解放(4) ◆LuuKRM2PEg





 ゼクロスに変身したその男、村雨良は目の前にいる怪人達を睨み続けている。
 戦いによって与えられた痛みが肉体に響くも、ゼクロスは気に留めない。そんなのを理由に動きを止めるつもりなど毛頭なかった。
 彼の中を満たしているのは、奪い続ける怪人達に対する『怒り』と、守れなかった己自身への『怒り』だった。

(俺は……五代との約束を裏切ってしまったのか)

 そしてゼクロスの心に、五代雄介への後ろめたさが芽生えていく。
 彼から託された少女達を救えなかったどころか、また新たに二人の人間を死なせてしまった。五代との約束を果たすのなら彼らのことも助けなければいけないのに、それができなかった。
 せめて五代の親友である一条や、良牙とキュアブロッサムだけは逃がしたが、一刻も早く彼らの元に駆けつけなければいけないことに変わりはない。

「行ってくれましたか……尤もそちらの方が都合はいいですけどね」
「……何?」

 悠然とした態度で立つ白い怪人の言葉にゼクロスは思わず疑問を抱く。
 どういうことだと問い詰めようとしたが、その前に怪人が語る方が早かった。

「彼らは皆、凄まじい力を持っています……私も知らない能力がどんな仕組みで生まれるのか、とても興味深いですよ。その謎を解き明かすチャンスを残してくれた貴方には感謝しなければいけないようですね」
「何だと……?」
「本当なら貴方の力についても知り尽くしたいのですが、どうやら少し難しそうですね……まあ、死体でも構わないのですが」

 怪人の表情は一ミリたりとも動かなかったが、ニタニタと薄気味悪い笑みを浮かべているのだけは言動から察する。
 やはりこの怪人達はBADANや溝呂木と同じ『奪う者』だ。何を目的としているかは知らないが、己の欲望を満たすためならばどんな犠牲が出ようとも躊躇わないような奴らだ。
 このまま放置しては良牙達どころか、多くの命が奪われてしまうことは簡単に想像できる。許すわけにはいかない。

「……ふざけるな」
「ほう?」
「キサマらにはもう何も奪わせない……俺がここでキサマらを倒す」
「何か誤解をしてるようですね……一つ言っておきますが、私はこの殺し合いを良しとしない者です。むしろ貴方のような者の力になりたいのですよ……尤も、それはもう叶わないようですが」
「そうか」

 怪人の言葉からは良牙達のような温かみが感じられず、嘘としか聞こえなかった。
 奴はあのニードルと同じで表面上では穏やかな態度を取っているだろうが、その裏では数え切れないほどのものを奪ってきたはずだった。体表を彩る白という色も、余計にニードルを連想させてしまう。
 ゼクロスは電磁ナイフを構えながら取り留めのないことを考えた頃、アクマロという怪人が突っ込んでくる。
 二対一な上に傷はほとんど癒えていないが負けるわけにはいかない。痛む身体に鞭を打ったゼクロスも走ろうと足に力を込めた。
 その時だった。つい先程、別行動を取ったはずの冴島鋼牙が風の如く勢いで現れたのは。

「はあああああぁぁぁぁぁぁっ!」

 鋼牙は大声で叫びながらその手に持つ剣を横に振るって、アクマロの一閃を弾く。刃同士の激突によって鋭い金属音が響き渡ると同時に、アクマロは微かに後退した。
 その隙を見逃さずに鋼牙はアクマロの肉体を勢いよく切り裂き、鋭い前蹴りを叩き付けて吹き飛ばす。
 そのまま鋼牙は地面を転がるアクマロを睨みながらゼクロスの横に立った。

「その声……お前、村雨だな」
「鋼牙、何故戻ってきた?」
「こんな天気で雷が鳴るなど有り得ない。だから駆けつけて来たが……どうやら、詳しい事情を聞いている暇はなさそうだな」

 周りで倒れている死体に目を向けながら鋼牙は語る。

「薫達はどうした?」
「先に向かわせた……このままでは彼らまで、奪われてしまうかもしれなかったからだ」
「そうか」

 頷く鋼牙の声には若干の安堵が感じられた。
 そして、彼の全身から闘志がどんどん放たれていくことにゼクロスは気付く。鋼牙の硬い表情には、烈火のような怒りが宿っているはずだった。

「グッ……何処の何方かは存じませぬが、やってくれますね。覚悟は宜しいですな?」

 そんな鋼牙によって倒されたアクマロはようやく立ち上がって、殺気と共に刃を向けてくる。
 だが、それを突き付けられた鋼牙は微塵にも怯む様子を見せず、それどころか怒りの炎を更に燃やしていた。

「生憎だが、俺達はお前らと遊んでいる暇などない……早めに決めさせて貰うぞ」
「ほう……? ならば、お望み通りにあんたさんを地獄に送って差し上げましょう!」

 そしてアクマロも鋼牙に負けないくらいの憤怒を声に出しながら、剣を掲げながら走り出す。
 一方で鋼牙も勢いよく疾走しながら剣を振り上げた。
 それから瞬き一回分の時間が流れた後、彼らの影が交錯。同時に激しい金属音が森の中に響いた。
 あまりにも一瞬すぎる出来事で、ゼクロスすらも何が起こったのかすぐに理解できていない。しかし、結果は目前に存在していた。
 鋼牙は何事もなかったかのように悠然と立っていて、アクマロは膝を地面に落としていた。しかもよく見ると、アクマロの胴体には大きな傷が刻まれている。
 それは見間違えようのない確かな光景だった。

