「連邦軍独立治安維持部隊より、ソーマ・ピーリス中尉をお迎えに参りました。
第5モビルスーツ中隊所属、アンドレイ・スミルノフ少尉です」
「ア、アンドレイ…。何時アロウズに?」
「あなたにお答えする義務はありません。父さん、いや…“セルゲイ・スミルノフ大佐”」
「上層部の命令は絶対です」
「貴官は?」
「アンドレイ・スミルノフ。階級は少尉です」
「“スミルノフ”…?もしやスミルノフ大佐の?」
「はい、息子です」
「この男ですか?4年間この収容所に拘束されているガンダムのパイロットというのは…」
「GNドライヴ搭載型のモビルアーマーまで開発しているとは…」
「噂では、多額の寄付をした女性がいるそうですが……」
「物好きな者がいる……」
「この様な作戦を……!大佐がこの転属に反対していた理由が…ようやく分かった……」
「中尉は誤解しています。スミルノフ大佐は…任務の為なら、肉親すら見捨てられる男ですよ」
「肉親を?」
「あの男は母を見殺しにしたんです……」
「ッ……!」
「中尉、此処にお出ででしたか。ブリーフィングの時間です。……ッ!君は…?」
「ルイス・ハレヴィ准尉です!」
「……」
「少尉、返礼を」
「あっ、あぁ…。アンドレイ・スミルノフ少尉です」
「……」
「(……乙女だ……!)」
「小隊長!ハレヴィ准尉が敵母艦に!」
「何!?」
「自分がサポートします!」
「先行し過ぎだ!准尉、距離を取る!」
「しかし!」
「命令だ!」
「VIPに知り合いがいるのか?」
「…少し…縁があって……。ッ?何か?」
「えっ?い、いや、何も……」
「折角の休暇だ、もっと楽しんでくればいい」
「そういう事に興味ありません」
「准尉、君は……」
「准尉、具合はどうか?」
「……もう問題ありません。御心配をお掛けしました」
「……」
「……私の体について…お聞きにならないのですか?」
「聞いて欲しいか?」
「いえ……!お気遣い…感謝します…」
「部隊に戻ったら、ガンダム追撃作戦が始まる。今のうちに休んでおけ」
「ハッ!」
「ルイス・ハレヴィ……。
4年前…ガンダムによる攻撃で、両親や親族全てを失い、自らも…毒性を持つGN粒子を浴び、細胞障害を患う……。
復讐か……。あの若さで戦場に出る理由…可憐なドレスこそ似合う少女が……」
「またも新型か…。アロウズにはどれ程の規模と予算が……?」
「仲間の元へ行かせん!」
「ジニン大尉は昇進して中佐となられた」
「……そうですか……」
「戦いの最中…声が聞こえた。准尉、あれは何だ?」
「……分かりません」
「敵と交信していたんじゃないのか?」
「ッ…!違います」
「だが…敵の中に准尉の知り合いがいる。親しい仲の様に思えた…」
「…ッ!違います!奴らは家族の仇です!この世界に混乱を招く者です!だから私は!!―――何を?」
「華奢な腕だ……。パイロットのものとは思えん……。君は…アロウズにいるべきではない」
「地上に降りた途端、また作戦か…」
「それが我々の使命ですから」
「……准尉、君は女性らしい振舞いをしたいとは思わないのか?」
「思いません」
「…沙慈という人の前でも?」
「過去は捨てました」
「だったら、君は復讐心も捨てた事に――」
「失礼します」
「反乱分子の首謀者と知り合い?」
「その人は父の友人だ。子供の頃、軍隊の正しい在り方…なんて理想をよく聞かされた…。
なのに反乱分子となり、6万もの市民を人質にして立て籠もるだなんて……!」
「……反乱の理由など、関係ありません。我々は…アロウズとして、反政府勢力を叩くだけです。平和を勝ち取る為に……」
「ああ。勿論だ、准尉……!」
「まさか、本当に士官学校に入学するとは……」
「上層部に口添えをして頂き、ありがとうございました。父の力を借りたくはなかったので……」
「軍に入ったのは…親父への当て付けか?」
「ッ…!」
「あまり親父を恨むな。あれは不幸な出来事だった…」
「そんな簡単な言葉で、片付けないで下さい!父は…母を見殺しにしたんです!それはあなたも同じです……!」
「ッ……!」
「私は父の様な生き方はしません!それを証明する為…軍人になる事を選んだんです!」
「……それでホリーが喜ぶと本気で思っているのか!?」
「思います。母は誰よりも…平和を願っていたのですから……」
「大佐……。生半可な決意では平和は訪れない…。今はアロウズの力が必要だという事が、何故分からないんですか?」
