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球種(野球)

登録日:2026/02/09 Mon 18:42:49
更新日:2026/08/20 Thu 12:42:37
所要時間:約 13 分で読めます




野球における球種とは、投手が投げる直球や変化球の種類や名称のことである。

【概要】

野球の大きな見どころの1つとして、「投手の投じる力強い直球・見事な変化球」が挙げられる。

投手は別に直球だけを投げ続けても良いわけだが、直球だけを繰り返していては打者に軌道を予測され打ち返されるリスクが上がる。
そこで大きく落ちる・横滑りするなどの「変化」をする球種を織り交ぜることで軌道を読む難易度を上げ、打者を討ち取りやすくするのである。

ただし大きく変化するとしても「投球動作・最初期の軌道から明らかに変化球と分かる」ものはあまり有効ではない(バッターの意識を逸らすためのスローカーブ等例外もあるが)。
直球と思って振ったら変化球だった!」「変化球を警戒して見送ったら直球だった!」といったように打者の不意を突くのが目的なので、バレバレな変化球は意義が薄いのである。
特に球種によって肘の出る角度などに微妙な違いが出てしまうことは少なくないので、変化球を有効に使うならば可能な限り直球と同じフォームで投げられるように練習するべきだろう。
逆に言えば打者は球種を予測するには投手のフォームをしっかり観察することが重要となる。

基本的にNPBの一軍レベルの変化球は、配球や変化前のコースや軌道の特徴で判別するものとなる。
握りやフォーム、腕の振り方で簡単にバレる時点で、NPBの一軍レベルの投手ではない。
逆言えば一軍レベルに達していない支配下選手には変化球がバレバレの投手などゴロゴロいるのだが。

野球において投手が投げる球種は非常に千差万別であり、ある程度基本となる共通形がありつつも「その選手に合致した握り方・投げ方」となっていることが多い。
なので究極的に言えば1人1人にオリジナルの握り方があるということになる。
逆に、同じような握り方で同じような変化をする球種であっても選手によって「シンカー」「ツーシーム」「チェンジアップ」など呼称が異なっているということもままある。
ちなみにメジャーリーグの世界では機械解析が進んでいることもあり、変化量や軌道によってある程度公式に球種が定められている。

野球ゲーム「パワフルプロ野球シリーズ」でも投手の変化球はある程度再現されている
他、野球をモチーフにした創作でも「オリジナル変化球」は必殺技のような扱いをされているが、意外と特殊な名前がついていることは多くない。

《ルール違反な投球》

ボールに唾やワックスなどの粘着物質をつける、傷をつけるなどの細工をして投げる行為は不正投球として禁止されている。
これは、常識では有り得ない変化をすることから打者に対して危険であるため。
唾を付けるスピットボールがその代表格で、不正投球全般を指して「スピットボール」と呼ぶこともある。
詳細は不正投球の項目を参照のこと。


【代表的な球種】

⚾ファストボール⚾

いわゆる「速球」と呼ばれるグループで、直球も当然ここに入る。

しかし単に真っ直ぐ進むものだけではなく、直球とほぼ同じ球速ながら僅かに曲がったり落ちたりと変化するものもある。
こうした球種は日本では古くには「癖球(くせだま)」と呼ばれており、打者に手を出してもらいやすくバットの芯を外しやすいことから空振りよりも凡打を主な狙いとして投げられる。

フォーシーム・ファストボール

「直球」「ストレート」と呼ばれる球のこと。単に「フォーシーム」とも。
人差し指・中指を少し広げて「ボールの縫い目と垂直に交わる方向」にかけ、親指とともに握る。

強いバックスピン*1がボールにかかり、揚力が生じて重力による落下が緩やかになることで文字通りの「真っ直ぐ」な軌道を描く。
縫い目に対して垂直な向きで握ることにより、ボール1回転ごとに縫い目が4回空気を掻くことで揚力を産む「マグヌス効果*2」が最大となるのである。
投球を行う上で基本となる球種であり、まずはこれをしっかり投げられるようになることが推奨される。変化球の教則本にも「 ストレートを満足に投げられない投手は変化球を投げる資格がない 」と注意喚起されるほどである。

よくプロ野球記者やプロ野球OBを中心に「ストレートを磨かないと投手としての成長が止まる」という議論が為されるが、最高球速が高ければ高いほど緩急をつけやすくなるのも事実である。そして、NPBの一軍レベルの打者の場合はたとえ相手がどれだけ球種の多い投手であっても、高速系変化球以外の変化球だけの配球の場合は回転と変化に容易に対応できるものである。

