そうとした自分をわざわざ探し回って純粋な気持ちで受け入れ、なんとなく始めたギターも正面から受け止めてくれた人物なのである。
一方のルイに関しては初対面の頃から何かと気にする素振りを見せており、自分からはなかなか話しかけられず、基本的に受動的であった。
トツ子と2人まとめてハグされたり、自分の作った曲にルイがアレンジを加えたものを聞いたり、ルイが何かきみに対してアクションを起こすとしばし呆然とした表情を見せており、トツ子から2人でルイにクリスマスプレゼントを送ろうと提案されたときには頬を赤らめている。
物語のラストで大学進学のためフェリーで旅立つルイに対して、彼を見送るため長い堤防を全力疾走*4して、大声で「頑張ってー!!」というエールを三度贈って好きだという気持ちを伝えている。
人の気持ちばかりを意識して悩み続け、兄の影を見つめて自分の価値を示そうとしていたきみだったが、最終的には後ろ向きな理由で始めたことを前向きに受け止め、自分の気持ちに対して正直になっていくという結末を迎えた。
高校を退学したこと自体も気の迷いであったことは自覚しており、後先考えなかった行動であったと自省する一方、後悔する意味はないと割り切ったところも見せている。
小説版によるとその後は改めて高校卒業資格を取ることを決意したらしく、地頭が良いため難なく合格するだろうというのがトツ子の見方である。

バンド活動ではギターとボーカルを担当。楽器は兄からのお下がりであるエレキギターを最後まで使い続けた。
ステージ衣装はトツ子とルイが新しい衣装を購入して、靴もステージに似つかわしいものを選んだのに対し、きみは私服の★Tシャツの上に兄のお下がりであるワイルドなGジャン*5*6を羽織って、ボトムスはいつものように黒のハーフパンツ、靴も普段と同じハイカットスニーカーを使用。一方で左手首には青いスカーフを巻いている。
ライブ衣装というイメージで選んでいるらしく、ギタリストにふさわしいロックでワイルドな姿ではある。
とはいえ、他の2人が衣装を新調したのに1人だけ私服がベースの衣装になってしまった。
服装に対するこだわりを持たずお下がりを使い続ける習慣自体は最後まで変わらなかったため、こんなところにまで影響が出てしまった。


○影平ルイ(CV:木戸大聖)
離島に住み本土の進学校に通っている少年。*7身長173cmとそれなりに大柄だが、物静かな性格で音楽を趣味としている。
小説版の補足によると虹女の優等生であったきみの実力でも厳しいような、県内有数の進学校に通っているらしい。
メガネを掛けており、レンズが分厚いため相当視力は悪いと思われる。
いわゆるナードと呼ばれるタイプで、人付き合いは上手くないためクラスメートとプライベートでの交友はないという短所を持ち、パソコンや音響機器などの扱いには非常に詳しいという長所を持つ。
島唯一の医院の跡取り息子であり、将来は母親の跡を継いで医者になることを周囲からも期待されている。
本人も模試で上位になるなど成績は優秀であり、医者になること自体にはなんの問題もなかった。

一方で趣味として音楽を嗜み、それを更に深めたいという熱い思いを抱いていた。
掃除をすることを条件に島の旧教会を練習場として使わせてもらい、1人でこっそりと楽器を集め、ときには雑誌の付録などで部品を集めて機材を自作してまで環境を揃えて練習していた。
バンド活動に使うための楽器も塾へ通うために町に出た際に寄り道をして買い集めていた。
しかしながら自分の意見を伝えるのが苦手で友人もおらず、趣味に没頭する姿を地域の知り合いに見せると周囲から将来を心配されるため、誰ともバンドを組めないでいた。
ルイは「自分を偽っている」という悩みを抱えていたのであった。
きみの働くしろねこ堂には以前から時々出入りしており、きみがギターの練習をしている様子を日々見ていた。
そんなときたまたま現れたトツ子がきみと音楽について話していたため思い切って声を掛け、そこで誘われたことをきっかけに、バンド活動にも本気で取り組むようになる。
初めての練習で2人を出迎えたときは大きく手を振ったり、奉仕活動による1ヶ月の中断を経て練習を再開した日には2人にハグを行い手を繋いで飛び跳ねているなど、トツ子ときみに対しては素直な感情を表に出している。
ルイの立場からすればバンドの練習ができる場所と楽器は揃っており、一緒に演奏する仲間だけ誰もいない状態だった。
このため楽器だけ持っていて練習をしていたきみ、どっちも持っていないのにバンドを組もうと言い出したトツ子との関係はお互いの足りない部分を補い合うものとなり、バンドとしてちょうど良い形に収まった。
「合宿」のときは3人で一夜を過ごせるように毛布やキャンドルを大量に用意して、2人が心配だからと一緒に寝泊まりするなど、非常に積極的な行動を見せている。
「僕たちは今、"好き"と"秘密"を共有してるんだ」という台詞からも分かる通り、ルイにとって2人は自分の気持ちを打ち明けられる大事な友人として扱っている。
なお、音楽の趣味と医者を目指すことは全く別であり、趣味に全力を注いで勉強をおろそかにしてはいけないという意識を持っている。
このため受験期にあったにもかかわらずバンド活動と勉強を完全に両立させており、成績の悪化も一切なかったため、最終的には東京の難関大学に合格している。
卒業式を終えたあと船で地元を旅立つことになり、トツ子ときみが船の上のルイを見送るところが本作のラストシーンとなっている。

