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国宝(吉田修一の作品)

登録日:2025/12/10 Wed 19:43:47
更新日:2026/08/06 Thu 22:24:12
所要時間:約 15 分で演じられます



その才能が、血筋を凌駕するー

ただひたすら 共に夢を追いかけたー



国宝(こくほう)』とは、吉田修一の小説作品。
本稿ではこれを原作とし、2025年に公開された実写映画についても解説する。



概要

吉田の作家生活20周年を記念して描かれた小説で、「朝日新聞出版」の創業10周年記念作品でもある。
執筆のきっかけとなったのは溝口健二の『残菊物語』作中の演目『積恋雪関扉』に強く引き付けられたことであるという。
執筆にあたっては、四代目 中村鴈治郎*1の協力のもと、吉田が実に3年もの間黒衣として歌舞伎の舞台裏で取材を行ったことを明かしている。

『朝日新聞』に2017年1月1日から2018年5月29日にかけて連載された後、加筆修正され、2018年9月7日に『国宝 上 青春篇』『国宝 下 花道篇』の二部構成で朝日新聞出版から同日発売され、第69回芸術選奨文部科学大臣賞、第14回中央公論文芸賞受賞を受賞した。
2019年には読書アプリ「Audible」において、歌舞伎役者・尾上菊之助による全編朗読版が配信されている。
2024年にコミカライズの連載が始まり、その翌年の6月に実写映画版が公開された。


映画版とその評価

2025年6月6日に公開。
監督は李相日で、氏による吉田作品の映画化は『悪人』『怒り』に続き3作目。
脚本は『学校の怪談』『サマーウォーズ』『八日目の蝉』『夜行観覧車』の奥寺佐渡子。
李は自身の作品では脚本も手掛ける事が多いが、今作では演出に専念するため奥寺に脚本を一任した。
主演は『仮面ライダーフォーゼ』や大河ドラマ『青天を衝け』、実写映画『キングダム』シリーズの吉沢亮、共演に『烈車戦隊トッキュウジャー』や『初めて恋をした日に読む話』、映画『正体』、大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』の横浜流星
ちなみに吉沢と横浜は『フォーゼ』以来約13年ぶり、2度目の共演となった。

上映時間は同時期に公開された『ミッション:インポッシブル ファイナル・レコニング』(上映時間は2時間49分)をわずかに超える2時間55分

主題歌は原摩利彦feat. 井口理の「Luminance」(原は劇伴も担当している)。
映倫区分はPG12指定となっており、冒頭での殺人描写や未成年の登場人物が飲酒する描写が問題視されたらしい。

当初はシニア層を中心とした客層の鑑賞を見込み、レイティングや長尺の上映時間といったハンデもあったが、いざ公開されると予想を遥かに上回る大ヒットを記録し、口コミなどの効果もあって幅広い世代からの支持を獲得。
公開からわずか3週で20億円を突破し、公開から1ヶ月で2倍の40億円を突破。
2ヶ月を経過した2025年8月18日には105億円を突破。更には11月24日時点で173億円を突破し『踊る大捜査線 THE MOVIE2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』を抜き去り22年振りに記録を更新し、実写邦画第1位に躍り出るなど大ヒット作となっており、2025年の「新語・流行語大賞」にも『国宝(見た)』なるワードがその対象となる10語に選ばれるほど。
ついでに「尿意を止める効果があるので観る前に食べたほうがいい」というSNSの口コミからボンタンアメが品薄状態になる副次的効果も生じた。
2026年1月には4Kアップコンバート版がIMAXとドルビーシネマで上映された。

本作は1名を除き歌舞伎役者をほとんど作中の役に起用していないものの、忠実に歌舞伎の舞台や楽屋裏の様子が映像化されているため、歌舞伎役者からの評価も高く、相乗効果で歌舞伎のチケットの売れ行きも良くなったという。

アメリカの第98回アカデミー賞で日本作品としては初のメイキャップ&ヘアスタイリング賞にノミネートされた。

2026年5月20日から各動画配信サイトでデジタル配信でのセル・レンタルが開始し、6月6日にはAmazon Prime Videoにて見放題独占配信開始。ブルーレイ・DVDは同年12月2日に発売される。