「ガ……ッ! な、何ですと……!?」
「ほう……これはこれは……!」

 苦悶の呻きがアクマロの口から零れる一方、白い怪人は感嘆の声を上げている。
 それを見て、この怪人達は互いを信頼し合っていないとゼクロスは考えた。予想は出来ていたが、こいつらの同盟などいつ崩れてもおかしくない程度のもの。
 尤も、ゼクロスにとってはどうでもいいことだが。

「村雨、行くぞ」

 鋼牙はそんな怪人達の様子に目を向けることなどせずに、その手に持つ武器を天に掲げる。彼は頭上で円を描くように腕を動かすと、空間に裂け目が生じた。その中から黄金の光が鋼牙を祝福するかのように降り注ぎ、辺りを照らす。それは木々によって遮られている太陽の光よりも眩い。
 その眩しさに耐えられなかったのかアクマロも白い怪人も腕を翳す中、ゼクロスは見た。天使のような羽を持つ小さな存在が光の中より何匹も現れるのを。
 天使達はその手に持つ黄金色の装甲を、鋼牙の肉体に装着させる。すると彼の持つ剣もまた黄金の輝きを放ちながら形を変えていき、より鋭さを増した。
 すると、ようやく辺りを照らす凄まじい輝きが収まっていき、そんな中でゼクロスは思う。ああ、これが彼の変身なのだと。
 その思考を証明するかのように現れた黄金の騎士は剣を構えて、狼のように強く吼える。それに伴い、狼を模した仮面からは並の怪人ならば瞬時に怯ませる程の威光が放たれた。
 そこに現れたのは魔戒騎士の最高位である称号を背負う黄金騎士。旧魔戒語で『希望』を意味する名を持つ騎士へと、鋼牙は姿を変えていた。
 その名は牙狼……黄金騎士ガロへの変身を冴島鋼牙は果たしていたのだった。




 黄金色に輝くガロの鎧を纏った冴島鋼牙は己の判断を呪っていた。
 バラゴを再び倒すために別行動を取ってしまった間に、こんな多くの犠牲が出てしまっている。驕るつもりはないが、もしも彼らと共に冴島邸に向かっていればこんなことにはならなかったかもしれない。
 人の死というものはこれまで何度も経験してきたが、守れなかった者や残された者達のことを思うとやはり無念を抱かざるを得ない。
 しかし悲しみに溺れるなど守りしものにはあってはならないことだ。ここで腑抜けになっていては一条達を守れないし、今も何処かで誰かを人を守っている涼邑零とも共に戦えない。何よりも五代や本郷猛達のような者達の無念だって晴らせなかった。
 今やるべきことはこの怪物達から人々を守って、一刻も早く良牙達を追うのが最優先だった。この鎧を装着してから魔界の砂時計である魔導刻が動き始めているので、急がなければならない。99・9秒以内に解除しなければこの身が鎧に食い尽されてしまい、心滅獣身となって暴走してしまう。
 特にこの場では主催者達が何らかの力で鎧を細工している可能性もあるので、尚更早く決着を付けなければならなかった。

「その輝き……おお、まさかこんな所で出会えるとは実に幸運ですね! ああ……ますます貴方に興味が出てきましたよ! 是非とも、貴方の力を見せてください!」

 白い怪人は興奮を露にしたように巨体を震わせながら語る。
 一体何のことを言っているのか。一瞬だけ疑問を抱いたが、この島に放り込まれてから数時間経った後に鎧を召喚したことを思い出す。恐らく怪人はその光景を目撃したのかもしれない。
 だが、真相がどうであろうと関係なかった。

「言ったはずだ、俺達はお前らに付き合っている暇はないと」

 ガロが静かに宣言しながら牙狼剣を構える。
 白い怪人は右腕を天に掲げると、轟く暗雲より稲妻が降り注いできた。しかしガロは剣を横に振るうことで簡単に弾く。立て続けに雷は迫るが、ガロはその度に牙狼剣を振るい続けて防いでいた。
 稲妻は凄まじい速度と熱を誇っているが、それでも何十年にも渡る修練を積み重ねてきた魔戒騎士にとっては恐れるには足りない。加えて、そんな魔戒騎士達の中でも最強の実力者であるガロには自然現象による雷など子供騙しに等しかった。
 雷撃はすぐに止んだが今度は突風がガロの肉体に襲い掛かる。ガロは両足に力を込めて吹き飛ばされないように踏ん張りながら進もうとするが、風圧によって中々進めなかった。
 仮面の下で表情を顰めた瞬間、あのアクマロと呼ばれた怪人が剣を振るってくるのを見て、ガロは思わず跳躍する。
 身体が軽くなるのを感じた彼は牙狼剣を一閃して迫りくる剣を弾き、そこから反対側の拳を叩き付けてアクマロを吹き飛ばした。
 悲鳴を耳にした後、ガロは再び白い怪人に向かって駆け抜けて、一瞬で目前に迫ると同時に剣を振るう。鈍い音と共に切り裂かれた皮膚から火花が飛び散って、怪人は後ずさった。
 無論、怪人もただ棒立ちで受けているだけではなく、腕を翳して白い煙を噴き出させる。氷を上回るような凄まじい冷気を帯びたそれによって視界が遮られるが、ガロは構わず突き進んで再び一閃。
 手応えを感じると同時に煙の勢いは止まり、衝撃によって白い怪人は吹き飛ばされていった。

