AΩ 超空想科学怪奇譚

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AΩ 超空想科学怪奇譚 - (2021/05/16 (日) 21:11:14) の編集履歴(バックアップ)


登録日:2015/08/20 (木) 14:16:36
更新日:2023/12/27 Wed 18:42:22
所要時間:約 7 分で読めます






ユートピアは決して実現しない。

一人一人の理想が違う以上、必ず不満分子は残る。








『ΑΩ 超空想科学怪奇譚』とは角川ホラー文庫から刊行されているSF小説。日本SF大賞の候補作になった。
元々は『ΑΩ』だけのタイトルだったが、文庫化に当たって改題された。執筆段階のタイトルは『虚空の救世主』であった。
著者は『玩具修理者』の小林泰三
カバーイラストは藤原ヨウコウ(現在はフジワラヨウコウ・森山由海・藤原ヨウコウの名義分けをしている)

本作について端的に表すなら『リアル系クトゥルー神話ウルトラマン』だろう。
初代ウルトラマンを中心に様々なSF作品へのオマージュが組み込まれている。

なお後に小林氏は『ウルトラマンギンガS』の外伝小説『マウンテンピーナッツ』と、
初代ウルトラマンの後日談を描いた長編連載小説『ウルトラマンF』を手掛ける事になる。

ベリアル陛下の最終形態であるウルトラマンベリアルアトロシアスは当初この作品にちなんで「ウルトラマンベリアルアルファオメガ」と名付けられる案があった模様。


■あらすじ

妻と和解するために北海道行きの飛行機に乗った主人公・諸星隼人。
しかし旅客機は突然強烈な『』に襲われ、半ば溶解しながら地上へ激突。
乗員・乗客全滅という地獄絵図の中、諸星はただ独り、腕一本の状態から蘇生する。

一方、『光』の正体――遠い宇宙の彼方から『影』を追ってきた宇宙人『ガ』は焦っていた。
『影』を取り逃したばかりか、不慮の事故によって現地住民を虐殺してしまったのだから。
しかも高圧プラズマ生命体であるガは地球という星の環境に適応する事が出来なかった。
自身が生き残るために、ガは諸星の遺体に入り込んで体内から再生を試み、混乱する隼人をよそに『影』を殲滅するべく戦いを開始する。

そして地球へとやって来た『影』は現地動物を吸収し、増殖を始め――

やがて深夜の街に巨大な『影』が現れた時、隼人の肉体は「白い巨人」へと変貌を遂げていた!


■登場人物

  • 諸星隼人
この作品の主人公。32歳で(一応)童話作家の駆け出し。視力1.0。
長年童話作家に憧れており、去年自作の『ロケット少年ピコリン』が『経緯社メルフェン賞』を受賞した事で夢を叶えるが、浮かれた諸星は退職し文筆業に専念しようとしてしまい、
反対した妻の沙織と別居状態に陥る。
さらに沙織は出張のため北海道に行ってしまい、諸星は彼女を説得すべく人生初の飛行機に乗って北海道へ向かった。
しかしその矢先、飛行機は『ガ』と衝突してしまう……。

他の乗員・乗客と共に死亡しながらたった独り蘇生した諸星は、「白い巨人」となって怪物と戦う悪夢に苛まれ、やがて体内の同居人に気づく。
未知の生命体・ガと共に、彼は『影』との戦いに巻き込まれてしまっていたのだ。
戦いの中でガと交流を重ね、妻を守るため、諸星は満身創痍になりながらも奮闘を続けるが……。

即断即決で行動力に富む……と言うより、きちんと下調べをしたり他人のアドバイスを聞いたりせずに、自分にとって都合のいい思い込みで動いてしまうタイプ。
前述の妻との別居状態を招いたのも、取材旅行での失敗も、そして何より終盤での文字通りの致命的な判断ミスも、全てその悪癖が招いたものだった。