あらすじ

時は昭和39年(1964年)。長崎のヤクザ・立花組の親分だった父親を抗争によって失い、それによって立花組が解散し、若干15歳で天涯孤独の身となってしまった立花喜久雄少年。
そんな彼を拾ってくれたのは、父親の友人で、上方歌舞伎の名門の当主であった花井半二郎であった。
新年会での余興で、半二郎に歌舞伎の才能を見込まれれていた喜久雄は、その実子である俊介とともに兄弟のように育てられ、半二郎による厳しい稽古に耐え、互いを高め合いながら芸を磨いていく。
しかし親友であり良きライバルであった喜久雄と俊介の関係は、半二郎のある決断により、思わしくない方向へ転がっていく。
そうして、二人の人生もまた、それぞれの予期せぬ方向へ転がり始めるのだった……


登場人物

本稿では映画作品を基準に解説する。

  • 立花喜久雄(花井東一郎)→三代目花井半二郎
演:吉沢亮/黒川想矢(少年期)
本作の主人公。権五郎とマツの息子で、長崎県のヤクザである立花組の跡取り。昔なじみや俊介からは「喜久ちゃん」または「喜久ぼん」と呼ばれる。
幼少期から新年会の余興として歌舞伎の女形をやっており、本人も芝居が大好き。ある時の新年会に訪れた父親の友人の花井半二郎にその天性の女形としての素質を見初められる。
しかし、父親が抗争で殺されたことで立花組は解体。ほかに頼れる親族もいなかったため*2、半二郎に丹波屋の部屋子として引き取られることになる。
役者としての「血」こそないが、その代わりに誰にも負けない「芸」を持つと評価されており、そのことを高く評価していた半二郎に「どんなことがあっても、お前は芸で勝負するんや。お前はお前の芸でいつか仇取ったるんや」と説かれる。
そうして、「三代目花井半二郎」襲名後、しばらくは順調な役者人生を送っているかのように見えたが、ヤクザの息子である過去や、それに伴い「部屋子の分際で今輪の際の先代をそそのかし、丹波屋を乗っ取った」「実は先代の半二郎の隠し子だった」という根も葉もないうわさが週刊誌に報じられ、さらには半二郎の死によって後ろ盾を失って焦り、その後ろ盾を得るために吾妻千五郎の娘・彰子にお手つきしたという事実が明るみになったことで、上方歌舞伎界からの離脱を余儀なくされ、やむなく地方巡業の芸人として活動するが、自身を兄のように慕っていた彰子が見限ってしまうほどにやさぐれてしまう。
しかし、病に伏していた晩年の小野川万菊の励ましと、かつての跡取り・俊介(花井半也)との再会によって奮起し、再び女形として歌舞伎の舞台に返り咲き、「人間国宝」に認定された。


  • 大垣俊介(花井半也)→五代目花井白虎
演:横浜流星/越山敬達(少年期)
もう一人の主人公。半二郎と幸子の息子で丹波屋の跡取り。喜久雄や丹波屋の人間からは「俊ぼん」と呼ばれる。
金持ちの御曹司気質で、講演が翌日に控えていても酒を飲みに出かけるほどの遊び人だが、才能はピカイチ。
当初は喜久雄を毛嫌いしていたが、次第に生涯を通しての親友となり、同時に舞台の上で競い合うライバルとなっていく。
喜久雄と違い役者としての「血」を持つが、父親の事故と『曽根崎心中』の主人公の代役に自分ではなく喜久雄が選ばれたことをきっかけに、人生の歯車が狂い始める。
代役とはいえ、喜久雄が見事に主役を演じ切った様子を目の当たりにした俊介はその場から逃げ出し、数年にわたって歌舞伎界から姿を消してしまう。これにより、半二郎は涙を呑んで自身の名跡を喜久雄に告がせることにする。
しかし父・半二郎の死後、喜久雄の前に再び姿を現す。
そうして、喜久雄がスキャンダルで失墜し、地方のドサ回り営業に出る中、俊介は歌舞伎界で「花井半弥」名義で活躍し始めることとなり、妻子や母・幸子との家族生活を営む。
晩年は糖尿病により足の切断を余儀なくされながらも、かつて俊介が出奔する原因となった演目『曾根崎心中』を喜久雄とともに命懸けで披露する。
そうして、病状が悪化しついに帰らぬ人となるが、息子・一豊は役者としての修業を積むため、喜久雄のもとに預けられる。