「なっ……ま、まさか攻撃だけでこれほどの威力を誇るとは……!」

 斬られた腕を抑えながら白い怪人は立ち上がり、戦慄したような声を漏らしている。
 一方でガロは、敵が追い込まれた要因は仲間達にあると考えていた。白い怪人にせよアクマロにせよ、その動きには何処か精彩さを欠けているようにも思える。原因は、ゼクロス達が戦ったことにあるだろう。
 怪人達が消耗していなければ、ガロとて有利には戦えない。良牙達を逃がさなければならないとゼクロスに思わせるような相手なのだから、普通に戦ったら苦戦は免れないはずだった。
 心の中で仲間達を想いながら、ガロは白い怪人を睨みつける。
 鎧を召喚してから既に30秒は経過している。ここにいる怪人達は並のホラーを上回る力を誇っていて、消耗した状態でも簡単に勝てる相手ではなかった。それにもしかしたら予想を上回る切り札も持っている可能性だってあるので、悪戯に戦いを長引かせる訳にはいかない。
 何にせよ、今はこの怪人を戦闘不能に追い込まなければならなかった。
 救えるのであれば救いたいし、これ以上の凶行を繰り返させて犠牲者を出させるわけにもいかない。その為に牙狼剣を振るおうとした瞬間、大気が荒れ狂う轟音が鼓膜を刺激した。
 そして大気が荒れ狂って周囲の木々が吹き飛んでいき、ガロは思わず足を止めて振り向く。その先では、大きな竜巻が吹き荒れていた。




 黄金騎士ガロに変身した冴島鋼牙が現れた瞬間、ゼクロスの心の中には奇妙な思いが芽生えていた。
 それはBADANにいた頃、まだ生きていたミカゲと共にいる時に感じられた思い。そしてあの女が笑っている顔を見られた時に感じられた思いでもある。
 まるでからっぽになったこの心が満たされていくような気持ちだったが、その正体が何なのかはわからない。そして今も、ガロと一緒にいることでその謎の感情が胸に湧き上がっていた。
 だからそれを奪わせない為にも戦わなければならない。
 電磁ナイフを全力で振るってアクマロの肉体を斬り、衝撃で怯ませてから回し蹴りを叩きつける。アクマロは吹き飛ばされるが、それでもすぐに体制を立て直した。
 良牙やガロ、それにドーパントに変身した少女達と連戦しても尚、奴は体力を残している。やはり、一筋縄ではいかない敵だった。

「どこまでも我々を虚仮にしてくれますな……あの仮面ライダー達のように!」
「……カメンライダー達のように?」

 そんな中、憤りに満ちたアクマロの言葉に含まれた単語を聞いて、ゼクロスは思わず足を止める。

「どうやら、あんたさんも仮面ライダーの一人のようですな……本郷猛、それに仮面ライダースーパー1と同じく」
「俺がカメンライダーだと……何を言っている……?」
「フン、とぼけても無駄です!」

 刹那、アクマロの掌から輝きと同時に稲妻が発せられ、ゼクロスに襲いかかった。
 この場で三つの命を奪った雷は装甲を貫き、一瞬で体内を縦横無尽に暴れまわる。身体の至る所が爆発して、ゼクロスに痛みを与えていく。
 しかし、それでもゼクロスは倒れなかった。

「……俺を、カメンライダーと呼ぶな」

 雷鳴にかき消されそうな呟きを零して、ゼクロスは走る。
 凄まじい衝撃は走るが、その程度ではゼクロスを止めることなどできない。耐えながら前を進み、アクマロを睨み続けていた。
 あの怪人もつぼみと同じように、俺をカメンライダーの仲間だと思っている。何故、俺が奴らの仲間だと思われているのか? カメンライダーは大切なものを奪い取っていく奴らだというのに。
 そんな疑問が湧き上がっていくが考えても意味はない。思考を振り払ったゼクロスは痛む身体に鞭を打って、アクマロの腕を掴んだ。

「オオオオオオオオオオォォォォォォォッ!」
「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉっ!?」

 そのままゼクロスは強く咆哮しながら身を捻って、驚愕するアクマロの巨体と共に回転する。そのスピードとゼクロス自身のパワーによって大気は大きく振動し、彼を中心にした竜巻が巻き起こった。
 ゼクロスがアクマロを力任せに放り投げる。するとアクマロは風の流れに飲み込まれたかのように舞い上がっていった。それを追うかのようにゼクロスも跳躍すると、竜巻が徐々に収まっていく。
 風の流れは元に戻った頃、ゼクロスは宙を漂うアクマロの胴体の上に立っていた。
 そしてゼクロスは僅かに屈みながら全身に力を込める。すると、深紅の輝きが放たれた。

