登録日:2011/07/27(水) 22:36:44
更新日:2024/09/22 Sun 02:46:23
所要時間:約 5 分で読めます
ライフリングとは銃身内に刻まれた(切られた)溝のこと。
元々はライフルと呼ばれていたがが、いつの間にか「ライフルを刻んだ銃身の長い銃」を「
ライフル」と呼ぶようになったので溝自体は「ライフリング」と呼ぶようになった。
なお、この「ライフリング」も本来は溝を施す工程を表す言葉だったが、溝そのものものを指す言葉になった。
昔は工作機械で一挺ごとに削っていたが、最近は銃身を芯金(マンドレル)に打ち付けて大量生産するコールドハンマー式が一般的。
ボタン式やブリーチ式もある。
○目的と効果
わざわざ溝を掘るという工程を施すのには訳がある。
銃身内で加速される弾丸(
弾薬(カートリッジ)ではない)に旋回運動を与え、ジャイロ効果により弾軸の安定を図り、直進性を高めるのが目的で、有効射程と命中精度が向上する。
ラグビーボールが真っ直ぐ飛んだり、コマが自立してられるのと同じ原理となる。
○歴史
15世紀の終わりには発明され、1740年頃には数学者のロビンズにより数学的証明が成される。
だが、製作費が高い、装弾が面倒といった問題からすぐに普及することはなかった。
19世紀半ば、イギリス人のホイットワースが世界で初めて精巧なライフル銃を制作。
とはいえこれでも本格的な普及はしなかった。この時代の弾丸はボール状でライフルの利点を生かしきれてなかったからだ。
そして1849年にフランス人のクロード・エティエンヌ・ミニエーが新型の弾丸を開発したことで状況は大きく変化する。
ミニエー弾と言われ、球形ではなく現代の弾丸と似た形をしていた。
先込め式だが、発射時には発射薬の爆発で生じた圧力により弾丸が膨らみ、それによって弾丸がライフリングに密着、回転するのである。
これにより劇的に命中精度が向上。銃が本格的な遠距離武器として本領を発揮するようになる。
また雷管と金属薬莢の発明により、ついに1860年代、後装式ライフル銃が確立。
フランス(ジャスポ銃)での採用を皮切りに
イギリス(マーティニー・ヘンリー銃)、プロイセン(モーゼル銃)、アメリカ(スプリングフィールド銃)も導入し、
以降各国もライフル銃へと切り替わる。
日本には幕末に到来し、明治政府はスナイダー銃を採用。
ライフリングの凸の部分を山(ランド) 、凹の部分を谷(グル―ヴ) 、直径の狭い方を山径(ボアダイアメーター)、広い方を谷径(グル―ヴダイアメーター)と言う。
銃の口径は一般に山径の方で表示され(例外あり)、
弾丸の直径はライフリングに食い込みながら進むので銃の口径=山径より大きく基本的に谷径に一致する。
この為、.30口径の銃なら弾丸の直径は0.308インチ、.45口径なら0.458インチとなる。ミリ表示でも同じで、7.62mm口径なら7.82mmとなる。
○ライフリングの種類
▽メトフォード式
溝を切る代わりに波状の曲線を用いる方式。旧陸軍が採用した。
十四年式拳銃等々。旧式でまず使われない。
▽ポリゴナル式
銃身内部を角の取れた多角にする方式。エンフィールド式に対して弾丸と銃身が点ではなく面で接する。
その為、比較的燃焼ガスが逃げにくく初速が上がる、銃身が摩耗しにくい、破損しにくい、掃除が簡単、等のメリットがある。
しかし、接触面が増える為旋回運動を与える力に限度がある。
H&Kが採用していたことで知られている。
▽エンフィールド式
円形の断面に切り立った溝を掘った、最も一般的なライフリング。
断面は歯車のように見える。拳銃なら6条、ライフルは4条が一般的。
大砲にもなれば何十条にもなる。
○ライフリングは絶対に必要?
近現代の全ての砲や銃にライフリングがある訳ではない。
ライフリングをつけることには以下のようなデメリットもある。
- ライフリングの溝の隙間から発射ガスが漏れる
- 散弾には無意味。むしろ飛散パターンが乱れるため逆効果ですらある。
- 砲発射ミサイルが撃てない
- HEAT弾と相性が悪い
- APFSDSのような安定翼を採用する弾との相性が悪い
このため、
散弾銃や
火縄銃はもとより、特に戦車砲については「限られた口径長・装薬量で可能な限りの初速を稼ぐ」という点からライフリングの無い滑腔砲が採用されることが増えている。
ソ連ではT-62戦車以降は滑腔砲を採用し、
英国以外の西側諸国でもHEATやAPFSDSが主流となった1970年代以降、滑腔砲を採用。それらには弾の方に安定翼がついていることが多い。
ちなみに艦砲でも既にライフリングは陳腐化しているとの声があるが、実際戦車に比べても反動や砲のサイズ・重量について制約が少ないため、ライフル砲はいまだ主流である。
変わったところでは
変態銃として有名なXM29 OICWで使用されるHEAB弾(空中炸裂弾)が挙げられる。この弾は設定した距離で爆発させるためにライフリングによる回転を利用しており、「弾頭が空中で回転した回数」を測定し、設定された回数に達したら起爆するという方式を採用している。
○豆知識
→× (マスケット銃は先込め式の銃である)
→× (銃身の端から端で一回転するかしないかぐらいの緩やかな螺旋を描く。あんまりグルグル回すと初速が落ちるためだが、螺旋には違いない。)
→施条(しじょう)、腔線または腔綫(こうせん)でOK
「施(ほどこす)」であって「飛行機が旋回する」の「旋」ではない。
しかし、使った所で分かる人は少ない。
→極端な話、
拳銃や重火器も「ライフル」銃だが、ライフリングが普及した19世紀後半にライフルと呼んでそれ以前のマスケット銃から区別したことに由来する。
弾丸が進行方向に向かって右回りに回転するように切ってある。つまり、射手からは時計回りに回転しながら飛んでいくように見える…
のだが、私は目が悪いのでそうは見えない。
→旋条痕(ライフルマーク)と言い、かつては銃の指紋とも言われ銃の種類や製造元まで分かった。
現在では先述の通り大量生産可能で高精度のコールドハンマー式が普及したため同じ旋条痕の銃が多数あり、新品の状態で判別するのは無理がある。
ただし使用状態により磨耗の程度に個体差が生まれるため、状況次第では今でも証拠として採用されることはあるらしい。
改造用パーツとしてソフトエアガン用ライフリングバレルが売られている。
ホップアップとの併用ができないため飛距離で劣るが、有効射程内での集弾性は高いとのこと。
追記・修正をお願いします。
- 施すの施であり旋回の旋ではない、の下に旋条痕ってあるが結局どっち? -- 名無しさん (2024-09-22 02:46:23)
最終更新:2024年09月22日 02:46