燃える、燃えている。あらゆるものが燃えている。かつてそこそこに賑わっていた村も街も、そこに住んでいた人々も、自身が住んでいたはずの屋敷も、何もかもが。
何故だ、何故こんなことになってしまったのだとルイニア=F=ギルノーツは思い巡らすも答えは出てこない。こんなことになる理由が一切思いつかないのだ。権力争いに身をやつしていたことも父を権力の座から叩き落とすために後ろ暗いことをしていたことも、出世するためにあらゆる権謀を巡らしていたことも事実だ。だが、その報いがこんなことに繋がる理由が何もないのだ。己の息子が魔王教団を手引きし領地に火をつけ殺戮の限りを尽くす理由が一切分からない。自身に異形の剣を向ける理由さえも。
何故だ、何故こんなことになってしまったのだとルイニア=F=ギルノーツは思い巡らすも答えは出てこない。こんなことになる理由が一切思いつかないのだ。権力争いに身をやつしていたことも父を権力の座から叩き落とすために後ろ暗いことをしていたことも、出世するためにあらゆる権謀を巡らしていたことも事実だ。だが、その報いがこんなことに繋がる理由が何もないのだ。己の息子が魔王教団を手引きし領地に火をつけ殺戮の限りを尽くす理由が一切分からない。自身に異形の剣を向ける理由さえも。
「……何故だ。何故なのだ。リベリオ……、何故……?!」
目の前で剣先を突きつけてくるリベリオ――――――ルイニアの息子にしてギルノーツ家の次男、フルーレを発現できなかった落ちこぼれ――――――に対し理由を問う。何か理由があるのではないか、何故無辜の民を巻き込むのか、何故魔王教団なる悪党共と手を組んでいるのか、自身を憎むにしてもここまでやる理由は如何なるものか、納得のいく答えが返ってくることを期待して――――――。
「何故だって? 決まっている。強者の側でいるためだよ。親父殿」
しかし望んだ答えは返ってくることはなく、リベリオの返答に困惑するしかなかった。そして、その困惑はすぐさま怒りへと変わる。
「強者だと? そんな理由で先祖代々受け継いできた領地を、そこに住まう領民を、お前自身の家族を手にかけるのか?! この落ちこぼれが!!!」
怒り心頭のまま、愚かな息子に向かって剣を振るう。しかし自身に突き付けていた異形の剣を振ることもなく躱される。その事がさらにルイニアの激情を駆り立てる。すぐさま体勢を整え何度もリベリオに向け剣を振るう。時に上段から、横薙ぎ、袈裟懸けに、時に突きを交えながら斬りかかるもその全てを剣を振るわれることなく躱されてしまう。ルイニアの怒りは頂点に達すると同時体中に淡緑のラインが刻まれるように走る。フルーレと呼ばれるギルノーツ家相伝の力――――――ギルノーツ直系の血が流れる者にしか発現することのない身体能力強化――――――を発動させたのだ。
そして、つまらなさそうな目を向けるリベリオに力任せに斬りかかる。常人には捉えることができないであろう速度で背後に回り一撃で命を絶つために急所めがけて剣を振るう。
フルーレを発現できなかった愚かな息子にわざわざこのような手間を掛けねばならない事実に歯噛みしながら一撃で終わらせるつもりだった。
だが、その一撃は空しくも振り向きざまのひと振りで弾かれてしまった。勢いに乗せ剣戟を放ったこともあり大きく体勢が崩れる。
そして、つまらなさそうな目を向けるリベリオに力任せに斬りかかる。常人には捉えることができないであろう速度で背後に回り一撃で命を絶つために急所めがけて剣を振るう。
フルーレを発現できなかった愚かな息子にわざわざこのような手間を掛けねばならない事実に歯噛みしながら一撃で終わらせるつもりだった。
だが、その一撃は空しくも振り向きざまのひと振りで弾かれてしまった。勢いに乗せ剣戟を放ったこともあり大きく体勢が崩れる。
「フルーレによる心身の強化を図り、一撃必殺で相手を仕留める。ギルノーツ家の得意技、いや、フルーレに付きまとう副作用を軽減するための誤魔化しか」
リベリオは異形の剣を水平に構え、体勢を崩し隙だらけ同然のルイニアに向け大きく踏み込み、突きを放つ。ルイニアにそれを交わす余裕などなく、異形の剣に貫かれる。盛大に血を吐くルイニアを余所に勢いよく剣を胴体から抜く。盛大に血を流しルイニアは地面に倒れ伏す。
