三島(楯の会)事件

登録日:2011/11/25(金) 12:21:09
更新日:2025/02/18 Tue 11:47:08
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益荒男がたばさむ太刀の鞘鳴りに幾年耐へて今日の初霜

散るをいとふ世にも人にもさきがけて散るこそ花と咲く小夜嵐

【概要】

昭和45年。
その時、歴史は動いてしまった。

三島(楯の会)事件とは、1970年11月25日に作家の三島由紀夫と彼が率いる民兵組織「楯の会」のメンバー4人が、東京都新宿区市ヶ谷の陸上自衛隊総監室を襲撃し、
決起を促した後、三島と「楯の会」の森田必勝が割腹自殺した事件である。

事件当時は、学生運動や市民運動(べ平連.日学同.全国学協etc.)による活動が世界的に活発な世相であった。
この事件はそういった意味では時代を象徴するものだった。


【時系列】

  • 午前11時5分頃
三島は「楯の会」の会員森田必勝、古賀浩靖、小賀正義、小川正洋をひきいて、陸上自衛隊東部方面総監部を訪問。
総監の益田兼利と会談中、突如として彼を縛り監禁した。

  • 午前11時30分頃
三島たちは、阻止しようとした幕僚たちを日本刀などで撃退。
総監部の全自衛官を前庭に集合させ、地声で演説を開始。

  • 午前11時50分頃
俺は自衛隊が怒るのを待ってたんだ。もう憲法改正のチャンスはない!
自衛隊が国軍になる日はない!
それを私は最もなげいていたんだ

「バカヤロー!おりてこい」

「おまえに何がわかるか」

おまえら聞けぇ!静かにせい!話を聞け!
男一匹が、命をかけて諸君に訴えてるんだぞ!いいか
自衛隊がたちあがらなきゃ、憲法改正はないんだよ!シビリアン・コントロールに毒されているんだ!
諸君は武士だろう!武士ならばだ!自分を否定する憲法をどうして守るんだ!
自衛隊は違憲なんだよ!きさまたちも違憲だ!

「われわれの総監を傷つけたのはどういう訳だ!」

諸君の中に、1人でも俺といっしょに起つ奴はいないのか

「バカヤロー!」

「キチガイ!」

「そんなのいるか!」

「それより昼飯食わせろ!」

「帰れ!この右翼かぶれ」
1人もいないんだな。よし!これで俺の自衛隊に対する夢はなくなったんだ

天皇陛下万歳!天皇陛下万歳!天皇陛下万歳!

こうするより仕方なかったんだ

  • 午後12時15分
三島と森田は総監室に戻り、相次いで割腹自殺をとげ、2人の首を「介錯」として落とした残りの者は"投降"した。

ここで自衛隊側の立場になって考えてみたい。
三島は自衛隊に好意的な著名人であり、自衛隊は彼を体験入隊で何度も受け入れて自衛隊について知ってもらっていた。
生臭い話をすれば良い広告塔になってほしいという考えもあったろうが、とにかく自衛隊のことを知ってもらいたいと思ったのだろう。
(現代の視点で見れば「民兵」とか作っていた三島に軍事技術を教育するとか何やってんだとも思うのだが)
その甘くしていたことが今回の事件に繋がった。

忘れてはならないことだが、自衛隊は国家と国民を守るために武力を持って戦う組織であり
それがちょっと体験入隊しただけの民間人5人に自分たちの 本丸の市ヶ谷を占拠 されて
将官を含めた 高級幹部たちが何人も刀で斬られて一人は一生ものの障害を負って いる。
これは自衛隊としては 前例のない大失態かつとんでもない屈辱 である。
もちろん自衛隊は「不意打ちだったので」という言い訳が許される組織ではない。

そして普通の会社員なら「うちの社長死なねーかな」とか思う人も中にはいるだろうが
概ね自分の組織や仲間には愛着を持っていて、それを侮蔑されたら怒るだろう。
「三島由紀夫が市ヶ谷で刀を振り回して隊員を大怪我をさせた上に何か訴えてる」と聞けば
大半の自衛官は 身内を傷つけて喧嘩をふっかけてきた と判断するものである。
三島に「バカヤロー昼飯食わせろ」程度の罵声を浴びせただけで済ませたのは我慢した上での対応であり許されるならブチ殺してやりたかっただろう。
この事件があってから年号が2回変わってもなお自衛隊は”自衛隊に好意的な著名人“に対して一歩引いている(近年は慢性的な定員割れを背景に再び広告塔戦略に手を出している気もするが)。


【事件動機】

『檄』
われわれは戦後の日本が経済的繁栄にうつつを抜かし、国の大本を忘れ、国民精神を失い、その場しのぎと偽善に陥り、自ら魂の空白状態へ落ち込んでゆくのを見た。

政治は矛盾の糊塗、自己の保身、権力欲、偽善にのみ捧げられ、国家百年の体計は外国に委ね、敗戦の汚辱は払拭されずにただごまかされ、
日本人自ら日本の歴史と伝統を涜してゆくのを、歯噛みをしながら見ていなければならなかった。

法的には、自衛隊は違憲であり、国の根本問題である防衛が、御都合主義の法的解釈によってごまかされ、
日本人の魂、道義の腐敗の根本原因をなして来ているにみた。

自衛隊が目覚める時こそ、日本が目覚める時だ。

日本の軍隊の本義とは「天皇を中心とする日本の歴史・文化・伝統を守る」ことにしか存在しない。

しかるに昭和四十四年十月二十一日に何が起こったか。総理訪米前のデモは警察力の下に不発に終った。私は「これで憲法は変らない」と痛恨した。
政府は憲法と接触しない警察力だけで乗り切る自信を得たのである。