  • 福田春江
演:高畑充希/根本真陽(少女期)
喜久雄の幼なじみ。
喜久雄が半二郎に引き取られた後、彼を追いかけて一人で大阪に来てクラブのホステスとなる。
喜久雄と通じ合うものの、俊介とも親しくしており、俊介が丹波屋を出奔した際には、彼に同行する。のちに俊介と結婚して一人息子・一豊をさずかる。
原作では俊介と春江の間には一豊以前に長男・豊生(とよき)を授かっているが、豊生は乳幼児突然死症候群により夭折している。

なお、原作で喜久雄と春江が分かれることになる経緯は非常に簡素かつ短い文章で説明されており、パッと読んだだけでは春江が何故その心情に至ったのかわかりづらい。
ベッドシーン後に喜久雄がプロポーズをし、翌朝に春江が涙するシーンは補完のため加えられた映画オリジナルパート。
これによって喜久雄が大成するためには自分が傍にいてはいけない・何も無くなった俊介を支えなければいけないと思い至ったと解釈しやすくされている。


  • 二代目花井半二郎→四代目花井白虎(大垣豊吏)
演:渡辺謙
上方歌舞伎の名門である「丹波屋」の家長を務める人気役者。俊介の父で、喜久雄の師匠。
興行のあいさつに訪れた立花組の新年会にて喜久雄の芝居に驚き、その才能を見込んで身寄りのない彼を引き取る。
丹波屋の繁栄のため、2人に厳しく指導する。
自家用車の運転中、トラック追突による交通事故で重傷を負い、『曽根崎心中』の主人公として舞台に立つことが難しくなった際には、俊介ではなく喜久雄に自身の代役を務めさせることを決めるが、これが俊介の出奔の原因となってしまう‥‥‥‥。
俊介の出奔後は、糖尿病と緑内障で弱った体に鞭打って役者としての活動を続け、行方知れずとなった息子に見切りをつけ、喜久雄に「花井半二郎」の名跡を譲るとともに、「四代目花井白虎」を襲名する。
しかし、その襲名披露興行の最中、舞台上で突如大量に喀血し、意識が薄れるなか、「俊ぼん、俊ぼん!」と息子の名を叫びながら帰らぬ人となる。

余談だが演者の渡辺は2025年の大河ドラマ『べらぼう』にて、横浜演じる蔦屋重三郎のタニマチである田沼意次を演じている。


  • 大垣幸子
演:寺島しのぶ
半二郎の妻で俊介の母。半二郎が連れてきた喜久雄を当初はあまりよく思っておらず、自身に何の相談もなく喜久雄を預かることを決めたことに対して文句を言うが、次第に彼の才能に驚き、実子同様分け隔てなく接する。しかし、その才能が俊介の出奔の原因を作ったとして「アンタはコソ泥や、汚いわ」と憎むようにもなり*3、概して愛憎入り混じった複雑な感情を抱いている。
原作では比較的寛大な肝っ玉母ちゃんっぷりに加え喜久雄への「愛」の部分がやや強調されており、喜久雄のもう1人の母といった部分が多い*4
映画版でも肝っ玉母ちゃんっぷりな性格の描写が少なくはないのだが、スキャンダルや駆け落ちによって上方歌舞伎界の舞台から降りざるを得なくなり、丹波家の名前に泥を塗ったことを師匠・半二郎の仏前で謝罪する喜久雄に対して、ちらりと一瞥しただけで無言でその場を去り、孫(俊介の息子)・一豊をかわいがる様子を見せつけるというあてつけがましい行動をとるなど、喜久雄への「憎」の感情が若干強調されている。
演者は、実際の人間国宝の歌舞伎役者・七代目尾上菊五郎と俳優の富司純子の娘であり、自らも歌舞伎の舞台に出演した経歴を持つ。


  • 梅木
演:嶋田久作
歌舞伎を興行する三友の社長。竹野のぶっきらぼうながらも率直な物言いを気に入り、部下として可愛がっている。
べらんめえ口調が特徴で、喜久雄の女形を大絶賛し、公演を一押しする。
原作では三友の常務の肩書ながら、開局したばかりの「大国テレビ」代表取締役として大阪に赴くことになっており、これによって、喜久雄の「もう一つの後ろ盾」が失われる様子が描写されている。