なお「直球」とは称されるものの実際には僅かにシュート回転*3している場合が多く、利き手方向へほんの少しだけ曲がりながら進む。
調子の悪い日の投手が「直球がシュート回転している」と言われることがあるのは意図せぬこの変化が大きくなっているということであり、制球に支障をきたし失投の原因ともなる。
その一方でシュート回転するフォーシームは通常のフォーシームとは異なる軌道を描くことから使い方しだいではむしろ打ちにくくなるという性質を併せ持つ。特に近年は機械による解析が進み、投手の投げるフォーシームがどのような軌道を描くのかの研究が進んだことから、各地のプロリーグでもこういったシュート回転する(あるいは逆にカット回転する)直球を使いこなす投手が増加傾向にある。
同時に下記の藤川球児の「火の玉ストレート」ほどではないが、ホップ成分の強いフォーシームを再現することも可能になっており、現在では長打力インフレの対策として三振を取るための球種としてこうしたホップするフォーシームを投げる投手が増えてきている。かつて2000年代のMLBで「ストライクカウントを取るために仕方なく投げる」打ち頃の最低の球種の1つとされてきたのとはえらい違いである。

ツーシーム・ファストボール

略して「ツーシーム」とも呼ばれる。
フォーシームと同じ握りだが、人差し指と中指を「ボールの縫い目と平行な方向」にかける。
この方向で握るとボール1回転ごとに縫い目が空気を掻く回数が2回に減り、回転数が同じでもマグヌス効果が弱まり揚力が減る。
結果としてフォーシームと全く同じ軌道から、僅かに利き手方向に曲がりつつ沈む。
このため海外では「シンキング・ファストボール」、略して「シンカー」と呼ばれる事が多い。
縫い目の盛り上がりが大きめのメジャーリーグ公式球では大きめの変化が付きやすく、160km近い球速でバットから「逃げる」というのも珍しくない。
早いカウントで打ち取りやすいことや肘や肩への負担が軽いことから一昔前のMLBでは大流行した球種だが、打者側もツーシームを対策した打撃をするようになったため、現在ではフォーシームの価値も見直されて全盛期よりは投球比率が落ちている。
また2020年代時点ではそもそも「当たった時点で致命傷になる」「それなりのチームなら9番打者でも日本に来れば絶対ホームラン王になる」というレベルのMLBの長打力インフレから、かつてのような「分かっててもそうそうジャストミートしないので、当たっても凡打が前提」という考えはもはや通用せず、空振りを取る変化量が寧ろ必須に近くなっている。
それでも球の軌道上ゴロを打たせやすいので打たせて取るタイプの投手には重宝される球であるし、ボールの微妙な構造差からMLB球だと「曲がりやすい」ため、NPBのシンカーのように落差やストライクゾーンへの出し入れで勝負することも不可能ではない。
この理由でまだまだ採用例は多い…のだが、あちらではシンカーや後述するシュートとの区別は曖昧であり、日本で言う意味でのツーシームとは限らないのが説明するうえでは困りもの。

ワンシーム・ファストボール

ツーシームの派生。
引き続き握り方は同じだが、人差し指と中指の間を1本の縫い目が平行に通過するように指をかける。
マグヌス効果がさらに弱まるため一層大きな変化をさせることが出来る。
投手によってはもはや高速シンカーと言った方が良いくらいの変化を見せる。
海外ではツーシームと纏めて「シンカー」として分類される。

カット・ファストボール

「カットボール」「カット」「カッター」とも。
フォーシームの握り方から指を少し外側へずらして投じる。
バックスピンに加えてスライダー回転がかかるため、利き手と逆方向へ少し曲がる。
詳しくはスライダー(変化球)のページを参照。

火の玉ストレート

藤川球児の投じる渾身のストレート。
人差し指と中指をピッタリくっつけて、ボールを握り潰さんばかりの渾身の力で握った上でピンポン玉をはじく要領で投じるとのこと。気軽に言ってくれるなあ
並の直球(2,200rpm)とは桁違い(2,700rpm)の猛烈なバックスピンがかかっており、「浮かび上がってくる」「ホップする」と称される凄まじい球威を誇る。
指の間隔が狭まることでスピンを一層強くかけられる一方で綺麗な回転をかける難易度が上がっているが、藤川球児は強靭な指の力と鍛えぬいた体幹で制球を実現していた。

なお藤川の回転数を優に超える「上に曲がる魔球」を投げていたのが山本昌(3,200rpm)。ただ昌の場合球速自体が最速140km/h程度と遅かったのもあり、固有名称は付いていない。

