引用

登録日:2025/02/25 Tue 09:06:19
更新日:2025/05/08 Thu 20:03:31
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引用とは、著作財産権の制限事由の1つである。

言葉としてはもっと広く、他人の言葉を抜き出して使用する、くらいの意味で使われるが、この項目では日本の著作権法における引用に関して取り扱う。





著作財産権の制限事由とは


そもそもこの部分を解説しないとなんのこっちゃだと思われるので軽く。
まず、著作権は著作者の財産的な利益を保護する著作財産権と、著作者の名誉など人格的な利益を保護する著作者人格権の2つに分けて考えられるのだが、今回関わってくるのは前者の著作財産権である。

で、日本での著作財産権は複製権、上映権、公衆送信権など様々な種類に分けられるが、これらの権利の「侵害」が成立するためには依拠性・類似性・法定利用行為という3つの要件を満たす必要がある。この中で、3つ目の法定利用行為が今回関係してくる要件である。
これはざっくり言うと、ある行為が著作権法第21条から第27条までに列挙されている事柄に該当する場合、その行為はその条文に応じた権利を侵害していることになる、というようなことである。

例えば、ある人物が著作権者の許可を取らずに不特定多数の客を集めアニメの上映会を開いたと仮定する。
ここで、第22条第2項を見ると「著作者は、その著作物を公に上映する権利を専有する。」とある。
ある人物の上映会はまさに「著作物を公に上映」に該当しているため、本来アニメの著作者が占有すべき権利を侵害している、となるのである。

但し、この法定利用行為には例外、即ち法定利用行為には該当するが違法ではないという領域が存在する。
これは著作者から見れば本来自分が占有できるはずの権利に制限がかかっているという構図になる。

その制限の1つが今回扱う「引用」というわけである。



「引用」について


引用について規定されているのは著作権法第32条第1項である。まずは条文を見てみよう。

公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。

この条文に書かれていることを守れば、適法な引用として著作物を著作権者の許諾を得ずに利用できる。
逆に、この条文から逸脱していない限りは適法な行為だとみなされるため、いくら著作権者と言えどもその引用をやめさせることは出来ない。*1

…とは言え、法律であるため第32条第1項にはどのような使い方ならセーフなのか具体的に明示されてはいない。
以下、一般にこのような条件を満たしていれば良いとされる要件について解説していく。

但し、法解釈は学者によって異なってくることが多いため、各要件の内容や解説する際に用いる用語について必ずしも正しいとは言い切れない。その点に留意した上で読んでほしい。


1.公表

条文で言うと「公表された著作物は」の部分である。
「公表」については著作権法第4条に定められており、ざっくり言うと発行や演奏などと言った手段で一般大衆が著作物を知れる状態になっていることを指す。

例えば、友達が中学校の頃に書いて誰にも見せずに封印していた詩は公表されていない著作物に当たるため、著作権者=その友達の許可を取らない限り適法に引用できないことになる。
なお、ここで許可を取らず勝手に引用してしまうと著作者人格権の1つである公表権の侵害にもなる。


2.引用

条文で言うと「引用して利用することができる」の部分である。
前述の通り引用自体がどのようなものかは法律上明文化されていないが、判例などを見るに以下の2点を持って「引用」と解されるのが一般的なようである。

明瞭区別性
自分が創作した部分と他者の著作物から引用した部分とが明確に区別できなくてはならないということ。
言い方を変えると、引用した部分がさも自分で書いたかのように見える文章ではいけないということになる。
引用する際によく行われる、該当部分を「カギ括弧」や”クォーテーションマーク”で囲むという手法はこの部分をクリアするためのものである。

ちなみにatwikiにはズバリ引用文表示用のプラグインがあり、使用すると
こんな感じで表示される。この項目でも使われてるヤツである。
引用する際は必ず使用しなければならない、というわけではないが覚えておくと便利だろう。

主従関係性
自分の創作した部分が「主」、他者の著作物から引用した部分が「従」でなければならないということ。
この主従関係は量的にも質的にも認められる必要がある。
例えば、読書感想文を書く時に本の内容を丸コピして字数を埋め、最後に「面白かったです。」と書くだけでは明らかに本から引用された内容が主となっているためアウトである。