名前の由来は明らかにモロボシ・ダン
ちなみに隼人は「ハヤタ」と当て字ではなく、普通に「ハヤト」と読む。


『影』という敵を追って地球へやって来たプラズマ生命体。
とある仕事に失敗してしまった結果、種族としての閑職に追いやられ、
そこで出会った妻さえも事故で失い、もはや完全な落伍者として名前さえ剥奪されてしまった。
しかし未知の侵略者たる『影』と接触し、かろうじて生き延びた事をきっかけとし、
『一族』の長老である『奴隷監督官』から『影』討伐の任務を与えられる。
挽回をかけて『影』を追跡していたものの、未知の惑星に降り立った『影』の策略にはまり、うっかり現地住民たちを殺してしまう……。

プラズマ生命体であるガは地球の環境では生きていく事が出来ない。
そこで諸星の死体を乗っ取り再構成させる事で生き返らせ、自身も共存していく事になる。
あくまで任務が最優先であり、自分の命を守るためなら一般人を見殺しにしたり盾にしたりもする。
一方で(非人間的なものではあるが)感情がないわけではなく、諸星とは似通った境遇という事もあって交流を深める。

空を飛ぶ時は青い光(多分チェレンコフ放射光)になる。
真の名前は『玩具修理者』。


  • 諸星沙織
諸星の妻。旦那が童話作家になると言って勝手に会社を辞めてしまった事に激怒し、別居していた。
ただ現在でも愛していないというわけではなく、飛行機事故の話を聞いて慌てて遺体置場まで来たものの、
あまりにも無惨な状態だったせいか、旦那の死体を見て思わず「物体」と捉えてしまう。
しかし警察に解剖を許可した所で諸星が生き返ったため、彼に対し罪悪感を覚える。
そのため、死者の蘇生を唄う新興宗教『アルファ・オメガ』にのめり込んでいくのだが……。


  • 千秋
沙織の妹で諸星の義妹。現役の女子高生。視力は2.0。
冷静な沙織と比べ年相応に活発で好奇心も旺盛。
どうも諸星に対して好意を抱いているようで、ヒロインの如く活躍するが……?


  • 唐松
飛行機事故の際に検視に来た警察官。
諸星に蘇生に疑問を抱き調査していくうちに恐るべき真実へと到達する。
後に隼人と再会し、妻を救おうする彼と行動を共にするが、幸運とも不幸とも言える結末を迎える。


  • ジーザス西川
新興宗教『アルファ・オメガ』の教祖……みたいな人。「復活したキリスト」を自称する。
祖父は杉沢村で恐竜(正確には大型の爬虫類らしい)の化石を発見した西川輝介。
西川自身は真面目にバンド活動(という名の布教活動)をしているだけだったのだが、
『影』に取り憑かれ「神」あるいは「救世主」として力を揮うようになる……。


  • マイケル黒田
杉沢村で本屋を経営している一筋縄ではいかない爺さん。
宗教団体には興味を持っていなかったが、『影』と『白い巨人(ガ)』の戦いを目撃した事で宗教に目覚める。
白い巨人の事を天使と崇めている。
レプリカントになってからは筋骨隆々となり、三つの獣の頭部と四本の腕をもつ悪魔めいた姿から、さらに白い巨人を真似た形態に二段階変身する。
レプリカントとして特に強い力を持つ『六人の使徒』の一人。


  • リチャード青木
先見の明がある『アルファ・オメガ』の信者。
『影』によってレプリカントになって以降は常にブリッジをしており、腹の部分に普通の頭部がついている。
この頭部に対応する腕が脇から生えている上、さらに肩の部分には角と5つの目がついた頭部がある。
意外と強いが、『六人の使徒』ではない。敗北して以降はガの操り人形にされてしまった。


  • メアリー新川
教団施設で諸星が対決した『アルファ・オメガ』の女性信者。『六人の使徒』の一人。
鎧と剣で武装した巨大なケンタウロスを思わせる姿形をしており、頭部に当たる部分からメアリーの上半身が生えている。
知性と狂信と武装を兼ね備えた強敵だったが、諸星が超音速で射出した拳の衝撃波で胴体を消し飛ばされ死亡。