⚾カーブ⚾

代表的な変化球の1つ。
大きく山なりの軌道を描きながら利き手と逆方向に曲がりつつ沈む。
揃えた人差し指・中指と親指を縫い目にかかる位置に置いて握り、ボールを「抜く」または「はじく」ようにリリースする。

上手く投げられるとボールにトップスピン*4がかかり、負の揚力が発生してボールが下へと引っ張られることでダイナミックな変化が起きる。
またリリースの瞬間に指を使ってさらに回転を与えることで曲がり幅を大きく、あるいは小さくするなどの差をつけることも出来る。

一方で直球とは投げる時の手の使い方が大きく異なることから、実は極める難易度はまあまあ高い変化球でもある。
加えて投げる時の手首の角度が直球と異なるため*5、動体視力に優れた打者が相手だと見極められやすいという弱点も。
一方で直球とカーブをまったく同じモーションで投げることができる投手も存在し、項目がある選手で言えば星野伸之はこれができた(投げられないと120~130km/hのフォーシームなのか70~90km/hのスローカーブなのか判別できなかった)のも活躍できた理由のひとつである。

スローカーブ

カーブの中でも球速が遅いものがこう呼ばれる。
速い直球とのコンビネーションで打者を翻弄できる。
一度上がってからグワーンと落ちてくるためバットに当てるのが非常に難しいが、その分制球も難しめ。
逆にこれをストライクゾーンへ自由自在に投じられるならば一流のカーブの使い手と言えるだろう。
どうフォーシームを投げてもスローカーブを持っていれば球速差を設けられるため、剛速球タイプの投手が「緩急の落差」を活用するために習得することも、逆にフォーシームの球速が遅い軟投派投手が「緩急そのものをつける」ために習得することもある。
前者は今中慎二など、後者は先述した星野(伸)や山本昌などが該当する。現役だと前者は岸孝之、後者は石川雅之が例だろう。
現代ではチェンジアップの普及により「遅い球」の選択肢は増えているが、スローカーブの場合物理的な上下の落差も持てるのが利点か。
独特の軌道を描くため、機械判定の黎明期には人間の球審とストライク/ボール判定が割れた事もあった。(ほぼワンバウンドに近い球でもゾーンをかすめていたとのことで機械はストライク判定を下した)
最終的には機械判定側が基準を修正(三次元のボックス判定から平面の判定に変更)したとのこと。


パワーカーブ

カーブの中でも球速が速めで鋭く変化するもの。「スパイクカーブ」と言われることも。
投げ方は投手によりけりだが、「抜く」より「はじく」要領で投げる投手が多い印象。
タイミングを外すのではなく、純粋な変化の鋭さで勝負する球であり、性質としてはスライダーにも近い。
決め球としての性質がより強いカーブとも言え、現在ではパワーピッチャーの持つ変化球の一つとしての立ち位置を築いている。
一応昔の選手でも江夏豊*6などが投げていたのではないかとはされているが、やはり高速系変化球が定着した10~20年代の変化球のイメージが強いだろう。

ドロップカーブ

横方向変化が少ない代わりに縦方向へ大きく変化するカーブ。縦落ちということで時計に見立てて「12to6カーブ」と表現することも。
日本でフォークボールが普及する前には非常に好まれた球種であり、堀内恒夫や金田正一などの「昭和の大投手」の決め球の代表格として知られる。
近年では武田翔太や山本由伸が使い手として有名。

ナックルカーブ

カーブの握り方の1つ。名前は似ているがナックルボールとは全く異なる変化球。
一般的なカーブの握りから人差し指を折り畳んで関節をボールに押し付ける、あるいは人差し指の先端をボールに押し当てる形にする。
普通のカーブと比較して球速が速めかつ大きく変化することが多く、パワーカーブにまとめてしまうことも。
しかし握り方の関係で強い握力を要求するほか、人差し指に結構な負担がかかる。
握りで判別できるためか、MLB公式ではカーブとは別の変化球として記録されている。

⚾スライダー⚾

代表的な変化球の1つ。
利き手と逆方向に滑るように変化する。
様々な派生球種があり、それぞれで全く異なる性質を持つ。
詳細はスライダー(変化球)のページを参照のこと。

⚾シュート⚾

利き手方向に滑るように曲がる変化球。要するにスライダーの逆バージョン。
握り方は基本的に直球と同じ、あるいは人差し指を親指にやや近づけて握り、手首・肘を内旋方向(手のひらを外側へ向けようとする方向)へ捻って回転をかける。

