第三話「セトラス」
今日の配達はレーシア国のセトラスだ。
山に囲まれた小さな村だ。
周囲の山が険しいため物資は空からしか運べない。
ただ、今日運んでいるものは、この村に必要なものとは到底思えないものばかりだ。
銀3キロと機密とかかれた書類ファイル、そして水晶と黒水晶の原料じゃらじゃら・・・。
お陰でなかなかうまく飛べない。
ミヤさんは一体何処からこのような仕事を引き受けてくるのだろうか・・・。
「おお?」
急に空が暗くなる、飛空艇がチェロキーの上空を通過したのだ。
「はぁー、最近の貨物艇は早いんだねぇ」
船底の劣化してけばけばな赤色、これは貨物艇だけのペイントだ。
なぜ貨物艇だけそういう特別な色を塗るのか・・・。
昔ミヤさんに聞いた気がする。
まだ飛空挺が非常に遅かった時代、大型の飛空機にのった空賊が居たらしい。
その空賊というのがとても強い人たちで、飛空挺はやられるがままだったそうだ。
そこで、貨物艇は冒険者を無賃で乗せるサービスを開始したそうだ。
さらに船底を目立つ赤色にすることにより、町から離れていても冒険者が見つけられるようになったそうだ。
この工夫のお陰で空賊は全員捕まったのだ。
だから今では他の飛空艇と貨物艇の区別程度の意味しかない。
しばらくしてから、チェロキーを山脈の方角へと向ける。
セトラスは大体このあたりなのだ。
「さて、そろそろ山越えだ」
山の気流は場所によって急に変わる。
風向きに注意し舵に集中しないとあっという間に舵が利かなくなる。
山と山の間の隙間を通るようにして進む。
「ん、今日は安定してるね・・・お、さっきの飛空艇」
セトラスの西の平原に停泊している飛空挺、いままさに出航するところであった。
何を気にするわけでもなく、音を立てずに飛空艇は飛び立つ。
「うーん・・・・のどかだねぇ」
この自由気ままなところ、やっぱりいいっす。
村の周りを一周するようにして高度を落とし、さきほど飛空艇のあった場所に着陸する。
アスファルトやコンクリートで舗装されている訳でもないのでちょっと揺れる。
でもこの強すぎない揺れがなんかすこし気持ちいい。
「よっと・・・誰もいないのかな?」
村は非常に静かであった、誰も住んでいないかのように。
「あれー・・・・」
あっちこっち見ながら村を歩く。
ところどころについさっきまで人が居た痕跡がある。
どうやら皆どこかに集まっているようだ。
どうしたものか・・・と考えていると村の広場に出た。
その広場に村人全員が集結していた。
「おわっ」
あまりの光景に驚いてしまった・・・。
全員が同じ方向を見ているのだ。
「あ、クロミさんじゃない」
一番最初に気がついたのはオルファさんだった。
この人とは何度か面識がある。
「ど、ども・・・何かあったの?」
「うーん、ちょっと見送り」
「ああ・・・それで、ホールンさんって人居る?」
ホールンさん、考古学者らしい。
何に使うのかは知る由も無いが、もってきたものは全部この人宛だ。
「あぁ、ホールンさんなら待ってれば時間通りに来ると思うよ」
「そうなんだ、わかった!ありがとうね」
広場から離れ、西の平原に戻る。
「いま何時ぐらいだろ・・・あちゃ~・・・こういうときに限って時計もってないんだもんなぁ・・・」
とりあえず走って戻る、坂道だらけのこの村で走るのは結構辛い。
元の場所に戻ると小太りの男性がイライラした様子で立っている。
「あ、あの!遅れて申し訳ありません!」
「あー、いいよもう!こっちは物さえ渡して貰えればいいんだから」
なんというか怒っているんだかそうじゃないんだか……。
「ほれ、早くしないか」
「すいません!」
ガラガラガラ....
