獣の槍

登録日:2010/12/22(水) 03:12:21
更新日:2022/07/17 Sun 21:01:35
所要時間:約 8 分で読めます





―我等は……白面の者を倒すまで、















蒼月(ツァンユエ)の心の内に在る―


獣の槍とは藤田和日郎が描いた漫画「うしおととら」に登場する武器。
第一の主人公である蒼月潮のメインウェポンであり、意志ある(バケモノ)器物である。
うしとら本編の長い連載と盛り上がりの中で、数ある創作中の意志ある武器でも屈指の描写と肉付けがなされ、
うしおととらに続く第三の主人公と言えるほどの存在感を持つにいたった。
殺意(バケモノ殺すべし)を血のようにまき散らして迫る中盤のビジュアルは、藤田氏とアシスタント勢入魂の作画の甲斐あって単体で猛烈に怖い。

【概要】

2000年前以上昔、今の中国で作られたとされる退魔の霊
光覇明宗の寺院の一つ、芙玄院にある倉の地下室において一匹の邪妖とともに封印され、その扉は光覇明宗の誰にも開けることがかなわなかったが、
主人公であるうしおにより引き抜かれて以降、うしおの所有物となり数々な窮地や敵を退けた。

光覇明宗内の伝承では、槍は自分の意志で使う者を選び、認めた者にはあらゆる妖怪を滅する絶大な力を与える反面、槍を使う限り使い手の魂を喰らい続ける。魂の多くを槍に喰われた者は獣と化し槍と一体となり、ついには妖怪を倒すだけの存在になり果てる…と伝わっている。
関守日輪を無視した事例は、日輪を認めなかったのか主がダメになるまでは上書きをしないシステムだったのかは不明。

本編ストーリーでは槍の力はうしおとの同調が進むごとに強くなり、うしおが呼びかければ素直に応じて力を発揮し、
物語中盤からはうしおの呼びかけがなくともまるで意思があるかのように使い手を守ることもあった。

【戦闘能力:使い手の強化】

獣の槍が使い手と認めた人間が対(バケモノ)の戦いを発動した時、槍は使い手の魂を削りとって力とし、使い手を強化する。
  • 何トンもあるような岩塊を受け止め持ち上げる
  • 時速200kmに達しようかというダッシュ力
  • 同様のスピードで動く(バケモノ)に反応して動ける反射速度
  • 手足が千切れそうなほど切り刻まれても短時間ですぐ再稼働
…無茶苦茶である。
しかも、戦闘中は常に槍が囁きかけそれまで戦ってきた敵の情報やかつて獣の槍を振るった使い手達の一挙手一投足までもが使い手に伝わるため、全くの素人でも達人のような戦い方となる。
が言った事だが、獣の槍の恐ろしさの一つはその「パワー」「スピード」「再生能力」「それらを活かす戦闘技術」を、
使い手自身のものとする「使い慣れの感覚」とセットで付与する点にあるのだ。

使い手が戦闘モードに入ると、髪が長く伸びる。これは周辺の妖気を集めたものであるらしい。
この状態は人間よりも妖怪に近い身体状態であり、妖怪同様の変化術をかける事が可能になる。

【戦闘能力:槍本体】

槍本体は鉄製のクサビ型の穂先と、素材不明の2mほどの長さの柄からなる。塩首(ケラくび)にはぼろぼろの赤い飾り布が巻き付いている。
穂先も柄も極めて強靭で、樫材の杖3本をへし折る凶羅のキックを受け止め、妖怪の重爆にもビクともしない。
穂先は突き抜け時の引き抜き対策がなく、どちらかというと小ぶりの両刃剣に長柄を後付した様に見える…

槍は妖怪に対する他にはない殺傷力を持っている。
とらが言ったことだが、本編の妖怪はずたずたのぐちゃぐちゃにしないと死なない(上述の槍の使い手の再生能力と通じる)。
だが、獣の槍は突き刺した切りつけただけで妖怪に大ダメージを与える。短時間刺しっぱにできればそれで滅ぼせる
日本の妖怪が一番恐れていた能力がこれだが、上の使い手の強化があってこそ活かされていた事でもある。

