ここは砂漠の地下の地底国、そこの人里離れた場所にぽつりとある飛空場と商店。
「だれもこないねぇ」
冷えたカルピスを飲みつつ扇風機の風に煽られカウンターにうなだれる。
私はこういうのんびりとした時間が非常に好きなのだ。
「くーろちーん」
外から呼び声が聞こえる。
「あーにー」
たばこ売り用カウンターに肘を突き外に顔を向ける。
「配達だよー、これ」
「お、意外と重いね」
手渡されたのは黄色い小包だった。
中にはカーネリアンの原石がじゃらじゃらと入っていた。
「どの辺まで?レーシアあたり?」
「いやー、今日はチェロキーじゃなくてあれで行くの」
「・・・原チャリっすか」
「そう、呪い師のおばーちゃんとこまでねー」
「えー・・・」
呪い師のおばあさんはこの地底国には一人しか居ない。
悪い人ではないが私はあの独特の雰囲気が苦手なのである。
そう、呪い師だけあって不安定になりそうな置物が所狭しとあるのだ。
「ミヤさんが行ったらどうなのー」
「ぶはぁ」
「うわ、酒くさっ」
「あはははははー・・・えへっ」
「えへじゃない!」
飲酒運転させるわけにも行かず、仕方なく私が行くことになった。
地下の薄暗い田舎道、パパパパパパっと古ぼけたエンジン音を出しながらのんびりと走り抜ける。
1キロぐらい走っただろうか、人里はなれた場所に一軒の小屋が見えてきた。
「相変わらず不気味だなぁ・・・」
ここはたぶん地底国一暗い場所だと思う。
昼間だと言うのに照明がないと道が見辛いのだ。
小屋の前に原付を止めて、小屋の扉をコンコンッっとノックする。
「ジョリーおばーちゃーん」
「はいはい、いまいくよー」
年寄りの掠れた声が響く。
ギィィィっという音を立てて扉が開いた。
「おやおや、クロミちゃんかぇ、久しぶりだねぇ」
自分の耳が悪いのを気にしているのかは知らないがゆっくりと、そしてしっかりと喋る。
「ご無沙汰してますー」
「こんな暗いのによく来たねぇ、丁度パイを焼いたとこなんだよ、ささ、あがっておいき」
「あー、いいよいいよ、ミヤさんが待ってるんでテイクアウトで」
「そうかい、なら包んであげるから、そこのお菓子でも食べて待ってて頂戴」
結局あがりこむことになった。
なんか周囲の像や人形に見られているかのようで非常に落ち着かない。
出来ることなら今すぐにでもこの部屋を出たいものだ。
「わるいねぇ、おばあちゃん」
「いいのいいの、あの子の事だからどうせ酒のつまみに持って帰って来いって言ってるんでしょう?」
「ははは・・・まぁねぇ」
半分は当たっている。
ミヤさんは何処か行くたびに土産を要求するのだ。
それも食べ物限定で。
「あの子ももうお酒を飲む年頃なんだねぇ、時間が経つのははやいねぇ」
おばあちゃんはミヤさんや私が小さいころから孫娘のようにかわいがってくれている。
飛空機を買うまでは互いに近い場所に住んでいたからだ。
「あ、ところでね、ほら、この前通りすがりの冒険者さんがこんなものくれたんだよ」
おばあちゃんが取り出したのは今にも呪われそうな程の禍々しい気運を放つ傘であった。
私はこういうなんとなく危なさそうなものが非常に苦手なのだ。
だって見てるだけで呪われそうじゃん・・・。
「漆黒の傘っていってね、如何なる光も吸いこんじまうそれはそれは便利な傘なんだよ」
「光以外にもなんか大切なものが吸い込まれそうだけど・・・」
「そうかい? 私はこれ日傘にぴったりだとおもうんだけどねぇ」
おばあちゃんはうれしそうに閉じたり開いたりしている。
「部屋のなかだしあぶないよー」
「そうかいそうかい、ついうれしくてねぇ」
「そんなにはしゃぐ歳でもないでしょー、お菓子ご馳走様、そろそろ行くね」
カタっと音を起てて席を立った。
「あぁ、気をつけてかえるんだよー、ミヤちゃんにもよろしくねー」
「はーい、おばあちゃんも元気でねぇ」
「私はいつだって元気だよ、じゃあね」
手を振っておばあちゃんと別れる。
パイの風呂敷をメットケースに詰め込みエンジンを点火する。
来た道を辿り、ミヤさんが待つ飛空場へともどる。
「もどったよー」
「んぇあ」
「たく、もぉ、店のカウンターで寝ないのー」
「あー・・・・えへっ」
「えへじゃない!」
店の外にあるテーブルに風呂敷を広げ、小皿を二つ用意する。
「んー、よく寝たぁ」
「まだちょっと酔ってるでしょー」
「いやいや、本番はこれからだよ」
といい店の中からワインを持ってきた。
「クロちんもいっぱいどーお?」
「未成年!」
「あっはははははー」
ミヤさんは酔っているんだか酔ってないんだか良くわからない。
まぁ、酔ってようが覚めていようがあまり変わらないんだけどね・・・。
「やっぱりこのサクサク感がたまらないねぇ」
「そーだねー」
アップルパイをほお張りつつ紅茶を飲む。
今日も平和だとつくづく感じる。
だが私はこの平和がずっと続いて欲しい。
だってのんびりしていた方が好きなんだもの。
「あ、クロちーん」
「なにー」
「小包渡してくれた?」
「あ"」
「あ、じゃねーよー」
第二話 -完-
あとがき
クロミとチェロキーなのにチェロキーでばんねぇ!
なんということでしょう。
作者出て来い!
俺だ!
by蜂
最終更新:2011年03月15日 20:57