台車を引きホールンさんの家まで銀と資料を運ぶ。
ホールンさんにも、もう一台の台車で手伝ってもらっている。
「すいませんねー」
「気にするな、一人じゃ無理なのは最初からわかってる」
見た目は怖いけどやっぱなんだかいい人なのかも。
「所で……こんな村で何を研究なさってるのですか?」
「あー? あぁ、この村の近辺にな、大昔の遺跡があるんだよ」
そういえばそんな話をミヤさんから聞いたことがある。
「ゴーレムの住まう遺跡があるとか聞きましたがそれですか?」
「そうだ」
そっけない返事が返ってきた。
会話が続かないこの空気は苦手だ……。
「ついたぞ」
「え?あ、はい!」
どうやらそんなには離れていなかったようだ。
「そこの入り口の隅にでも置いといてくれればいい」
「はい!」
そういい残しホールンさんは自分の台車を引き、研究室の中に入っていった。
「よい、しょ」
小分けしてあるとはいえ、やっぱり原石とかの箱は重い。
腕がパンパンになってしまう。
「おい、茶でも飲んでくか? 麦茶しかねぇけどよ」
「あ、いただきますー」
お言葉に甘えて研究室に上がらせてもらう。
なかにはゴーレムについての飼料や、歴史に関する資料があった。
そのほかはもう意味がわからない物ばかりだ。
「しっかしよー、今日は格段にあちぃから喉渇いただろ」コトッ
「はいー、もうからっからですよ~」
しばらくの間、麦茶を飲みながらホールンさんと世間話をした。
「しっかしよー、おめぇ本当におんなっぽくねぇな」
「いまさらですよー!この業界女性いませんしー」
「はっはっは、そりゃそうだ!大抵は力仕事だしな!」
ボーンボーンボーン
壁がけ時計が鳴り出した。
「いっけない!もうこんな時間!」
「ああ、風が出るんだってな」
日が傾き山の温度がかわるとこの地形特有の強い風が吹く。
チェロキーはこの山の谷間しか飛べない為、風が直撃してしまう。
「では失礼しました!」
「また頼むぜ」
「……あ、このあたりにお土産やさんとかありますか? うちの人が毎回楽しみにしているので……」エヘヘ...
ミヤさんは食い物目当てだけどね。
「そうか、じゃ、これもってけ」
「おわぁ……」
水晶と黒水晶が幾何学的な形で複雑に組合わさっている置物だ。
非常に綺麗で見とれてしまう。
「ちょっとした空き時間に趣味で作ったんだ。 いい土産にはなるだろ」
「はい!ありがとうございます!では!」
挨拶を済ませ急ぎ足で帰る。
さすがにちょっと時間がヤバイ。
(え~っと……食べ物食べ物……)
「あ?クロミちゃんお帰りになるの?」
「いいところにオルファさんっ何か食べ物ない!?」
「えっ食べ物? おなかすいてるならこれあげるけど」
小さい紙袋をを頂いた。
軽い、何が入っているのだろうか。
というか売っている店を聞きたかったのだが……。
「そうじゃないけどいいやありがとう! またね!」
「あ、うん、またね」
手短に別れを済ませ、チェロキーの元へ戻る。
「やばいやばい時間が無いよぉ~」
即効でエンジンを始動させる。
下り坂になっているので飛びやすいのが助かる。
「うん、まだ大丈夫そう、いける!」
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ブロロロロロロロ
「クロちんお帰りー」
「ただいまぁ~」
「あれー?お疲れだね」
「出るのが遅くなっちゃって風が出始めてて……」
谷は無事越えたものの山脈地帯は既に風が出ており余裕が無かった。
「ちょっと、お風呂はいってくる」
「で?」
「そこの紙袋」フラフラ...
なんだか限界、お風呂で寝ちゃうかも。
ガサゴソ...
「……ドーナツ?……一個だけ?」
クロミとチェロキー第三話完
最終更新:2011年10月14日 02:23