第一話「山の向こう側」
私の名前は日ヶ瀬ミリア、レーシア人。
レーシア国はとても田舎、そのなかでも特に田舎のセトラスって村で私は生活している。
この村は山に囲まれており、とてもではないが飛空艇でしか外に出れない。
それからというものおじさんとおばさんに育てられて来た。
そんな私には一つ困ったところがある。
好奇心旺盛すぎる、周りからず~っと言われている。
今日も私はゴーレム達が住まう遺跡に来ている。
皆は危険だというが、とてものどかな場所だ。
特に私がよく来るこの遺跡、ここのゴーレム達はとても優しい。
昔、私が魔物に襲われたときに助けてくれたのだ。
理由は良くわからないが、この子たちは私にとても良く接してくれる。
しかし、時々この子達は山の方をみて固まる。
多分、この子達はもともと山の外に居たのではないか、そう思えてくる。
私は山の外に出たくなった。
とても・・・とても、この広い世界に踏み出したいと思った。
「やっぱりここだったー」
遠くから響く声、私の幼馴染であるであるオルファの声だ。
「ほーらー、おばさん達まってるよ」
「うん、もうちょっと、あとちょっとで来るから」
「なにが?」
空はもう茜色に染まっている。
ゴーレムたちもそろそろおとなしくなる時間だ。
「あ、ほら来た」
山の向こう側から現れる大きな影。
とても大きな飛空艇がミリア達の上を音も無く通過して行った。
「ひょわー、あれ多分スカイベースから出てる大陸間船だよ」
「うん、知ってる・・・ねぇオルファ」
「なに?」
「明日さ、飛空挺来るんだよね、村に」
「あぁ、物資のね・・・・あんたまさか・・・」
「うん、私それに乗るつもり」
長い間考えていたことなのに、とてもあっさり口から出た。
そしてオルファも長い付き合いからか何を言いたいかわかっていた。
「馬鹿言わないの! 移動するお金も、食っていくお金なんてないでしょ」
「行く先で作るの!それに、私は歩いて旅をするの」
「冒険者でもないのに無理に決まってるじゃない!」
私は理解していた。 この世界はただの人間が旅をするにはあまりにも過酷なのだ。
この世界には魔物が多いし、大体の場所は治安もそこまで良くはない。
それでも、私は一箇所にとどまって一生を過ごすなんて考えられない。
「私はね、オルファ・・・もっと、もっともっと色んな物を見たいの」
「ミリア・・・」
「色んな物に触れたい、色んな物を知りたい、色んな所に行きたいの」
「はぁ・・・でもね、ミリア・・・あなたがわがままを言うなら私にも言わせて」
オルファはミリアの肩を強く掴み、視線を合わせて強く言った。
「私は友達を失いたくない、ずっと一緒にいたい、危険な目にあって欲しくない!」
「オルファ・・・大丈夫、必ず戻ってくる・・・だから」
「はぁ・・・・そう、わかってる、あんたが人の話を聞かないのは」
「え、ちょっとそう言う訳じゃ」
「これあげる」
バッグから取り出したもの、それは魔素式拳銃だった。
魔素を圧縮して放つ護身用の武器だ。
「これって、オルファのお兄さんの」
「いいのよ、うちの兄貴だってどうせ使わないんだし」
そう言ってオルファは強引に渡した。
「ねぇオルファ」
「わかってる、出発するのは誰にも内緒でしょう?」
「・・・ありがとう」
「いいのよ、私とミリアの仲なんだから・・・さ、帰ろう」
「そうだね、今日はもう帰ろうか」
長い時間、二人で話しながら歩いた。
昔のこと、今のこと、周りのこと、自分のこと・・・。
話すことがなくなるまで話した。
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「さて」
必要最低限の着替えやタオル、その他の必要なものをすこし小さいバッグに詰める。
ちょっと肩がこりそうな重さだが長旅にはちょうどいい大きさだ。
「いきますか!」
