百詩篇第7巻43番ter

百詩篇第7巻>43番
17世紀にリヨンで追加された詩篇

原文

Lors qu'on verra les deux licornes1,
L'vne baissant, l'autre2 baissant3,
Monde au milieu, plier4 aux bornes
S'enfuira5 le neueu riant.

異文

(1) licornes : licorneg 1650Ri
(2) l'autre : lautre 1653
(3) baissant 1627 : abaissant T.A.Eds.
(4) plier : pilier 1630Ma 1650Le 1650Ri 1668, pillier 1644, piller 1653 1665
(5) S'enfuira : S'en fuira 1650Le 1650Ri 1668A

(注記)上記原文の底本は1627である。比較には1630Ma, 1644, 1650Le, 1650Ri, 1653, 1665, 1668のみを用いている。

校訂

 1627の2行目は明らかに誤植。「一方は~、他方は~」という表現なのに双方の形容詞が同じというのはおかしい。
 4行目は明らかに10音節に満たないが、単語が欠落してしまったというより、音節に注意を払わず偽作されたからとも考えられる。

日本語訳

人々は二頭の一角獣を見るであろう。
そのうち一頭は傾いていて、もう一頭は品位を落としている。
そのとき、中心に人々、境界に柱。
陽気な甥がそこから逃げ出すだろう。

訳について

 前半2行を散文的に正確に訳すなら「一頭は傾いていて、もう一頭は品位を落としている二頭の一角獣を人々が見るであろう時に」となる。各行と訳語を対応させるため、3行目に「その時」を付け加える形で調整している。

 3行目 monde は普通に訳せば「世界」だが、「人々」の意味もある。アナトール・ル・ペルチエは前者で訳し、ピーター・ラメジャラーは後者で訳している*1。ここでは後者を取った。
plier は pilier として訳した。

信奉者側の見解

 この詩を解釈している論者はほとんど見られない。

 アナトール・ル・ペルチエは「甥」をナポレオン3世と解釈することが多いが、ここでもそう解釈している。彼は2頭の一角獣をピエモンテとナポリと解釈し、1859年のチューリヒ条約によってナポレオン3世が北イタリアから撤退したことの予言としている*2

 オッタービオ・チェーザレ・ラモッティは、borne をボルネオと解釈するなど、かなり特殊な読み方をした上で、アメリカとイギリスが核実験などを繰り返したことと解釈した*3

同時代的な視点

 この詩は17世紀に唐突に現れたものであり、本物と見なせる根拠がない。初めて登場した時期は1610年代、1627年、1643年頃のいずれかである(百詩篇第7巻44番も参照のこと)。

 ロベール・ブナズラは2頭の一角獣がフランス王とローマ教皇を指している可能性を示している*4。この読み方が正しければ、これを作成したのはフランス王権に批判的なプロテスタントだろう。

 その場合、この詩が1627年に登場したと考えると辻褄をあわせやすい。この年には、事実上の「独立都市共和国」*5となっていたプロテスタントの牙城ラ・ロッシェル(未作成)が、絶対王政の確立を進めていたリシュリューによって攻囲されたからである。この攻囲戦では城塞都市の周りに壁をめぐらし、兵糧を断つ作戦がとられた。ラ・ロッシェル市民は約2万人の餓死者を出しながら1年以上持ちこたえたが、最終的には敗北した。
 詩の情景は大体一致しているように見える。「陽気な甥」の存在が不明瞭だが、それについては、パトリス・ギナールが重要な指摘をしている。

 ギナールは、イリニの領主ジュスチニアン・クロペ(Justinien Croppet, seigneur d'Irigny et conseiller du Roi)が、リヨンの財務官ポメー(Monsieur de Pomay, trésorier des finances à Lyon et conseiller du Roi)に送った書簡(1627年12月17日付)の中にも、「甥」をキーワードとするノストラダムス作と称する詩が登場することを指摘した*6

L'an tournoyant trois fois sept et puis six
L'un des Capetz baisera la pucelle
Encor au bout se réduira la belle
A son nepveu marqué de sept et six.

七が三度巡って六を足した年に
カペーの一人は乙女を引きずりおろすだろう*7
とはいえ美女は結局のところたどり着くだろう、
七と六が印された甥のところに。

 ギナールの謎解きによれば、1行目は1627年を指す。乙女はラ・ロッシェルだという。「七と六が印された甥」は、ルイ13世(7+6=13)で、甥と表現されているのは、ヴァロワの正嫡(フランソワ2世、シャルル9世、アンリ3世)から見れば、ルイ13世が甥にあたるからだという(ルイの父アンリ4世はマルグリット・ド・ヴァロワと結婚していたので、アンリ3世たちから見れば義理の兄弟になる)。
 ギナールは二頭の一角獣をフランス、イギリスと解釈したが、いずれにしても、ラ・ロッシェル攻囲に関連し、攻囲側(王権)に批判的な立場から偽作されたと見るのが妥当だろう。


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百詩篇 第7巻
最終更新:2014年08月28日 20:14

*1 Lemesurier [1997/1999]

*2 Le Pelletier [1867a] p.276

*3 ラモッティ [1999] p.90-92

*4 Benazra [1990] p.188

*5 深沢克己『海港と文明・近世フランスの港町』山川出版社、pp.104,106

*6 Patrice Guinard, Les éditions lyonnaises imprimées vers 1627

*7 baiser は「口づけする」の意味だが、文脈からして baisser の誤記と見なした。