昭和時代のプロ野球では使い手が多かったようだが、肘に負担がかかる変化球とされたことから使い手が減少していった。
変化量が少なめながらほぼ同じ軌道のツーシームに取って代わられたことも理由か。
しかし前述の通り意識せずとも直球はシュート回転しがちなこともあり、「正しい投げ方が出来れば故障リスクはむしろ低いのでは?」という意見もある。

アメリカでは「シュート」という呼称はほぼ使われなくなっており、「ツーシーム」「シンカー」などと一緒くたにされている。
しかし1992年公開の米映画「ミスター・ベースボール*7」にて主人公がシュートに翻弄されるシーンが描かれたことで「shuuto」いう日本語発音そのままの名称で呼ばれることも稀にある。
さらにダルビッシュ有がこれを武器に三振を積み重ねたこともあり、「単なるツーシームとは少し違うのでは?」と関心を向ける評論家も存在する。

なかにはフォーシーム並み~自分のそれより速いシュートを投げられる投手もおり、その究極系として「フォーシーム並みの球速で来て、打者のすぐ前で突然ストライクゾーンを横断するほど曲がる」シュートの使い手が少数ながら球史に存在する。
その一人・平松政次によれば「基本はフォーシームと同じ振り。肩を一瞬早く開いて、ステップのタイミングもそれに合わせてほんの少し変える」だけで投げられるそうだが…気軽に言ってくれるなあ(2回目)

⚾シンカー⚾

代表的な変化球の1つで、直球と同じ軌道から利き手方向に曲がりつつ沈むものがこう呼ばれる。
ただしこの分類が通じるのは基本的に日本だけで、海外では「シンカーチェンジ」というチェンジアップの一種として分類される。一方で「シンカー」という球種名は上述の通り「ツーシーム・ファストボール」の別名として使用されている。

選手によって握り方の個人差が非常に激しい変化球の1つであり、明確に「これはシンカーである・シンカーではない」と断ずることは難しい。
比較的多いパターンとしては人差し指と中指、薬指と小指をそれぞれピッタリくっつけて親指含めて「3本指」のようにして掴み、リリースの瞬間に中指と薬指の間から抜きつつ人差し指・中指を使ってシュート回転をかけるといった感じ。
あるいはシュートや後述のサークルチェンジとほぼ同じ握りというパターンもあるが極論それっぽく曲がって落ちれば全てシンカーに含められる。

回転をかける方向の関係上オーバースローではやや投げづらく、サイドスローやアンダースローでは自然な腕の動きで投げられるので使いやすい。
特にアンダースローはフォークボールを投げることがほぼ出来ないので、落とす系の決め球としてシンカーが採用されることが多い。
アンダーの例として山田久志(阪急)や渡辺俊介(ロッテ)、サイドの例として潮崎哲也(西武)のシンカーは大きく曲がるうえに球速も速めで、当時の所属チームの快進撃を支えたと言えるだろう。
もっと、アンダースローはタイミングを外すことに特化したフォームで、特に渡辺俊介の場合は打者が完璧に捉えたというタイミングの筈がまだ投手はリリースすらしていなかったということまでザラであったため、球種の制約は本質的な問題ではないのかもしれない。

⚾スクリューボール⚾

カーブの逆方向バージョンで、山なり軌道を描きつつ利き手方向に曲がり落ちる。
シュートと同じく手のひらを外側に向けるような動作を必要とするため、天性の手首の柔軟さを要求する難しい変化球である。
代表的な使い手としては山本昌などで、ツーシームのような握りから人差し指と中指を使って内旋方向に回転をかけつつ抜くようにリリースする。
「シンカーはスライダーのように直球の軌道から急にストンと変化する、スクリューはカーブを左右反転させたように弧を描く」とする見解が比較的野球に携わる人から多いが、正直なところシンカーとの差は明確でなく、「投手がそう言えばそう」といった感じ。
中には「同じボールだが、右利きが投げるのがシンカーで左利きが投げるのがスクリュー」という誤った認識があった時代も。
なおその誤解を生んだ山本昌自体はシンカーとスクリューを両方投じる事が可能だったりする。
この辺に関してはKONAMIにも非がある

なおMLBでは、上述の見解に基づききちんと逆のカーブに近い変化をしている球のみがスクリューボールとして記録されており、それ以外の球は軒並み全てチェンジアップとして判定される。
その為激レア球種の一つとされており、近年ではシーズンで1〜2人しか使い手が存在していない。

