グリューネワルト伯爵夫人暗殺未遂事件

登録日:2011/06/27(水) 12:37:30
更新日:2023/04/05 Wed 15:08:52
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グリューネワルト伯爵夫人暗殺未遂事件とは、大河SF小説『銀河英雄伝説』作中で起こった、架空の事件である。
グリューネワルト伯爵夫人アンネローゼは、本作品の主要登場人物ラインハルトの姉であり、この事件は彼女の命を狙ったもの。
主犯の人物の一人は共通しているものの、関わった人物やその経緯が原作小説、OVA、漫画の各メディアでそれぞれ異なっているのが特徴。
ここではOVA版、原作小説版、漫画版の順で説明する。
なお表記の簡略化のため、グリューネワルト伯爵夫人アンネローゼを名前のみのアンネローゼと表記する場合があることをご了承いただきたい。




◇OVA版


帝国歴486年
銀河帝国皇帝フリードリヒ4世は40代半ばのころ、清楚で美しい少女を求めてベーネミュンデ侯爵夫人シュザンナを寵愛した。
しかしそれは長くは続かず、フリードリヒ4世はやがてラインハルト・フォン・ローエングラムの姉のグリューネワルト伯爵夫人アンネローゼを寵愛するようになる。


それに嫉妬した侯爵夫人はフレーゲル男爵と計って、伯爵夫人暗殺を目論んだ。
フレーゲルは弟のラインハルトを憎んでおり、それもあって姉弟をそろって消し去ろうと考えていた。
しかもフレーゲルは自分の名前を隠し、何かあった場合は侯爵夫人シュザンナに責任を全て擦りつけてしまおうと目論む。


しかし、この暗殺計画はラインハルトに匿名の人物から漏らされていた。
ラインハルトがイゼルローン要塞奪還作戦の作戦会議で多忙を極めている一方、フレーゲルは着々と準備を整える。


ベーネミュンデ侯爵夫人は皇帝に後宮から地方の荘園に退出するよう命じられる。焦った侯爵夫人はフレーゲルと共に暗殺計画を実行に移す。
伯爵夫人にラインハルトが事故にあったと嘘の情報を流して、後宮から誘い出して西の郊外の森の中へと誘拐。
しかし後宮から出て行く伯爵夫人をラインハルト元帥の幕僚ヴォルフガング・ミッターマイヤーとオスカー・フォン・ロイエンタールが目撃しており、いち早くそれをジークフリード・キルヒアイスに伝えた。それを聞いてキルヒアイスは暗殺計画を悟りラインハルトに伝えようとした。ところが会議中で伝えられなかったため、志願したミッターマイヤー、ロイエンタール両幕僚を連れて西の郊外へ向かった。
ベーネミュンデ侯爵夫人は西の郊外にある小屋へ伯爵夫人を連れ込み、毒薬入りのワインを飲ませ毒殺しようとした。そこへ間一髪でキルヒアイスたちが到着して銃撃戦になる。
小屋の見張りを片付けた三人は小屋へ入ったが、そこにはグリューネワルト伯爵夫人を人質にとったベーネミュンデ侯爵夫人。侯爵夫人は人質を使って三人に銃を捨てさせたが、とっさにブレーカーが落ちた(遅れてきたオーベルシュタインが外付けの電源を落とした)ため再び銃撃戦となる。


結果グリューネワルト伯爵夫人は無事だったが、ベーネミュンデ侯爵夫人と誘拐犯は逃走。


その後、その事件が知ることとなり皇帝はベーネミュンデ侯爵夫人の事実上の処刑を指示。
ベーネミュンデ侯爵夫人は誘拐と暗殺未遂事件の罪により毒入りのワインを飲ませられ死亡する。
ラインハルトの幕僚オーベルシュタインはフレーゲルの手引きと断定したが、証拠がなく、フレーゲルを咎めることはできなかった。

翌日、ベーネミュンデ侯爵夫人の「病死」が公表される。



…と、これがOVA版銀河英雄伝説第11話『女優退場』のあらすじである。


◇原作小説版

原作においては最後にベーネミュンデ侯爵夫人が死を賜り、毒杯をあおがされる点は同じだが、その過程が大きく異なる。


原作においてまず異なる点は発生時期。
OVA版では本編開始後であったが、原作においては本編以前、ラインハルトがまだ元帥でもローエングラム伯でもなく、ラインハルト・フォン・ミューゼル大将だった頃である。


次に、事件の内容自体である。
OVA版では上記の通り虚報で呼び出されたアンネローゼが誘拐される、というものであったが、原作では友人のヴェストパーレ男爵夫人の愛人の音楽家も出席するピアノコンクールからの帰路をベーネミュンデ侯爵夫人の手先に襲撃される、というものであった。
この時には同行していたヴェストパーレ男爵夫人とシャフハウゼン子爵夫人、またラインハルトとキルヒアイスも直接巻き込まれている。
危うくラインハルトもアンネローゼも殺されかけるが、そこへ兵士を率いて駆けつけたロイエンタールとミッターマイヤーにより救出された。


