オスカー・フォン・ロイエンタール

登録日:2018/02/26 Mon 00:26:46
更新日:2024/06/06 Thu 11:57:29
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古代の、偉そうな奴が、偉そうに言った言葉がある。

死ぬに当たって、幼い子供を託しうるような友人をもつことが叶えば、人生最上の幸福だ――と




オスカー・フォン・ロイエンタールは、銀河英雄伝説に登場する人物。
銀河帝国のゴールデンバウム王朝末期から、次代のローエングラム王朝に仕えた軍人。
ゴールデンバウム王朝では大将、続くローエングラム王朝では元帥にまで上り詰め、役職として統帥本部総長、後に新領土(ノイエラント)総督も勤めた。

OVA版における声優は若本規夫
近年ではあまり見られなくなった、氏の真面目で威厳のある堂々たる演技を拝聴することができ、しばしば「きれいな若本」と称される。

Die Neue These版では中村悠一氏が演じる。


■[来歴]■

裕福な下級貴族であるロイエンタール氏と没落した高級貴族マールバッハ伯爵家の3女レオノラとの間に生まれた。
幼少期は非常に複雑な家庭環境の中で育ち、16歳で士官学校に入学。
女性関係を巡る私的決闘で処分を受けるが、この時に後の親友となるミッターマイヤーと知己を得る。

その後、門閥貴族の私的陰謀により誅殺されそうになっていたミッターマイヤーを救うため、当時大将だったラインハルト・フォン・ミューゼルに援助を求める。
ミッターマイヤー救出後、ラインハルトからゴールデンバウム王朝を打倒するという野望を聞かされ、以来忠誠を誓うようになる。

アスターテ星域会戦後、元帥となったラインハルトにより彼の元帥府に登用され、中将に昇進。
以後、アムリッツァ星域会戦リップシュタット戦役ラグナロック作戦を得て、最終的に元帥となり、新王朝成立後は統帥本部総長に就任する。
同時に出世し、元帥となったミッターマイヤーと並び、「帝国の双璧」とあだ名された。

回廊の戦い終結後、併合した旧同盟領の総督に任じられる。
これと前後して、ハイドリッヒ・ラングや地球教とアドリアン・ルビンスキーの策謀により、帝国に叛意有と囁かれるようになる。
ラインハルトやミッターマイヤーは勿論、諸将もそのような噂を信じるわけはなかったが、ウルヴァシー事件が極め付けとなり、その噂は事実として帝国領を駆け巡った。
ロイエンタールはあえてその策謀に乗り、ラインハルトへ反旗を翻し、かつての親友と一戦を交えることとなる

この戦いにて負った傷がもとで、新領土の首都ハイネセンへ帰還後、オフィス内で死去。享年33歳。
常に反対の陣営にあったヤン・ウェンリーと、同じ年に生まれ、同じ年に死んだ。

マイン・カイザー……



■[人物]■

黒い髪と端正な顔立ち、そして左右の目で瞳の色が違う金銀妖瞳(ヘテロクロミア)*1が特徴。

どこか乾いた性格の人物であるが、その人格形成には家庭環境が大きくかかわっている。

元々家柄や経済的な理由から結婚した両親は20歳近い年齢の差もあり、婚姻後も距離を縮められず母レオノラは若い男との浮気に走っていた。
そして、ロイエンタール夫妻の瞳の色は共に青である一方、レオノラの愛人の瞳の色は黒であった。
左目に青、右目に黒の瞳を持つオスカーを見て、母レオノラはこれを自分の不義の証と思い込み、なんとレオノラは幼い我が子の右目を抉ろうとする事件が発生。*2
寸前で召使が気づいて取り押さえるも、レオノラは精神を病み後に自殺。*3
更に、物心付いてからも妻の死後酒浸りになった父親からは家庭内不和やレオノラの死の責任を押し付けられ冷遇されるという、荒んだ家庭環境の中で育った。

このように母親の浮気とそれに伴う家庭内不和を経験し、青年期には「女性は男性を裏切るために存在している」という捻じ曲がった思想を抱くようになる。
だが同時に自身に言い寄って来る女性とは肉体関係を持つことを拒まず、それでいて一度関係を持つと捨てる、という矛盾した生活を送るようになっていた。
これはロイエンタールにとって付き合っているときの女性というのは、「女性」ではなく「母親」の代わりだからだと思われる。
つまり、「母親」を受け入れたい、しかし距離が近づくと怖いので離れる、これを延々と繰り返していたのだった。