バンドでは編曲とシンセサイザー・オルガン・テルミンを担当しており、演奏開始のタイミングを決める指揮の役割も担う。*8
更に1人では手が足りないため、トツ子にエフェクターの操作まで委ねているなど、非常に忙しい立ち位置にある。
ステージ衣装は薄紫のスーツと前立がフリルになったサテンシャツを着用。普段のおとなしく地味な雰囲気とは裏腹に派手な衣装となった。
ステージでは演出の関係上オルガンやシンセサイザーを使う場面が多かったが、日頃はテルミンを愛用しており、作中では初練習でテルミンを使ってギターのきみとセッションを行っているほか、ラジオから流れてきた「ジゼル」にトツ子が反応した際はこのテルミンを使って即興で演奏している。
「しろねこ堂」というバンド名も彼が提案したものである。
離島というあまり音楽に触れられる環境ではないにもかかわらず、前述の通りテルミン・オルガン・シンセサイザーを弾きこなしており、その音楽的素養の高さがたまにネタにされる。

+ コミカライズで明かされたことは……
コミックニュータイプ連載のコミカライズ版においてルイの志望校が東大であることが明かされた。
つまり、バンド活動と並行しながら学業も優秀どころかトップクラスの成績を維持していたのである。流石にハイスペックが過ぎる。
また、母には音楽活動をしてることがバレていることも明かされ、音大への進学も提案されたがドラクエの作曲者として有名なすぎやまこういち氏*9を例に挙げ、音大に進まずとも音楽活動は出来ると固辞している。
ちなみに『合宿』の際に女子二人と一夜を過ごしたのに手を出す素振りすら見せないという聖人君子じみた行動を母に心配されている。そりゃそうだ。

森の三姉妹

寮の4人部屋で一緒に生活しているトツ子のルームメイト。
お互い深い事情には踏み込みすぎず、程よく冷めた目を向ける形で生活している。
トツ子が妙なことを口走ったところを見て呆れることはあるが、それでも尾を引くことはなく良好な関係。

○百道さく(CV:やす子)
体が大きく、おおらかで食いしん坊。髪型はトツ子同様に三つ編みだが、部屋にいるときは髪を下ろしている場面が多い。
クラスではトツ子の隣の席に座っている。
ルームメイトへのお土産に大分名物のビスマンを買ってきているため、出身地は大分県かもしれない。
学園祭のライブでは一曲目が終わったあと、ギャラリーらの「いつも聖堂にいる子がなぜか作永さんと一緒にいる(要約)」という、トツ子を冷ややかな目で見る会話を聞くとムッとした顔を見せ、即座に「トツ子ー!!」と叫んで「私たちは応援している」と言わんばかりのエールを送っていた。
中の人が本職の声優ではないためセリフは少なめで簡潔だが、声のトーンや行動から優しくて友人思いな人柄を感じさせる。

○七窪しほ(CV:悠木碧
明るくておっとりしている。髪型はショートカット。
体力には自身がないようで、遅刻しそうになって急いで教室に入ったあと息を切らしている。
トツ子のことをトン子と呼んでいるのは主にしほ。とんこつラーメンのカップ麺をお土産として買ってきたことがきっかけらしい。
3人の中では変な癖が目立ちにくく、トツ子を含めた4人のバランスを保つような立ち位置にある。

○八鹿スミカ(CV:寿美菜子
友達想いのギャル。髪型は腰まで届くロング。シスターらのモノマネを得意としている。
トツ子のことをトッコと呼んでいる場面がある。
トツ子が島から帰れなくなったという連絡を受けたときはトツ子からおみやげに貰ったカップラーメンを食堂で食べていた。
食堂という場所でカップラーメンを持ち込んで食べていた経緯は小説版で説明が補完されている。
ルームメイト3人が朝から出掛けたため誰にも起こされずに朝ご飯を食べそこね、昼になってもまだ寝ていたため昼ご飯も食べそこねてしまったため、カップラーメン以外に食べられるものがなかったという事情があった。
寮の自室で食事が禁止されているわけではないが、お湯の入ったポットは食堂にのみ設置されており、食堂のポットや座席は昼食時間帯以外でも使えるため、必然的に食べる場所が食堂となったのであった。