銘記せよ!実はこの昭和四十五年*1十月二十一日は、自衛隊にとって悲劇の日だった。
この日を境にして、自衛隊は「護憲の軍隊」として認知されたのである。
自らを否定するものを守るとは、何たる論理的矛盾だろう。かくなる上は、国の論理の歪みを正すほかないことがわかっているのに、自衛隊は黙ったままだった。

シビリアン・コントロールが民衆的軍隊の本姿である、という。しかし英米は、軍政に関する財政上のコントロールである。
日本のように人事権まで奪われ、変節常なき政治家に操られ、党利党略に利用されることではない。

この上、政治家のうれしがらせに乗り、自己欺瞞と自己冒涜の道を歩まんとする自衛隊は魂が腐ったのか。
武士の魂はどこへ行った。沖縄返還とは何か?本土の防衛責任とは何か?

われわれは四年待った。最後の一年は熱烈に待った。もう待てぬ。自ら冒涜する者を待つわけには行かぬ。共に起って義のために死ぬのだ。
日本を日本の真姿に戻して、そこで死ぬのだ。生命尊重のみで魂は死んでもよいのか。
生命以上の価値なくして何の軍隊だ。今こそわれわれは生命尊重以上の価値の所在を諸君の目に見せてやる。それは自由でも民主主義でもない。日本だ。
われわれの愛する歴史と伝統の国、日本だ。これを骨抜きにしてしまった憲法に体をぶっつけて死ぬ奴はいないのか。
もしいれば、今からでも共に起ち、共に死のう。
(以上檄文の一部)


後に、小賀は法廷でこう答弁した。
「生命は日本と日本民族の源流からわき出た岩清水。命をかけて行動するのはその源流にもどること。源流とは天皇だと考えた。
先生(三島)とともに行動することは、生命をかけることだった」
事件は衝動的に起こされたものだと思われるが、実は何ヵ月も前から計画されていた。


【事件に対する反応】

朝日「彼の指摘してきた事実が、われわれの社会に存在することを認めよう。
しかし、それを解決する道が、直接行動主義ではないことを、歴史は繰り返し、われわれに教えつづけてきたのではなかったか」

読売「三島の行動が、一見いかに純粋であるかのように見えようと、民主主義社会とは縁もゆかりもない愚行であることを見誤ってはならない」

佐藤栄作(当時の内閣総理大臣)「三島は気が狂ったのか」
中曽根康弘(後の内閣総理大臣)「常軌を逸した行動というほかなく、日本国民が築きあげた民衆的な秩序を崩すものだ」

林房雄「彼の死は諌死であります。美しい日本、美しくあるべき日本を取りもどすために」

週刊現代「エロチシズムの極致として男と一緒に死にたかったのだとしかいいようがない」

川端康成「ただ驚くばかりです。もったいない死に方をしたものです」
※彼はその二年後ガス自殺した。

Newsweek「Samurai'70:The Death of Mishima」


毀誉褒貶の激しいこの事件だったが、意外にも直接の被害者たる総監以下自衛隊幕僚等の三島への反応は温かいものであった。

益田総監「被告等に対して憎いという気持ちは全くない。国を想い、自衛隊を想う純粋な気持ちは、個人的には買ってあげたい」
中村二佐(事件の影響で左手の握力を喪失)「三島さんに対して恨みはありません。私を殺そうと思って斬ったわけではないと思う」
演説を聞いていた陸曹「絶叫する三島の言うことをちゃんと聞いてやりたいと思った。三島の言うことにも一理あると心情的に理解できた。集合した隊員たちはきちんと整列して聴くべきだったのではないか」

解放された総監は、古賀等と共に三島・森田両名の遺体に合掌したという。

【余談】

三島は生前、自作小説『憂国』の実写化フィルム(没後の2006年に発見)とゲスト出演した映画『人斬り』(1969年 DVD化)で自ら割腹シーンを演じていた。…が、状況の都合上2作とも介錯は行われず、三島は皮肉にも自らの体と現実世界で「介錯」を実行するしかなかった。

かつて三島が書いたエッセイ「不道徳教育講座」の中の一節を引用する。
つまらない芝居だったら、口笛を吹き鳴らし、足をガタガタ踏み鳴らし、「作者を殺せ!」と怒鳴るのが本当の芝居の観客というものなので
西洋の芝居はそういう客に揉まれて育ったのに、日本の新劇のお客は何と大人しいのでしょう。彼らは切符を買うか買わないかで意志を僅かに表明するだけです。
このエッセイの本旨は「不満は溜め込まず大声で叫ぶ方が精神的に良い」で実際に「作者を殺し」たりすることを三島は肯定しているわけではない。
だが自衛官たちが三島の演説に罵声で返したことについては三島自身の意見がブーメランになったと言える。

日本万歳!天皇陛下万歳!
三島は右翼の魂をもった選ばれし者として完璧だった。

ああ、天皇陛下!ああ、ああ、天皇よ、天皇よ!天皇よ!おお、おお、あああ…

ああ、なんていい
愛しい愛しい日本人

死体をひきずる警官は精液の匂いをかいだという



皆さんは絶対にマネしないでください


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最終更新:2025年02月18日 11:47

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