原作においてはこの陰謀劇にはフレーゲル男爵は関与しておらず、フレーゲル男爵のフの字も出ていない。


この後の展開はベーネミュンデ侯爵夫人の賜死の宣告をする人物がOVA版ではリヒテンラーデ公、場所は新無憂宮であるのに対し、原作版では前者は典礼尚書のアイゼンフート伯ヨハン・ディートリッヒという老貴族、後者は彼の邸宅という違いも存在する。
が、最大の違いはベーネミュンデ侯爵夫人はOVA版ではさっさと宮廷警察官らに毒入りワインを飲まされ死亡するのに対し、原作ではその前に居合わせたブラウンシュヴァイク公を「自分の赤ん坊を謀殺した」と糾弾した事であろう。
またこの時糾弾するだけでなく、近くにあった大きなインク瓶を投げつけ、危うくブラウンシュヴァイク公を殺しかけている(どうにかブラウンシュヴァイク公は避けたので無傷だったが)。
その後の展開はラインハルトに唾を吐きかけた事も同じ。最終的に毒入りワインを飲まされ死亡する。

ちなみに原作版においてはベーネミュンデ侯爵夫人の賜死の場にはそれなりの宮廷関係者がいたと記述されているが、その中には台詞はないものの、後にローエングラム朝初代司法尚書となる当時大審院判事だったブルックドルフ法学博士がいたりする。



◇漫画版(道原かつみ版)

最後にベーネミュンデ侯爵夫人が死を賜り、毒杯をあおがされる点はOVAや原作小説と共通。
発生時期はラインハルトの元帥就任後になっており、またフレーゲル男爵の関与はない。
本編完結後に発表された外伝作品によってベーネミュンデ侯爵夫人の描写も追加されており、ここでは漫画の内容と合わせて外伝作品の描写も説明する。

〈外伝作品によるベーネミュンデ侯爵夫人の追加描写部分〉
ベーネミュンデ侯爵夫人の嫉妬はアンネローゼが後宮に来た直後から始まっていた。
このときはアンネローゼ自身には手を出さずに弟であるラインハルトの死で彼女を悲しませようとしており、学校を卒業して軍務に就いていたラインハルトを自らの手の者に命じて殺させようとした。
(この部分は外伝作品「白銀の谷」及び「黄金の翼」を参照。白銀の谷は小説とOVAで多少差異はあるが、どちらも軍の人間がラインハルトを殺そうとする点は共通)
惑星カプチェランカにおけるヘルダー大佐、イゼルローン要塞でのクルムバッハ憲兵少佐による攻撃をラインハルトが退けると、あまり頻発させてはまずいと思ったのかベーネミュンデ侯爵夫人の攻撃はしばらく静まることとなる。



〈ここから本編コミカライズの内容〉
しかしラインハルトが元帥に就任すると刺客を使って首都オーディンにいるラインハルトを襲撃。
ラインハルトとキルヒアイスはこれを無傷で退けるが、これが再びベーネミュンデ侯爵夫人との戦いが始まることを知らせる合図となる。
(ちなみにこの襲撃時にはキルヒアイスの実力を疑って夜襲を仕掛けに来たビッテンフェルトが近くに潜んでおり、止めに来たオイゲンと2人で暗殺者の一部を撃退している)


宮廷医のグレーザーからラインハルト襲撃事件の報を聞いてほくそ笑み、嫉妬に燃える姿を示すベーネミュンデ侯爵夫人。
そんなベーネミュンデ侯爵夫人に先行きの暗さを見たグレーザーはラインハルトの元に匿名で密告書を送る。
カストロプ動乱の鎮圧に向かうため対応できないキルヒアイスの勧めを受け、ラインハルトはミッターマイヤーとロイエンタールに相談。
「宮廷や貴族社会において最強の武器の一つは中傷、醜聞、流言の類である」と言うロイエンタールの策によって
「宮廷医グレーザーが頻繁にベーネミュンデ侯爵夫人の元を訪れるのは、皇帝陛下以外の男性と密通し懐妊したからだ」という醜聞が流されることになる。


この噂はまたたく間に広がり、ベーネミュンデ侯爵夫人はグレーザー医師に相談するが「下手に動けば噂が強くなるだけです」と静観を勧められてしまう。
そんな折にリヒテンラーデ侯が現れ、皇帝陛下の命として後宮から地方の荘園に退出するよう伝えられる。
ベーネミュンデ侯爵夫人はリヒテンラーデ侯に醜聞と退出命令との関連性を問うがリヒテンラーデ侯はその関係を否定。
それでもなおベーネミュンデ侯爵夫人は「せめて皇帝陛下から直接話して頂きたい」と食い下がるがリヒテンラーデ侯は応じずに去っていってしまう。