  • 竹野
演:三浦貴大
三友の社員で梅木の部下。当初は歌舞伎に興味が全く無く、梅木に同行していたのも仕方なくのことであった。
喜久雄に向かって「いつまでも仲良しこよしではやっていけない。いずれは血筋を優先されて捨てられる。」と、喜久雄のコンプレックスをえぐるような辛辣な言葉を投げかけて取っ組み合いの喧嘩になる。
しかし、舞台を観て喜久雄の実力と信念を理解し、以降は「三代目」と呼び始め、ぶっきらぼうな口調はそのままながらも生涯を通して彼の親友になっていく。


  • 藤駒
演:見上愛
京都の芸者。人を見抜く勘があり、喜久雄に初めて会ったときから「日本一の歌舞伎役者になる」とその可能性に賭けると宣言し、その後も活躍を密かに応援している。
その後は籍こそ入れていないものの、喜久雄との間に一人娘の綾乃を設ける。
原作では「市駒」名義で登場する。


  • 立花権五郎
演:永瀬正敏
喜久雄の父親で、長崎のヤクザ・立花組の組長。新年会の最中、敵対勢力との抗争により、全身を朱に染めながら料亭の庭に降り積もった雪に倒れる。
その壮絶な死に様は喜久雄の中でトラウマでありつつ、ある種の憧憬にも繋がっている。


  • 立花マツ
演:宮澤エマ
権五郎の後妻で喜久雄の義理の母*5
抗争で夫を亡くした後は組を畳み、息子のことを半二郎に託し、お座敷の女中となった。
原作では喜久雄にお金を仕送りしており、成長して歌舞伎役者となった喜久雄と再会している。
なお、喜久雄は仕送りをしてくれたマツへの恩返しをもくろみ、大阪見物のためにランボルギーニを購入している。ランボルギーニの購入は喜久雄本人からすればものすごくまじめに考えたうえでの行動であったが、「恩返し」としてはそれがいかんせん空回りしているように見えていた半二郎からは呆れられている。


  • 吾妻千五郎
演:四代目 中村鴈治郎
大御所の歌舞伎役者。彰子の父。娘のことを溺愛している。
二代目半二郎という後ろ盾を失い、脇役しかもらえない喜久雄が彼に相談を持ちかけた際には、喜久雄のあることないことを報じた週刊誌を見せながら「焦る気持ちはわかるが、今は静かにしておくほうが良い」と忠告する。
喜久雄が自身の忠告を無視し、さらに「主役を演じるために必要な大物役者の後ろ盾を得る」という目的の為に愛娘にお手つきしたことを知って激怒し、喜久雄を鼻血が出るまでボコボコに殴り、「喜久雄さんと一緒になる」と言って喜久雄の側から離れようとしない娘にも勘当を言い渡す。
映画版ではこれ以降登場しないが、原作では、喜久雄が辻村興産の創立二十周年の記念パーティーで「鷺娘」を披露するも、かつて自身が世話になったヤクザ「愛甲会」の幹部・辻村将生(後述)の逮捕劇に巻き込まれてしまい、それによって「極道の関係者である」という噂が真実であると判明したことで新派の舞台出演がかなわなくなった際に、自身がこのような目に遭うことを予感しつつも、かつて自身を世話してくれた親分の恩に報いようとした喜久雄の心意気を気に入り、喜久雄の娘への行為を許し、喜久雄を世間のバッシングから「舅」としてかばい、喜久雄の舞台復帰を手助けする。
演者は父親が本物の人間国宝(重要無形文化財保持者)の四代目坂田藤十郎、母親が宝塚歌劇団出身で女性初の参議院議長となった扇千景、弟も同じ歌舞伎役者の三代目中村扇雀、父の妹は女優かつタレントの中村玉緒という名だたる一家の出身。 
映画では歌舞伎指導も兼任している。