⚾フォークボール⚾

「落とす」系の変化球の代名詞。
人差し指と中指を広げてボールを完全に挟み込み、直球を投げる要領で腕を振る。
指の間から抜けたボールは回転がかなり抑えられ、結果として揚力がほとんど働かずに打者の目の前でストンと落下する。
カーブが山なり軌道を描いて「グワーン」と大きく曲がるのに対してフォークは「ストッ」と急に落ちるため直球と判別することが非常に難しく、打者を空振りさせやすい。

一方で指に挟んだボールがすっぽ抜けて高めに行ってしまったり、逆に上手く抜けずに引っかかると地面に叩きつけてしまったりと暴投・捕逸のリスクが高い変化球であるため、捕手や内野手との綿密な連携が必要不可欠である。
特に三塁上に走者がいる状況でフォークを選択することは即失点に繋がりかねないリスクを持つため、大きな駆け引きの要因となる。
そんな中「フォークボール(スプリット)が主体なのに現役20年で19暴投」という化物、上原浩治もいる。なお上原、直球と同じフォームからフォーク系統の球を3~4種類投げ分ける事ができた*8とか…。

また指2本だけでボールを保持することは相応の指の力を要求するうえ(例として村田兆治は引退後ですらチョキで牛乳瓶を「握りしめて離さない」ことができた*9)、そもそも指が長くないと上手く挟めないなど使い手を選ぶ変化球でもある。

日本では下記のスプリットを含め多くの投手が投げている球種であり、決め球の代表格となっている。
逆にMLBでは故障リスクが嫌われた点やチェンジアップの普及により近年まで希少な球種という時代が長く続いていた。
その為、MLBからの助っ人外国人が日本人投手のフォークボール攻めに苦しんだという例は珍しくない。
MLBでは主にオリオールズで活躍し、NPBではオリックスに所属したアダム・ジョーンズは引退後にラジオで「日本人のフォークボールは頑張ったけど打てなかった」と語っている。

2020年代では全国レベルの部員の場合、後述する内容から分かるように既に小学生でも全国戦線に通用するものが投げられるようになっている。

スプリットフィンガード・ファストボール

「スプリット」「SFF」「スプリットフィンガー」「スプリッター」など様々な略称のある変化球。
フォーシームの握りから人差し指と中指を大きめに広げてボールを挟む球種であり、名前こそ「ファストボール」と付くが実態としては浅く握ったフォークボールとなる。変化はフォークに比べて小さい代わりに球速は速く、制球もしやすい。
フォークとの違いの基準は諸説あるが、流体力学者の姫野龍太郎氏によれば投じられてから捕手のミットに収まるまで約10回転するのがフォーク、約20回転するのがスプリットとのこと。
現在「フォークボール」を武器にしている投手の大半が投げているのは実はスプリットではないかという意見もあり、杉下茂の「無回転がフォーク、回転してれば全部スプリット」という意見まである。
これに関しては言っても許されるだけの成績とフォークボールを残された方なので…
日本ではフォークPとして有名だった上の上原も、渡米後は自分の持ち玉を「スプリット」と改めている。

かつて1990年代から2000年代初頭までは、日本に存在するあらゆる変化球の中でも最も直球に近い球速の変化球として認知されていた。
もっとも、そのイメージは殆どパワプロシリーズの影響によるものだが。
だが面白いことに、近年のダルビッシュ有や大谷翔平、千賀滉大などの活躍、そしてトラックマン(弾道測定器)の普及によって「実はかつてのパワプロのイメージは、現代の理想的なスプリットの定義にめちゃくちゃ近かった」ことが証明されつつある。

MLBでも近年は長打力インフレにより「バットに当たるだけでもまずい」という認識が広まったために徐々に空振りを取りやすい球種としてスプリットを投げる投手が増えている。MLB公式によれば2025年にスプリットを投じられた回数は2015年の10倍らしい。
NPBではこれとはある意味真逆の「動く直球として使って芯を外す」スプリットも流行しており、シンプルな理屈に対して非常に奥が深い球種。
いわゆる亜大ツーシームも、山崎康晃の「落差が主のボール」や薮田和樹の「最初は打ち取るボールとして使っていた*10」という説明から、幅の広さという点でスプリットに(も)近いと考えられることは多め*11

なお、MLBではフォーク(の握りで投げて、大きく落ちる球)を投げる投手がほとんどいないという事情から、「K.SENGAのアレ(お化けフォーク)以外は変化によらず全部スプリット」として判定されており、公式の球種解説でもフォークを「おそらくMLBではもっとも珍しい変化球のひとつ」としている。