「ゼクロス──」
「なっ──!?」
「──キック!」

 そう宣言するゼクロスの足からエネルギーが解放されて、アクマロを地面に吹き飛ばしていく。
 一刻も早くアクマロを倒すためには至近距離でゼクロスキックを叩き込むしかない。そしてその為に、かつてガモン共和国で仮面ライダー一号が使っていた技でアクマロを吹き飛ばすのが有効だと、ゼクロスは判断していた。
 ゼクロスは知らないが、アクマロは仮面ライダー一号こと本郷猛を殺した相手だった。その相手を倒す為に一号の技を使うことになるのは運命かもしれないが、奇妙な偶然には誰も気付かない。
 ただ、ゼクロスがライダーきりもみシュートを使ったという事実しか、この場にいる者達には認識されなかった。
 ゼクロスキックによってアクマロは隕石のような勢いで地面に激突して、そのまま盛大な爆発を起こした。それにより周囲が無差別に破壊されながらクレーターが生じる中、ゼクロスは地面に着地する。
 自らが生み出したすり鉢状の穴を覗き込むと、黒く焦げた人型の塊が転がっていた。それが筋殻アクマロの遺体だと瞬時に察する。
 もう動かないのであればそれでいいと考えたゼクロスは、すぐにもう一体の怪人の方に振り向いた。どうやら、天候を操るあの白い怪人はガロに追い詰められているように見える。
 ならば、このまま加勢して一気に倒せばいい。そう決めたゼクロスは前に進もうとするが、急に彼の膝が落ちてしまう。
 何とかして前に進もうとするが身体が言うことを聞かない。
 連戦によって体力を異常に消耗している所に、ゼクロスキックを使ったのが原因だった。ダークメフィストやサイクロン・ドーパントとの戦いの疲れすら完全に癒えていない状態なのに、そこから四人との戦いを強いられては如何に彼といえども限界が来る。
 本来なら、変身を保っているだけでも精一杯だった。

「なっ、身体が……!?」
「どうした、村雨!?」

 全身が鉛のように重くなってくるのを感じたゼクロスにガロが振り向く。
 その直後、ガロと戦っていた怪人は腕を振るって、その巨体を何重にも渡る突風で覆った。凄まじい風圧が周囲に吹き荒れる中、動けないゼクロスを守る様にガロが立つ。
 黄金色に輝くガロの背中を見るゼクロスは怪人の攻撃が来るかと警戒した。しかしその警戒は杞憂で終わることを証明するかのように、風は収まっていく。
 だが、白い怪人の姿は既にない。つまり逃げられてしまったとゼクロスが思った頃、ガロの鎧が砕けて、冴島鋼牙が姿を現した。

「何をしている鋼牙、奴を追うんだ!」
「馬鹿を言うな、今のお前を一人にする訳にはいかない。奴を倒すことだけを考えて、お前が死んでしまっては意味がないだろう」
「しかし……!」
「それに、ここにいる彼らも早く弔わなければならない……それは俺の役目だ」

 静かに語る鋼牙の表情は、何処となく悲しげな雰囲気を放っている。
 それを見て、ここでは三つの命が奪われてしまったことをゼクロスは思い出した。そして五代との誓いを果たせなかったことを嫌でも思い知らされてしまう。
 彼らを殺した怪人は倒したが、だからといって奪われた命が帰って来る訳ではない。結局、名前も知らない三人を救うことはできなかったのだ。
 そう思った瞬間、ゼクロスは拳を強く握り締める。銀色に輝く手は無念の余りに大きく震えていた。




 鬱蒼と生い茂った木々の間を覚束ない足取りで進む白い怪人がいた。
 その異形、ウェザー・ドーパントは痛む腕を押さえながら軽く息を吐くと、耳元よりガイアメモリが排出されて、井坂深紅郎という男の姿に戻る。
 戦いに勝てないと判断した彼は、ゼクロスという仮面ライダーが膝を落とした一瞬の隙を好機と見て竜巻を起こし、そのまま逃走した。
 大分離れた甲斐があってか、追手の気配は感じられなかった。

「くっ、私ともあろう者が……欲望に負けたのが敗因でしたね」

 しかし井坂は微塵も喜ぶことが出来ずに己の判断ミスを呪っている。
 あの戦いでは特異な能力を持つ者が何人もいたことで、謎を解き明かしたいという井坂の欲望が一瞬で湧き上がっていた。それを抑えることができず、隙を見て筋殻アクマロと接触して共闘したが、それが失敗だった。
 いくらアクマロの力を確かめるとはいえ、本来ならば利用するはずの人材を殺すなんてあってはならない。それ以外にも、ウェザーの力ならばあのグループを叩きのめせると判断してしまったのも敗因だった。
 そしてもう一つ。幾らゼクロスが弱い奴らを逃がしたことで数の有利ができたとはいえ、高を括りすぎたのも失敗だった。二対一で戦えば勝てると感情が高ぶっていたら、今度はガロと戦う羽目になってしまう。
 もしかしたら、欲望を抑えなかったツケが回ってきたのだろうか。

「ですが、過ぎたことは仕方がありませんね……また、手駒を見つければいいだけです」

 ティアナ・ランスターもアクマロも死んでしまったが別に惜しむことはない。
 死体を確保する暇もなかったので彼らの謎は解き明かせなかったが、命とウェザーメモリさえ無事ならそれでよかった。いざとなれば、主催者の技術を全て奪った後に彼らのこと調べることだってできる。
 やるべきことは新たなる戦力を見つけることだけ。幸いにもウェザーに変身する場面は誰にも見られていないので、いざとなったら無力な弱者を装って鋼牙や良という男達に取り入ることも可能だ。
 それに逃走する際にバイオレンスのメモリやアクマロとティアナの支給品も確保しておいた。トリガーのメモリを失ったのは惜しいが、代わりにこのメモリを育てればいい。
 調べてみるとティアナのものと思われる衣服や下着、それにうさぎのぬいぐるみや書状と思われる物が見られた。だがこれは必要ないので、この場で捨てるしかない。
 しかし、これらはあくまでハズレなだけでもっと探せば当たりがあるかもしれないが、今は身体を休めることが最優先だ。そう取りとめのないことを考えながら、井坂はウェザーのメモリを眺める。

