ライフリング

登録日:2011/07/27 Wed 22:36:44
更新日:2025/07/03 Thu 21:36:49
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概要

ライフリング(施条*1、腔線または腔綫)とは銃身砲身内部に刻まれた溝のこと。古フランス語のrifler(削る)を語源とする。

元々は溝をライフル、施す工程をライフリングと呼ばれていたが、ライフルドマスケットが活躍しすぎたせいで「ライフルを刻んだ銃身の長い銃」のことをライフルとするようになった。そのため溝自体をライフリングと呼ぶよう変化した。
昔はカッター/ブリーチ式といった削る方式(歯車の切削に近い)だったが、最近はボタン/コールドハンマー式といった冷間鍛造(熱さずに叩いて形を整える方式)が一般的。
後者のほうが大量生産向きだが、どちらも手作業ではほぼ不可能で工作機械は必須。



目的と効果

わざわざ溝を掘るという工程を施すのには訳がある。
発射時に銃身内を進む弾頭に旋転運動を与えることでジャイロ効果により直進性を高めるのが目的。
直進性を高めると鉛筆上の弾の先端が飛翔方向を維持するため空気抵抗が減るため、ジャイロ効果と合わせて命中精度(と有効射程)が向上する。

ただし回転によって少しずつ横にそれてしまう。遠距離狙撃や砲撃など弾が1km以遠飛翔する段階からの問題であるが。



歴史

1498年に直線式が、1520年に螺旋式が発明された。
1740年頃には数学者のロビンズにより数学的証明が成される。
だが製作費が高く、回転させながら力を込めて装弾しないと行けず面倒*2といった問題から普及することはなかった。
しかし1849年にクロード・エティエンヌ・ミニエー大尉が新型のミニエー弾をフランス陸軍に採用したことで状況は一変する。

ミニエー弾は球形ではなく現代の弾丸と似た形をしていた。
装填時には寸法が内径よりも小さいために装填しやすい。そして発射時には発射薬の爆発で生じた圧力により弾丸が膨らみ、それによって弾丸が銃身に密着するのである。
楽に装填できて威力も十分に出る。それとライフリングがかみ合い実際強い。

これにより劇的に命中精度が向上。銃が本格的な遠距離武器として本領を発揮するようになる。

その後の改良により薬室から込める後装式が主流となってからは、銃身内部を経由しなくなったためより細かく調整できるようになった。



各部名称

ライフリングの凸の部分を山(ランド) 、凹の部分を谷(グル―ヴ) 、直径の狭い方を山径(ボアダイアメーター)、広い方を谷径(グル―ヴダイアメーター)と言う。
銃の口径は一般に山径の方で表示され、
弾丸の直径はライフリングに食い込みながら進むので銃の口径=山径より大きく基本的に谷径に一致する(例外あり)。



ライフリングの種類

メトフォード式

溝を切る代わりに波状の曲線を用いる方式。弾道精度に優れるが、磨耗が激しいため現代ではまず使われない。
リー・メトフォードや十四年式拳銃等々。

ランカスター式

楕円形に歪んだ形をしている。エンフィールド小銃とのトライアルで優秀な成績を残したが、こちらも摩耗が激しく落選した。
しかし溝がないことからハーフライフリングとして認められることがあり、一部の民間用の銃で採用されることがある。

ポリゴナル式

銃身内部を角の取れた多角にする方式。エンフィールド式に対して弾丸と銃身が点ではなく面で接する。
燃焼ガスが逃げやすいが銃身が摩耗しにくく掃除が簡単である。
発祥はイギリスだが、ドイツのMG42にて試験されたことに始まり、戦後もH&Kが採用している。
ホイットワースライフル、MG42、HK USP、HK416、グロック等々

エンフィールド式

円形の断面に切り立った溝を掘った、最も一般的なライフリング。
断面は歯車のように見える。拳銃なら6条、ライフルは4条が一般的。
大砲にもなれば何十条にもなる。



現在

ショットガンと戦車砲を除いたほとんどの現用銃砲に施されている。

ショットガンにおいては散弾には無意味で、むしろ飛散パターンが乱れたりライフリングが傷ついてしまう。
ライフリングが切られたショットガンもないわけではないが、その場合基本はサボットスラグ弾仕様。

戦車砲では滑腔砲が採用される。
  • ライフリングの溝の隙間から発射ガスが漏れる*3
  • 砲発射ミサイルが撃てない
  • HEAT弾と相性が悪い*4
  • APFSDSのような安定翼を採用する弾との相性が悪い*5
「車両に乗る程度の限られた範囲で可能な限りの威力を出す」必要がある戦車にとっては上記のようなデメリットが勝ってしまう。

ソ連ではT-62以降、英国以外*6の西側諸国でも第三世代より滑腔砲を採用。
APFSDSやHEAT-FSなど弾の方に安定翼をつけて(FS= fin-stabilized)直進性を確保している。

それ以外では間接射撃だったり船の上だったりであまり滑腔砲のうま味がないのでそのままになっている。


変わったところでは変態銃として有名なXM29 OICWで使用されるHEAB弾(空中炸裂弾)が挙げられる。この弾は設定した距離で爆発させるためにライフリングによる回転を利用しており、「弾頭が空中で回転した回数」を測定し、設定された回数に達したら起爆するという方式を採用している。



余談

マスケット銃は先込め式の銃であり、ライフルドマスケットなどもある

  • ライフリングは螺旋ではない→×
銃身の端から端で一回転するかしないかぐらいの緩やかな螺旋を描く。あんまりグルグル回すと初速が落ちるためだが、螺旋には違いない。一応初期には存在しているが。

  • 右か左か
大抵は弾丸が進行方向に向かって右回りに回転するように切ってある。つまり、射手からは時計回りに回転しながら飛んでいくように見える。

  • 弾丸に出来た痕
→施条痕(ライフルマーク)と言い、削り出しだった時代は銃の指紋とも言われ銃の個体判別まで比較できた。
現在では先述の通り大量生産可能で高精度のコールドハンマー式が普及したため同じ旋条痕の銃が多数あることになり、施条痕だけでは銃の同定すら困難となった。
ただし使用状態により磨耗の程度に個体差が生まれるため、状況次第では今でも個体判別可能。

  • エアガン(遊戯銃)にもある
改造用パーツとしてエアガン用ライフリングバレルが売られている。
ホップアップとの併用ができないため飛距離で劣るが、有効射程内での集弾性は高いとのこと。



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最終更新:2025年07月03日 21:36

*1 「施(ほどこす)」であって「飛行機が旋回する」の「旋」ではない

*2 当時は銃口から装弾していた

*3 弾頭質量・装薬量が同じ場合、滑腔砲に比べて威力が下がる

*4 遠心力でメタルジェットが拡散し、威力が落ちる

*5 安定翼は弾丸を回転させないため、回転を抑える調整が必要になる

*6 予算不足の面もあるが、1世代早く120mm砲を採用していたせいで滑腔砲の利点より換装コストの負担が勝ってしまった