ローエングラム陣営の提督に相応しい熱血漢ぶりを持つミッターマイヤーとは対照的に、
上記のような経緯もあってか、物事に対して非常に冷めた視点で達観する傾向にある。
また非常にプライドが高く、ラインハルトに対して当初は「全宇宙を治める覇者」としての資質を求めて彼に忠誠を誓ったが、
彼が新王朝を開き平和な世の中を築いていくようになると、その治世に不満を抱き、あわよくば自らが覇者となる野望すら抱くようになる。
彼が最終的に地球教の策謀に乗って自ら兵を起こしたのも、「どうせ反逆者にされるのなら、その前に自らの意思で反逆者になる」という、彼のプライドがそうさせたのである*4

その一方で乾ききっているわけではなく、ミッターマイヤーに並々ならぬ絆を持っている。
ラインハルト陣営の中でもキルヒアスに次ぐ最古参ということもあって各提督の中でも両者の交友は特に多く、共に酒の席を設け、余人を挟まず本音を交えて語らうことも多い。
一度だけ酒に酔った勢いで自分と両親のことを話してしまったこともあったが、このことはミッターマイヤーが心の内に仕舞い以降敢えて話題に挙げることもなかったという。
そして、彼が囚われた時の行動と「彼は、気持ちのいい男です。ああいう男が一人いなくなると、その分、世の中から精気が失せてしまいます。」のセリフはミッタマイヤーに対する直球の好感の表れであろう。
その他、回廊の戦いの最中ミッターマイヤー戦死の誤報が飛び込んで来た際にはそのショックを堪え切れず、傍らにいたラインハルトの座席に寄りかかってしまう場面もあり、彼にとって友の存在は掛け替えのないものであった。
また、上記のように異性観はミッターマイヤーと真逆ともいえるものだが、彼ら夫婦の悩みである子どもの話題で夫人のエヴァに非礼を働いた際には後日謝罪に訪れており、友の妻という存在には敬意を以て接していた。

そんなミッターマイヤーを救ったラインハルトに対しても不満はあってもそれに左右されない浅からぬ畏敬の念を抱き続け、忠誠を誓ってきた。
謀反の野望を頭の隅に抱え続けていながらも、ラインハルト個人に対する忠誠は損なわれておらず、
最後に反乱を起こした際の名目も「皇帝ラインハルトを討つ」ではなく「皇帝を操るラングとオーベルシュタインを討つ」としており、
戦傷による死が迫る中で対面したヨブ・トリューニヒトがラインハルトを侮辱した際に有無を言わさずその場で銃殺したことからもうかがえることである。

以上のように捻くれた価値観や矛盾を秘めた男であり、時折見せる露悪的な言動や私生活、特に女性関係については生真面目な者でなくても顔をしかめられることが多かった。
だが、そういった私人としての評価を補って余りあるだけの軍人・政治家としては非常に優れた能力を持っており、実務においては周囲からの信頼は厚かった。
物事を公正に判断し、柔軟に対応するその資質は、短期間ながらも新領土に安定した治世をもたらし新領土総督としての任に応え得るものだった。
その手腕はユリアンをして、「独創性は無いが、世を安定して治めることに関しては十分な才能を発揮する」と評し、
「3代目の王辺りに相応しい人物」と呼ばれている。一方で王朝の創始者、つまりラインハルトのような存在にはなれないとも評しており
この点はロイエンタールも自分が、そこがラインハルトに及ばない点であると認めている。



■[能力]■
「疾風」の異名をとるミッターマイヤーや、猛将たるビッテンフェルトのように突出した能力は無いが、
全ての能力がバランスよく、高水準で納まっている、まさに完璧超人ともいえる人物。
戦術・戦略における才能や、艦隊の統率力に関しては、ラインハルトに比肩するともそれを凌駕するとさえも言われるほど。
その実力を誰よりも知っているミッターマイヤーは対等の条件で戦えば自分はロイエンタールには勝てないだろうと述べている。
また、メックリンガーをして、知勇の均衡が最高にとれていると評されている。