「ああ……それにしてもここはやはり素晴らしい。この地に集められた者達の謎を、必ず──」

 しかし、井坂の言葉は最後まで続かなかった。
 そこから先の言葉を紡ごうとした瞬間、彼の耳に銃声のような音が響く。しかし井坂深紅郎に反応する暇などない。
 何故なら、彼の視界は闇に飲み込まれてしまったのだから。




 物言わぬ男は頭部と右腕を焼失していて、二度と動く気配を見せない。
 井坂深紅郎という男の遺体を、笑みを浮かべながら見下ろす者がそこにいた。
 その男、溝呂木眞也は右手に構えるダークエボルバーを下ろすと、井坂が確保したT-2バイオレンスメモリと支給品を拾い上げる。
 無論、井坂が放置した物を拾う気はないが。

「まさかこいつを確保してくれるなんてな……俺の為に、わざわざご苦労なことだ」

 その言葉の中には一切の労いが込められていない。むしろ、井坂に対する侮蔑しかなかった。
 溝呂木が井坂を殺した理由はたった一つ。利用できそうにない邪魔者を消したかった、ただそれだけ。手駒にしようとしても既に負傷しているし、何よりも面白そうにも見えない。
 故に溝呂木はダークエボルバーから闇の弾丸を放ち、疲弊しきった井坂を殺害した。その際に奴が持っていたウェザーというガイアメモリも破壊してしまったが、別に構わない。
 手元にはサイクロンとバイオレンスがあるのだから、遊ぶには困らなかった。

(小娘どもは死んだ……まあ、惜しむことなどないか。邪魔者は充分に消してくれたからな)

 ダークファウストになった美樹さやかに続いて何処からともなく現れたスバル・ナカジマも死んだ。それだけでなく、本物の筋殻アクマロを始めとした邪魔者が三人も始末することができた。
 本当ならダークメフィストに変身して戦場に集まった奴らを一気に殺すこともできたが、それをしなくても勝手に潰し合ってくれるのだから、わざわざ消耗することもなかった。
 スバルが死んだことでまた一人になったが、奴からは全ての情報を引き出せたので未練などない。途中、計算外の行動が幾つかあったが、面白く死んでくれたので充分だ。
 冴島鋼牙、それに村雨良や響良牙のような邪魔者はまだ残っているが、今は泳がせておけばいい。その気になれば殺すことはできるが、あれでも参加者を減らしてくれるのに役立つ。
 今は西条凪の成長を楽しみに待ちながらゲームを楽しめばいい。その為にも、次の遊び道具を探すのも悪くないかもしれなかった。

「どうやら、デスゲームはまだまだ楽しめそうだな……孤門も姫矢も、精々楽しんでくれよ?」

 死神の視界にはもう井坂深紅郎という人物は存在しない。彼が求めているのは弱き人間ども闇に堕ちて、絶望する光景だけ。
 それこそが、溝呂木眞也の望みだった。


【一日目・昼】
【D-4/森】
※ヴィヴィオのぬいぐるみ@魔法少女リリカルなのは 、機動六課制服@魔法少女リリカルなのは、下着、志葉家の書状@侍戦隊シンケンジャーが放置されています。


【溝呂木眞也@ウルトラマンネクサス】
[状態]:健康
[装備]:ダークエボルバー@ウルトラマンネクサス、T2バイオレンスメモリ@仮面ライダーW、T2ガイアメモリ(サイクロン)@仮面ライダーW
[道具]:支給品一式×3(内一つ、食料残2/3)、ランダム支給品1~2個(確認済)、サイクロン号@仮面ライダーSPIRITS、スモークグレネード@現実×2、ランダム支給品(未確認)3~14(井坂1~3、ティアナ0~1、アクマロ1~2、流ノ介1~3、なのは0~2、本郷0~2、まどか0~1)、首輪×7(シャンプー、ゴオマ、まどか、なのは、流ノ介、本郷、ノーザ)
[思考]
基本:より高きもの、より強きもの、より完璧なるものに至り、世界を思うままに操る。
0:ゲームを楽しむ為にどうするべきか考える。
1:姫矢准からウルトラマンの力を奪う。
2:その他にも利用できる力があれば何でも手に入れる。
3:弱い人間を操り人形にして正義の味方と戦わせる。
4:西条凪を仲間にする。
5:今は凪は放置。
6:冴島鋼牙、村雨良、響良牙達は今は泳がせておく。こちらから接触するつもりはない。
[備考]
※参戦時期は姫矢編後半、Episode.23以前。
※さやかをファウストにできたのはあくまで、彼女が「魔法少女」であったためです。本来、死者の蘇生に該当するため、ロワ内で死亡した参加者をファウスト化させることはできません。
※また、複数の参加者にファウスト化を施すことはできません。少なくともさやかが生存している間は、別の参加者に対して闇化能力を発動することは不可能です。
※ファウストとなった人間をファウスト化及び洗脳状態にできるのは推定1~2エリア以内に対象がいる場合のみです。
※ダークファウストが一度に一体しか生み出せないことを、何となく把握しました。
※スバル・ナカジマから全ての情報を聞き出しました。