槍は妖怪とその力の産物に強い反応を示す。
妖怪を探知すると槍が鳴り出して方向を示したり、雪妖の作り出す吹雪などから身を守る結界を作り出したりもした。
特に、結界破壊などで「人間の探知から隠れる機能を無効化する」攻撃は複数回使われた。
これをやられると妖怪は人間のテクノロジーでも探知される状態になるため、レーダーで捕捉されミサイルに追尾されて非常にピンチ。

妖怪の雷撃・火炎などの攻撃を反らし、弾く事もできる。ある事件では、獣の槍がとらの雷を更に強力にして跳ね返して見せたこともある。
これを応用してとらが特大の稲妻を槍に落とし四方に雷撃が拡散する範囲攻撃という使い方を編みだすなど、
単独の攻撃のみならずとらと連携する様々な場面で効果をあげた。

槍の穂先は人間に興味を示さない。人間に突きつけても、まるで立体映像のようにすり抜けてしまう。
だが、人間の中に混じっていようが妖怪ならば断固見逃さない。
つまり人間にとりついたり、体内に潜んだりした妖怪を選別して滅ぼす事が可能。
これを喰らった妖怪は、逃げ場のない人の体内で獣の槍の破魔の力を全弾まともに浴びることになり、ほぼ必滅となる。
人間を盾にとる手段は、この槍には無意味。
一方、敵対する人間には突き刺し・切り裂きができないので柄と身体能力を使っての殴り合いをする事になる。

単独で高速飛行が可能。うしおの呼びかけに応え離れた場所から手元に戻ってきたこともあった。




《以下、重大なネタバレ》








【起源】

獣の槍とは2300年前、春秋・戦国時代の中国で白面の者に両親を殺された刀鍛冶の兄妹が創り出したものである。

多くの国が群雄割拠する時代、当時の権力者たちはそれぞれ天子を名乗り、自らの国を治めていた。
その内の一つの宮廷で多くの側室の中、人間に化けていた妖怪があった。


あまたの国を滅ぼしこの国に流れついた白面の、国王を狂気に追いやり、この国を破滅させてみようという戯れであった。
人知の及ばぬ数々の事象により白面の者が自らの近くにいると知った国王は常に白面の影に震えていた。

ある夜、王は寝所で突然声をあげ「白面が女に化けるのを見た」と悲鳴まじりに叫びだし、それらしいという理由だけで80人もの側室を殺した後に国内全ての刀鍛冶に対して布令を出す。
曰く、「白面の者を討ち滅ぼせる神剣を鍛えよ。もしそれを鍛えた者あれば、王室御用の神職・刀鍛冶として莫大な財と神職高位を与える。」
布令を知った各地の鍛冶たちは一様に気色ばみ、我こそはと競って神剣を鍛えはじめた。

城の外にはかつて城を追われたギコウという名の鍛冶職人の一家があった。
妻・コウシ、娘にジエメイ、その兄で呉の国より鍛冶の修行を積んだギリョウ。
剣造りがうまくいかぬギコウとギリョウは、かつて干将という名工が爪と髪を切って炉に投げ金鉄を溶かし名剣を作ったという邪法にならいコウシの髪を捧げ神剣を鍛えあげ、他の多くの鍛冶職人達とともに宮内での献上会に出向いた。

しかし王の試みは白面の者の怒りを買い、それまで化けていた白面は献上会に出向いた職人家族ともども宮内の全てを殺して周り、献上された神剣の数々を木や布のごとく折り砕くと20万の人間が住んだ城郭都市を滅ぼし、天空に消え去った。
そして犠牲の中には、ギコウとコウシの姿も…