第9次イゼルローン防衛戦では、ヤンに攻撃の隙を与えない程の緻密な用兵ぶりを見せ舌を巻かせ、
一方でヤンが仕掛けた、自身の乗っていない旗艦で誘い出して薔薇の騎士をトリスタンに送り込んで白兵戦に持ち込む「二流のトリック」に引っ掛かるなど*5
功を焦る傾向はあったものの、それ以降は冷静さを取り戻してヤンの誘いには乗らなかった
第二次ランテマリオ星域会戦では一度散開させかけた兵力を瞬時に元に戻し、態勢を立て直すなど、その手腕は非凡の極みといえる。
戦場では勇猛果敢だが、戦況に応じてその行動を臨機応変に的確に変化させ、実に無駄のない動きで戦場を支配した。
その引き際も、敵軍の攻勢を受け流しつつ、一隊また一隊と退却させ、損害を最小限に食い止めるといった離れ業を見せ、
ワーレンをして「戦術の教科書にもここまで見事な例は載っていない」と言わしめる程。

白兵戦にも心得があり、「薔薇の騎士(ローゼンリッター)連隊」のワルター・フォン・シェーンコップが敵艦を乗り込み連戦につぐ連戦で消耗していたとはいえ互角に渡り合えるほどの腕前を持つ(あと3分あればロイエンタールはやられていたとされる)
空戦に関してのみはその腕前を示す記述は無いが、Bostec社のゲームにおいても、こちらも高水準の能力を設定されていることが多い。

一方あまり他人を信用しない人柄もあってか、優秀な人材は多いもののミッターマイヤーのように旗下で成長した幕僚は少なく、死亡した他の上級大将から異動してきた幕僚が多かった。
それゆえ統制面では問題を抱えており、これが後に彼の命運を決めることになってしまった。


座乗艦はトリスタン。最終階級は元帥。



■[部下]■

  • エミール・フォン・レッケンドルフ
副官。ロイエンタールが元帥府に登用された時から付き従う。
よく上官を補佐し、第二次ランテマリオ星域会戦でも最後まで司令官の身を案じながら、行動を共にした。

  • ハンス・エドアルド・ベルゲングリューン
元はキルヒアイスの幕僚。キルヒアイスの死後にロイエンタールの幕僚となり、最終的にはロイエンタール旗下の参謀長となった。
ロイエンタールをして「歴戦の勇者」と言わしめる有能な軍人で、時には上官の身を案じ、露悪趣味が高じて敢えて危うい言葉を選ぶロイエンタールに苦言を呈することも少なくない。
あまり人を信用しないロイエンタールが「得がたい男」・「補佐役となって以来無用な言を聞かされた事は無い」とべた褒めするほど信頼している。
叛乱を起こしたロイエンタールを最後まで説得しようと試みるが聞き入れられず、辺境に散った戦力の招集と編成の任を受けてハイネセンを離れる。
ロイエンタールの死後、尊敬できる上官を続けて二度も失った悲しみから、ビューローたちの説得を聞くことなく自殺。
死に際にビューローらの前でぶちまけたラインハルトへの伝言は、この上ない痛烈な皮肉とされている。

  • アレクサンデル・バルトハウザー
少将。ロイエンタール麾下の提督の一人。
少数の艦隊を率いての攻勢に定評がある提督で、ここぞという時にロイエンタールに好んで用いられた。
回廊の戦いで、混乱する戦況を打開するために投入されたが、うまくいかなかった。
第二次ランテマリオ星域会戦にて、グリルパルツァーの裏切りの砲撃を受け、戦死。

  • シュラー/ゾンネンフェルス/ディッタースドルフ
中将。全てロイエンタール麾下の提督。第二次ランテマリオ星域会戦に参戦する。
シュラーはグリルパルツァーの砲撃を受けて戦死。
ディッタースドルフは、撤退するロイエンタール艦隊の殿を務め、負傷して降伏した。
ゾンネンフェルスは、親友に会いに来たミッターマイヤーを総督府へ迎え入れた。

  • ハインリッヒ・ランベルツ
従卒。
司令官の最期を看取り、彼の遺児をミッターマイヤーに預ける。
戦乱終結後はミッターマイヤーが彼の保護者となる。
東の名探偵だったり怪盗1412号というわけではない。