「母の遺体は見つからなかった……。それ以降、父とまともに話した事は無い……。父は軍規を守り…母を殺したんだ……!」
「私は、命を見捨てない。父と違う生き方をする……!」
「アロウズ?」
「あぁ…ッ!その声…ハーキュリー大佐!?」
「ア、アンドレイ…!?」
「アンタは…何をやってんだ?!」
「この惨状は…!お前達が引き起こしたものだ!!」
「き、貴様……!」
「その声…!」
「ア、アンドレイ!?」
「父さん…?まさか、反乱分子に……!何を……何をしてるんですかアンタは?!」
「ま、待て…!」
「軍規を守って母さんを殺したくせに!クーデターに!!加担するなんて!!!」
「待つんだ、アンドレイ!」
「軍人の風上にもぉッ!!!」
「母さんの!!!」
「アンドレイ……」
「仇ぃぃぃぃぃッッッ!!!!!」
「アンドレイ……すまなかった……」
「ッ!」
「心を閉ざしたお前に……どう接すれば良いか……。努力を怠っていた……」
「今更そんな事!」
「昇進されて、中尉になられたそうですね」
「どうやら、ブレイク・ピラー事件で私が撃墜した機体が、クーデターの首謀者のものであった事が判明したらしい。
それが上層部に認められた様だ」
「おめでとうございます!中尉…」
「まさか、君に祝辞を貰えるとは…」
「実の父親を殺して昇進とは……」
「んっ?」
「流石はアロウズの精鋭…頼もしい限りね」
「どうしてそれを……!?」
「本当なんですか、中尉!?父親を殺したって……」
「……父は反乱分子に加担していた。私は…軍務を全うしたまでだ…!」
「お父様と知っていて討ったんですか!?何故です!?」
「平和の為だ!紛争を無くしたいと願う人々の為だ!軍を離反し、政権を脅かす者は処断されなければならない!
せめて…肉親の手で葬ろうと考えたのは、私の情けだよ…」
「そんな…そんな事……!」
「同じ状況になれば、君はどうする?」
「ッ!それは…」
「他人の命は奪えても、肉親は出来ないというのか!?」
「……」
「准尉、我々は理想の為に戦っている。――その為には、決断をしなければならない時がある……。君にも、そのうち訪れる……」
「ようやくアヘッドに乗れるか…。フッ……」
「母さん……」
「あの光は…。また幻聴が……!」
「准尉を…離せぇッ!!」
「奇怪な幻術で、准尉を惑わして!」
「准尉は渡さん!」
「何故だ?何故大佐を殺した!?」
「ピーリス中尉?何故生きて?!」
「答えろ!」
「……あなたも…裏切り者かぁッ!!」
「貴様が言う台詞かぁッ?!」
「ピーリス中尉がソレスタルビーイングに……!父は…どれ程前から軍を裏切っていたというのだ……!?」
「准尉、想いが断ち切れないのか……。ならば私が果たそう。君が望む事を…君の願いを……!」
「ルイス・ハレヴィ……」
「沙慈とかいう男!貴様がいる所為で、准尉は!!」
「また声?ピーリス中尉か?」
「……私はあなたが許せない。でも、あなたを憎み続けて、恨みを晴らしたとしても…きっと大佐は喜ばない…」
「黙れ!この裏切り者が!」
「……あなたはどうして…実の親である大佐を?」
「あの男も軍を裏切った!報いを受けて当然の事をした!!恒久和平を乱す行為だ!」
「……大佐はそんな事をする人じゃないわ…」
「違う!!アイツは母さんを見殺しにする様な奴だ!信じられるか!?」
「……どうして、分かり合おうとしなかったの?」
「……アイツは…あの男は何も言ってくれなかった!言い訳も!謝罪も!僕の気持ちなんて知ろうともしなかった!
だから殺したんだ!!この手で!!」
「…自分の事を分かって欲しいなら、何故大佐の事を分かってあげようとしなかったの?」
「ッ……!」
「きっと大佐は……あなたの事を想ってくれてた筈よ……」
「ッ……!ならどうしてあの時何も言ってくれなかったんだ……!?言ってくれなきゃ……!何も分からないじゃないか!!言ってくれなきゃ……!
ウウウゥゥゥゥゥゥゥッ…アアアアアァァァァァァァ……ッッッ!!!!!」
「私は軍人として生きる。市民を守り、平和を脅かす者と戦う。父と母が目指した…軍人に……!」
「船が大き過ぎる!」
「諦めるな!」
「何ていう性能…!」
「これが……イノベイター専用機の力か……!」
「戦略差はざっと10000対1、状況は最悪だ……。しかし、守ってみせる……!父と母の求めたものを!!」
「行かせるかァッ!!」
「行かせはせんッ!!」
「私は市民を守る、連邦軍の軍人だ!!!」