⚾チェンジアップ⚾

「速い球と思いきや遅い球だった」というように球速の落差・奥行で勝負する変化球。
ボールを鷲掴みにする、手のひらで包み込むなど意図的に力が加わりにくい握り方にすることで同じ腕の振りでも球速に差が生まれる。
手にかかる負担が軽い変化球でもあるため、アメリカでは野球を始めた子供たちが最初に覚えるべき変化球として推奨されており、野球の家系だと一家にひとつはチェンジアップの投げ方が伝承されているんだとか。

ただし結局は「遅く緩い球」であるため、相手に読まれていると痛打を食らいやすい。
チェンジアップの生命線は力強い速球とのコンビネーションにあるため、配球が単調にならないように注意する必要がある。


投手によって握り方のバリエーションが多い変化球であり、海外では「直球と同じ腕の振りから投げられる遅い変化球」の中で他に分類不能なものを全てチェンジアップとして扱うこともよくある話。
「遅い」とは何なのかを問いたくなる、150km/h近い球速が出るチェンジアップというものもMLBでは珍しくない。

小宮山悟によれば、ひと昔前(つまり小宮山が投げていたころ)のMLBでは分類がめんどくさくて直球とある程度速度差があればどう変化するのか関係なしに全部「チェンジアップ」と言っていたそうな…。

サークルチェンジ

最も一般的なチェンジアップの投げ方。
親指と人差し指で「OKサイン」を作る要領で輪を作ってそこにボールを嵌め込み、残り3本の指で鷲掴みするように握る。
投げ方にもよるがシュート回転がかかりやすく、シンカーあるいはスクリューボールのような変化をすることも多い。
プロ基準でも優れたものになると「遅いフォーク」くらい沈むものもみられる(井川慶のものなど)。
シュートなどよりも投げやすいので右投手が左打者対策として(あるいはその逆)採用する例も見られる。
その習得難易度の手軽さ、汎用性・実用性から数多くの低速のシュート回転系・無回転系変化球をプロ野球界から駆逐した。

バルカンチェンジ

中指と薬指の間にボールを挟み込み、フォークと同じように投げる。
名の由来は「スタートレック」に登場するバルカン星人の挨拶のように人差し指と中指、薬指と小指をくっつけて、その間を広げることから*12
チェンジアップの中でも球速が出やすく変化量の大きさから空振りも取りやすいが、手が大きくないと投げられず手首への負担がそこそこ大きめ。
前人未到の84機会連続セーブを記録した抑え投手エリック・ガニエの決め球として有名。

スプリットチェンジ

フォークボールのように人差し指と中指の間に挟み込んで握る。
スプリットに近いが、薬指を添えることで変化に幅を持たせられる。
やろうと思えばスプリットの握りを「抜く」リリースに変更するだけでも投げられるため、MLBの実況・解説では双方をスプリットにまとめてしまっていることも。

フォーシームチェンジ

本来ならば「人差し指と中指」で握るフォーシームを「中指と薬指」で握る。
直球とほぼ同じ軌道ながら打者の目前で急ブレーキがかかり、他のチェンジアップよりさらに「球速差で勝負する」要素が強い。
「抜く」のではなく「中指と薬指で直球を投げる」イメージが重要とのことであり、「真っチェ」とも呼ばれる。

⚾ナックルボール⚾

ボールをほぼ無回転にすることで不規則に変化させるリアル魔球。
詳しくはナックルボールを参照のこと。

⚾パームボール⚾

親指と小指でボールを挟み、残りの指は浮かせて手のひらで包み込むように握る。
この状態から「手のひらで押し出す」あるいは「手のひらの上を転がす」ように投げると回転が大きく抑えられ、フォークボールあるいはナックルボールのように変化する。
指の長さなどが理由でフォークボールを投げられない投手が代用として習得した例もある(帆足和幸など)。

当然ながら球速は出ず、制球も難しい。
ナックルボールと比べるとNPBにも使い手は今もいるものの(床田寛樹や渡辺翔太が著名)、極めて希少な変化球であることに変わりはない。
一方でかつては小山正明など「下手なフォークボール並みに落ちるパーム」の使い手も存在した。

その特殊性や習得難易度から2020年代時点では「チェンジアップの精度を上げた方が合理的」という風潮があり、それどころか「 こんなものに着手する時間があれば、紅白戦や練習試合などでスローボールを磨けば? 」という身も蓋もない残酷な意見も聞かれる。