「どこを狙ってくるのか分かりやすいんだよ。親父も兄貴たちも。その能力を知らない余所ならともかく何度もアンタら相手に叩きのめされた俺には通用しない。能力による短期決戦にこだわったヘタレさが仇となったな」
実の家族を嘲笑うようにリベリオは吐き捨てる。ギルノーツ家の人間はフルーレの副作用を避けるために短期決戦にこだわる傾向があった。それをリベリオは容赦なく突いたのだ。ルイニアだけではない。長男も、三男も、四男も、嫡子全員を父親と同様の手段で殺して回った。とてもあっけない物だと独り言ちる。そんな時だった。
未だ燃え尽きていない物陰からリベリオとルイニアを見つめるレクト――――――祖父の気まぐれによって生まれた穢れた私生児――――――が一連の様子を目撃していたことに気が付いた。それはルイニアも同じであったようで。
未だ燃え尽きていない物陰からリベリオとルイニアを見つめるレクト――――――祖父の気まぐれによって生まれた穢れた私生児――――――が一連の様子を目撃していたことに気が付いた。それはルイニアも同じであったようで。
「……戦え! その愚か者を殺すのだ!」
レクトに向かってそのような命令を放ったのだ。怯えるレクトを余所にルイニアは叫び続ける。
「何をしている! 貴様はギルノーツ家の血を受け継ぐ人間であろう! 今すぐ戦え! その愚か者を殺せ!」
その言葉を呆れたようにリベリオは聞いていた。今まで認知もせずいない者として封殺してきたくせにまだ生きていると分かればこのような命令を出す自身の父親に冷めた視線を向ける。レクトはこの家に生まれてから彼を生んだ母共々碌な扱いを受けたことはなかった。ろくな食事を与えず冷遇し続け果ては追い出されようとしていたのだ。そんな子供に向かって戦えという命令は死を命じるのに等しい物であった。リベリオはレクトに優しく声をかける。
「逃げていいんだぞ? だってお前この家の中じゃ一番弱いもんな」
レクトはリベリオの方へ顔を向ける。
「今の俺は気分が良い。逃がしてやってもいいぜ。一切追わないと約束するぜ。よく考えてみろ。この家がお前に何かしてやったか? 何もしてないどころか虐めるありさまだったじゃないか。そんな家に命を懸ける理由がどこにあるんだよ。ほら、逃げな?」
悪魔の誘惑のような言葉だった。そして、その誘惑に耐えられるほどレクトに強さもギルノーツ家への忠誠心も何もなかった。物陰から飛び出しルイニアとリベリオに背を向けて走り出した。その場から逃げ出すために。それを見てルイニアは怒りの感情を爆発させた。
「貴様も愚か者であったか! 敵に対し背を向けるとは! この穢れた爺の子が!!」
「うるせぇ。死んでほしいだけだろうが」
「うるせぇ。死んでほしいだけだろうが」
レクトに向けて罵倒の言葉を浴びせるルイニアの頭部を剣を叩きつけて潰し黙らせる。ルイニアの命の終焉と共に罵倒が止み周囲に沈黙が訪れる。その直後にベラクトル――――――リベリオと契約しているデーモンの女――――――が出現する。
「終わったわよリベリオ。さっき逃げていった子供以外のこの領地の人間をみんな殺し終わったわ。たくさん血が見れてもう満足」
恍惚とした表情を浮かべるベラクトルに「そうか」とそっけなく返し一息つく。リベリオにとってようやく一区切りついた気分であった。これで弱者でい無くて済むと思い感慨深くなった。
「所でさっきの子供を逃がしたのは何故? 同情しちゃった?」
「まさか」
「まさか」
ベラクトルの問いをリベリオは鼻で笑った。同情心など欠片もない。自身もレクトを冷遇してきた側の人間だ。別段思う所があったわけではないしむしろどうでもいい存在として扱ってきたのだ。それでも見逃した理由は一つだった。
「強者の気まぐれってやつだよ。一度やってみたかったんだ」
「なるほどね」
「なるほどね」
リベリオの返答に満足そうにうなずき彼と共にその場を後にする。領地の人間を殺し終わったのだ。もはやこの場所に未練はないと言わんばかりに、誰も彼もが満たされた気分のまま魔王教団の人間と共に静かにに去っていった。
「……生き残ってごめんなさい……逃げてごめんなさい……戦わなくてごめんなさい……ごめんなさい…………」
ただ一人、気まぐれによって生かされた少年の心に深い傷と罪悪感を残して。