主人公を取り巻く人々

○作永紫乃(CV:戸田恵子
きみの祖母。虹女のOGで、校長は在学時の先輩にあたる。
孫が自分と同じ学校に通い、学内で飛び抜けた存在になっていることを誇らしく思っているが、それもきみにとってはプレッシャーを感じる一因であった。
子供の世話を見られない茜に代わり、志郎ときみの母親代わりとなって食事などの世話をしている。
なお、小説版によると紫乃が面倒を見ているのは日常生活面であり、学費などは母親が払っている。
白髪頭だが背筋は伸びて足腰もしっかりしており、バンドを見にきたときは年配女性らしからぬオシャレで派手な服をバッチリ着こなしているため非常に若々しく見える。
生活苦ではないのだが、働かないと落ち着かないという理由から飲食店でパートとして働いている。
きみが退学を内緒にしていたことは心中を察して咎めなかったらしいが、その後の突然の無断外泊とバンド仲間について打ち明けられたときは何も言わず見つめていた。
それもいざ聖バレンタイン祭で「しろねこ堂」の姿を見にきたときは曲を聞きながら昔なじみの校長と一緒になってノリノリで踊っていた。
更にすべての演奏が終わったところで「愛してるよー!」と叫ぶなど、きみがバンドに注いだ情熱にも理解を示していた。
裏設定によると昔がパンクだったとのことで、聖バレンタイン祭を見に来た服装がやたらとキマってたのもそのせい。

○シスター日吉子(CV:新垣結衣)
虹光女学院のシスターであり教師。いつもポケットにロザリオを入れている。
クールで冗談にも乗らないところや廊下を走る生徒を注意するなど生真面目でお硬いところはあるが、悩めるトツ子らに道を示すなど良き相談相手となっている。
トツ子も日吉子のことを嫌ってはおらず、日吉子からはきれいな「色」を感じているなど、ある意味では憧れのように見ている部分がある。
何かと協力的なところがあり、とんちを利かせて物事を上手に運ぶところが多い。基本的にトツ子もきみも見かけによらずデリケートで悩み込んでしまうところがあるため、危ないと思うと毎回即座に先回りしている。
  • トツ子が修学旅行を仮病で休んでその間にきみを学校の寮内に引き込もうとした校則違反に対する1ヶ月の奉仕活動と反省文の提出という処分→本来はトツ子だけが処分を受けるはずだが、(カトリックの精神に基づき)きみにも償いの機会を与えるという名目により2人とも奉仕活動と反省文の提出を行うことになる。共犯関係にあったきみに追放処分を下すと、抱え込みやすいきみが処分の格差で気に病むため、敢えて2人に同じ処分を与えた。当人たちはそうとも知らず呑気に奉仕活動を行っていたが、概ね想定内の行動だろう。
  • 卒業生も出演する文化祭ライブに退学したきみが出演することについて→きみの退学を「あなたはこの学校を卒業したのです。あなた自身のタイミングで。」と言い、バンド出演を「あなたを慕っていた生徒たちも、あなたが元気にしている姿を見たいと思いますよ。」と言うなど、きみが退学したことを否定せずに受け入れつつバンド活動のゴール地点を示す。
  • クリスマスの練習で島の協会に行ったら帰りの船が悪天候により欠航→「バンドの合宿」として扱い、無断外泊扱いにしない。同時に「合宿」なのだからそこにいる意味を考えるようにと述べて、トツ子に対して自分を責めないように諭す。これは結果的に3人が成長するきっかけを与える。

+ 日吉子の秘密
実は学校のOGであり、在学当時は"GOD almighty"というロックバンドを組んでいた過去がある。
トツ子の使っている寮のベッドに刻まれた"GOD almighty"という文字もおそらく日吉子によるもの。
無断お泊まり会の夜にたまたまシスター樹里とトツ子を訪ね、きみが隠れているベッドの方向に目を向け、トツ子と目が合うと珍しく何かを誤魔化すように苦笑いをしていたのは、自分が昔使っていたベッドがふと気になったことによるものらしい。
トツ子らがかつての自分と同じようにバンド活動という道を歩もうとしていたこともあり、自分の経験から遠回しにアドバイスを送り続けたようだ。
学園祭ライブの際はしろねこ堂の3人と挨拶したとき、事前に聞かされた曲の感想をうっかり熱く語り込んでしまい、トツ子から制止されている。
本番中は観客席でおとなしくしていたが、最後あたりでこっそりと退出し、誰もいない廊下*10で一人くるくると踊っていた。
テンションが上って堪えきれなくなったようだ。
監督の裏設定ではニルヴァーナを聴いており、イメージ的にはバンドでギター担当とのこと。