  • ロバート萩原
聖なる一角獣の姿を与えられたと自称する『アルファ・オメガ』の信者。『六人の使徒』の一人。
しかし、ガからは「犀のように見える」と言われており、隼人からも「あんたは紛れも無く犀だよ」と断言されてしまった。
どうやらレプリカント化の際に萩原の持っていた一角獣のイメージが貧困すぎたか、犀と融合したのに一角獣と思い込もうとしているらしい。
怪力を持つ半人半獣の形態に変身することも可能であり、その姿と変形プロセスは某ビースト戦士と酷似する。


  • アラン小山内
『アルファ・オメガ』の信奉者。『六人の使徒』の一人。
可塑性の肉体を持ち、諸星に変装して唐松に近づき暗殺を試みるも、訝しんだ唐松の誘導尋問に引っかかり、拳銃で頭部を撃ち抜かれて死亡する。


  • デビッド西谷
『アルファ・オメガ』の信奉者。『六人の使徒』の一人。
小柄な体躯で、蝙蝠や翼竜を思わせる両腕を持ち、飛行能力を生かした高速のヒットアンドアウェイ戦法を仕掛けて来る。
諸星が囮になり、唐松の銃撃で片腕をもがれ、そのまま諸星にめった刺しにされて死亡。


  • エリザベス町田
『アルファ・オメガ』の信奉者。『六人の使徒』の一人。
まだ十代半ばの少女。ピアノ線を思わせる極めて細く鋭利な尻尾を持ち、これを高速で振り回すことによる斬撃や、絡みつかせての捕縛など、強力かつ豊富な攻撃手段を持つ。
人質として諸星が連れて来たデビッド西谷が唐松に飛び掛かった際、諸星が来たと勘違いして反射的に攻撃、同士討ちを起こしてしまい、その隙をつかれて射殺された。


  • 老人
夫婦揃って『影』によってレプリカントにされてしまった哀れな老人。
ただ複製されただけでなく、妻と融合されてしまい、妻の顔が臀部になり、おまけに口が肛門に該当してしまった。
妻を苦しますわけにはいかず、を漏らさないように生活していた。
しかし我慢が限界に近づいていたため、諸星に自殺用のを譲ってもらう。


恐竜の化石が発見された事で有名な杉沢村で最近話題の、湖にいる恐竜。
水深平均10mの湖のため、村の人間にどこに住んでいるのか疑問に思われている。
2頭の首を持つ全長50~100mの、恐竜と言うよりかは怪獣と言った方が正しい巨体の持ち主。
その正体は『影』によって生み出されたレプリカント。
恐竜の化石か、人々の記憶から生み出されたと推測されている。


■用語

  • 白い巨人
諸星がガの力によって変身した、全長約4mの巨大生物。
諸星は「超人」と呼んでいる。
戦闘に不必要な器官は退化しており、色素がないため銀に近い色白。皮膚は分厚く半端な攻撃は通用しない。
眼の周囲は眼球を守るためにメッシュ状のゴーグルで覆われていて、五感は人間の一万倍になる。
速度は自動車以上、ジャンプ力は数十mという驚異的な力を誇る。主な武器は両腕に展開する鋭利なブレード。
必殺技は拳をプラズマ化して撃ち出すというもの。威力はTNT火薬1400トン分に匹敵し、湖を一瞬で蒸発させる。
変身している間は、隼人の意思ではなく完全にガの意思で動いている。
変身方法はクウガ方式で、諸星と一体化しているガが肉体を再構成して変身する。
この形態での戦闘は人間に耐えられるものではなく、変身するたびに諸星の細胞は崩壊していく。
そのため数分間しか活動出来ない