 冴島鋼牙の目前で盛り上がった土の下には殺されてしまった者達が眠っている。
 スバル・ナカジマとティアナ・ランスター、それに志葉丈瑠の三人だったが、鋼牙は彼らのことを何一つ知らない。しかしそれでも村雨良が誰かの為に命を賭けていた者達だと言っていたから、本当なら死んではならなかった。
 だからせめて鋼牙は良と共に黙祷を捧げる。せめて彼らの魂だけでも救われることを祈って。
 そして、埋葬を終えた鋼牙は右手に視線を向ける。彼は今、狼の仮面を被った女性を模した銀色に輝くペンダントを握っていた。

『事情はわかったわ、教えてくれてありがとう……それにしても、まさかあたしが貴方の元に渡るなんてね。冴島鋼牙』

 口元は本物の人間のように動き、穏やかながらも妖艶な女の声が響く。
 それは同じ魔戒騎士である盟友・涼邑零が長らく共に過ごしてきたシルヴァという名の魔導具だった。旧魔戒語で『家族』の意味を持つ彼女は村雨良の手に渡っていたが、事情を教えて貰った際に休憩を兼ねて支給品を確認した後、こうして鋼牙の手に渡っている。
 シルヴァが入っていたケースは防音加工になっていたので、この状況を把握していなかったので、鋼牙は全てを話している。

「シルヴァ、お前は本当に知らないのか? 零の家族や婚約者……それに、阿門法師の本当の仇を」

 だが、ここにいるシルヴァは鋼牙の知るシルヴァとは少し違っていた。彼女はガルムとの戦いで零を庇ったがその傷が何処にも見られず、何よりもその出来事を知らないように見える。

『ええ、あのホラー喰いの魔戒騎士が道寺と静香を殺した張本人で、あの番犬所と手を組んでいただなんて……でも、あの胡散臭い老婆達ならやりかねないわね』
「ああ。奴らにとって俺達魔戒騎士はメシア復活の道具に過ぎなかった……だから人間の命も、何とも思っていなかったのだろう」
『道寺と静香がそんな奴らの犠牲になるなんて……最悪だわ』

 溜息と共に零れたシルヴァの声は静かながらも、確かな憤りが感じられた。
 その気持ちは鋼牙も大いに理解している。奴ら三神官は己の野望を果たす為だけに、大勢の人間や騎士達を犠牲にした。その中には冴島大河や、零にとってかけがえのない家族である道寺や静香も含まれている。
 あの戦いを乗り越えた鋼牙さえも、犠牲になった者達の無念や悲しみを思ったら怒りが燃え上がりそうだった。無論、それに支配されてはバラゴのように暗黒の道へ堕ちてしまいかねないので、抑えなければならない。

『でも冴島鋼牙……貴方、零に会ったらどうするつもりなの?』

 その精神力で心を静めている鋼牙に、シルヴァは問いかけてくる。

「何がだ」
『貴方の話が真実だったとしても、あたしの知る零はそれを信じるとは思えないわ。彼は貴方を殺そうと躍起になっているし……実際あたしだって、貴方の話を完全には信じられないもの』

 その疑問は、鋼牙にとって重要な課題だった。
 ここにいるシルヴァが連れて来られたのは、零が三神官の言葉に騙されて道寺や静香の仇を自分だと思い込んでいた頃かららしい。だから彼女も三神官やホラー喰いの魔戒騎士の真相、それにバラゴの存在も知らなかった。
 だとすると、零も同じ時間から連れて来られた可能性が高い。憎しみと激情のあまりに邪美を襲って、カオルを人質にしたあの頃から。
 もしもこの事に気付かないまま零と出会ったら、また戦いになる恐れがあった。

「例えこの島の何処かにいる零が俺を仇だと思っていたとしても、俺が零に直接伝えるつもりだ」

 しかし、もしそうだったとしても鋼牙の答えは決まっている。

『貴方、本気なの?』
「誤解させたままでは、何も解決しない……それに零がバラゴの事を知らないのは危険だ。この島には奴もいるのだから」
『確かにそうだけど、今の彼が貴方の話を聞きいれるとは思えないわ。例えあたしが話したとしても、簡単に止められると思う?』
「止めてみせるさ……絶対に」

 もしも零が憎悪のままに斬りかかったとしても、そうなったら戦いにならないように説得するだけ。守りし者である魔戒騎士同士で殺し合いになるなど、あってはならないのだから。
 それに彼は今だって、この殺し合いを潰す為に戦っているはず。何故なら、零は憎しみに囚われていても、ホラーから多くの人々を守り抜いたのだから。
 難しい事なのは鋼牙自身も強く理解している。零の実力は凄まじく、誤解から生じた戦いの時も隙が全く見つけられなかった。故に、もしかしたら無傷で終わらせるのは困難かもしれない。
 それでも、零には真実を知って欲しいし、出来るならまた共に力を合わせたいと鋼牙は思っていた。

『そう……なら、あたしは祈ってるわ。零が全ての真実を知って、貴方と一緒に戦ってくれる事を』
「そうか」
『ただし、これだけは忘れないで。いくらあの老婆達に騙されて戦いになったとしても、零を怪我させたりしたらあたしは貴方を許さないから』
「わかっている。俺もあいつを傷つけるつもりなど全くない」
『そうしてくれるなら、あたしも出来る限り貴方達の力になるわ……こんな悪趣味極まりない殺し合いを防ぐためにもね』