3.公正な慣行

条文で言うと「公正な慣行に合致するものであり」の部分である。
その著作物に関わる業界などにおいて従来認められてきたルールを守った引用でなければならないということ。

ハッキリ言ってケースバイケースなので一概にこういうのが公正な慣行である、とは言えないが、例えば大学に入るとレポートや論文を書く際の引用方法について指導を受ける機会が用意されていることが多い。これはレポートや論文の世界における引用の「公正な慣行」を学ぶためだろう。
判例を見てみると、他人の著作物を特定個人に対する人格権侵害の目的で利用したことが公正な慣行とみなされなかった例が存在する。

また、出所の明示についても公正な慣行に合致するかどうかの判断材料とされる。この「出所の明示」は著作権法第48条に定められているもので、簡単に言えば引用した著作物がどこから引用したものなのか書く必要がある、ということである。


4.正当な範囲

条文で言うと「報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。」の部分である。
「正当な範囲」とは、引用されるものがその引用元の著作物のうち量と質の観点からどの程度の割合を占めているか、といった形で判断される模様である。
一見「主従関係性」と似ているが、こちらは引用元の著作物からのみ判断されるもので、「主従関係性」は引用先と引用元の関係なので対象が異なる。

そして、その判断について考慮されるのが「引用の目的」である。「引用の必然性」と言われることもある。これは、制作した著作物の中でどのような目的を持って他者の著作物からの引用を行っているか、ということである。
条文中には報道・批評・研究の3つが例示されており、例えば「学会に提出する論文を書く際、自説を補強するために先行研究を引用する」という行為は研究目的とみなされる。それを踏まえ、引用部分が「正当な範囲」の範疇かという判断の際に考慮されるのである。
但し、この3つはあくまで例示に過ぎず、後ろに「その他の引用の目的」と続くことからも分かる通りこの3つ以外だとダメだと言う訳ではない。一応、わざわざ例示されるということはそれらの行為は引用の必要性が高い行為であるというある種のお墨付きを得ている訳で、それだけ「正当な範囲」だと認められやすいようではあるが。


その他

以上の4点は著作権法第32条第1項に書かれている内容をこう解釈するというものであるが、実際のところこれらさえ守っていれば適法な引用であると言えるか、と言うとそうではない。

なぜなら、項目最初に書いた通り引用は「著作財産権の」制限事由だからである。
つまり、著作権のうち著作者人格権は制限されないので、著作者人格権を侵害するような引用は上記の要件に関わらずアウトになるのだ。

著作者人格権にも色々あるが、引用する上で特に気を付ける必要があるのは「公表権」と「同一性保持権」だろう。
ただ、前者については「公表」の項で述べた内容と重複するので改めて解説はしない。

後者は読んで字の如く、著作権者の意に反して著作物の改変をされない権利のことであり、著作権法第20条第1項に定められている。

著作者は、その著作物及びその題号の同一性を保持する権利を有し、その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けないものとする。

まあ元の著作物からそっくりそのまま持ってくればこの点は問題にならない訳で、引用する際の注意点として元の文章を改変しないことがよく挙げられているのはこれが理由である。
ちなみに、外国語の文献を引用する際に日本語に翻訳する、という行為は同一性保持権の侵害には当たらない。これは著作権法第47条の6にそのように定められている。



とまあこのように、普段何気なく行っている(?)引用も法律上このような要件を満たす必要がある(と解されている)のである。
著作権の侵害は最悪の場合刑事罰になる可能性もあるし、そこまで行かなくとも例えば自分では引用したつもりが剽窃とみなされて大学の講義の単位が取れなくなる、ということくらいは起こり得るので、覚えておいても損はないだろう。


引用の悪い例


2010年代以降、動画投稿をすれば広告収入が手に入るというシステムの誕生から、「ニュースサイトからニュース記事を勝手に取り上げて解説する」動画投稿者が数多く誕生した。
その中には素人目線でも「これはアウトだろう…」と一目でわかるものがあったため、反面教師として紹介する。

