ニーム

 ニーム(Nîmes)は、フランス、ガール県の県庁所在都市。フランス最初のローマ都市が築かれたと言われることもある歴史ある都市で、市内には古代ローマ時代の遺跡群が残る。人口は14万人余り(2008年)。古称はネマウススないしコロニア・ネマウスス・アウグスタ(Colonia Nemausus Augusta)。

歴史

 ネマウススの名は、この地にあった神聖な泉(ないしその泉の精霊)の名に由来するという。その泉の周囲にケルト系住民のウォルカエ・アレコミキ人の集落が築かれ、広大な版図の24の城塞都市を従える首都として君臨していたというが、ローマ人の進出に際し、抵抗することなくその支配下に入ったという。
 いつローマの支配下に入ったのかには異説もあるが、一般にはアウグストゥス帝がローマ都市の建設者であり、彼がクレオパトラらを破ったアクティウムの海戦(前31年)に参加した退役兵たちが入植したという。当時の貨幣に鎖に繋がれたワニが描かれているのは、(アクティウムの海戦を経て属領にした)エジプトとナイル川の征服を象徴しているとされる(ニームの市章には、今なおワニの意匠を用いられている)。

 ドミティアヌス街道沿いという立地もあって、広大な街にはローマ建築が次々と築かれ、ガリアで最も栄えた町と言われた。世界遺産になっているポン・デュ・ガールは、このニームに給水するために築かれた水道橋である。

 中世にはゲルマン人やイスラーム信徒たちの侵攻を受けて荒廃した時期もあった。1185年にトゥールーズ伯領となったが、異端のカタリ派(アルビ派)を支持していた住民は1213年にアルビジョワ十字軍に屈し、1229年にはフランス王国に編入された。

 16世紀には南フランスにおけるプロテスタントの牙城となり、1567年にはカトリック信徒に対する大虐殺事件、ミシュラードの惨劇が起こった。宗教戦争期には荒廃を経験しているが、15世紀以来の伝統を持つニームの繊維産業は、18世紀には絹織物とサージ(梳毛織物)で知られた。ことにサージはコロンブスが帆布に使ったともいわれる名産品で、19世紀アメリカではドイツ系移民のレヴィ=シュトラウス(リーバイ=ストラウス)が、ジェノヴァ経由で輸出されていたサージを活用して鉱夫・開拓者向けのズボンを売り出した。ブルー・ド・ジェーヌ(Blue de Gênes, ジェノヴァの青布)は転訛してブルー・ジーンズ(Blue jeans)となり、「ニーム産の」(De Nîmes)は「デニム」の語源となった。

 現代のニームは、古代遺跡と現代アートが同居する美しい観光都市となっている。フランスが作成している世界遺産の暫定リストには、ニームの遺跡群が含まれている*1

遺跡

 ニームに残る古代遺跡の中でとくに有名なのは、以下の3件である。
  • 円形闘技場(Arènes)
    • 紀元1世紀末から2世紀初頭頃に建設された円形闘技場で、ガリアに築かれた20か所の中では9番目の規模に過ぎないが、保存状態のよさという点では世界一という評もある。
  • メゾン・カレ(Maison Carrée)
    • 直訳は「方形の家」。西暦5年に、アウグストゥスの孫に捧げられたとされる神殿で、ローマのアポロン神殿を模して築かれたという。この神殿もまた、保存状態の良さが特筆される。
  • 泉水公園(Jardin de la Fontaine)
    • フォンテーヌ庭園などとも訳される。現存する公園は18世紀に整備されたものだが、もともとこの場所に、市名の由来となった神聖な泉があったとされ、古代ローマ時代の遺跡群も残る。
    • その中でも有名なのがディアーヌ神殿(Temple de Diane, ディアナ神殿)だが、元々の使い道ははっきりしておらず、浴場だったという説もある。その建物は、中世には教会や修道士の住居に転用されていたというが、ユグノー戦争のあおりで1577年に破壊された。現在はその廃墟が残る。

ノストラダムス関連

 ノストラダムスの詩百篇集には、ニームのほか、古称のネマウススから派生した Nemans という形で登場する(マリニー・ローズは Nemans はネマウススの形容詞形 Nemausensis からと推測している)。なお、Nîmes の形容詞形 Nîmois(e)(s)は登場しない。



 このほか、1557年9月のガルドン川大氾濫の際に、ニームで埋もれていた古代遺跡や遺物が露出したことをモデルにしたのではないかと、実証主義的論者たちから指摘されている詩篇が存在する(第8巻28番第9巻9番第9巻12番など)。



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最終更新:2018年11月30日 01:07

*1 以上は『日本大百科全書』、『ブリタニカ国際大百科事典』小項目電子辞書版、『地球の熱き方 フランス2017-18』、『ミシュラングリーンガイド・プロヴァンス』および世界遺産センター公式サイトによる。