  • 『一族』
ガが所属するプラズマ生命体の種族。
真空と磁場と電磁体(プラズマ)からなる世界に住んでおり、生息する周辺では最強の種族。
『交接』と呼ばれる特殊なコミュニケーション方法を持つ。これは人間で例えるなら会話と性交が一緒になったようなもの。
『一族』は交接をする事で意思疎通は勿論、自身のデータを相手に渡したり、相手のデータを取り込んだりする事が出来る。
交接をすれば優秀な個体の情報で自身を強化出来るし、何よりも種族全体に『自分』を残せる。
が、これは裏を返せば劣っている個体の情報が種族全体に広がる事をも意味するため、劣っている個体は交接する機会が少ない。
一部は自分を残すべく無理やり交接しようとするが、種全体より個を選んだ時点で自分の劣等性を示した事になり罪人と見なされる。
ガにくだされた名前の剥奪という刑罰は、彼の交接を認めないという極めて不名誉な処置であった。

未知の種族と出会うと観測して生態を調べてから仲良くしようとするし、無闇に犠牲を及ぼす事を厭う。
文明が遅れていれば長い年月をかけてその種族の進化を観測し、観測の結果無害なら放置、有害なら殲滅する。
ウルトラシリーズで例えるなら過激な文明監視官だろうか。


  • 電気龍
内部小領域に生息する知的生命体。『一族』と交渉している。
電気龍の身体は薄い磁気壁に流れる電気からなっており、
彼らはそれを認識できないため、自分たちの事を『二次元生命体』と認識している。
交渉は身分の高い者がするという文化を持っているが、交渉に関する文化の違いが悲劇をもたらす……。


  • 『影』
影の粒子で構成されている知的生命体。
『一族』が一億年もの間観測しても未だコミュニケーションが取れない存在であり、
『一族』は分かり合うのは不可能という結論を出している。
さらに接触した『一族』が『影』に侵食され情報が汚染される事も発覚し、極めて危険視されていた。
物質世界に干渉することも干渉されることも出来ないため、機械を造り出し、何かをしようとするが……。


  • アルファ・オメガ
ジーザス西川がリーダーを務めるロックバンド。宗教団体ではない。
傍から見ると宗教団体そのものだが、「宗教は人が作ったもので自分たちは神の声に従っているだけ」だから宗教ではないらしい。
バンドとしては優れた団体であり、10曲連続でメガヒットを記録している。もちろんファン(信者)も多い。
彼らは諸星が生き返った事実を知り、
「最初に復活するのはイエス・キリストである。しかし別の人が生き返った。という事は、キリストはすでに復活しているのでは?」
と考え始めた。
そして西川こそ復活したキリストに他ならないとも……。


  • レプリカント
『影』によって複製された存在。
人類からは「人間もどき」とも呼ばれるが、実際には他の地球生物はおろか『一族』のようなプラズマ生命体すらも複製されてしまう。
『影』はオリジナルを分解・解析し、単純に複製するだけではなくオリジナルの願望を反映したレプリカントを生成する。
ただし、分解されたオリジナルは死亡するうえ、保持している記憶はよくて分解される前の数日間だけ、更に欠陥も数多く持っている。
(たとえば上半身は人間なのに下半身は触手だけの体になっていたり、数日間しか生命活動が維持できなかったり)
しかし、数日間とはいえ人としての記憶と意思を持っているため、自分は純粋な人だと言い張るし、
それ故に変化してしまった自分の体に驚きパニック状態になったり、凶暴化して人を襲う事もある。
初期に取り込まれたアルファ・オメガの信者たちは、黙示録に記されたハルマゲドンを実行するための聖戦を始めてしまう。
彼らのレプリカントは聖書に記された天使や悪魔の能力を反映した特殊能力を持っており、非常に危険。
さらに無数のレプリカントが融合して巨大化した怪獣のような個体もいる。

レプリカント化した生命体が『影』の意志を反映してガや隼人を襲うこともあるが、
『影』が何を目的としてレプリカントを作り出すのかは不明であり、人類や『一族』を侵略する目的はないらしい。
ガは「願望を具現化する能力を持った『影』は人間達が待ち望んできた『神』なのではないか」とも語っている。








追記・修正は交接を断られた方がお願いします。

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