○ルイの母(CV:井上喜久子
医院を開いており、島唯一の医者として地域を支えている。
夫は出奔して行方不明、長男は不慮の事故により死亡したため、ルイに自分の跡を継いでほしいと考えている。
ルイからバンドのことを打ち明けられたときは黙って話を聞いており、ライブ当日は観客席でルイの姿を楽しそうに眺めていた。

○トツ子の母(CV:佐々木優子
トツ子が日帰りで実家に立ち寄った際に登場。
娘そっくりの顔立ちで、ふっくらした体格と丸顔とアホ毛が特徴。
娘が友人を寮に引き込むという校則違反をしたと連絡を受けた際には、「本当はたくさん叱らなきゃって思ったけど、庇いたくなる友達ができたんだね」とトツ子が悪いとしながら一定の理解を示していた。
トツ子が日帰りで学校へ戻るとき、トツ子の友人らのために大量のお土産を預けていた。
帰りのお土産の中にはトツ子が持ってきたはずの紙袋*11も含まれていたが、新しい中身を入れて返却したと考えるのが妥当だろう。
なお、トツ子の父も本編で登場しているがセリフは無し。幼少期の回想、駅での見送りの場面や学園祭ライブで姿を見せている。

その他の人物

○シスター樹里(CV:一龍斎貞友
丸顔で年配のシスターであり教師。聖書の授業を担当する場面がある。

○校長(CV:木村有里)
虹女の校長を務める中年の女性。きみが寮内へ侵入した一件を巡る場面で登場した。
学園祭ライブでは途中から現れ、『水金地火木土天アーメン』を聞き終えたあと3人に向けて賞賛の声を送っていた。

○島の人々(CV:AO & KAN & naoto)
ラストシーンに登場する、船で島を旅立つ人々とそれを見送るモブ集団だが本作では数少ないクレジット表記のある男性キャスト。
『水金地火木土天アーメン』のMV振付を担当したパワーパフボーイズの3人が担当している。


その他の生徒

山田尚子監督の方針により、ビジュアルが設定されている生徒、具体的にはトツ子ときみのクラスメート全員と聖歌隊メンバー、計62人のモブ生徒に氏名・ニックネーム・部活動が設定されており、アニメーションガイドで全員のデータを確認することができる。
担任に関しても設定があり、体育の授業と職員会議の場面でチラッと登場している。
学年やクラスに関係する場面でも丁寧な設定考証が行われており、例えばきみの初登場シーンで左右にいたクラスメートは日頃から仲の良かった久住(髪型ショートの眼鏡)と加世田(三つ編みおさげの黒髪)で、きみが退学した学校を振り返る場面でチラリと登場するほか、学園祭ライブでは校長と紫乃が踊っている背後にその姿を確認できる。
ライブ前の3人を訪ねてきた生徒はトツ子と同じクラスの聖歌隊メンバーであったため、「日暮さん、きみちゃん」と2人に声を掛けている。*12
ここらへんの設定は山田尚子監督が京アニ時代に手掛けたけいおん!の桜高3年2組を彷彿とさせる。

舞台解説

○虹光女子高等学校(こうこうじょしこうとうがっこう)
通称虹女(こうじょ)。ミッションスクールの女子校。港を見下ろす丘の上*13にある。
寮生と通学生がおり、トツ子は前者できみは後者。
山田尚子監督によると実際のミッションスクールを複数取材して設定を考えたとのこと。
制服は春服、夏服、冬服の三種類があるが、物語が大きく動くのは春先と冬なので夏服は殆ど出てこない。
毎年冬には聖バレンタイン祭と呼ばれる学園祭が行われている。
2月に学園祭があるのは珍しいが、合唱コンクールを2月に実施する学校はあるため、そこら辺がモデルだろう。
なお、トツ子は内部進学により既に合格していたため、きみは退学していたため受験勉強は不要でバンド練習に打ち込むことができた。

○しろねこ堂
きみが働いていた古書店で、町中の路地裏にある。
明確なモデルはなく、長崎市の中通り周辺にあった古書店などを参考にしていると山田尚子監督が舞台挨拶で説明している。
店主はきみに店番を任せっきりであるため作中では姿を見せず、漫画版でチラリと登場するのみ。
と言っても丸投げしているわけではなく、細かい事情は小説版で説明されている。
店主はあらかじめ在庫の価格をすべてパソコンに入力するなど、必要な事務処理を済ませたうえできみに任せている。
劇中でトツ子や日吉子が本を買おうとしたとき、パソコンを調べていたのは値札がない本の値段を確認していたためである。
作中では退学して行き場を失ったきみにとって、学校に代わる事実上の活動拠点となっている。
きみは店番と本の整理という仕事はきっちりこなしつつ、休憩時間を決めてギターの練習や弦の張替えを行っていたらしい。

