強大な敵とそれを率いる強者のもたらす絶望。確かに守るべき者達は自分たちの背後に多く、通すわけにはいかない。その為にも膝を折る訳にはいかない。しかし、それだけの意思があったとしても不可能なのでは無いかという絶望が冒険者と国の合従軍の間に漂っていた。
その空気感に軍師や隊長達は静かに焦りを覚えていた。一応の策はある。しかしそれも成功率が低く、失敗すれば無辜の民が即座に犠牲になるものだった。加えて全体の士気が最悪だ。どんな作戦であっても兵の士気は最重要。必死に不安の解消に走り回っているが効果は薄く、それに焦りを覚えた上の人間の気持ちが伝播し下は更に不安になる悪循環に陥っている。中には勝機を見つけられず逃げ出そうとする冒険者もいる程だ。
その空気感に軍師や隊長達は静かに焦りを覚えていた。一応の策はある。しかしそれも成功率が低く、失敗すれば無辜の民が即座に犠牲になるものだった。加えて全体の士気が最悪だ。どんな作戦であっても兵の士気は最重要。必死に不安の解消に走り回っているが効果は薄く、それに焦りを覚えた上の人間の気持ちが伝播し下は更に不安になる悪循環に陥っている。中には勝機を見つけられず逃げ出そうとする冒険者もいる程だ。
せめてこの空気だけでも変えられればと苦悩するさなか軍師の前に無名の冒険者が現れた。こんな所まで階級すら無いような人間が入り込んだかと現状に呆れるが彼女の顔を見て言葉を止めた。「私はラクリマ・イグニス・オルネス・トレス=ミューゼリア、冒険者でありミューゼリア王国の第一王女だ。貴様らにこの状況を打倒する策があるのか確認しに来た」失礼、無名では無かった。この近辺では結構な有名人、それも奇人変人といったあつかいの人物だった。
少しして意識を取り戻し、彼女に告げられる事は無い、直ぐに元の持ち場に帰れと言葉を投げるがそこに彼女が被せた「先ほどから指揮官であろう装いの人間が一人ずつではなく一斉にカトラス(野営地)から出てきた、作戦自体は通達したからではないのか」その言葉に少し驚嘆し軍師や傍で聞いていた者は目の前の彼女の評価を一つ上げた。
つまり彼女は知っているのだ、上の人間の装いだけではなく彼らがどう動くのかを。ただそこで簡単に話す訳には行かない。それを話したところで何の意味があると突っぱねると、そこで彼女は綺麗に頬を釣り上げた。
少しして意識を取り戻し、彼女に告げられる事は無い、直ぐに元の持ち場に帰れと言葉を投げるがそこに彼女が被せた「先ほどから指揮官であろう装いの人間が一人ずつではなく一斉にカトラス(野営地)から出てきた、作戦自体は通達したからではないのか」その言葉に少し驚嘆し軍師や傍で聞いていた者は目の前の彼女の評価を一つ上げた。
つまり彼女は知っているのだ、上の人間の装いだけではなく彼らがどう動くのかを。ただそこで簡単に話す訳には行かない。それを話したところで何の意味があると突っぱねると、そこで彼女は綺麗に頬を釣り上げた。
「やはり策があるのだな、ならば構わない。問題なのはこの士気の低さをどうにかする、その一点なのだな。ならばその問題、私が何とかして見せよう」この女簡単に言ってのけやがった。状況を分かって居ながらの大言壮語に頭が痛くなり先ほど上げた評価を今一度下方修正する。
そんな周囲の反応を知ってか知らずか彼女はその場から動き出す。「物見やぐらを借りる、私に注目を集めろ。なあに短い時間で終わらせてやろう」加えてそんな事を言ってのけた彼女に軍師はやけっぱちの様な状態に陥りながら彼女の話を聞くように全体に促す指示を出した。
そんな周囲の反応を知ってか知らずか彼女はその場から動き出す。「物見やぐらを借りる、私に注目を集めろ。なあに短い時間で終わらせてやろう」加えてそんな事を言ってのけた彼女に軍師はやけっぱちの様な状態に陥りながら彼女の話を聞くように全体に促す指示を出した。
やぐらの中腹、立つには充分な広さがあり周囲の人間からも見えやすい位置に彼女、ラクリマは立った。
「我々合従軍はこの激しい戦いの中、戦い、抗い、苦しんできた。しかし今、皆が抱えるもっともな答えを、告げようと思う。」「私達は現状、敗北の危機に立たされている。」その言葉に高官達は激高し、彼女の妄言を止めようと動き出すなかなおも続ける。
「敵の武力、威容、数、それらの前に散って行く同志達。怯え震い、逃げ出してしまった同志達。彼らの悲鳴、怒号、鼻孔を殴りつける血の匂いと人の焼ける音は私を含む我が軍全ての心を折るに相応しい物だろう。」高官達がやぐらの手前に差し掛かり中止の怒号を上げようとしたところで