  • 彰子
演:森七菜
千五郎の娘。父親を「パパ」と呼び、喜久雄を兄のように慕っている。自動車の運転ができる。父親の反対や勘当を押し切って喜久雄と同棲を開始。
原作と映画版では立ち位置が大きく異なり、原作版では父親からの勘当にもへこたれず、自身とくっついた喜久雄の意図を知りつつも、「どうせだますなら最後までだましてよ!」と赦し、役者廃業寸前の喜久雄のために、母親の伝手で遠い親戚の曽根松子に頼みこんで「新派芝居」の仕事を喜久雄に回してもらい、それ以降も立派に支える。
映画版では、喜久雄と同棲を始めるものの、喜久雄の心が自身ではなく役者としての人生を取り戻すことにだけ向いていることに気づき、「どこ見てんのよ」と捨て台詞を吐いて喜久雄のもとを去る。喜久雄の舞台への復帰後も登場していないため、完全に破局したと思われる。


  • 小野川万菊
演:田中泯
人間国宝の歌舞伎役者の女形。かくしゃくとした老人で、「婆さん」と呼ばれるほど、女形の所作が普段の生活にも染みついている。
初対面の喜久雄の顔を見て「きれいな顔だけど、役者をするには邪魔も邪魔。役が顔に食われちまいますからね」と忠告する。
一度失踪した俊介が、「花井半弥」として活動を再開した際には彼の後見人として稽古をつけ、
「あなた、歌舞伎が憎くて憎くてしょうがないんでしょう?でも、それでいいの。それでもやるの。それが、あたしら役者なんでしょうよ」
と、この時たまたま俊介の様子を見に来た、半二郎を襲名するも上手くいかず落ちぶれる喜久雄にも届くようなエールを送る。
晩年はボロアパートの1室で寝たきり生活を送るが、竹野の計らいで、やさぐれて役者廃業寸前となっていた喜久雄と再会し、
「ここには美しいものが何もないだろう?ここにいると、なんだかほっとするのよ。『もういいんだよ』って言ってもらえた気がしてさぁ。」
とこぼした後、喜久雄に「あなた、今までどこにいたんですよ? 踊ってごらん。あたしには見ればわかるんだ」と温かい励ましを送り、踊りの稽古をつける。


  • 綾乃
演:瀧内公美
喜久雄と藤駒との間に生まれた娘。
原作と映画版では立ち位置が大きく異なり、原作版では舞台で忙しい父親の代わりに、徳次に面倒を見てもらったり、中学生の時に不良の世界に足を踏み入れるも徳次によって更生を手助けしてもらったり、大関の「大雷」と「できちゃった結婚」して喜久雄と初孫の体面を叶わせるなど、喜久雄の人生の要所要所にかかわる。
映画版では成長後に写真家として喜久雄の前に現れ、自身と母を捨てて芸の道に邁進した喜久雄のことを「自分たちを捨てたあなたのことを父親とは思ってない」となじりつつも、「日本一の役者になれたんやね」と評している。


  • 早川徳次
演:下川恭平
立花組の舎弟で、年の近い喜久雄からは「徳ちゃん」と呼ばれ、兄貴分として慕われている。
原作では喜久雄とともに大阪に出てきており、少年期から壮年期の長年にわたって彼やその家族を支えている様子や、大阪から北海道に渡って事業を始め、最終的には中国大陸に渡って「白河集団公司(コンス)」という企業*6を立ち上げ、その社長になった様子が詳しく語られている。
一方の映画版では敵討ちのシーン以降は一切出て来ず、映画版のみ鑑賞した人は総じて「そういえば徳ちゃんどうなったの?」となること請け合い。

が、実は敵討ちシーンよりあとのパートにもしれっとその存在だけは言及されていることをご存じだろうか?
喜久雄と俊介の『二人藤娘』『二人道成寺』の公演では喜久雄の楽屋に徳次から送られた花が置いており、ラストの『鷺娘』の追善公演では楽屋前に「早川徳次」と書かれた暖簾がある。
そう、徳ちゃんはずっと喜久雄の親友として生涯支え続けたのです。画面の中に映らなかっただけなんです。