このためか創作物での使い手も少ないが、それでも「ペナントレースやまだたいちの奇蹟」の主人公の山田太一が使用する「びりびりボール」が存在する。
通常のパームボールよりも大きな変化量を誇り、全くの無回転で球質が恐ろしく重いという特徴があるものの、それ故に捕手の捕球が極めて困難という弱点も併せ持つ。
また腕にかかる負担が尋常では無く、元々前腕屈筋が普通の人よりも弱いという太一の体質もあり、投げ過ぎると太一の選手生命にも響きかねないらしい。

また「名門!第三野球部」の主人公の檜あすなろも、試合中に捕手の海堂タケシのサインを無視してパームボールを投げる場面がある。
その直後に激怒したタケシに「誰がそんな球を投げろと言ったぁっ!?」などと怒鳴り散らされ、ぶん殴られてしまったのだが。

⚾スローボール⚾

イーファスピッチとも。
ものっっっすごく遅い山なりの軌道を描くボール。
しかし独特な軌道とタイミングの合わせにくさから意外と打つのは難しい。
詳しくは超スローボールを参照のこと。

【オリジナル球種】

ここでは実在に存在したオリジナル球種について紹介する。

⚾カミソリシュート⚾

大洋で活躍した秋山登や平松政次が武器としていた球種。ストレートと同じスピードで鋭く内角に抉る高速シュート。特に平松のそれは本人の代名詞としても知られるレベルの知名度を誇り、「シュート=平松」と認識している野球ファンも多いのではないだろうか。
投げ方は平松によれば先述の通り「直球の投げ方から、タイミングを少し外すだけ」らしいのだが、今のところ何回ベイスターズで臨時コーチをしても継承に成功したことが一度もないのが氏の悩みの種なんだとか。
そもそも論として彼ら2人の投球については鮮明な映像資料が少ないので、正確にはどれだけ凄い変化球かは不明。
それでもなお、信頼性の高い証言として「高速シュートの常識では説明できない、異常な曲がり方をしていた」が残されている*13のは事実である。

⚾ヨシボール⚾

阪急~オリックスに在籍した佐藤義則が用いた球種。
ストレートとカーブは既に持ち球としていたが、指が短くフォークを投げることができなかった佐藤が「三振を取れる球が欲しい」との意図で開発した。
カーブと同じような親指と人差し指の握りをしながら腕の振りは抑えて投げることで、フォークのように鋭く落差の大きい変化をする。

⚾エモボール⚾

主に南海~阪神で活躍した「エモやん」の愛称と「ベンチがアホやから」発言でおなじみ江本孟紀が投げていた球種。前述のヨシボールと似るところはあるが、こちらはストレートと同じくらいのスピードから落ちるのが特徴。
なお江本本人の説明は「そもそも投げていない。おそらくはなんらかの普通の球種の誤認」「フォークのすっぽ抜け(がたまたま必殺技みたいになっただけ)」「あれはカーブの一種*14」「まあフォークは元々得意なので」と当時から今に至るまで二転三転しており、現在でも結局どういう球種なのかは謎に包まれている。

⚾シェイク⚾

ロッテなどで活躍した小宮山悟が投げていた球種。フォークと同じ握りであるものの、球速80〜100km/h程のスピードでナックルに類似するも揺れながら落ちる。本拠地が千葉マリンスタジアム*15であったことから、強風の影響を受け大きく変化したという。
また、「シェイクが来る」と読まれた際にタイミングを外すために、同じフォームから120km/h前後でほぼ直進する球種の「フェイク」も存在する。

⚾エアベンダー⚾

ニューヨーク・メッツ所属のデビン・ウィリアムズが投じる球で、英語で「空気を曲げる(球)」を意味する。MLB公式での分類上はチェンジアップとされているが、強い回転をかけており、左投手のスライダーかと見間違うような変化をする。スクリューボールにも近いが、それよりも更に横変化がある。
2023年のWBC決勝で並み居る代表打者が手も足も出ずに空振りを量産したことで大きく話題になった。

【学童野球において】

学童野球では投手を務める小学生の健康と安全のために変化球が禁止されており、このルールは1970年代後半から1980年代前半(昭和50年代前半〜中盤)にかけて全国的に各連盟で定着した。
だがトクサンTVの取材によると2026年時点でも未だに実際には守られておらず、選手や監督は審判を欺くような変化量の変化球で相手を出し抜き、審判も余程露骨なものでない限り黙認しており*16、もはや変化球禁止規則が形骸化している。それこそ「落ちるボールを投げないと、それを打てないと全国大会へ行けない」と現場の監督が証言するなど強くなるためには変化球が事実上必修であるという。
創作物でも、野球を取り巻くシステム・団体に関しては比較的リアルに描写していた『MAJOR』ではリトルリーグ編の時点で明確にフォークを投げる投手が対戦相手として登場しており、少なくとも00~10年代にはすでに「実際には投げる子が普通にいる」という話が広まっていた可能性が高い。