  • ブルーノ・フォン・クナップシュタイン
元レンネンカンプの幕僚で、その死後にロイエンタールの麾下となった。
ロイエンタールの反乱ではラインハルトへ弓を引くことを拒み軟禁状態に置かれていたが、グリルパルツァーに唆されて第2次ランテマリオ会戦に参戦。
しかしグリルパルツァーの出すはずの合図に気を取られて艦隊指揮がおろそかになっていたことに加え、激戦の最前線にいたため身動きがとれなくなっており、
これを士気の低いロイエンタール軍の弱点とみたミッターマイヤーから集中砲火を浴びせられ戦死。
一方でグリルパルツァーからの誘いは周囲に明かしていなかったようで、
後にグリルパルツァーが二重の謀反を起こすと、戦死したクナップシュタインの指揮下にあった艦隊が「上官の思いを無駄にした」として率先して攻撃し降伏に追い込む。
戦後もロイエンタールに従っただけの将官として生前の地位と名誉が保証される形となり、幸か不幸か分からない結末となった。

  • アルフレット・グリルパルツァー
クナップシュタイン同様に元はレンネンカンプの幕僚。
バイエルラインやトゥルナイゼンと共に若手の有望株、見識の広さをミッターマイヤーがバイエルラインに説くこともあったほど。
また地理学者としての実績もあり探検家提督の異名をとり、同様に軍人以外に芸術家としての顔を持つメックリンガーが目をかけていた。
しかし野心家でもあり、戦乱による立身出世に貪欲な一面を秘め、ウルヴァシー事件の事後調査を担当した際に地球教関与の証拠を握り潰し、ロイエンタール謀反の嫌疑をわざと残し彼を反乱へと追い詰めていく。
さらには同僚のクナップシュタインを巻き込んで、反乱を起こしたロイエンタールを背後から討つという、謂わばマッチポンプによる二重の謀反を画策。
その目論見は一応成功し、第2次ランテマリオ会戦において機を見てトリスタンに砲撃を行いロイエンタールに致命傷を負わせるもこれまでの情報秘匿が仇となり、
自身が反乱に誘った末戦死させたクナップシュタイン艦隊の生き残りからも猛反撃を受けて返り討ちに遭い、結局降伏に追い込まれる。
裏切りを重ねたことで両軍から嫌悪と侮蔑を集め、降伏の際も討伐軍の指揮官にしてロイエンタールの親友であるミッターマイヤーではなく、その部下であるワーレンを相手に選んだことも小賢しく映り更なる反感を招いた。
極めつけとして戦後のメックリンガーの調査によってウルヴァシーでの情報秘匿が発覚。
「獅子の友にはなれぬ男であったか」という嘆くメックリンガーにより、軍籍・階級を剥奪した上での自裁となった。




■[係累]■

  • エルフリーデ・フォン・コールラウシュ
旧王朝の帝国宰相だったリヒテンラーデ侯の姪の娘。*6
ロイエンタールとの間にフェリックス・ミッターマイヤーを儲ける。
出産後ルビンスキーの元で匿われていたがロイエンタールが死ぬ間際に姿を現す。
その後ハインリッヒ・ランベルツに息子を託し姿を消した。

  • フェリックス・ミッターマイヤー
ロイエンタールの死後、ミッターマイヤー夫妻の養子となる。
名前はエヴァンゼリンによって名付けられた。
今際の際にあったラインハルトは、彼が息子アレクの対等な友人になれるかを気にし、それが成される可能性を見出し安堵した。
銀河英雄伝説は彼が星を掴もうとするミッターマイヤー夫妻とのやり取りで閉幕する。



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最終更新:2024年06月06日 11:57

*1 医学的には虹彩異色症と言う。別の言い方であるオッドアイという呼び方になら馴染みのある人もいるのでは。

*2 虹彩異色症は両親からの遺伝の他に先天性の色素異常である可能性があり、作中の描写だけではどちらとも判断できない。

*3 オスカーは「母親の記憶はほとんどないが、美しかったことだけは覚えている」と語っており、少なくとも物心つく頃まで生存はしていた模様。

*4 尤も、彼はこれが地球教によるものとは知らず、ラングやオーベルシュタインによる罠と考えていたが

*5 「ロイエンタールは超一流の将帥だから、二流のトリックの方がかかりやすい」とヤンは述べている

*6 ただしルビンスキーは彼女はリヒテンラーデ一族とは無縁の女性とみている