原作のみの登場人物

  • 姉川鶴若
小野川万菊と人気を二分する立女形で、駿河屋の血筋。梅木に頼まれ、三代目花井半二郞を襲名するも後ろ盾のなくなった喜久雄を預かるが、彼を冷遇し脇役しか与えず、喜久雄を追い詰めるかのようなねちねちとした物言いをし、しまいには地方巡業を言い渡す。
喜久雄と俊介が交代で配役を変える「源氏物語」が好評を博す傍らで、借金返済と資金繰りのためにテレビのコント番組*7に出演し、自身のキャリアが侮辱されているかのような役をさせられるという屈辱を味わう。


  • 弁天
天王寺村の芸人夫婦の子で、両親を亡くして孤児となっていたところを女漫才師に拾われ、育てられる。
初登場の際にはチンピラとして徳次と殴り合いの喧嘩を繰り広げるが、春江が大阪に来たときに声をかけたのが縁で、徳次の友人となり、ある悪徳手配師に騙されて一攫千金を狙い、徳次とともに道路掘削の現場に放り込まれ、北海道から大阪まで人の情を受けながらも、二人して這う這うの体で帰り着くという辛酸をなめる。
その後は漫才師の沢田西洋に弟子入りしており、テレビ収録の付き添いをしていた。とある寄席番組の生放送中、急に漫談ネタを中断して毒舌での語りを始めたことで若者層の支持を得て師匠よりも人気となり、毒舌キャラの芸人としてテレビ界の寵児となる。


  • 辻村将生
長崎のヤクザ・愛甲会の幹部。二代目花井半二郎に口利きして預け先を手配し、歌舞伎役者になってからも巡業支援を行ってくれた恩人というべき人物。
警察の広域組織暴力団のトップ及び幹部の検挙・逮捕から逃れるため、法の抜け穴をくぐり、若いころからの人脈とコネで、金融・土木系の一般企業「辻村興産」を設立。
喜久雄に辻村興産の創立二十周年のパーティーで「鷺娘」を踊って欲しいと依頼し、パーティーを開催する運びとなるが、そのパーティーの最中に警察のガサ入れが入り、逮捕される。
逮捕後はしばらく喜久雄との接点はなくなるが、病に倒れ、自らの死期を悟り、喜久雄を呼び出して、「お前の父親の権五郎を殺したのは俺ばい」と告白する。
しかし、喜久雄は自身の父の仇である彼を恨むことはなく、それどころか、これまでに世話になったことを感謝するのだった。


  • 幸田
俊介の出奔後に幸子がハマった新興宗教「西方信教」を信仰する「浄土会」の会員のババア中年女性。
俊介の出奔や半二郎の大病、そして自身の体調不良と、心身ともに弱り切っている幸子に言葉巧みに付け入って洗脳状態に置き、半二郎の死後は彼女の財産を虎視眈々と狙う。 
しかし、幼い息子・一豊を用いた春江の機転によって追い払われる。


  • 荒風
喜久雄の麻雀仲間の一人で、力士(関脇)。俊介出奔後、喜久雄が東京へ出て映画に何本か出演していたころに出会い、意気投合する。
厳しい稽古や先輩からの命に係わるほどの激しいいびりを乗り越えて関脇にまで昇進するが、その後ほどなくして膝を故障し、引退となる。









追記・修正は「鷺娘」を演じ切り、ずっと探し求めていた景色にようやく巡り合えてからお願いします。


この項目が面白かったなら……\丹波屋!/\三代目!/

最終更新:2026年08月06日 22:24

*1 後述するが、雁治郎は映画版において「吾妻千五郎」役でも出演している。

*2 喜久雄本人により、祖父母を含めた全員が原爆症で他界していることが明かされている。

*3 とはいえ、この憎しみの感情は、出奔した息子を見限った夫にも、出奔した息子にもそれぞれ「自分の息子を見限って、体がボロボロになってまで役者人生にこだわって、汚いわ」「自分が今までいいところにいて、それでちょっとかなわないと思って逃げて、汚いわ」という風に向けられている。

*4 例えば、出自等から三代目花井半二郎を継ぐことを一旦辞退した折に「こうなったら、もうどんな泥水でも飲んだるわ」と幸子は幸子で責任の一端を担う旨を宣言する等。

*5 実母は原爆症で落命していることが喜久雄本人の口から語られている。

*6 作中で「Amazonのような会社」と説明されている

*7 「サバイバルズ」という、若手が目上の人に傍若無人な振る舞いをすることがウリになっている番組。