○バンド名の由来
「しろねこ堂」が選ばれた理由は3人をつなぐキーワードというコンセプトに基づくものである。
トツ子が最初に提案したバンド名「スーパーアイスクリーム」もコンセプトは同じであり、これは3人で初めて共有した体験が「入江の堤防でアイスクリームを食べたこと」であったためである。
この「スーパーアイスクリーム」はあまりにも微妙なネーミングだったためソフトな言い回しで却下されてバンド名は保留となり、最終的にルイとトツ子・きみと初めて出会った場所である「しろねこ堂」をバンド名にした。

○ルイが使っていた旧教会
入江の小さな集落にある古い教会で、新教会が隣に建てられているため今は使われていない。
小説版によると、フェリーで20分程度の場所という設定になっているらしい。
ルイは掃除をする代わりに自由に使わせてもらっており、バンド結成後は3人の練習場所となった。
教会は本来聖歌などを歌う場所で音響効果があるため、バンドの練習を行うには最適だったという事情もある。
3人で練習を行うようになってからは練習後の掃除も3人で行っている描写がある。
教会なのでオルガンは備えられていたが、ソファや音響機器などはルイが1人で各所から調達して揃えた。
旧教会には照明器具が取り付けられていない上にコンセントも少なく使える電力も最低限しかないため*14、普段は電源を音響機器に割り当てている。
「合宿」で一夜を過ごした際には床にキャンドルを並べて灯りを取り、電源を電気ストーブに割り当て、ルイが毛布を用意することで寒さを凌いだ。

楽曲

主題歌

Mr.Children「in the pocket」
イントロに流れる教会の鐘の音は牛尾憲輔が実際にモデルとなった教会を取材したときに収録したものを使用している。
桜井和寿は脚本に目を通したうえで、作品に対して特別な解釈は加えず「繊細な主人公らがそのまま飛び立てるように」というコンセプトで詩を書いたとのこと。

聖歌隊の歌唱曲

○「いつくしみふかき」
○「あめのきさき」
カトリックの聖歌であり、ミッションスクールでは音楽の授業などで取り上げられることのある楽曲である。
劇中で聖歌隊が歌う場面ではカリタス女子中学校・高等学校コーラス部が歌った音源を使用している。

演奏曲

○「Ave Maria」(グレゴリオ聖歌)
きみが最初に1人でギターを弾いて練習していた曲。
本来は虹女の聖歌隊の歌唱曲だが、本編で聖歌隊がこの曲を歌う場面はない。
教会での初練習のときにはルイの演奏するテルミンときみのギターでセッションを行なっている。

○「Giselle. Act I: Pas seul - Pas de deux des jeunes paysans」
トツ子が憧れていた曲であり、バレエの演目。もっぱら「ジゼル」と表記される。
トツ子を巡る物語はジゼルに憧れながらもバレエが上達せず挫折するところから始まり、
最後は上手くはないありのままの自分を受け入れてジゼルを踊りきるところで終わりを迎えている。

しろねこ堂の発表曲

いずれも作詞が山田尚子、作曲・編曲が牛尾憲輔によるもの。
劇中の設定としてはルイ、きみ、トツ子がそれぞれ主体となって曲作りを行い、そこに他のメンバーが手を加えて完成させている。
学園祭ライブのシーンでは本当に体育館で響いているような、少し籠り気味の音になっているほか、通しで歌った音源を使用しており、ボルテージが上がり叫び気味に歌ってキーがズレた部分などもそのまま採用されている。
なお、CDやサブスク配信の音源は一般的なレコーディングの収録方式を採用しており、パートごとに録音して最も良い部分を繋げている。

○「反省文~善きもの美しきもの真実なるもの~」
ルイが作曲したところへきみが歌詞を追加して作った一曲。
曲名や歌詞はシスター日吉子がトツ子ときみに対してアドバイスを行ったことに由来する。
「反省文」はきみに対して述べた反省文を通して心の内を歌にしてみること、「善きもの美しきもの真実なるもの」はトツ子に対して述べた作曲の手掛かりが元になっている。
「迷える子羊」「わたしはあなたを愛している」など、聖書に由来するフレーズも何箇所か織り込まれている。
ロックのような荒々しいイントロから始まるが、それとは裏腹に歌唱は比較的落ち着いたものとなっている。
ピアノの音符の数が少ないため、トツ子は片手の指一本ずつで音を奏でている。

