登録日:2010/10/04(月) 05:10:53
更新日:2025/04/13 Sun 01:05:10
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円城塔(えんじょう とう、EnJoe Toh)
もともとは非線形
物理学の研究員で、
東京大学大学院を修了したのちポスドク(任期付き研究員)として数年おきに各地の大学を点々とする生活を送っていた。
先の見えないポスドクの職に行き詰まりを感じる中、なぜか小説の執筆をはじめ、
(円城塔曰く、
本を買うお金がなかったので自分の読みたい本を自分で書いた、とのこと)
公募に出していた『
Self-Reference ENGINE』がS-Fマガジンの目に留まり2007年に作家デビュー。
その後は専業作家として芥川賞の受賞、日本SF大賞の受賞を果たすなど、文学界SF界の両面から支持されている。
【作風・特徴】
数理小説、思弁小説、前衛小説、などと言い表されることが多い。
そして、読んだ人から わ け が わ か ら な い との感想が漏れることはもっと多い。
“彼女のこめかみには弾丸が埋まっていて、我が家に伝わる箱は、どこかの方向に毎年一度だけ倒される。
老教授の最終講義は鯰文書の謎を解き明かし、床下からは大量のフロイトが出現する。
そして小さく白い可憐な靴下は異形の巨大石像へと挑みかかり、僕らは反乱を起こした時間のなか、あてのない冒険へと歩みを進める――”
“全ての可能な文字列。全ての本はその中に含まれている。
しかしとても残念なことながら、あなたの望む本がその中に見つかるという保証は全くのところ存在しない。
これがあなたの望んだ本です、という活字の並びは存在しうる。今こうして存在しているように。
そして勿論、それはあなたの望んだ本ではない”
さりとて、それは読者を完全に突き放すようなものではない。
- 作品を流れるユーモア、散りばめられたパロディ(作者も「笑えるものを書こうと思っている」と度々インタビューで語っている)
- (大抵の作品は)例えよくわからないまま読んでいても最後にはカタルシスを得られる構成
- 中毒性の高い文体
などが、「わけがわからなくとも面白い」という独特の読み味を生んでいる。
また、作品の背景にある物理学、数学、言語、プログラミング…等の知識・理論を鍵とすれば、
「わけがわかる」ことも可能かもしれない。
ともあれ、この文章を読んでいるあなたも作品世界に一歩足を踏み出せば、実射影平面の三次元空間への嵌め込みに思いを馳せること間違いないだろう。
その保証はどこにあるのか、という問いかけには勿論「よくわかりません」と答える以外にないのだけれども。
【主な作品】
単行本
■『
Boy's Surface』
短篇小説集。“解説”を加えた文庫版あり。
単行本は「
ピンクの本」と呼ばれるが、文庫はピンク色ではないので要注意。
■『オブ・ザ・ベースボール』
短篇小説をふたつ収録。文庫版あり。
表題作は麦畑に囲まれた町で、空から降ってくる人をバットで打ち返すレスキューチームに所属する男の話。
■『
烏有此譚』
中篇小説。
注釈が本文と同じくらいの分量で付いて、その注釈にも注釈が付いている灰と穴の話。
■『
後藤さんのこと』
短篇小説集。文庫版あり。
表題作は後藤さん、後藤さん一般、
後藤さん、
後藤さん、
後藤さん、反後藤さん、分後藤さん、偏後藤さん性についてあれこれ考える話。
■『
これはペンです』
中篇小説をふたつ収録。文庫版あり。
表題作は叔父が文字通り文字の話。
■『
道化師の蝶』
中篇小説をふたつ収録。文庫版あり。
表題作は蝶と旅、ことばと文章、料理と刺繍、文章とことば、手芸と蝶の話。
■『バナナ剥きには最適の日々』
短篇小説集。1篇追加収録した文庫版あり。
表題作は宇宙空間があまりに暇だから、脳内に架空の友人を作り出した無人探査機の話。
■『
屍者の帝国』
伊藤計劃×円城塔の長篇小説。文庫版あり。
そう、これは屍者の話。
■『シャッフル航法』
短篇小説集。文庫版あり。
表題作は、わたしとあなたが、シャッフル航法。