なんとか生き延びたギリョウは気を失ったジエメイを抱きかかえ家に戻り、師匠が語った暗黒の邪法を思い出していた。

人身御供

神の力によって大鐘を作るため、供物として娘を炉に溶かした名工の鬼畜の業。
無論両親を失い、たった一人の家族になってしまったジエメイまでもを人身御供にする気はギリョウには毛頭なかったが、それを知った妹ジエメイは国中の刀鍛冶が死に、白面を倒せる剣を打てるのはもはやギリョウだけだと語り、炉に身を投げる。
微笑みを浮かべながら…

「よい剣を…作ってくださいましね…」

しばらくしてジエメイの飛び込んだ炉からは一握りの鉄がとれ、ギリョウは妹を死に追い込んだ自らを呪い、白面の者への怒りを持って一振りの剣を鍛えた。

「オレは… 鬼だ…」

血の涙を流し、鍛える剣を金鋏でなく生身の手で柄を握りしめるその手はだんだんと剣に溶け、ついには体全体がその剣の柄となり、剣は白面の者の血に飢え、妖への怨念に満ちた一本の槍に変化した。
うしおが槍を振るうとき時折見える刀鍛冶の幻はギリョウの怨念であり、剣でも人でも妖でもなく意思を持つそれは、どんな妖怪を切り刻んでも刃こぼれせず、長い年月にあっても錆びもしない「妖器物」となった。


槍は白面の者を求めて大陸中を飛び回りこの国の妖怪を手当たり次第に殺して回った。槍の執念は凄まじく、一日に千里を飛び、一瞬にして百体の妖を微塵にした。
妖怪達は槍に対抗するため異例の団結をし、長い死闘の後、強力な妖怪が一体一体糸に変化し、それを寄り合わせ織られた赤布によって力を奪い、深山幽谷に封じられた。

こうして後に一人の男がこれを手に入れ、2000余年の間次々と人手を渡り、光覇明宗芙玄院に巡りうしおの手に渡ることになる。

ちなみに槍を封じ込めた赤布は槍が使われ続ける中でもいくらかが刃の根元に残っているが、
それそのものがいまだ槍の力を強く抑える封印の役割を果たしており、対「あやかし」戦や北海道の洞爺湖で対峙した蛇神オヤウカムイを倒す際に、
僅かにこれを破り取っただけで劇的な能力の向上を見た。
その際破った赤布は土地神サンピタラカムイに譲られ、邪妖を退ける魔除けとして新たな土地神の変わりに使われた。

ちなみに光覇明宗の開祖は最後に獣の槍を所有していた侍であったが、一匹の妖怪を自然石に縫い止めると宗門・光覇明宗を開き、槍の伝承と全国の妖怪退治を伝えたとされる。
このエピソードについては漫画版「うしおととら外伝」に詳しく記されており、短いながらも藤田イズムを強く伝える一話となっている。

なお、封印の赤布は最終決戦時にうしおが完全に取り去るまで結ばれたままだったため、全力の獣の槍を手にした使い手は2000年以上の長い歴史の中でうしおが最初で最後であった
作中でもギリョウが赤布に関して一切言及しなかったため、最初の使い手及び偶然布を千切った後のうしお以外は単なるアクセサリー的な見方をしていたのかもしれない。

【余談】

モンスターハンタークロス』にコラボ武器として登場した。
槍ではあるが、盾が無いこととうしおの槍の使い方から操虫棍に分類されている。
操る猟虫は何かというととらである。
また、抜刀時に髪が伸びるギミックが仕込まれた頭防具もある。




「Wiki篭もりよ…」

「冥界より今一度…汝に問おう…」

「汝…我と来るか…」

「情熱と時間を削り与え、それでも追記するのか…」

「我から逃れる機ぞ…我が埋もれればお前は自由になれるのだから…」

「だがそれでも…お前は我に追記するか…?」

「応えよ…我に追記するか…Wiki篭もり…」

この項目が面白かったなら……\ポチッと/

+ タグ編集
  • タグ:
  • うしおととら
  • 兵器
  • 人間
  • 憎しみ
  • 最強
  • 妖器物
  • 歴史
  • 涙腺崩壊
  • 獣の槍
  • 操虫棍

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2022年07月17日 21:01