○「あるく」
きみが作詞作曲したにルイがアレンジを加えた曲。
ピアノのメロディを主旋律とした非常にゆったりとしたテンポの楽曲で、一番はオルガン、その後の間奏からは優しいテルミンのメロディが入る。
構想段階の歌詞は「明かりのない世界」など暗いワードが多かったが、日吉子の「反省文で心の内を歌にしてみる」「心が軽くなるような」というアドバイスを元に「明かりはゆらいで」などの幻想的な内容となり、メロディもルイのアレンジによって悲しい曲に優しさが加わって完成した。
ピアノが大きな役割を担うため、トツ子はこの曲のみ椅子に座って演奏している。
きみのギター演奏はないが、アウトロではフィードバック奏法による共振音が入る。

○「水金地火木土天アーメン」
トツ子が作詞作曲を行った曲で、予告CMなどでも使用されているなど、しろねこ堂の代表曲として扱われている。
曲名にもなっている「水金地火木土天アーメン」や、「きみの色がぶち抜きました」など、電波ソング不思議な歌詞が目立つ一曲。
一見すると極めて独特で一貫性のない歌詞は、トツ子が共感覚で捉えた「色」から受けた衝撃、カトリックに対する信仰心、地学の授業で印象に残った「惑星」、授業中居眠りをしていたとき自分の妄想と映像教材のナレーションがごっちゃになったことで浮かんできた言葉、母親の言葉「(バレエをやってた頃のトツ子は)くるくる回ってね、楽しそうでね」など様々な場所で印象に残ったワードをかき集め、3人の名前を歌詞に織り込んだ結果によるもの。
この曲はトツ子自身もピアノを弾きながらコーラスとして参加している。コーラスの役目がメインとなるためピアノの担当パート自体は非常に断片的であり、最後はやることがなくなり踊っていた。
東宝MOVIEチャンネルにて3人が音楽に合わせて踊る描き下ろしショートアニメーションも公開されている。


使用機材

音楽がテーマの作品なので、楽器はメーカーや販売代理店と関係を結び、実在のものを描いている。
関係各所がエンドクレジットにプロダクト協力として名を連ねていることや、有志が解析しているため概ね特定されている。
価格は映画が公開された2024年時点でのものを基準にしている。
なお、劇中ではきみが持っていたギターとアンプと弦以外の楽器と音響機材をルイが1人ですべて揃えている。
既製品に関してはルイの小遣いで買えるできるものという基準で機材は選ばれている。
また、一部の機械は雑誌の付録として付いて来た部品を集めてルイが自作したという設定になっている。

+ 長いので折りたたみ
○きみの使っていたエレキギター
Rickenbackerの360V64 Jetgloで、1964年頃のモデルを1996年に復刻したもの。
劇中の音も実際にこのギターを演奏して収録している。
ちなみに中古品でも価格は40万以上。
物置の肥やしにするのは勿体ない代物であるため、志郎がきみに弾かせようとするのも納得がいくだろう。

○きみが持ち運んでいた練習用のアンプ
Orange AmpsのOrange CrushMiniで、劇中でもOrangeのロゴが描かれている。

○ライブで使われたギターアンプ
Fenderの'65 Twin Reverbで、代表的なモデルである。

○旧教会に置いてあったアンプ
YAMAHAのTHRだが、登場したのみで劇中未使用。
ルイが様々な機材を集めた上で、ライブでは機材を選んで使ったのだろう。

○エフェクター
ZOOM CORPORATIONのMS-50Gが使われている。

○張替え用のギターの弦
D’Addarioの弦だと推定されている。
実際の価格も2,700円前後なので、きみが稼いだバイト代で十分に買える。

○トツ子が練習と作曲に使ったキーボード
CASIOのCasiotone ミニキーボード SA-46が使われている。
ルイが中古品として購入したもので、生産終了品である。

○トツ子がライブ演奏に使ったキーボード
RolandのGO:PIANO88という2019年頃のモデル。
MIDIの端子はなく、Bluetoothでスピーカーと接続することができる。
発売価格は3万から4万前後で、最初はルイが使っていたが、ルイが新しくキーボードを拾ってからトツ子の担当楽器となった。

○パッドコントローラー
トツ子のキーボードの上にあった機械。
AKAI professionalのLPD8 IIが使われている。
ドラムの音をコントロールしているようだが、ドラムの音源自体は不明。
ルイはオルガンやテルミンを弾くため、パソコンから流している音の制御をトツ子に任せているという推察がある。

○ルイが使用するテルミン
moogのEtherwave Thereminというモデル。
15万前後する代物で、ルイのお気に入り。
音源はフランスのテルミン奏者、グレゴワール・ブラン氏、演奏の動きも同氏がときの動きを元にしている。