  • ニュース記事を読み上げているのに、引用ニュースサイトを明記しないどころか、どこにも書かない
論外。

  • 文章をワードにコピペし、引用文章であることを一目見て分からなくする
ニュース文章を赤文字化太文字化斜線をひくなどして「自分の文章」にしてしまう。

  • ニュースサイトから著名人の画像を無断使用
中にはジャニーズタレントの画像も躊躇なく使用しているところもあった。
「著作権」のみならず「肖像権」すらも破る愚行である。

  • 生成AIで著名人の画像を生成、または、ニュース画像をアニメ調に編集して動画に使用
生成AIによる画像生成は、少なくとも日本国ではまだ法整備がなされていない。
グレーではあるのだが、このようなAIの使用が氾濫すれば当然規制は厳しくなるので、絶対にするべきではないだろう。

  • 他人の動画を背景に使用
静止画にニュースを読み上げるだけでは、AIにより広告を剥奪されるからと、他人のゲーム実況動画を「動く背景」として使用する例もあった。


動画投稿者たちはこんな動画を作りながらアフィリエイト報酬を受け取っているのである。訴えられたら敗訴間違いなしである。

その中でも、無断でネットで拾ってきたタモリの画像に「ガキが…舐めてると潰すぞ」とサムネイルに付ける動画が大量発生し、一部のYoutube利用者のトップ画面がタモリの画像で埋め尽くされたという珍事が発生。
今なおネットミームとして語り継がれている。

現在では広告収入に厳しい条件が設けられたためにニュースを無断転載したところで簡単には収入が得られなくなったため、この手の動画投稿者は激減している。完全にいなくなったとは言ってない。



アニヲタwikiらしい話


民明書房

漫画における引用と言えば民明書房の存在は外せない。
民明書房はマニアックな知識を取り扱った専門書を多大な分野に渡って数多く刊行している出版社であり、特に1980年代に描かれた漫画(主に『魁!!男塾』など)に数多く引用された。
引用された範囲も幅広く、文面のみならずカメラマンが撮ったであろう写真やイラストレーターに依頼して描いたであろうイメージ図にまで及んでいる。
???「まぁ、(出版社の存在そのものが)嘘なんですけどね。」
類似会社として暗黒ニチブン社というものもある。

画像掲載のルール

編集を行うアニヲタ諸兄にとって、画像の種類によってはしばしばこの引用の下にある事を覚えておきたいところ。
実際の判例では絵画など美術品関連がなんともややこしいケースが多いのだが、
とりあえず、引用の必要があり、引用が「従」であり、合法的に公開されているものであり、出典が明記されている、が基本ルールなのは変わらない。
また、あらゆる事例がケースバイケースであるがゆえに、ルールが完全に達成されていたとしても確実にOKとはならない事も覚悟しておこう。
ルールはあくまでトラブルを減らすためのものであり、あとは裁判の領分なのだから仕方がない。


フェアユース

アメリカにおける引用に近い考え方。訴えられた・訴えられそうになった時に抗弁するなどで使う事由である。
ものすごーく雑に言うと、一線を越えなければ許諾なしに著作物を使っても著作権の侵害にあたらないよ、というのを規定したもの。
さらにケースバイケースで振れ幅が大きいが、自作コンテンツは引用画像より質・量どちらも上回っていなければならないなどの点で引用との共通点は多い。
特に重要視されるのは市場への影響であるとされる(例えば著作者に営利的ダメージがあると判断されれば当然アウト)。

もちろんこれ自体が違法性を確定したりするものではないのだが、海外の著作物画像を使用する場合は念頭に入れておこう。
まあ品行方正なアニヲタ諸兄ならば弁えた使用であろうから、その意味では制限をゆるくしてくれるありがたい事由とも言えるはずだ。






公表された項目は、追記・修正して利用することができる。この場合において、その追記・修正は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。


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最終更新:2025年05月08日 20:03

*1 適法な引用ではないという訴訟を起こすことは出来る。