あるよく晴れた秋の日、マノンは人を待っていた。待ち合わせより三十分ほど早く来ていた彼女は、暇つぶしがてら窓から覗く紅葉を眺める。なぜこう鮮やかに変わるのだろうかと思索に耽っていると、扉が開く音がした。
「おはようございます、ニルスさん」
「おはよう、マノン。いつものことながら早いねぇ」
「おはよう、マノン。いつものことながら早いねぇ」
入ってきた人物はニルス13世ペンドルトン、アルカナ団にて物流を管轄するアイズベルクだ。
「早期行動は軍隊の基本であります。して、本日は如何なる話でしょうか」
ニルスは度々商人をしていて聞いた話をマノン達ホムンクルスに聞かせていた。今回の用事もそういったものらしい。
「今回はとある海中の英雄譚を披露しよう。罪を背負い、九つの試練を乗り越えた大英雄さ」
「海……といいますと先日伺ったポセイディアなる種族でしょうか?」
「大当たり!英雄の名はルモント、5mほどもあったとされる巨漢だ。」
「5mというと……ヴェルナロクさんの半分ちょっとですか」
「はは、巨人族と比べちゃあいけないよ」
「海……といいますと先日伺ったポセイディアなる種族でしょうか?」
「大当たり!英雄の名はルモント、5mほどもあったとされる巨漢だ。」
「5mというと……ヴェルナロクさんの半分ちょっとですか」
「はは、巨人族と比べちゃあいけないよ」
前座がてら雑談を交える。数年前に比べるとマノンの返答も段違いに富むようになっていた。
「さて、始めようか。話の始まりはこうだ。巨漢ルモントはお酒が大好きだった、毎日樽を飲み切るほどに。けれど酒に強いわけではなかったんだ。ある日、いつも通り酒に酔ったルモントは誤って人を三人ほど打ち殺してしまった」
「気が付いたルモントは自分の行いを悔いた。そして神々に償いをしたいと願ったんだ。偉大なる海中の神王はその願いに応えた。ルモントに九つの試練を課したのさ。」
「そして第一の試練、ネムの大蛸の討伐が始まったんだ」
「気が付いたルモントは自分の行いを悔いた。そして神々に償いをしたいと願ったんだ。偉大なる海中の神王はその願いに応えた。ルモントに九つの試練を課したのさ。」
「そして第一の試練、ネムの大蛸の討伐が始まったんだ」
ニルスは身振り手振りを交えながら英雄譚を語り進めていった。
「ルモントは八つの腕を見事に潜り抜けた。しかし大蛸は九つ目の手があった。なんと近づいて来たルモントに毒を含んだ墨を吹きかけたのさ!」
時に口調や声色を変え、偉業を謡う詩人のように。
「さて海中の雪をとってこいと言われたルモントだったが、当然どんな場所に積もっているかなどわからない。そこでとりあえずルモントは聞き込みをすることにしたんだ」
マノンもまた、声一つ発さずに英雄譚に聞き入った。
「そしてルモントは見事怪鳥ヴェンを退治した。これで、五つ目の試練は達成だ!」
ニルスは一息ついた。そして、集中して聞くマノンに水を差すように一声をかけた。
「どうやら時間が足りないようだ。残り四つの試練はまたの機会だね」
話が突如終わったことにマノンは驚き、ニルスに問いかけた。
「残り四つの試練を残して今日は切り上げるとおっしゃるのですか?」
「申し訳ない話だけどね」
「申し訳ない話だけどね」
不満そうにしているマノンを横目に話を続ける。
「じゃあ次回予告と行こうか。五つの試練を乗り越えし英雄ルモント、半分を超え一息ついていた矢先に、第六の試練が布告される。その内容とは、岩中に潜みし怪物、ラムラムを生け捕りにするというものだった。見つけづらく毒をも持つ怪物ラムラムに英雄ルモントはいかにして立ち向かうのか!」
「次回の予定日はいつごろでありますか?」
「未定!少なくとも一か月は後!」
「次回の予定日はいつごろでありますか?」
「未定!少なくとも一か月は後!」
ニルスの返答にマノンは困惑する。流石に遅すぎるし他の問題も踏まえると困難だと思ったからだ。
「疑問があります。一か月後は遅すぎるのではないでしょうか?暇なわけではないとはいえ一か月会えないほどではありません。それに一か月後だと私は続きを聞けない可能性が非常に高いです」
マノンの疑問に対してに対してニルスは笑顔で応答する。
「答えようか。確かに君は一か月も体がもたない可能性が高い。けれどドクターも言っていたように病は気からなんだ。ルモントの物語は面白く、続きも気になっただろう?」
「ここで話を切ることに少々の不満を感じる程度には」
「なら一か月以上生きる理由になる。少しでも生きる理由になる」
「ここで話を切ることに少々の不満を感じる程度には」
「なら一か月以上生きる理由になる。少しでも生きる理由になる」
ニルスの声色は変わらなかった。けれど情緒の幼いマノンでも彼が不安がっていることがわかった。
「人事を尽くして天命を待つ。マノンの生き甲斐を少しでも作る、それがボクにできることだ。だからマノンも、意志を強く持ってほしいな」
「…………了解しました。ワタシ、個体名マノンはニルス13世ペンドルトン様の話の続きを聞くため生存を試みます」
「…………了解しました。ワタシ、個体名マノンはニルス13世ペンドルトン様の話の続きを聞くため生存を試みます」
マノンの宣言に満足したニルスは出立の準備を始める。
「うん、その意気だ。じゃあ、再会は次の話のときに」
「了解しました。再会は次の話のときに」
「了解しました。再会は次の話のときに」
その言葉を最後にニルスは部屋を出た。次の再会を夢見て。