優しく微笑んだ彼女と目が合い止まった。そして彼女は静かに、しかしハッキリと通る声で語る。
「我々合従軍はこの激しい戦いの中、戦い、抗い、苦しんできた。しかし今、皆が抱えるもっともな答えを、告げようと思う。」「私達は現状、敗北の危機に立たされている。」その言葉に高官達は激高し、彼女の妄言を止めようと動き出すなかなおも続ける。
「敵の武力、威容、数、それらの前に散って行く同志達。怯え震い、逃げ出してしまった同志達。彼らの悲鳴、怒号、鼻孔を殴りつける血の匂いと人の焼ける音は私を含む我が軍全ての心を折るに相応しい物だろう。」高官達がやぐらの手前に差し掛かり中止の怒号を上げようとしたところで
優しく微笑んだ彼女と目が合い止まった。そして彼女は静かに、しかしハッキリと通る声で語る。
「ならばなぜ、我々は立つ。恐れるままであれば、悲劇に涙するのであれば、絶望に膝を屈するのであれば」「我々は当の昔に滅んでいるはずだ」一瞬だけ周囲が静かになる。空気の変わった彼女の次の言葉を待った。
「それが使命であるからか、いいや違う。ここには国家に忠誠を誓う者以外も多い。」「我々に力があるからか、これも違う。兵力、将の強さ共に相手が上だ。」
「ならばなんだ、我々を戦いに駆り立て、一人でも多くの敵を撃ち、皆を勝利に導こうとする力は」少しだけ口を閉じ聴衆を見る、まるで問いかけるかのように
「それは人の間を飛び交う物。それは誰もが手にし、誰もが他者と共有した物。両親、祖父母、兄弟、配偶者だけでは無い。戦友、同じ国に住む同胞、はたまた今隣にる見ず知らずの誰かとだって共有できる物。」
「愛とはまた違う、名は信頼。そう呼ぶ物だ。」「信じ、頼る。死していった同胞、帰りを待つ家族、街に生きる者達、背中を預ける相手」「彼らの信じ、私達を思う意思こそが今の我々を支え、倒れそうな体を持ちこたえさせている。」
「そうだ、我々には支えてくれる者達がいるのだ」「託されたのだ。我々こそが信頼してくれる者達の代わりに戦う事を」「だが今、私達は顔を下げ、それを捨て、朽ちていく道を選ぼうとしている。」一つ、息が空く。
「それが使命であるからか、いいや違う。ここには国家に忠誠を誓う者以外も多い。」「我々に力があるからか、これも違う。兵力、将の強さ共に相手が上だ。」
「ならばなんだ、我々を戦いに駆り立て、一人でも多くの敵を撃ち、皆を勝利に導こうとする力は」少しだけ口を閉じ聴衆を見る、まるで問いかけるかのように
「それは人の間を飛び交う物。それは誰もが手にし、誰もが他者と共有した物。両親、祖父母、兄弟、配偶者だけでは無い。戦友、同じ国に住む同胞、はたまた今隣にる見ず知らずの誰かとだって共有できる物。」
「愛とはまた違う、名は信頼。そう呼ぶ物だ。」「信じ、頼る。死していった同胞、帰りを待つ家族、街に生きる者達、背中を預ける相手」「彼らの信じ、私達を思う意思こそが今の我々を支え、倒れそうな体を持ちこたえさせている。」
「そうだ、我々には支えてくれる者達がいるのだ」「託されたのだ。我々こそが信頼してくれる者達の代わりに戦う事を」「だが今、私達は顔を下げ、それを捨て、朽ちていく道を選ぼうとしている。」一つ、息が空く。
「冗談じゃない!!」一言が空間を駆け抜ける。「我々は!託されたのだ!愛する者達、同じ釜の飯を食べた同胞、共に生き、共に生活する同じ国家に住まう無辜の民を、今隣で生きている命に」
「そのまま死ねと告げるなど、冗談ではない!!」嵐のような声が駆ける。今この場を支配する。「今ここにいる、数万の人員はなんの為にいる!?私達の努力の日々の元なす仕事は」「下を向く事ではないはずだ!!!」
そのまま続けざまに声を上げていく「先ほど指揮官の者達は策を考案させた、残り必要な物はただ一つ。」
「そのまま死ねと告げるなど、冗談ではない!!」嵐のような声が駆ける。今この場を支配する。「今ここにいる、数万の人員はなんの為にいる!?私達の努力の日々の元なす仕事は」「下を向く事ではないはずだ!!!」
そのまま続けざまに声を上げていく「先ほど指揮官の者達は策を考案させた、残り必要な物はただ一つ。」
「立てよ、英雄達」「皆の信頼に答え、彼らを護らんが為に」「英雄よ立ち上がれ!」その一言の後、太陽のごとき笑顔を浮かべた彼女は一人眼下を見下ろす。そこには下を向く物など一人も居なかった。