○テルミン用のアンプ
テルミン本体と同じくメーカーはmoogでTB-15 Theremin Amplifier for Etherwaveというモデル。

○テルミンとアンプを接続するケーブル
カナレのCANARE G05 BLKというモデル。

○DTMソフト
SteinbergのCubase 12というソフトウェアが使われている。

○オーディオインターフェース
楽器の音をパソコンに入力するための機器で、SteinbergのUR22MkIIが使われている。

○ルイのシンセサイザー(キーボード)
ルイが後半以降使っていたキーボードはYAMAHAのDX100を使用している。
ご自由にお持ちくださいと書かれたものをルイが拾ってバンドの楽器に加えているが、音楽プロデューサーの中村伸一氏が実際に拾ったエピソードが元ネタ。
モデルとしては1986年頃に発売されたものであり、トツ子の使ったキーボードよりも古い。
中古品の販売価格は7万円前後で、状態がよく高性能なのでルイの担当楽器となったようだ。

メディアミックス

佐野晶によるノベライズ版と鈴木小波によるコミカライズ版がそれぞれ刊行されている。
ノベライズ版の構成は劇場版アニメのあらすじをそのままなぞった形となるが、細かい劇中の3人の行動について細かい解説を入れて補完している。
コミカライズ版は細部の構成を組み替えつつ、3人それぞれの視点で物語を掘り下げている。特に音楽をテーマとする劇場版アニメをそのまま漫画化しても微妙な場所は漫画として成立する展開へと変更されている。
劇場版本編では明確に描かれなかった設定も多いが、本編との整合性はなるべく保たれるように描かれており、基本的に山田監督が納得しているため概ね公式設定と考えていいようだ。


評価

本作は大きなアクションを起こして重苦しい展開を払拭するような作品ではなく、性格の捻じ曲がったような人物もいない。
メインの3人はそれぞれ独特な生活環境にあるものの、親との関係自体は極めて良好で破綻してはいない。このため観た人からは概ね「優しい世界」という見解で一致している。
また、山田尚子監督はそれぞれのキャラクターを大事にして制作者の代弁者にしないという方針であるため、説明的な台詞は少なく良くも悪くも受け手に事情を読み取らせる描き方になっている。その分だけ注意して見ないと気付かないほど繊細な描写、裏設定などを知ってもう一度見ることで分かる魅力などが多い。
小説のように受け手に委ねられる表現や、注意して受け手に左右されやすい部分があり、本編での説明を期待して観ていると見過ごすような描写も多い。
分かりにくい部分はメディアミックスによる補完、オーディオコメンタリーによる解説、アニメーションガイドなどを通して見ると分かることがある。
一方で大人には言えない悩みを抱える少年少女のリアルな描写、明確なコンセプトを持ちながらも個性的な楽曲、京アニ出身の山田監督による綺麗な美術など、様々な部分が丁寧に作り込まれている。
カトリック教会に関する描写はトツ子個人の信仰や学校の様々な方針など舞台装置としていう位置付けであり、カトリックの精神を知らなくても物語は理解できるように描かれている。
このため概ね好きな人はとことん好き、アートアニメとして良作というあたりがファンからの評。


作品の聖地について

本作では登場人物の行動や言葉にカトリックの考え方を取り入れた部分が多く、モデル地には教会やカトリック教徒が多い長崎県を選んでいる。
特に教会は長崎大司教区の許可*15を取った上で制作スタッフが4日を掛けて8箇所でロケハンを行った上で設定考証を行っているため非常に再現度が高い。
  • 学校の聖堂は長崎県佐世保市の黒島天主堂がモデルで、細部は他の教会をモデルにしているが、床に差し込むステンドグラスの光やタイル張りになった内陣の床、椅子の配置、上階層のトリフォリウム(ギャラリー式の廊下)やクリアストリー(明かり取りの窓)など全体的な間取りが概ね再現されている。
  • 練習に使われた旧教会とその周辺は世界遺産に登録された長崎県五島市の旧五輪教会堂がモデルで、外観から内装まではもちろんのこと、果ては柱の聖画*16から柱の塗装の剥げ具合までほぼ完璧に再現している。