 シルヴァの口元は憤りで歪んでいたが、言葉は実に頼もしい。
 そんな彼女を見て、鋼牙は思わず安堵を感じた。例え生きる時間は違っていても、やはりよく知るシルヴァである事に変わりはない。零やザルバには悪いが、彼女と出会えたのは心強かった。
 零に再会するまで、シルヴァは必ず守らなければならない。彼女がいなくなっては戦いが不利になるだろうし、何よりも零にとってはかけがえのない家族だ。
 これまで零は数え切れない程の大切な存在をホラーに奪われてきたのだから、シルヴァまで失わせる訳にはいかなかった。

(ザルバに零……どうか無事でいてくれ)

 何処かにいるであろう、二人の友の無事を冴島鋼牙は強く願う。
 すると、そんな彼の思いに答えるかのように、太陽の光に照らされたシルヴァから微かな輝きが放たれた。
 そして鋼牙はシルヴァから目を離して良に振り向く。
 戦いで受けた傷は癒えているようだが、それでも万全には見えなかった。

「鋼牙、そのバラゴという男を探さなくてもいいのか?」
「言ったはずだ、俺は今のお前を一人にする訳にはいかないと。それに今からまた村に向かったとしても、奴がいるとは限らない」
「……そうか」

 良は先に向かった響良牙達を追おうとしているが、その最中に溝呂木やバラゴのような人物に襲われたら危ない。今の良は完全に回復していないのだから尚更だ。
 バラゴは確かに放置できないが、それでも良は守らなければならなかった。

「行こう、良牙達も心配だ」
「そうだな」

 鋼牙は最後にもう一度だけ眠る者達に祈りを捧げる。せめて、五代雄介と同じように争いの無い世界へと行けるようにと。
 そんな願いを亡くなった者達に送った冴島鋼牙は、村雨良と共に仲間達の元へと急いだ。


【1日目/昼】
【D-5/焦土】
※戦いの影響で焦土となりました。
※ゼクロスキックによって黒焦げになった筋殻アクマロの遺体が放置されています。
※スバル・ナカジマ、ティアナ・ランスター、志葉丈瑠の遺体はD-5エリアに埋葬されています。


【冴島鋼牙@牙狼─GARO─】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(小)
[装備]:魔戒剣、魔導火のライター
[道具]:支給品一式、ランダム支給品1~3、魔導具シルヴァ@牙狼─GARO─
[思考]
基本:護りし者としての使命を果たす
1:首輪とホラーに対し、疑問を抱く。
2:加頭を倒し、殺し合いを終わらせ、生還する
3:良を守りながら良牙達を追いかける。
4:零ともできれば合流したい。そしてシルヴァを渡して全てを伝える。
5:未確認生命体であろうと人間として守る
6:相羽タカヤに会った時は、彼にシンヤのことを伝える
[備考]
※参戦時期は最終回後(SP、劇場版などを経験しているかは不明)。
※魔導輪ザルバは没収されています。他の参加者の支給品になっているか、加頭が所持していると思われます。
※ズ・ゴオマ・グとゴ・ガドル・バの人間態と怪人態の外見を知りました。
※殺し合いの参加者は異世界から集められていると考えています。
※この殺し合いは、何らかの目的がある『儀式』の様なものだと推測しています。
※首輪には、参加者を弱体化させる制限をかける仕組みがあると知りました。
 また、首輪にはモラックスか或いはそれに類似したホラーが憑依しているのではないかと考えています
※シルヴァから零が自分を仇だと思い込んでいる時期から連れて来られている可能性があると聞きました。


【村雨良@仮面ライダーSPIRITS】
[状態]:負傷(右肩に切り傷、左胸から右わき腹までの深い切り傷、全身に切り傷、全身に軽い火傷、いずれも回復中)、疲労(極大)
[装備]:電磁ナイフ、衝撃集中爆弾、十字手裏剣、虚像投影装置、煙幕発射装置
[道具]:支給品一式、ランダム支給品0~1個
[思考]
基本:カメンライダーを倒す。主催の言葉に従い殺し合いに乗るつもりは無い。
0:鋼牙と共に良牙達を追いかける。
1:18時に市街地で一文字と出会い、倒す
2:『守る』……か。
3:エターナルを倒す。
4:特訓……か。
5:ミカゲや本郷の死に対する『悲しみ』
[備考]
※参戦時期は第二部第四話冒頭(バダンから脱走中)です。
※衝撃集中爆弾と十字手裏剣は体内で精製されます。
※能力制限は一瞬しかゼクロスキックが出来ない状態と、治癒能力の低下です(後の書き手によって、加わる可能性はあります)。
※本人は制限ではなく、調整不足のせいだと思っています。
※名簿を確認しました。三影についてはBADANが再生させたものと考えている一方、共に戦う事は出来ないと考えています。
※不明支給品の一つは魔導具シルヴァ@牙狼─GARO─です。


【支給品解説】


【魔導具シルヴァ@牙狼─GARO─】
村雨良に支給。
涼邑零から没収されている支給品で、彼の相棒の魔導具のペンダント(普段は零が首にかけている)。
妖艶な女性の声で話していて、零にとっては本当の家族に等しい。CVは折笠愛。
シルヴァとは旧魔戒語で『家族』という意味を持つ。
参戦時期は涼邑零とほぼ同じです。