■『エピローグ』
長篇小説。文庫版あり。
SF。もしくは『プロローグ』のエピローグ部分。
■『プロローグ』
長篇小説。文庫版あり。
私小説。もしくは『エピローグ』のプロローグ部分。
■『文字渦』
連作短編小説。文庫版あり。
ルビがびっしり詰まってるページ画像がTwitterで話題になったりもした。
文字が生きていたり、文字で
ポケモンバトルをしたり、文字が殺されたり、ユニコードの上で戦争が起きたりする。いくつかの話は歴史ものという側面も。
■『ムーンシャイン』
短篇小説集。作者本人による作品解題つき。
表題作は、数のもつ性質を実感できる少女の話。
このほか、
■ 『去年、本能寺で』
■ 『土人形と動死体』
の単行本化が予告されている。
翻訳、脚本その他
■『SF的な宇宙で安全に暮らすっていうこと』
翻訳。著者はチャールズ・ユウ。
タイムマシンを使って未来の自分を撃つ(撃たれる)話。
■『これで駄目なら 若い君たちへ――卒業式講演集』
翻訳。著者はカート・ヴォネガット。
ヴォネガットの卒業式講演集。そういうものだ。
■『雨月物語』
翻訳。著者は上田秋成。
池澤夏樹個人編集『日本文学全集』第11巻収録。
■『怪談』
翻訳。著者はラフカディオ・ハーン(小泉八雲)。
「直訳」によって異文化日本の怪談を味わう。
■『読書で離婚を考えた。』
エッセイ。妻・田辺青蛙との共著。
相互理解を目的とした夫婦読書リレー格闘エッセイ。
■『ねこがたいやきたべちゃった』
絵本。
神奈川県には、この絵本から生まれた本物のたいやき屋さんもある。
■TVアニメ「
スペース☆ダンディ」
第11話の脚本、第24話の脚本とゲストキャラクターのデザイン原案を担当。
脚本には図形と数式(出典付き)がもちろん添えられていたそうな。
※この他、小説投稿サイトカクヨムにて「えんしろ」名義で『花とスキャナー』『通信記録保管所』という短編集が公開されている。
ライトな円城塔として、まずはここから読んでみてはいかがだろうか。
【備考・余談】
奥様はホラー作家で
僕っ娘で
眼鏡っ娘で趣味がコスプレの田辺青蛙。
ご両人の結婚披露宴では新郎が
碇ゲンドウ、新婦が
碇シンジ(プラグスーツ着用)の格好で仲睦まじく登場したそうだ。
ちなみに、初デートがサイゼリヤだったことをTwitter上でバラされている。
執筆は自宅だと集中できないということで、専ら近所の
喫茶店を渡り歩いて行っている。
Twitter上でも執筆する作家のひとり(専用アカウントあり。2011年11月29日で更新停止中)。
小説以外には「
ストパン見てる。全裸で」「俺が妹なのでこんなに可愛い」とつぶやいたり、毛糸の編み物を始めたり、焼きまんじゅうを作ったり、国民的猫型
ロボットの性生活について考えていたりする姿が見られる。
『プロローグ』やTwitterにて、作家と編集と印刷の間の原稿のやり取りを電子化するべきだ、とたびたびぼやいている。
AIを用いた現実のテキスト生成プログラムが文章を出力し始める以前から、
機械が(で)文章を書くことを作品のモチーフの一つとしている。
……そしてそもそも「円城塔」というペンネームは、
指導教官だった金子邦彦の短編小説「進物史観」に登場する物語生成プログラムの一つ「円城塔李久」から採られたものである。
全ての可能な文字列。全ての追記・修正はその中に含まれている。
- 屍者の帝国、アニメ映画化おめ! -- 名無しさん (2014-11-28 00:01:26)
- ホワイトスペースの記事ができてるみたいなのでリンクしたげて -- 名無しさん (2014-12-23 12:17:17)
- ツィッターを見ると、どうでもいいことつぶやいている。きっと、好きな人は好きなのだろうけれど、興味がなければ本当にどうでもいいと感じるのは、著作と一緒。でも屍者の帝国は面白かったよ -- 名無しさん (2019-08-29 23:20:30)
- 『異常論文』はコンセプトがはっきりしているからこの人の作品のとっかかりにいいと思う -- 名無しさん (2022-02-13 20:45:49)
最終更新:2025年04月13日 01:05