家を出てまっすぐ歩く、目指すは西の平原、飛空艇はそこに停まる。
「ミリア、おはよう!」
「オルファもおはよう、はい、これ家の鍵」
家の鍵はオルファに預かってもらうことにした。
「それじゃあ、手紙忘れないでね」
「わかってるって」
手を振ってオルファと別れた。
飛空艇までの長い道、不思議と誰とも会わなかった。
しかし、これはミリアにとっては好都合だった。
だが、とても仲がいい村人達だったので少し悲しい気もしてきた。
「あ、昨日連絡頂いたミリア様ですね?」
係員が駆け寄ってきた。
「はい、一番近くの町までお願いしたいのですが」
「わかってます、一番近いのはシルート市ですね」
シルート、本で読む限りだとほんの少し発展した程度の町だ。
始まりの場所としてはまぁ悪くない町である。
「点検完了しました」
「出航準備完了!」
「飛空石始動完了しました!」
「出航します!」
乗組員の通信が船内に響いた。
そして、すこしの間を置いてから飛空挺が地面から離れ、徐々に高度を上げていく。
見慣れた村があっという間に小さくなっていく。
ミリアはふと、村の広場に何かがあることに気がついた。
村の人々が形を作って並び、大きな幕をもって手を振っている。
ミリア 元気でいてね いってらっしゃい
気がつくと涙が頬を伝っていた。
「バカオルファ・・・秘密だって言ったのに・・・もう・・・」
村が見えなくなってしばらくすると、個室のドアを誰かがノックしてきた。
「どうぞー」
ガチャリっと音を立て、軋みながらドアが開く。
「あ、すいません、こちらお預かり物です、手紙もあります」
「ありがとうございます」
受け取った手紙の差出人は父だった。
もう長い事会っていない父からの手紙。
とても好奇心旺盛だから、いつかはこうなるとわかっていた。
このカメラでたくさんの思い出を残しなさい。
再会したときに思い出を語り合えるように。
父より
「……なにかもっと、気の聞いた言葉は残せなかったのかなぁ」
でもなんかそれが父らしいという気もしてくる。
手紙の裏にざざっと走り書きしたようなメッセージがある。
ばらしちゃってごめんねー
でも村の皆は家族みたいなものなんだし黙ってでてっちゃダメだよ。
このカメラは半年前に皆でお金を出し合って買ったんだよ。
ちょうど頃合だってね。
そのうち分かるだろうけどあなたはそういう運命の元に生まれてるの。
でも、ずっと一緒に居たいって言うのは本当だったんだよ?
それじゃ、帰ってきたらちゃんと写真見せてね!
オルファより
「一緒に来てって言うべきだったのかな」
クスリっと笑いがこみ上げてきた。
ミリアは再び外を見た。
ちょうど山を越えるところだった。
山の向こう側は雲に覆われていた。
飛空艇は高度を落とし始めた。
雲の中に漬かり、進んでいく。
雲の海を抜けた先には広大な大地が広がっていた。
「すごい・・・世界がこんなに広いなんて・・・」
世界はミリアの想像は遥かに凌いでいた。
大地が途切れるまで地上を見渡せた。
「あ、そうだ・・・うおっ」
カメラを手に取りレンズを開いた瞬間、カメラが見ている風景が頭に流れ込んできた。
「なんかクラクラするなぁこれ・・・でも」
ミリアは地平線に向けてシャッターを切った。
「これが私の最初の一枚・・・始まりの写真・・・」
カメラの背中に先ほど撮った写真が表示される。
「よっし、がんばらなくっちゃね!」
私の旅は始まった。
村人の心を乗せたカメラと共に。
これから何に出会うのか、何処へ行くのか、何を見るのか。
それは私にも分からない。
行きたい場所に行って、やりたいことをやる。
そして、お父さんとお母さんに会う。
でも・・・それからも旅は続けるつもりだ。
なにかが待っている気がするんだ。
良くわからないけど・・・。
そう、この広い世界の何処かで・・・
第一話 完
最終更新:2011年08月14日 00:22