【全体備考】
※生命の苔@らんま1/2は消費しました。
※ウェザーメモリ@仮面ライダーW、ガイアメモリ(T2トリガー)@仮面ライダーW、クロスミラージュ(左4/4、右4/4)@魔法少女リリカルなのはシリーズ、削身断頭笏@侍戦隊シンケンジャーは破壊されました。






 暗闇だけしかなかった彼女の世界に、太陽のように暖かくて穏やかな光が差し込んで来ていた。
 その優しい光が肌に刺さり、まるで布団の中で眠っているような心地よさが感じられた。スバル・ナカジマは瞼を開けると、そこには鹿目まどかと美樹さやかの姿が見えた。
 穏やかな笑みを向けている彼女達に、スバルは尋ねる。

「あなたたちは、あたしのことを憎んでいないの……?」

 まどかの命を奪って、さやかのことを騙そうとした。
 それにも関らずして二人はその手を差し伸べてくれている。

「ううん、誰もあなたのことを憎んでなんかいないよ……だってスバルさんが優しい人だってこと、私たちは知ってるから」

 まどかはスバルの右手をゆっくりと握りながら、微笑んだ。
 その言葉は、スバルの心を絶望から解放してくれるかのように、希望に満ち溢れていた。

「あなたはもう、誰のことも傷付けなくてもいい……それにあなたは友達を助けたでしょ。だから、もう苦しむ必要なんてないわ」

 さやかはスバルの左手を静かに掴みながら、笑顔を向けてきた。
 彼女の声は、スバルが味わってきた悲しみを忘れさせてくれるかのように、愛が込められていた。

「本当にいいの……?」
「言ったでしょ、あたし達はあなたのことを憎んでなんかいないって」
「もう、スバルさんは苦しまなくてもいいんです……私達と一緒に行きましょう?」

 二人を前に言葉を失うも、スバルはすぐに頷く。
 すると、辺りの光は徐々に世界を満たしていき、彼女達三人を一瞬で飲み込んでいく。
 そんな中、スバルは聞いた。光の中からスバルの名を呼ぶ声を。
 それが本郷猛と高町なのは、そして親友のティアナ・ランスターだと気付いた瞬間、スバル・ナカジマはようやく本当の笑顔を取り戻すことができた。





 そして同じ頃、志葉丈瑠も光の中にいた。
 元の世界、そしてこの地で共に戦った仲間と丈瑠は向き合っていた。
 家臣の池波流ノ介、そして己の心に正直に生きてきたパンスト太郎。そんな二人を、丈瑠は最悪の形で裏切ってしまった。
 本当なら顔を合わせるなんてできないが、逃げることも許されない。しかし、何を言えばいいのかがわからなかった。

「流ノ介、俺は……」
「殿、何も言わないでください……もう、いいのです。殿は、人を助けたのですから」

 そう語る流ノ介の笑みは、何処となく儚げに見える。
 彼は全てを知っているのだ。身勝手な理由で人斬りに走った愚かな自身のことを。
 だが、それを知っても尚……流ノ介はまだ認めてくれている。

「侍野郎、俺はてめえを許してねえ……だが、このままてめえだけを地獄に行かせる訳にはいかねえ。俺と同じ場所に連れて行って、ギタギタにしてやるから覚悟しやがれ」

 パンスト太郎の憎まれ口からは、憎悪は感じられなかった。
 それは丈瑠にとって、罵られるよりも辛く感じられた。義理に溢れた彼を裏切ったのに、報いすらも軽すぎる。
 それがより丈瑠の心に圧し掛かっていくが、それこそが己に架せられた罰なのではと気付いた。

「……本当にすまない。流ノ介、それにパンスト太郎……」

 許されないのはわかっている。しかしそれでも、謝らずにはいられなかった。
 この意識すらも、もうすぐ世界から消えてしまう。その前にこの気持ちだけでも伝えたかった。
 どうして侍として正しい道を歩めなかったのだろう。例え影武者としての使命を終えたとしても、人を守ることなんていくらでもできたというのに。
 もしもまた生まれ変われるのであれば、今度こそ誰かの為に戦いたかった。最期に一条薫を救ったように。
 そんな微かな願いを胸に抱くと同時に、志葉丈瑠の意識は光の中に飲み込まれていった。



【志葉丈瑠@侍戦隊シンケンジャー 死亡確認】
【スバル・ナカジマ@魔法少女リリカルなのは 死亡確認】
【ティアナ・ランスター@魔法少女リリカルなのは 死亡確認】
【筋殻アクマロ@侍戦隊シンケンジャー 死亡確認】
【井坂深紅郎@仮面ライダーW 死亡確認】
【残り37人】




 残酷な殺し合いに巻き込まれ、その果てに犠牲となった者達の魂はようやく解放された。
 本郷猛も、鹿目まどかも、美樹さやかも、高町なのはも、志葉丈瑠も、池波流ノ介も、シャンプーも、パンスト太郎も、ノーザも、ズ・ゴオマ・グも、筋殻アクマロも、井坂深紅郎も、ティアナ・ランスターも、スバル・ナカジマも……ようやく解放された。
 もう彼らの魂は何かに囚われることはない。
 もう、残酷な運命の犠牲になることは、永遠になかった。


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最終更新:2013年03月15日 00:35