リヒテンラーデ侯が去り閉ざされた扉に扇を投げつけ、叫び、かつて後宮に入った当時の栄光の記憶を思い出すベーネミュンデ侯爵夫人。
皇帝の寵愛を受けて宮廷で権力を得ることしか教わらなかった彼女にとって、後宮からの追放は生きる意味を失うに等しいことだったのだ。
思い出に浸るベーネミュンデ侯爵夫人だったが、やがて皇帝陛下からの退出命令はグリューネワルト伯爵夫人の陰謀によるものとの結論に至り、
「あの女さえ死ねば全て元通りになる」と考えるようになる。


ヴェストパーレ男爵夫人との観劇の帰り道、グリューネワルト伯爵夫人の乗る車は一発の砲弾を受け強制停車させられる。
続けて襲い来る刺客は別の車で同行していたラインハルトとキルヒアイスが退けたが、照明弾の強烈な光と銃火器の乱射を受けて怯む2人。
刺客が銃を構えて敵指揮官の命令によって発砲される直前、ミッターマイヤーとロイエンタールによる側面攻撃が入って間一髪危機は免れた。
襲撃の指揮をとっていたのはベーネミュンデ侯爵夫人の執事であり、捕らえられた彼はこの襲撃がベーネミュンデ侯爵夫人の命であることを認めた。
彼はベーネミュンデ侯爵夫人シュザンナを慕っていたが、使用人の身であることに加えて相手は寵妃、さらに身分も違うために想いが届かないことは十分に承知していた。
それでも想いは捨てきれず、グリューネワルト伯爵夫人の殺害を命じられた際には派手な襲撃にすることで事態を大きくし、
実行犯である自分もろとも主犯として裁きを受けるであろう侯爵夫人と心中するつもりでいたのである。
「シュザンナさまが悪いのだ 私にこんな機会を与えるから」
「シュザンナさまとともに在ることはできなくても、共に滅びることはできる」と言い残し、彼はその場で自害した。


その後、リヒテンラーデ侯から事の仔細を聞いたフリードリヒ四世は凶行に至ったベーネミュンデ侯爵夫人に一定の思いやりを見せつつ、自裁の形での死刑を決定。
とある宮殿風の建物の中でベーネミュンデ侯爵夫人に対する判決文が読み上げられ、毒入りのワインによる自裁が命じられた。
納得のできない侯爵夫人はその場に居合わせたラインハルトに呪詛の言葉を投げつけるも、やがて強制的に毒入りワインを飲まされその言葉は途切れる。
毒が回る中で皇帝陛下が来ないことを嘆くベーネミュンデ侯爵夫人だったが、最期の瞬間にフリードリヒ4世の幻影を見る。
皇帝陛下の姿が見えた途端に険しい表情が一転して笑顔に変わり、途切れ途切れに喜びの言葉を言いながら安らかな表情で死んでいった。

所変わって玉座で一杯のワインを煽るフリードリヒ四世
「どうせ余も後からいくのだ まだ十分に美しい姿で待っているがよい シュザンナ…」とかつての寵妃へ手向けの言葉を呟いた。

また所変わってアンネローゼとラインハルト。
アンネローゼはラインハルトにベーネミュンデ侯爵夫人を許すよう訴える。
宮廷社会に生きる者の孤独はアンネローゼも理解しており、自分にはラインハルトとキルヒアイスという心の拠り所があったから生きていくことができた。
ベーネミュンデ侯爵夫人は誰かを恨むことでしか生きることができなかったのだろうと。
しかしラインハルトは姉の訴えをやんわりと断った。
姉を襲ったベーネミュンデ侯爵夫人を許さないだけでなく、その大元となった宮廷・貴族社会の打倒を決意し、より一層力への渇望を強めていくのであった。



以上が道原版コミカライズにおけるグリューネワルト伯爵夫人暗殺未遂事件の顛末である。
ベーネミュンデ侯爵夫人シュザンナの背景がより細かく描かれ、皇帝の愛を失った寵妃の悲劇という面が強くなっている。
寵妃としての教育しか受けず、若いうちから権力に染まってしまった人物が両方とも失ってしまっては歪んでしまうのも無理はないと思える。

OVAではかなり年増に見えたベーネミュンデ侯爵夫人も道原氏の手によって新たに描かれており、険しい顔のときはやはりキツいが表情が緩んだときの顔は美しい。
特に回想シーンで描かれた10代のシュザンナはかわいいと評判である。

◇そのほかのメディア

リメイク版アニメ「Die Neue These」では、本事件についての描写は無い(本来は本編開始以前の事件であるため)。

藤崎竜版コミックスではアンネローゼ暗殺未遂事件を起こさず、シュザンナはフリードリヒ4世の葬儀にも出席している。
その後はリップシュタット戦役にも参加せずに、オーディンの下町で一人ひそやかに暮らしていたが、フェザーンの工作員の誘いに乗る形で幼帝エルウィン・ヨーゼフ2世誘拐に加担し、自由惑星同盟へ亡命する。

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最終更新:2023年04月05日 15:08