学童野球の中で最も権威ある大会である高円宮賜杯全日本学童軟式野球大会は日本マクドナルドが冠スポンサーだが「社会貢献活動として児童の福祉・育成に力を入れているマクドナルドがスポンサーなのに、現場がルール破りをするようではスポンサーとの関係的にマズいのでは?」「このままルール違反が横行するようではマクドナルドがスポンサーから撤退しかねない」という指摘もある。

タッグ川本著書「ここが変だよ日本のプロ野球」によると、米国では「子供たちの肩や肘を壊す恐れがある」という理由から、小学生の試合では何と投手をピッチングマシーンで代用しているのだそうな。

追記・修正はアンダースローからナックルボールを投げられる方にお願いします。

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最終更新:2026年08月20日 12:42

*1 投手側から見て縫い目が下へ動いて見える方向のスピン

*2 空気や水などの流体の中を物体が回転しながら移動する際に、周囲の流体の密度に偏りが生じることで物体に対して運動エネルギーが働く現象。

*3 右投手の場合、投手側から見て反時計回りの回転

*4 バックスピンの逆で、投手側から見て縫い目が上へ動いて見える方向

*5 直球の場合は手のひら側、カーブの場合は小指側が打者へ向く

*6 自身も広島時代に「直球、小さいカーブ共に『腕を強く振る』阪神時代の感覚が戻ってきたように思う。あの頃の力強いボールを投げられている」と述べており、少なくとも「特に鋭いカーブ」というふんわりした概念としては既に存在していたことが推測できる。このためかゲーム『パワプロ2024』ではカーブ方向第二変化球について阪神時代・広島時代の江夏はパワーカーブ、南海時代はカーブ、日本ハム時代は加齢を反映してこちらもカーブとなっている。一説には現在でいうイップスを患っていたのではないかとも。

*7 メジャーで契約を貰えなかったベテラン選手ジャック・エリオットが中日ドラゴンズへ移籍し、気難しい性格もあって慣れない環境で挫折を繰り返しながらも最後は人々に愛されリーグ優勝の立役者となるという復活劇を描いており、日本移籍が決まった選手が教科書代わりに見ることも多いのだとか。

*8 上原本人によれば「真下系の軌道が変化の大小で2つ、左右それぞれに傾いた軌道、ただシュート気味は単なる失投で意図的には投げられなかった」

*9 夫人が「私程度の力ではびくともしない」と述べている。ただし村田は引退後も「野球教室などには呼ばれる以上、僕を慕おうと来てくれた子供たちに衰えた投球なんか見せられない。せめて球速だけでも保ちたい」としてかなりのヘビートレーニングを行っていたため、他のプロOBとは比較しづらいことには留意

*10 ただし本塁打を打たれたことから(山崎のような)落差系の球種として投げるように再調整した、と続く。

*11 『パワフルプロ野球』では薮田、高橋遥人の当該ボールがSFFで表現されている、など

*12 アニヲタ諸君の場合は「ゴッドフィンガー」と言ったほうがわかりやすいかも。

*13 この手の変化球については「本人の自己申告」しか証言が無いことも見られるが、少なくとも平松のシュートについては長嶋茂雄など対戦相手からもほぼ同様の回顧がなされている

*14 参考までに、コンシューマゲーム作品として久々に江本が収録された『パワプロ2024』ではこれが採用されている(同作のスラーブとほぼ同様の挙動)。

*15 現・ZOZOマリンスタジアム

*16 ただしこれに関しては、「パワプロ・プロスピのナチュラルシュート/真っスラ」「同じく特殊能力だったころのツーシーム」のように直球自体がはっきり動くタイプの子は故意に変化球を投じているのかどうか判別が難しく、リリースなどを確認してあまりに不自然でなければ「疑わしきは罰しない」に沿った方がベターになりうるという事情もある。実際にルール過渡期となる90~00年代には「今のは故意の変化球か?それともキミは直球が常に動くタイプの投手なのか?」と如何することはちょくちょくあったようだし、稀ではあるが「握りを誤ってツーシームを投げた」子供ならではのミスもあったようだ。