制作スタッフが手間隙かけてロケハンを行っているため、ファンにとっても聖地巡礼の難易度が高いというか非常に面倒な作品となっている。
通学路を中心とする町中のモデルはすべて長崎市内なので比較的簡単に回れるが、バンド演奏を行ったホールは長崎市から遠く離れた*17佐世保市の佐世保市民文化ホール(旧海軍佐世保鎮守府凱旋記念館)、学校の聖堂はその佐世保市の離島にある黒島天主堂、練習に使われた旧教会は五島市の二次離島*18の久賀島の奥地*19にある旧五輪教会堂、トツ子ときみがルイを見送った堤防の突端は上五島町の有川港*20と見事なまでに点在しており、学校のモデルに至っては兵庫県にある神戸女学院岡山キャンパスである。更に挙げていくとトツ子の実家は福岡市中央区の浄水通りがモデル、トツ子が両親に見送られた場所は博多駅、車窓の風景は長崎本線の沿線で佐賀県武雄市大字富岡*21周辺である。
漫画版では更に長崎市の中島川に掛かる眼鏡橋や袋橋、更にその上流にある文化財の中川橋といったスポットがあちこち描かれており、ここまで巡っていくと更に面倒なことになる。
聖地巡礼の場所を長崎県内に絞り込むとしても離島が3箇所もあり、船の便数も1日に数本程度なので、一通り回ろうとすると最低でも4日程度の日数を要する。
聖地巡礼自体が不可能と言うほどではないが、聖地となった場所同士の接続性の悪さが聖地巡礼の煩わしさを大きく上げている。
ここで乗り物にこだわると更に難易度は上がる。初練習のときにトツ子ときみが上陸した場面は奈留島発の海上タクシー、初練習の帰りに下船した船は九州商船の長崎港行きフェリー、ラストシーンでルイが乗ったのは有川発佐世保行きのフェリー「なみじ」となる。
それでも長崎県観光連盟が「きみの色のモデル地を巡るデジタルスタンプラリー」というプレゼントキャンペーンを実施してロケ地を紹介したため、一部の猛者はラリースポットとなった県内の聖地をすべて巡ったのだとか。

追記・修正はテルミンを演奏しながらお願いします。

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最終更新:2025年04月18日 02:44

*1 両親がトツ子を見送る改札口が博多駅で、ルームメイトに明太子やラーメンのお土産を買っているため、出身は福岡県と考えていいだろう。

*2 小説版で補足されているが、どこかの教室の音が聞こえるものの静かだった理由は卒業式が終わったあとの出来事で同学年の生徒が殆ど不在だったためである。

*3 ここら辺はキャラクターに幅を持たせる目的で用意した部分が大きいらしく、劇中やグッズでお目にかかることはない。

*4 モデルになった有川港の堤防は座っていた場所から突端まで500メートル近くあり、全力疾走すればどうにか港を去って行く船に近付けるような位置関係になっている。

*5 背中に「Rock it★」=やってやるぜ!という文字が書かれており、ライブ向けの衣装ではある。

*6 舞台挨拶などで説明が行われているため公式設定として確定。

*7 モデルとなった場所自体は本土からやたら遠い離島だが、作中では数十分で着く場所という設定になっている。なお、ルイのように離島に住んでフェリーで本土の高校に通う生徒というものは実在する。

*8 ドラマーが担うことの多い役割だが、ドラムがいないバンドなので彼が指示を出している。

*9 氏は東大教育学部卒

*10 トツ子が水金地火木土天アーメンと高らかに叫んでいた場所

*11 社名は描かれていないがその模様や大きさから福砂屋のカステラであることが分かる。ちなみに長崎土産の定番品の一つ。

*12 トツ子ときみはクラス内で特にあだ名がなく、主に名字+さん付けがデフォという設定。トツ子のことを名前で呼ぶのはきみとルームメイトの3人、きみのことを名前で呼ぶのはトツ子と聖歌隊メンバーなど一部に限られる。

*13 長崎市南山手町付近。現実だと学校はなく観光名所のグラバー園が近くにある場所。なお、港を見下ろす市街地に近い学校というものは少し離れた別の地区に実在するほか、長崎市にはミッションスクールも多数存在する。

*14 モデルとなった実際の教会堂も照明は皆無に等しくコンセントも1箇所しかない。ワット数は不明だが暖房器具1つ使うだけで精一杯だろう。

*15 教会はあくまでも現役の礼拝施設であり、観光や見学はおまけであるため、事前に申し込みをしなければ訪問も撮影もできない。

*16 詳しい説明は省略するが十字架の道行きと呼ばれる14枚の絵で、どこの教会でも壁や柱に設置される。旧五輪教会の場合は各窓の間の壁に設置されている

*17 長崎市から公共交通機関で移動しようとすると2時間前後掛かる

*18 本土から直接行けず、船を乗り継ぐ必要がある離島のことをいう

*19 到達手段は他の島で船をチャーターして教会堂がある五輪港に直接上陸するか、フェリーや高速船で田ノ浦港から上陸してそこからレンタカーを使って近くまで行くかの二択

*20 五島といっても福江島の玄関口である福江港から上五島の有川港への直通航路はなく、公共交通機関で移動する場合は船とバスを乗り継いで1時間以上かかる

*21 コメリパワー武雄店があるあたり